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【272】新しい印

 ルース達が買い物を済ませて戻ってくると、ソファーの上でシュバルツは目を開けていた。


「戻りました」

 と一応外出していた事を伝えれば、シュバルツから少しホッとした様な気配が伝わってきた。

 誰もいない部屋に置いて行ってしまったので、慌てていたらしい。


「シュバルツの新しい(しるし)も買って来たぞ」

『そうか…』


 と、そんな会話をしつつ皆はソファーに腰を下ろし、ルースはシュバルツに買ってきた小さな物をテーブルに置く。ゴトリと鈍い音をさせた物を見て、シュバルツは目を瞬かせた。


 それはアクセサリーの一部に見える小さな物で、直径約1cmの輪っかだった。

 金色に輝く物は何かの金属製だからなのか、厚みも1cm程しかないのに1キロ近くの重さがあるものだった。


「道具屋で見つけてきました。ダンジョンから出たもののようですが、用途が分からず道具屋に流れてきたそうです」

『ほう…』

 シュバルツは体を起こしてテーブルの上に移動すると、それを繁々と覗き込む。

 どうやら動けるようになったらしい。


「掘り出し物の箱の中に入ってたやつだが、ルースがコレはシュバルツにピッタリだって」

 フェルがまた余計な事を言う。

『………』

 シュバルツはルースに視線を向け、コトリと首を傾げた。


 それに微笑んで、ルースは続けた。

今の(・・)シュバルツには、こういった物の方が良いかと思いまして。形もシンプルで、色もシュバルツに会うと思いますよ?」


 金色の輪がキラリと光りに反射する。

 装飾がなくツルリとしていて、開閉する所すらない。これは何でどういうものなのかは、情報が分かるルースしかまだ知らないのだ。


「それは一応、指輪なのだそうです」

 とは言うものの、中に5mm程の丸い穴が開いているだけで指にはめるには輪が小さく、その上とても重い物だ。普通は指にはめる物だとは考えないだろう。


『ふむ。魔導具か』

 シュバルツは何かに気付いてそう呟き、フェル達はどうやって使う物か分からない為、皆それを凝視している。

 そしてシュバルツがそれに足で触れれば、指輪が広がって輪が開いて行った。


「おおー」

 フェルが感動の声をあげた。


「流石ですね。それは魔力を持つ者だけが身に付けれられる指輪で、指輪が魔力に触れると穴の大きさが変わり、どんな大きさにも変化するものです。体の大きな人や指が細い人など、誰でもが丁度良くはめる事ができるそうです」


 ルースが説明をしている間に、デュオがシュバルツの足にそれを通してやれば、それはシュバルツの足首に綺麗に収まった。


『重量も、魔力を通せばなくなるという事か』

「はい。魔力がない者がみれば、ただの重たいだけのガラクタですね」

『確かに、掘り出し物(・・・・・)かも知れぬな』

 シュバルツも気に入ってくれたらしく、そう言って目を細めた。


「ダンジョンには、色んなものがあるんだな」

 キースの感想は皆も思うところだったらしく、フェルもデュオも感心した様にシュバルツを見ている。


 人も魔導具を作り出してはいるが、元々はこういったダンジョンから出た物を研究し、それを参考にして様々な魔導具を作っていると言われている。


「シュバルツは体が変化するようになったので、普通の物ではまた壊れてしまう事も想定しました」

 ルースはソファーに戻ったシュバルツに視線を向け、そう説明した。

『そうだな』

 と、シュバルツは何でもない事の様に返事をする。


「そういやシュバルツ、何で急に体がデカくなったんだ?」

「そもそも体の大きさだけでなく、“フギン”でも無くなってたけど…」

 フェルがその時の事を思い出したのかシュバルツに聞けば、デュオもおかしいでしょとシュバルツに尋ねた。


「そろそろお話しいただけますか?」

 ルースは話し方も変わっているシュバルツに説明を求めれば、シュバルツがどこか諦めたように皆へと視線を向けた。


『我は元々、聖獣と呼ばれるものであった』

「はっ?」

 フェルが体を強張らせてシュバルツを見る。

 ルースもキースもデュオも、驚き過ぎて言葉が出ない。


『600年ほど前から、我は魔物として彷徨っていたようだ』

「600年…」

 デュオもその年月の長さに、零れそうなほど目を見開いている。


「聖獣が魔物に落ちた…という事ですか?」

 “落ちた”という言い方は適切ではないかもしれないが、ルースの中では獣や魔物よりも聖獣は上位であると思っている。

『その言い方がしっくりくるか…そう、我は魔物に“落とされていた”』

 シュバルツは目を細めて、遠くを見た。



 そこからシュバルツは、淡々と記憶を辿る様に話していった。


 600年前、聖獣として王都近くにある山奥で当時の聖女と出会う。そしてその時にも闇の魔の者が姿を現わすと知り、勇者と聖女のパーティと共に闇の魔の者へと向かって行った。

