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【266】森の異変

 森が見える道で停まった馬車から、8人が一斉に降りる。


 ここまで来れば森の方角から異様な気配が漂っていると分かる。

 一見、森は静かでただの森に見えるものの、気配に聡い者であれば、ただ事ではない事が起こっていると知るだろう。


「これは…」

「思ったよりも拙そうだな」

 8人が森を凝視する中、ブライアンとサイモンが渋面を作る。

「モルラントの奴らは、西から森に入ってるんだったな?」


 ここは、イールカの西にあるモルラントまで繋がる道の、北側に茂る森だ。

 知らせによれば、既にこの森の西へは魔物が集まっているとの事だった。


「こちら側は、まだ出てきていないな。しかし時間の問題か…」

 この異様な空気は、森全体を包み込んでいるとさえ感じる。

「よしっ、ここに居ても始まらない。僕たちも森に入ってモルランド側へ向かおう」

「おう」


 ブライアンの号令で、7人が声を揃えて一斉に駆け出していった。

 ずっと空から付いてきていたシュバルツも、上空から森へと入って行った。


 この森に高低差はないが、木々につる草が巻き付き下草が鬱蒼と生い茂っている。その為、ミックが魔法で足元の草を吹き飛ばしていき、道を作って行った。



『ガァァーッ!』

 ― ドドドォーンッ! ―


 魔物の咆哮と何かがぶつかる音が森に響く。

 それはルース達が森に入って10分程した頃だった。


「奥の方だな」

 コールソンとデュオが、その方向に矢を放った。その矢は真っ直ぐに木々の間を抜け、吸い込まれるように見えなくなる。


『ガァァーッ!』


 再び叫び声と暴れている音がしたかと思えば、そちらの方から禍々しい気配が近付いてきた。

 まだ目視では見えていないが、身の毛もよだつ程の何かがいると感じた。


「来るぞ!」

 ルース達はブライアン達が足を止めたのに合わせ、左右に展開する。そちらを見れば地響きと共に、ドン!ドン!と遠くの木々が枝を揺らし、それがさざ波のようにこちらに近付いてくると分かる。

 そしてそれに追い打ちをかけるように、ルース達の手元から音がする。


 ““““ リーン ”””” 


 その涼やかな音色に、何も知らぬブライアン達が音の聞こえた方へと視線を向ければ、ルース達の表情が変わった事に気付き声を掛けてきた。

「どうした?」

 聞いたのはフェルの隣にいたサイモンで、剣を構えつつフェルを覗き込んでいる。


 ルースは、この状況をどう話そうかと思考を巡らせた。

 この音が鳴るという事は、この先にいるものは魔の者であるという可能性もあるが、この武器に与えられた聖魔力は闇の魔力で反応するとソフィーから聞いていたし、実際目の目前に迫るものは、どう考えてもあの人型より大きそうなのだ。


 という事は、この先にいる物が魔の者だという可能性は低いが、魔物が闇の魔力を持つなど聞いた事もない。これはどういう事か…。

 とそこまで考えたルースは、迫りくる物が何であろうと闇の魔力を持っているのだと、ブライアン達にも伝えねばならないと口を開く。


「今向かってくる魔物は、恐らく闇の魔力を持っています」

 ルースの言葉に、ブライアン達も顔色を変える。


 その反応から、先日のデニスでの件を既に冒険者ギルドから聞いているのだろうと思われた。それであれば、ルース達が何も説明せずとも、ブライアン達は相応の対応をしてくれるはずである。


 そうルースが考えた通り、ブライアン達はそこから即座に動き出し、各々が手荷物の中から瓶を取り出して武器に掛けていった。

 その間ルース達は向かってくる物を注視していたが、横からこちらへ視線が向けられていると分かる。

 なぜルースがそれをわかったのかと知りたいのであろうが、今は悠長に話をしている時ではない為、後で聞かれるのだろうなとルースは心の中で苦笑するのだった。


 そうしている間に遠くに大きな影が見えた。

 相変わらず地面を揺るがす程の地響きが続いているが、それを注視すればその魔物が周りの木々にぶつかりながらこちらへ近付いているのだと分かった。


 ― 狂っている ―


 そうとしか言いようがないような程、その動きは滅茶苦茶だった。

 普通であればこちらに気付いた魔物は木々の間を縫うようにしてこちらへ向かってくるが、目の前にいる物は、まるで酒に酔った者の様に周りの木々にぶつかりながらこちらへと向かって来ているのだった。


「これは、違和感どころではないようだな」

 ギルドマスターから聞いた話よりも酷いなと、ブライアンは槍を握る手に力を込めた。


 そうして近付いてきた魔物は、ルースの目には黒い霧を纏ったように映っている。

 やはり闇の魔力を纏っていたのは、この魔物だ。

 しかし相手は1体、そしてこの魔物はブラッディベアであると分かった。

 ブラッディベアは、トリフィー村で対峙した事があるが、その時の個体とは明らかに様子が違っている。元々気性が荒い魔物だが、これはそんな言葉では収まりきらない程の凶暴性を秘めていると感じた。


