表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
269/348

【269】謎のシュバルツ

 ルースとフェルが近付いてきていた魔物を倒し終わりデュオとキースの下へ戻ると、シュバルツの翼に刺さっていた矢は抜かれ傷も治してくれていた。


「どうですか?様子は」

「まだ目を覚まさないけど、ルースは何か感じる?」

 外側から見ただけではどうなっているのか分からないと、デュオはルースへと聞き返した。


「……今は何も伝わってきませんが、シュバルツの存在は感じますので、生きてはいるようです」

「っていうか、何でシュバルツがこんなに大きいんだ?」


 フェルが言う事は皆が思っている事だった。


「私にもわかりません。ですが、その前にあの魔力をどうにかしないと、再び魔物が凶暴化してしまいます」

 ルースが塚を振り返り視線を向ければ、皆も渋い顔をして頷いた。


「ルースはあれが何か知ってる?」

「私には解りかねます」

「まあ、アレが何かという事よりも何とかしないと、だな。で、どうする?」

 キースはルースへと視線を戻す。


 4人はシュバルツから離れ塚に近付くも、ルースが霧に触れぬよう、皆に止まれと合図を送る。

「ソフィーがいてくれればなぁ…」

 小さく落とされたフェルの言葉は、皆の心に突き刺さる。

 聖女という存在が今、どれだけ必要とされているのか、皆は身をもって感じていた。


「聖水で闇の魔力が消えないかな?」

「……」

 デュオの考えには、皆は黙り込んだままだ。


 闇の魔力に侵された魔物であれば、シュバルツの例をとっても有効であると判るが、霧の発生源とも思えるものに、少量の聖水が効くとも思えないのだ。


 ルース達は距離を取ったままグルリと周りを回る。すると反対側に回り込んだとき、その隆起に40cm程の穴が開いているのが見えた。ただしルースの目には、霧が濃すぎる為にはっきりとは見えていないが。


「穴があるね」

「何かが穴をあけて、外に出てきた様に見える」

「それとも元は何かの巣、だったのか?」

 デュオとキース、そしてフェルがその状況を話し合う。

「さっきのアント…か?」

「その可能性はあるかも知れませんね…」


 4人は穴を観察するも、そこから何かが出てくる気配はない。

 推測をするならば、明星の天と共闘した時のアントがここに巣を作っており、その巣の中で何故か闇の魔力が充満し、初めにアントが侵された。そしてここから溢れ出した魔力で、他の魔物も侵されて行った…と考えられる。


 闇の魔力は、殺戮感情を助長させる傾向にあるとルースは考えている。それならば、この発生源を潰さなければ再び魔物が狂い出し、森を抜けて町々を襲い出すのだろう。


「キース、聖の魔力でここを破壊していただけますか?」

 ルースの提案に、皆はルースに視線を向ける。


 キースのロッドにはソフィーの聖魔力が蓄えられており、それはロッドに輝く魔石の中にある。

 以前キースが魔の者と対峙した時、ソフィーが付与した聖魔力を使ったと知ったソフィーが、込められるだけの聖魔力をこのロッドに付与してくれたのだ。


「わかった」


 ルース達は距離を取るため後退しながらキースがロッドを空に掲げれば、キースの頭上にある魔石から光が溢れ出す。ルースの目にはその光が、雷である金色と聖魔力の虹色が交じり合うようにして広がっていくように見えた。キースはロッドの属性である雷を発動させるつもりのようだ。


