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【276】途方に暮れる

「どうするの?」


 デュオが弱々しく声を出す。このままでは4人が別々の宿に泊まるか、野営をするかという選択肢になってくるだろう。


「俺は屋根の下で寝たいけど、別々というのも面倒だしなぁ。…やっぱり無いとなると凹むぞ…シュバルツ」

『おぬし以外へも、ダメージが大きかった様だな』

 シュバルツはフェルの肩に留まり、皆の表情を見回した。


 王都の宿は30軒程あるのだが、その半分は既に満室だとギルドで聞いている。その為、フェル以外の表情も冴えないものだった。


「とは言え、選択肢は余り多くありません。どうするのか考えなければならないでしょう」


 3人はルースの言葉に無言でうなずくが、その時“グゥゥ~”とフェルのお腹が鳴った。

「流石に腹が減って考えられない…」

 フェルがそのせいで考えられないのかはさておいて、流石に夕食の時間ともなれば皆もお腹は空いてきていた。


「では、他の宿屋が無いかも見て回りつつ、どこかで夕食にしましょう」

 ルースの言葉に反論する者はいない。

 こうしてルース達はギルド近くで紹介してもらった宿屋を諦め、東側にある商業地区へと入って行った。


 こちらにも食堂や衣料品店、宝飾品店などの店があって、奥に進むにつれ店の大きさは小さくもなるが、別に大きな店に入りたいという事でもない為、町中を見て回るという意味もあり東の奥へと進んだ。


 そうして、流石に障壁が迫ってくる頃になれば、街灯の明かりも心もとなくなってくる。

「ちょっと奥までき過ぎたか?」

 キースが、寂しくなってきた通りに眉をひそめる。

「だったら引き返そう。俺は少し手前にあった食堂でも良い」

 フェルはお腹が空いている為、食事が出来るならどこでも良いと言っている様にも聞こえた。


「ん?今何か聴こえなかった?」

 そこで、デュオが障壁の方へと視線を向けた。

「この先にはもう、店もないぞ?」

「そのようだな。もう少し南へ行けば、教会との境にはなると思うが」

「………」

 フェルが何もないと言えばキースが教会と言った事で、フェルがピクリと身じろぎした。


「デュオが言った事も気になります。行ってみますか?」

 ルースがそう声を掛ければ皆は黙って頷き、そうして何もないはずの郭壁の方へと静かに歩いて行った。


「%&…#□……」

「…▽%$…」

「……%&□…」

 少し行けば、確かに人の声が聴こえてくる。

 何を言っているかまでは分からないが、少々言い争っているような声にも聴こえた。


「行ってみましょう」

 ルースの声で走り出した4人は、その声がする方へと向かって行く。

「こっち」


 デュオが方向を示し路地を抜けるように奥へと入って行けば、少し拓けた空き地のような場所に出た。

 そこは公園とは違い、周りに少しの木々があるものの忘れられた場所と言った方が良いのか、街灯もなく、焚火の明かりだけがその場を照らしていた。


 そこには、10人程の男性達がまばらに地面へ座り、立っている2人を見ていた。

 皆から注目を集めているその2人は、少し着古した様なシャツを着た30代位の男性で、一人は顔に殴られたような跡があり、もう一人はその人物の腕を掴み悲しそうな目を向けていた。


