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【275】王都ロクサーヌ

 王都の門前で馬車を降りたルース達は、その入り口に連なる人の列に並んでいた。


 王都ロクサーヌは都の郭壁を囲むように水の流れる堀があり、降ろされている橋を渡って門へと辿り着く構造だった。非常時には跳ね橋が閉じられ、町は強固な城郭都市の機能を発揮するのであろう。

 上を見上げれば郭壁の上にも見張りが立っているのか、豆粒ほどの人影が動いているのが分かる。

 門前から圧倒されるルース達は、一時間程門前に並んだ後、やっとロクサーヌの町へと辿り着いたのだった。


 門前に到着したのは空が黄色く色付きはじめた時間で、町へと入った頃には日暮れの早くなってきた空には薄闇が迫ってきていた。

 だがそれさえも気のせいであったかと思う程、郭壁の中は光で溢れていた。


 通りには魔導具であろう街灯が立ち、その下を照らしているため極端に暗い所はない。

 そして賑わう店はまだ熱気に溢れ、そこからの灯りも町中の明るさに大きく貢献していた。


「流石に店もデカイな」

 フェルは、キョロキョロと通りを見回しながら歩いている。

 人が賑わう通りにはフェルが言うように、個人商店というよりも大型で従業員が多そうな店が立ち並んでいる様に見えた。


「どっちに行けばいいの?」

 デュオは勝手の分からない町中を見て、眉尻を下げる。

 ルース達はまず宿を確保する為、取り敢えず冒険者ギルドに行ってみる事にしているが、町の規模が違い過ぎて方向感覚でさえ失われそうだった。


「困りましたね…」

「誰かに聞かないと、自力では無理かもな」


 ルースとキースがそう言って足を止めれば、後ろから来ていた人がドンとルースに当たってしまう。

「急に止まるなよ」

「すみません」

 怒られてしまい、ルースは即座に謝罪する。

 これは本当に困ったなと、一旦通りの端に退避した。


「何だか(せわ)しないなぁ」

 フェルは通り過ぎていく人々を見送り、ポツリと零す。

「もう暗くなってきてるし、みんな急いでるんじゃないの?」

「じゃぁ、誰かを呼び止めて聞くってのも無理か…」


 今までが割とのんびりとした町ばかりであったからか、王都が特別なのかは分からないが、余りの違いにルース達は頭を悩ませている。

 町に入って早々、ルース達は足を止めてしまった。完全なる“おのぼりさん”だ。


 外から見た王都は、郭壁だけ見ても一日で町中を歩けるようには見えなかった。

 そしてもう暗くなってきているので、これは困った事になりそうである。


「戻って、門番にでも聞こうか」

「その方が早いかも知れませんね」

 すっかり迷子の気分になった4人は、門へと戻り門番へと近付いて行った。


「どうした?」

 ルース達が門に近付けば門の脇にある建物の扉が開き、中から出てきた門番と同じ制服を着た人物が、ルース達に気付いて声を掛けてきた。


「冒険者ギルドを探しています」

 一番近くに居たデュオが、声の主に答える。

「王都には着いたばかりか?」

「はい」

「では、少し待っていろ」

 そう言った衛兵は出てきたばかりの扉の中に戻ると、すぐに何かを手にして戻ってきた。


「これを持っていくといい。大まかな町の観光案内で、冒険者ギルドも載っている」

 デュオへと差し出されたのは、一枚の羊皮紙だった。

 デュオが受け取って確認し、「ありがとうございます」と元気にお礼を伝える。


「王都は今、沢山の人が集まってきている。物を取られない様、注意してくれ」

「はい!」


 そう告げると、衛兵は任務の途中であったのかそのまま門へと向かって行った。

 忙しい所わざわざこれを手渡してくれた様で、ルース達は門に向かって頭を下げると人の少ない通りまで移動し、そこで渡された物を広げた。


「優しい人で助かったね」

 優しいかどうかはわからないが、デュオはそう解釈した様だ。


 多分、ルース達の様に初めて町に入った者が道を尋ねる事も多いのだろう、その為予めこの地図を用意してくれていたのではないかとルースは思う。

 何百人と訪れる者達にいちいち対応していれば、通常の業務に差し障るのだろう。

 そんなデュオの手にする地図を覗き込み、有難いなと笑みを浮かべたルースなのである。


 その地図には大きく円が描かれており、その中に様々な事が書かれている。ルース達が入ったのは王都の北門で、今はその近くにいる事になる。


