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【278】公示

 

『公示』

“きたるウィルス王国歴 1099年1の月2日

王都ロクサーヌの王城前広場にて『勇者の儀』を挙行(きょこう)する

ここに広く王国民より英雄なり得る者を集め、王国の為に「勇者の剣」に認められし「勇者」を選定する

我こそは「英雄」であるとする英俊豪傑(えいしゅんごうけつ)なる者の中より勇者が生まれし時、ウィルス王国は再び隆盛を極めるであろう

因って、国民の希望となる者をここに招集する


参加資格:ウィルス王国の国民である事 年齢・性別・職業(ジョブ)は問わず

尚、参加を希望する者は1098年12の月までに、王都ロクサーヌ役場へ参加を申請する事

発兌(はつだ):ウィルス王国歴1098年9の月 

   国王エイドリアン・ヨナ・ウィルコックス”


 ―――――――――――――――



 ルースとキースは、その文面を読み終えると顔を見合わせた。

「まだ間に合うな」

「はい。ですがギリギリだったとも言えますね。事前に申請が必要と書いてあります」

「まぁ確かに、当日大勢が勝手に押し寄せてきては収拾がつかなくなるから、それまでに申し込んでおいた者に限定するって事だな」


 2人が話していれば、フェルがヒョイと顔を覗かせた。

「ん?どうかしたのか?」

「ええ。勇者の儀についての案内がありました」

「おおっ」


 フェルがそれを読み始めれば、デュオも近付いてきて一緒に内容を確認している。


「こっちを先にした方が良さそうだな」

「はい。申請だけ済ませておけば、後は当日まで自由でしょうし」

「じゃあ今日は、役場に行くのか?」

 読み終わったフェルが振り返って、ルースとキースの会話に参加する。

「その方が良いだろう」

「僕も申し込んでいいみたいだね」

 デュオは、少しはにかみながら笑みを向けた。


「ええ。特に職業(ジョブ)も影響がないようですので、本当に誰でも参加は出来るみたいですね」

「んじゃ、早速行くか」

「ってフェル、ちょっと早過ぎないか?」

「いいや、早過ぎないって」

 フェルは早くも、参加資格を得たくてうずうずしている様である。

 ソワソワしているフェルをなだめつつ、ルース達は結局このまま役場に行くことにした。


 賑わってきた冒険者ギルドを後に、ルース達は役場へと向かう。

 その役場は冒険者ギルドと同じ西地区にあり、歩いて15分程しか掛からなかった。


 そして到着すれば、もう役場の前には20人程の列ができている。

「あれ?役場ってまだ開いてないよね?」

「はい。まだ開場していないはずですが」


 デュオとルースの会話を聞き終わらないうちに、フェルが列の後ろにいた体格の良い男性に声を掛けた。身長はフェルと同じ位だが、フェルよりも横幅が大きい男性だ。


「あのぉ、この列は役場に入る為に並んでるんですか?」

 声を掛けられた男性は、振り返ってフェルを見た。

「ああそうさ、勇者の儀に参加する為に並んでる。他の奴は知らねーが、俺はそうだ」

 体格に見合う大きな声で話す男性に、その列の前に並ぶ者達も振り返って頷いている。


「ありがとうございます。それでは私達も、ここに並ばせてもらいましょう」

 ルースは教えてくれた男性に礼を言い、4人はその男性の後ろに並んだ。


「な?やっぱり早く来て良かったろ?後回しにしてたら、もっと並んだんじゃないか?」

「そうだね。フェルの我儘をきいて良かったよ」

「おお?デュオも言うようになったな…」


 シュバルツも、フェルの肩に留まったまま目を細めている。皆に遊ばれているフェルは、ルースが見たところ存外楽しそうである。

 そうして列に並んだルース達は、暫しの時を過ごした。



「うわぁ、また列が長くなってる…」

 それから少し経った頃、小さな声でデュオが言った。

 その声に3人も振り向いて、それを見た。

「これみんな、参加すんのか?大人数だな…」

 そろそろ役場が開く時間で、後ろにはもう40人位が並んで列を伸ばしている。


 そこへ衛兵2人が前方から列に沿ってこちらへ向かってきた。


「間もなく開場となる。勇者の儀に参加を希望する者は2列になり、列のまま入口から入り右手奥の受付に並ぶように」


 歩きながら衛兵は言い、列が崩れている所を脇に寄せて通行の邪魔にならないよう整理をしている。

 入口にも2人の衛兵が立ち、先頭の者と話していた。


「一日で凄い人数がくるのでしょうね…」

「そうみたいだな」

 ルースの呟きにフェルも同意する。


「え?でも受付って今日だけじゃないでしょ?毎日沢山来たら、そこからどうやって選ぶんだろう…」

「オレもそこを考えていた。まずこの人数からある程度絞り込まないと、全員を選定するまでに何日も掛かるんじゃないのかって」

「選定方法が分からないので何とも言えませんが、全員がしても時間がかからない選定方法なのかも知れません。それもでも開催場所が参加者だけで溢れかえってしまい、見物も出来なくなりますね。もしかすると、申請をしても全員が参加できるとも限らないかも知れません…」