「ルース達も出られるか?」

「はい」


 ルースはブライアンの声に答えるも、既に皆が走り出している最中での問いかけだった。

 先程ブライアン達は聖水を掛けたりと準備をしている中、ルース達が何の準備もしていなかったから故の問いであろうとルースは思った。


 ルースが答えた次の瞬間には、皆戦闘に没頭する。

 ブライアン達も流石にA級冒険者であり、各々が自分の役割を良く理解し、その動きには無駄がない。

 ルースとフェル、ブライアンとサイモンの4人が前衛としてブラッディベアへと突っ込む。


 その魔物は動きが散漫で大振りに周辺へと攻撃を仕掛けていて、一見ただ暴れている様にしか見えないものの、その腕の一振りが当たった木は木肌が(えぐ)れ、倒れる寸前までのダメージを受けている。


 そこに4人が取り囲むように対峙する。

 一方に魔物の注意が向けば、3人が一斉に切りかかる。

 だが切り付けられても痛みを感じていないかの如く、血を流しながらも変わらず絶えず動き続けているのだ。

 それは元々肉厚で大きな個体であるため、剣を受けても深手には至っていないからかも知れないが。


 4人が一瞬後退すれば、コールソンとデュオの聖を纏わせた矢、ミックとキースの魔法が飛び込んで来る。


 ― ドーンッ! ―


 コールソンの矢には聖水が掛かっているが、その威力は充分とは言えぬものであるのに対し、デュオが魔弓(バンベール)から引き出した聖魔力を乗せた魔法の矢は、黒い霧を纏う魔物にも深く刺さった。

 そしてミックの魔法は、ロッドに聖水をかけていても効果が出ないと分かったらしく、魔物の足元など移動を阻止する為に放っていた。

 そしてキースのロッド(ブルグル)からは聖魔力を纏った(いかずち)が放たれ、魔物を打つ。


 ― ドドーンッ! ―


 このロッドの属性は雷。

 それを放つには詠唱が必要であったが、ロッド元々の属性ゆえ、キースの魔力を余り消耗せずに放つ事ができると、キースは以前そんな事を言っていた。



 こうして全員で協力すれば、闇を纏っていた魔物もいくらも経たず地に伏した。


 ――― ドォーンッ! ―――


 魔物がこと切れれば、纏っていた黒い霧も四散していくのだとルースはその黒い霧を目で追った。


「この面子なら問題ないな」

 倒れた魔物を見下ろし、サイモンが言う。

 しかしその時、再びルース達の武器が鳴いた。


「その音は?」

 この時ばかりは、流石にブライアンもルースへ尋ねた。

「この音色は、闇の魔力を感知しした時に鳴るものです」

「随分と念入りだな…」

 ルースの答えに、コールソンが瞠目した。


「はい。私達は何度か、この手のものと遭遇していますので」

 ルースがそこまで言えば、何かを感じ取ったのかブライアンが神妙に頷いた。

「では僕たちは運が良い。経験者が傍にいるんだからな」

 そう言って振り返ったブライアンは、森の奥へと視線を向ける。


 そこに複数の気配を感じ、ルース達は次の魔物へと走り出していった。


 そこに辿り着けば、今度は群れを成すアントだった。

 その蟻の体にも黒い霧が纏わりついているのを見て、ルースは焦りに似た危機感を覚える。


「ブライアンさん」


 ルース達はそのアントの群れに突っ込み、戦闘中だ。いくら弱い部類に入るアントとは言え、戦闘中、背中越しにルースから声を掛けられたブライアンは、訝し気に声を返す。


「どうした?」

 ズバッとアントを切り裂き、ルースは話す。

「この森の魔物は、スタンピートというよりも闇の魔力に狂わされていると考えられます」

「それで?」

 ザクリとアントの首を断ち切り、ブライアンはその先を促す。


 ― ドンッ! ―


 周りでは、キース達が奮闘している音が響いている。


「この森の魔物たちは、どこかで闇の魔力の影響を受けているのでは、と考えられます」

「魔の者の仕業という事か?」

 ブライアンは目の前の魔物を注視しつつ、ルースと話を続けた。


「それはまだ分かりません」

「しかし、その大元を絶たなければ、ここの魔物はいつまで経ってもこのままという事だな?」

「はい。そう考えられます」


 ルースとブライアンは、この元凶になる物を探すという考えで纏まった。

 そして皆でアントの群れを倒し終わると、2手に別れ、森の中でその元凶を探す事にしたのだった。


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