 そこへルース達が近付いてきた事に気付いた者達が、驚いた顔で一斉にこちらを見た。

「だから騒ぐなって言っただろう…」

 座っている者が、諦めたようにそう呟いた。


「何してるんだ?」

 状況を無視した様にフェルが一人、つかつかと立っている2人へと近付いて行った。すると向かってくるフェルに怯えたのか、その2人は少しずつ後退り始める。


「だから、何してるんだ?」

 後退る2人に気付き歩みを止めたフェルは、再び口を開く。

「いや…別に…」

 口元から血を滲ませている男は、フェルの勢いに押されたのか口ごもりながら言う。


「別に、じゃないだろう?血が出てるぞ?こいつに殴られたのか?」

 フェルがもう一人の男性に視線を向ければ、その人物はフルフルと首を振って後退った。

 どう見てもこの男性の方が、顔に傷のある人物よりも華奢にみえるし顔つきも優しそうで、危害を加えた者には見えなかった。


「フェル、それ位にしてあげて下さい。それよりも先に、怪我の手当てを」

 ルースの言葉で渋々口を閉じたフェルを横目に、ルースはその2人へと近付いて行った。

 そして巾着から傷薬を出し、華奢な男性の前へと差し出した。


「これは傷薬です。まずは手当てをしてあげて下さい」


 ルースが丁寧に話しているからか、少し力を抜いて頷いた男性は、ルースの差し出した軟膏の瓶を受け取り、傷を作っている男性をその場に座らせて顔に塗り始めた。


「いてっ」

「ほら、動くなって」


 2人がやり取りしているのを黙ってみていたデュオが、座っている焚火の周りの者達へと視線を向けて首を傾げた。


「こんな所にいて、危なくないんですか?」

 危害を加えられないと分かったからか、デュオの問いかけには直ぐに返事があった。

「ああ、大丈夫だ。ここは滅多に誰も来ないし、来る奴もいない。後ろの壁の外から魔物が来たら、別だがな」

 と肩を竦め、着ている上着を掻き合わせた男性は弱々しくも笑みを見せた。


「それではここで、何をしていたんだ?」

 キースはそう言って問いかける。

「俺達はここで寝泊まりしているのさ。昼間は町中で仕事をしとるが、元々この町に住んでた訳でもねえ。でも宿を取れるほどの稼ぎがある訳でもねえから、何となくここにきて夜を過ごしてんだわ」

「ここは、そうやって集まってきた奴らばかりさね」


 王都へ働きに来たは良いが泊まる所が無くて、人が来ない場所で寝泊まりしているという事らしい。

 確かに近くの細い木の間に布が張られており、雨が降ればその下に入ってやり過ごしているのかもと思う。


「そろそろ寒くなってきましたが…」

「まあ仕方ねえ。借りる家もねえ」

「そうそう。ここは家を借りるのも高くてな、それを払うと飯が食えねえんだわ」

 ハハハと周りの人たちも笑っているが、もうこの生活が長いのかも知れない。


 その時、再びフェルのお腹が“グゥゥ~”と鳴り、パチッと焚火が爆ぜる音とで音楽を奏でた。


「皆さん、お食事はお済ですか?」

「いいや、まだだ」

「ではここで、ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」

「おいルース」

 フェルが小声で止めるが、ルースはニッコリとフェルに笑みを返した。


「フェルもお腹が限界でしょう?備蓄のパンもありますし。皆で食べませんか?」

「それじゃあ、オレがスープを作ろう。大したものは作れないが、体も温まるしな」

 そう言ったキースが焚火の方へと視線を向けた。

「この焚火を使っても良いか?」


 焚火の脇には、いつも使っているのか“Y”の字の棒が立っていて、その傍には金属の棒も置いてある。いつもこの場所を煮炊きに使っている様だった。

 キースの問いかけに一同戸惑ったように視線を合わせるが、薬を塗り終わった先程の男性振り向き、キースに視線を向けた。


「はい。今は使っていないので、どうぞ」

「ありがとう」


 その男性から許可をもらっただけで良いのかは分からないが、一応許可も出た為、キースはソフィーから預かった鍋を取り出してその中に魔法で水を入れると、焚火の上に棒を通して火にかけた。


 そうして地面に座り、巾着の中から野菜や肉を取り出し、目の前で切ってはドボドボと豪快に投入していく。

 味付けは至ってシンプルで、塩と香辛料を少々、後はトムトのへたを取りドボンと丸まる投入し、鍋の中で木ベラを刺して潰していった。

 調理時間はものの数分。

 しかし少しずつ素材の香りが立ってくると、またまたフェルのお腹が盛大に催促をして皆の笑いが響く。


 ルースはキースの隣で長いパンを切り分け、その中にジャムを塗っていく。

 このジャムはモウという動物から取れた乳を使った物で、甘すぎず塩味とコクがアクセントになり、パンの香りを引き立たせてくれる物だ。

 これはソフィーが以前買い溜めてくれていたもので、北の方で買った物だったと記憶している。

 そのパンを大量に切り分け鍋の蓋の上に重ねていけば、周りにいた者達も料理に視線を向け、ゴクリと喉を鳴らした。


「こっちはそろそろ食べられるぞ?」

「こちらも準備はできました。簡単な物ですが、皆さんもご一緒にいかがですか?」

 前半はキースへ、後半は周りの皆へと視線を向けてルースは話す。


「い…いいのか?」

「はい。皆さんとご一緒するつもりで作りましたので、少々切り過ぎましたから、食べて下さると嬉しいです」

 ルースがそう返事をすれば、皆が自分のカップなどを持って近付いてくる。

 キースの作ったスープの香りは、素朴であるが温もりが籠っている様にさえ感じる。


「こっちも大した味じゃないかもしれないが、不味くはないはずだ」

 キースはニヤリと笑みを作ると、ここに居る皆へとスープを配っていったのだった。


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