表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
261/348

【261】望まぬ遭逢

 王太子の婚姻の議も無事終わり、パッセルに集まっていた者達も少しずつその数を減らしていった。

 急ぎ戻る者もいれば、道中が混むだろうからと見越して少しのんびりしてから帰る者もいた。


 町中はそんな風に徐々に落ち着きを取り戻していく中、冒険者ギルドも日常を取り戻していった。


 こちらも祭りの翌日位まで冒険者の数は少なかったようだが、それは祭りの日に羽目を外し過ぎた者達が、翌日も頭痛や吐き気に悩まされていたから、という事らしい。


 こうしてゆっくりとパッセルの普段の日々が姿を現わせば、大通りのあの賑わいを知っている者からすれば、寂しいと感じる位まで人は少なくなっていった。


 そうしてルース達は再びギルドのクエストを熟しつつ、時々姿を見せるダスティ達と食事をしながら話をする。

「あっちの件も大分進んだ。奴らの元締めを吐かせて、今はそちらの件で他と連携しながら動いているところだ」


 ダスティ達はまだ、あの人攫いの件で動いているらしい。

 そもそもダスティは冒険者として国内を移動しつつ、不穏な空気がないかとそれらを探る役目も熟していたらしく、パッセルとは常にやり取りをして各地の情報を報告していたんだとか。

 以前ルース達と馬車で会った時も、パッセルからの指示で一人動いていた後、パーティと合流する為にあの馬車に乗ったところで、ルース達と居合わせたのだとダスティは教えてくれた。


「基本は冒険者だが、偵察員として別件で動いたりもしている」

 家の指示では仕方がないといいつつ、ダスティはそんな仕事も誇りに思っていると笑っていた。


 結局人攫いの件は、あれからルース達の手を離れている為それ以上の事は詮索する事はせず、ダスティが伝えてくれることに頷き返しただけであった。


 そんな事情でダスティ達はクエストをする事は出来ない為、ギルドの方はよろしく頼むと言われている。

 緊急性の高いクエストが出れば、直接声を掛けてくれるはずだとダスティ達に言われている為、ルース達も日々気楽にクエストを熟して行くのだった。



 そうしてパッセルの町に来てから3週間が経ち、滞在予定の1か月も残り少なくなってきた頃。

 冒険者達が動き出す早朝、少しの間町を出る予定だというダスティ達と共に、今日のクエストを熟すためルース達は一緒に町の外に向かって行った。


「俺達は3日程外に出てくるから、その間は町を頼む」

「はい、任せといてください」


 フェルはすっかりダスティに懐いており、自分もダスティの様に威厳のある大人になると目を輝かせているが、ダスティは強面な事もありそこにいるだけで存在感のある人物である事から、フェルでは到底真似は出来ないだろうとルースは内心で微笑ましく笑った。


 そんな会話をしつつ8人とネージュ、シュバルツは北門から北上する道の分岐点に差し掛かった。

 この分岐は東西南北へ分かれる道の交差地点で、ルース達は北にある森の中に入ってクエストを熟す予定、ダスティ達は西の道を進むという事で、ここで別れる事になっていた。


 そうして立ち止まりダスティ達に挨拶をしようとしたところで、東から一台の馬車が近付いてくるのが見えた。


 祭りが終わってから随分と日が経っている事もあり、今見える道に他に人影はなかったが、ルース達が馬車の通行の邪魔にならぬよう道の脇に寄るも、近付いてきた馬車は分岐の手前で突然進行を止めた。