 町の中央には“城”と書かれた円が描かれており、王都ロクサーヌはその城を中心とした造りになっている様で、東西南北にそれぞれ門があるらしい。

 商業地域は町の北側にあって全体の五分の二程を占めており、宿屋などはその中にあるらしい。


 冒険者ギルドは西側の地区にあってそこには“行政”と書かれ、その対面の東側には“教会”という文字がある。そこにソフィーがいるのであろうとルースは一度目を閉じる。

 そして再び地図を見れば、残りの南側、商業地区より少し狭い位の広さに“居住地区”と記されてはいるが、その中も三対二の割合で区切られている。その意味は分からないが、大まかな位置を知るにはこれで十分な物であった。


「冒険者ギルドは…あっちだな」

 フェルも冒険者ギルドの位置を確認した様で、そう言って地図から顔を上げて東側を見た。


「フェル、そっちは反対だ…」

 キースが半目でフェルに言う。

「あ?ああ、俺から見た地図があっちだったから、間違えたか」

『おぬしらしいな…』

 フェルの言い訳にシュバルツが目を細めた。

「……」

 フェルはシュバルツに言い返せず、口を尖らせて悔しそうである。


 こうして地図を頼りに人混みを抜け、ルース達は冒険者ギルドへと辿り着いたのだった。

 その頃には丁度冒険者達の混み合う時間で、大きな扉を開けば中の熱気が溢れてくるようだった。


 人の間から見える受付は正面。

 広さ的に見て、6つから7つの受付が並んでいる様だ。

 左手は広くスペースが取られた飲食コーナーがあり、受付とその間の壁に扉が1つあって、その奥にも何かがあるらしいと分かる。

 入口から見ただけでも、今まで見てきた冒険者ギルドで一番広いギルドである。


「でかっ」

 フェルの感想もルースと同じだったようで、中をキョロキョロと見回している。

「入ろう」

 入口で立ち止まっていたのを促したのはキースで、キースが一番冷静だった。


 ルースは好奇心から魔力感知をさせてみれば、室内は様々な色で溢れていた。今この中にいる者は、多数が魔力持ちであろうと分かり、即座に感知を切る。


「取り敢えず、どこかに並ばないと…」

 デュオは圧倒されながらも宿の心配をしているのか、不安げにどこに並ぼうかと列を見ていた。

 そうして一番手近な、右手の掲示板近くの列に並んでみる。


「もしかすると、部屋は無いかも知れませんね…」


 これだけの冒険者が全て宿に泊まっているのかは不明だが、ルース達の様に勇者の儀にあわせて王都へ来ている者も当然いるだろう。そうなると冒険者ギルドの宿は、特別室も含めて既に満室かもしれない。


「その可能性は高いかもな。であれば町の宿…も微妙だな」

 キースもその不安要素に気付いたらしい。

「ええ。最悪、宿はないものと…」

「ぶへぇ」

 ルースの補足に、フェルが変な声を出す。


 そうしている間に受付まで進んだルース達は、ギルド職員の笑顔に笑みを返し部屋の空きを尋ねた。

「こんばんは。ギルドの宿を利用したいのですが、部屋はありますでしょうか」

 ギルドカードを提示しているが、やはりというのか職員の顔が疲れたものに変わる。


「申し訳ございません。現在ロクサーヌの町には冒険者が多く滞在しており、空きは無い状態となっております」

「それでは、町の宿をお教えいただけませんか?」

「はい。お教えする事は出来ますが、町の宿も日に日に一杯になっている様でして…それでもよろしければと」

「はい、それで構いませんのでお願いいたします」


 ルース達は冒険者ギルドの宿を諦め、ギルド職員から聞いた宿へと向かって行った。

 地図には宿屋の名前までは書かれていない為、まだ空きがありそうだと教えてもらった5軒の宿屋を探し、1軒1軒あたってみた。


 しかし部屋はあっても、後2人か3人までしか泊まる事ができない宿ばかりで、4人が泊まれる宿はない。

 最悪、皆が別々の宿に泊まる事になるなと、ルース達は道の端で肩を落としたのだった。


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― 新着の感想 ―
完全におのぼりさんなルースたち御一行……! 変な輩に田舎者だと因縁をつけられないとよいのですが…
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