 これは本当に、この先に進んでみないとわからなくなってきたと、ルース達は顔を見合わせた。


 そうしていれば役場の扉が開き、列が進み始めていく。

 ルース達は割と前の方であり、すぐに入場となった。


 役場という物に初めて足を踏み入れたルース達は、入口から室内を観察する。

 冒険者ギルドよりも広い室内であるが、いくつも設えてある窓から入る陽の光で中は全体的に明るく、正面の壁近くには小さなカウンターがあって“案内受付”と書かれた札が置かれ、そこに女性職員が一人座っている。


 左手側には真ん中に長椅子が4つ置いてあるだけで、そちら側の壁2面に開け放たれた扉があり、上にあがる階段も見える。

 ルース達が並ぶ列は入って右へと繋がっていて、その先には観音開きの扉が大きく開け放たれている。勇者の儀への参加希望者は、その扉の中へと入るらしい。


 少しずつ進む列でその扉を抜ければ、広めの室内の奥に書類などを入れた棚があって、その前に置かれた長いテーブルに4人の職員が座り一人一人対応している様子だった。


 2列で入室したところで扉の前に立つ職員が一人ずつ、どの列に進むのか指示を出している。

 ルースは促された列に並びテーブルの様子を見ていれば、申請者が職員の説明をきき、目の前に置かれた魔導具を覗き込んでいるようであった。

 前の人達が抜けて行けば、徐々に職員の説明が耳に届いてくる。


「――内容に問題が無ければ参加受付へと進みます…」

「………」

「ご承諾いただけない様であれば、これで受付は終了となりますが?」

「う…止めておきます」


 ルースの前にいた若い男性は、どうやら申請を止めたようだった。どうしたのであろうかと思っていれば、その人物が抜けてルースの番となる。


「おはようございます。勇者の儀への参加希望者ですか?」

「おはようございます。そうです」

 職員は慣れた口調で、定型文を読み上げるように淀みなく先を続けて行く。


「それでは、ここに書いてある文言をお読みいただき、内容に問題が無ければ参加受付へと進みます。文字は読めますか?」

「はい」

「それでは先に、こちらに目をお通しください」

 ルースは職員に促されるまま、手元の魔導具を覗き込んだ。


 そこにはこう書かれている。


 “ 勇者の儀に参加する事は、即ち自分の命を懸ける事を意味している。勇者とは命を()して国の礎となる者の事であり、勇者に選ばれればその運命(やくめ)を受け入れ、二度と引き返す事は出来ない。”


 短い文章ではあるが、ズシリと重い言葉がそこには書かれている。

 確かに今までの勇者と呼ばれた者達は、誰一人として戻ってきた者がいないと聞いている。勇者は真実、この国の礎になるという事だった。


 ルースが読み終わって職員へと頷き返せば、職員は痛まし気な表情を浮かべるも、淡々とした態度を崩さなかった。

「それでは参加の手続きへと進めます。身分証をお持ちでしたら、ご提示いただけますか?」


 ルースはギルドカードを職員に渡し、魔導具に映し出された記入欄に必要事項を書き込んで行った。

 その記入内容は、名前・性別・年齢・出身地位のもので、それが終われば今度は職員がギルドカードの情報を魔導具へと入れていった。


「ご応募ありがとうございました。こちらに書いてありますが、2週間後の12の月20日に王城前広場へ一度お越しいただく事になります。忘れない様ご注意ください。それではこれにて受付は終了となりますので、左手の扉よりご退出下さい」


 こうしてルースは職員から1枚の羊皮紙を渡され、勇者の儀の参加資格の申請を終えたのである。


修正:公示の文中の一部、英雄を勇者に変更しました。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 まぁ参加を見送る人もそりゃ出るでしょうなぁ…物凄く悪い例えをするなら、昔の日本軍が発行してた赤紙を自分から申請するようなもの(但し受理されるか確定ではない)ですし。 ちょっとした…
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