 それは2頭立ての馬車で、貴人が乗るようなしっかりとした造りのキャビンが付いており、窓にはカーテンが引かれ中の様子はわからない。

 そんな突然停まった馬車を、ダスティ達が訝し気に注視している。


 そんな中、馬車の周りを並走していた騎乗の騎士たち5人の内、一人が窓に向かって何かを話しかけた。

 その騎士たちの鎧は銀色に輝き、兜から覗く表情には何の感情も読み取れない。良く訓練され、統率が取れている騎士たちである事は、ルースにも分かった。


 そしてルース達が動けずにそれらを見ていれば、騎士たち5人が馬から一斉に降りて一人が馬車の扉を開いた。


「何事だ?」

 ダスティが小声で疑問の言葉を落とすも、ここで答えられる者は誰もいない。


 そして見守るルース達の視線の中、馬車の中から一人の男性が姿を現わす。

 白く丈の長い装束を纏い、ゆっくりと勿体ぶったように降りてくる人物は、こちらに視線を向けたあと何やら騎士と話をしているようだ。


「教会…?」

 ダスティがその人物の装いで気が付いたのか自分の考えを口にすれば、ルース達5人が緊張をはらむ。


 ルース達が知る教会関係者は司祭様位なもので、その人達は黒い丈長の司祭服を纏っているが、この人物は白い服を着ており、ルース達では今ひとつピンとこない言葉だった。

 しかしダスティが言うのであればこの人物は教会関係者なのかも知れぬと、ルース達はソフィーを背に庇うように立ち位置を変えた。


 白い服の男性を先頭に、後ろに騎士が続きこちらへと向かってくる。

 ジリジリと、彼らから距離を取る様に後退するルース達をチラリと視界に入れたダスティは、ルース達を気遣うように前に進み出た。


「何か、お困りですか?」

 馬車が停まって降りてきたという事で、何かあったのかと声を掛けるダスティに、その男性はダスティの5m手前で足を止めると、慈悲深い笑みを浮かべた。


「ご親切に、お気遣い下さりありがとうございます。わたくしは中央の教会より参りました、枢機卿の“ランディ・ジェフコフ”と申します」

 そう言って軽く頭を下げ、自己紹介をすれば、その内容にダスティが驚いた様に目を見張る。

「枢機卿…」


 ダスティも一応貴族の端くれであり、教会とは多少の付き合いがある。

 といってもパッセルの教会位の事であり、そこに時々中央教会から人が来る事があって、その時は館に招いて部屋を貸す程度の付き合いでしかないのだが。


 しかしその時でも、“枢機卿”という地位の者は訪ねてきた事はない。

 枢機卿は教会の中でも教皇に次ぐ地位とされ、その人数は7~8人程度であると聞いており、目の前の人物は教会の上位10人の中に入るほどの者だとダスティは理解した。


 そしてダスティは、改まって口を開いた。

「私はパッセルが領主、ストラドリン家の次男で“ダスティ・ストラドリン”と申します。これは又、高位の御方がこの様な所まで…。本日はいかがなされましたか?もしや、パッセルにご用向きがございましたでしょうか?」


 ダスティはいつもとは語り口調を変え、丁寧に枢機卿へと対応する。

 ルース達は“枢機卿”という立場の者を良く知らないが、ダスティが“高位”と言ってくれたことで、ダスティがルース達へこの人物の立場を教えてくれているのだとルースは理解する。


 ダスティの問いかけに一つ頷いてから、枢機卿は口を開く。

「いいえ。今回はパッセルまで参りません。本来であれば誉れ高いパッセルの町を拝見する予定でしたが、それは今、変更になりましてね」

 パッセルに行ってみたかったと微笑みながら言う枢機卿であるが、しかしちっとも残念がっている様には聞こえなかった。

 そしてルースには、この枢機卿の目の奥が笑っていない様に見えている。


「では、今日はいかようなご用向きで?」

 話しの見えないダスティは、それではなぜここに居るのかと枢機卿に聞く。

「本日は、人をお迎えに上がりました」


 その言葉にダスティ達は要領を得ずに押し黙るも、ルース達は金縛りにあったように固まった。


「こちらに、“ソフィア・ラッセン”という女性がいらっしゃるはずですね?」


 ルース達は元より、ダスティ達もその名前を聞いて驚いた様にルース達の方を振り返った。

 流石にダスティ達はソフィーのフルネームまでは知らずとも、“ソフィア”という名前に覚えがあったからだろう。


「ソフィア…?」

 とゾイの呟きがその場に落ちた。


「ええ。そちらの方々は“月光の雫”という冒険者パーティだと思いますが、ソフィア様は、その中のメンバーだと伺っております」

「ソフィア…様」

 オールトも枢機卿の言葉を復唱した。


「…ルース?」

 ダスティがそこでルースへと声を掛けルースはダスティを見つめ返すも、ルースの表情(かお)は苦しそうに歪んでいた。


 とうとう、ルース達が恐れていたその時が来てしまったである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ぐぅ…遂に教会の魔の手に追い付かれてしまいましたね。王族の祭事というこのタイミングで荒事=武力を持って逃走する訳には行かないし、かといってソフィーを生け贄に差し出すのは論外ですし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