 そして勇者は傷つきボロボロになりながらも討伐は叶わず、再び聖女が封印するという流れになった時、闇の魔の者が動いた。


『聖女を狙ったものであった為、我はそれを食い止めるべく魔の者へと向かって行った。我に注意を引き付けている間、聖女に封印してもらう為だった。しかしその時、奴は笑みを浮かべ闇の魔力で我を包み込んでしまったのだ』


 ルース達はシュバルツの話に、まるで自分が傍にいるかのような錯覚を覚え全身が震えた。


『その後の事は覚えてはおらぬが、結果としては成功したのか聖女が再び封印をしてくれたようだ。それから我は何処かの森で目を覚まし、魔物として生きていたという事だ』


 シュバルツがその時に受けた闇の魔力で、聖獣としての記憶全てを無くして魔物へと落とされた。そして今までシュバルツは、自分を魔物のフギンと認識していたのだと言った。

 だが先日森の中で、闇の魔力に触れ掛けられていた魔法に変化が生じたらしく、本来の姿には戻ったものの精神まで魔物へと陥りかけたらしい。


『聖魔力で攻撃をされた時、何かが砕ける音が聴こえた。その時にもしかすると、闇魔法の効果が消えたのやも、と考えている』


 シュバルツにもどうしてなのかは分からないものの、あの時以降、本来の聖獣としての記憶も戻ってきたという事であった。


「聖獣なら、体を小さくしたりできるのはわかるけど、何で形まで違うの?」

 デュオがあの時はフギンの姿ではなかったよね?と疑問をぶつける。


『あれが我の元の姿で、グリフォンに近いものであった。あの姿のまま小さくなっては違和感もあろうと、この姿にしているまで。この魔物の姿はもう我の一部としても呼べるものになり、変化(へんげ)が出来る、と言えば伝わるか?』


 そういう事なのかと、ルースはシュバルツの姿を見つめた。

 あの時は鷲に似た姿だった為、あれがグリフォンというものかと納得するが、そのルースの思考を読んだのかシュバルツが再び念話を入れた。


『本来のグリフォンという物は、白い頭に茶色の体で脚の数も違い黒くはない。だから“グリフォンに近いもの”と伝えたのだ。我は記憶の初めから、この色であった』


「黒きもの…?」

『然様。黒きものと呼ばれておった』

 キースの呟きに、シュバルツは肯定する。


「聖獣は、何体いるのですか?」

 白きもののネージュ、黒きもののシュバルツ、そしてアルデーアの青きものを思い描きながら、ルースはシュバルツに尋ねた。


『聖獣は4。黒白青、そして黄』

「その黄の聖獣って、何の獣なんだ?」


 フェルは興味深々なのか身を乗り出すようにシュバルツへと尋ねれば、シュバルツはフェルをキョロリと見上げ、笑ったように目を細めた。

(おう)きものは“トカゲ”だな』

「トカゲ……」

 想像と違ったのか、フェルはがっかりした様に肩を落とした。


「何だと思ったのです?フェル」

「いやさぁ…犬とワシとサギだったろう?だから黄色っぽいのだと、熊とか馬とかかなーと」

『クックック。稚拙だな』

 ルースの質問に答えたフェルに、シュバルツが器用に笑って見せた。

 以前に比べ、今のシュバルツは言葉のせいか感情が豊かだと感じる。


「やっぱり聖獣になっても、シュバルツはシュバルツだった…」

 ガクリと背中を丸めたフェルに、3人が笑った。


「でもトカゲが聖獣って、違和感があるね」

 デュオも爬虫類とは思っていなかったのか、シュバルツに苦笑を向けた。


『黄きものは普段、小さき姿であったと記憶しているが、大きさを戻せば“竜”と呼ばれる物になると言っていたな』


 皆はお伽噺の世界に出てくるような名称に言葉を詰まらせているが、シュバルツはそれを気にする事なく、記憶を辿るように淡々と話している。

『その為か、黄きものが聖女に会う事は殆どないらしい。今もこの国の何処かにはいるはずだがな』


 シュバルツはそう言って、窓の外に広がる茜色の空へと視線を向けるのであった。


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 シュバルツ、元は結構強い存在だったんだろうなぁ…とは思ってましたが、まさかネージュの同僚(?)だったとはなぁ。地に堕ちてから時を経てルースやソフィーに出逢ったのはある意味定められ…
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