「“激雷(ライトニンググローム)”」


 ロッドから放たれた一抱え程ある光は、隆起した場所に着弾した後一瞬で周辺を光の渦がつつみ、轟音を轟かせた。


 ――― ドドォーンッ! ―――


 閃光と爆煙で思わずルース達は視界を腕で塞ぎ、爆風がルース達の髪を掻きあげていった。そしてパラパラと降ってくる土や小石が、ルース達の足元まで降り注ぐ。


 少しずつ静けさを取り戻していく森に、そこへ視線を向けたフェルの声が落ちた。

「威力出し過ぎじゃね?」

 フェルはこんなに大きな魔法だと思っていなかったらしく、唖然とした表情で塚があった場所を見つめた。


 フェルの視線の先、そこにあった隆起した盛土は今の魔法で跡形もなく消え、剥き出しの土が少しえぐれたように直径5m程の窪地を作っていた。


「発生源は、埋まったようですね」

 ルースは目視で黒い霧の存在を確認し、それが消えた事を皆へ伝えた。

 そしてその場所を確認するように、皆は確かな足取りで近付いて行く。


 えぐれた地面には先程までの穴もなく、巣であった穴の中まで塞がっている様だ。

 その窪みの中に立つフェルが、ドンッドンッと足を踏み鳴らしても崩れない事から、皆は顔を見合わせ処置が終わったと頷きあう。


「あの闇の魔力は、一体どこから…。もしかして魔の者でも埋まってるのかな…」


 デュオの疑問には皆は首を捻るばかりだが、この様な場所が各地にできれば、ただでさえ厄介な魔の者もいる上に、凶暴化した魔物の対応にも追われる事となる。


「わかりません。しかし今、闇の魔の者が再び世に出てこようとしている時期でもあります。もしかすると何らかの方法で、地脈に闇の魔力が干渉し始めているのかも知れません」


 地面の下を闇の魔力が伝っているとすれば、いつどこでそれが地上へ露呈するのかは検討も付けられない。しかし今はそれを議論する時ではないと、ルース達は再びシュバルツの下へと戻っていったのだった。


「ああ…土で汚れちまったな」

 フェルは、シュバルツの大きな体に降り積もった土を手で払い始めた。

 丁寧に少しずつ体を撫でて行けば、ゆっくりとシュバルツの瞼が開く。


「あ、気が付いた?」

『………』

 デュオの声にも、シュバルツの言葉はない。

 もしかして、もう会話も出来なくなってしまったのではとルースが思案していると、その視線はルースへと向けられた。


『大丈夫だ』


 はっきりと皆の頭の中に念話が届き、ルース達は緊張を解く。

 だが何かしらの違和感を覚え、シュバルツの鷲の様な顔に手を添えた。


「何があったか覚えていますか?シュバルツ」

 手を添えた顔は、ルースの手が子供の様に見える大きさだ。

 嘴はルースの肘から指先までの長さがある。

『…我は…』

 まだ混乱しているのか、シュバルツは言い淀む。


「その前にシュバルツ、この大きさをどうにか出来ないのか?他の奴らが来たら、その辺の魔物と間違えられちまうぞ?」

『…そうか』

 フェルの尤もな話でシュバルツが光に包まれたかと思えば、見る見るうちに体が縮みいつものシュバルツの姿へと戻っていった。


「うわ…何か凄いね、シュバルツ。ネージュみたいだ」

 デュオが感動した様に目を見開いた。


 だがまだシュバルツは自力で立てない様で、地面に横たわったままの状態だった。

 そのシュバルツをフェルがヒョイと抱え上げた。


「世話が焼ける奴だな」

 口ではそんな事を言いつつも元に戻ったシュバルツに、フェルは嬉し気に目を細めている。

『お前には負けるがな』

「減らず口も戻ったな…」


 フェルとシュバルツのやり取りを見守る3人は、そこに人の気配が近付いてくるのを感じていた。


 そしてやってきたのは、先程別れた明星の天の4人だった。

「大丈夫か?!」

 先頭で声を掛けたのは、ブライアンだ。


「皆さん、どうしてこちらに?」


 先程西へ向かうと別れたはずが、こちらへ来たのは何故なのかとルースは尋ねた。

「ついさっきこちらの方で物凄い音がしたから、何かあったのかと心配して来たんだ」

 サイモンが辺りに警戒の目を向け、剣を鞘に戻した。


「それは大丈夫です。ご心配をして下さりありがとうございます」

「それで、何かあったんだろう?」


 ブライアンが尋ねたため、ルース達はえぐれた場所を指しながら、闇の魔力が溢れ出していた場所を爆破して埋めた事を話した。

「それでか」

「すんごい音だったから、ビックリした」

 コールソンもミックも、話を聞いて頭を掻く。


「それにしても、そんなものがあったとは…」

「そこから出ていた闇の魔力を浴びた魔物が凶暴化して、人を襲おうとしていたようです」

「じゃあ元凶はもうなくなって、これ以上はそんな魔物は現れないという事だな?」

「多分…ですが」

「わかった。では俺達はこちら側から西の応援に向かうぞ」

「おう!」


 こうしてブライアンの指揮の下、皆はモルラントの冒険者達の援護に向かうべく、森の中を駆け抜けていくのだった。

 因みに動けないシュバルツは、フェルが布で包み、それをたすき掛けにしたフェルの胸で眠っているのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 良かった~…!!ソフィーに続き再度の…しかも今回は永遠の別れになってしまってた可能性も有りましたから、シュバルツが助かってホッとしてます。 でもシュバルツってこんな流暢な感じの喋…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