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【26】カルルスの町

 無事に、カルルスの町へと入る事ができたルースとフェルだったが、町の中を歩きつつも未だニード達4人と行動を共にしていた。


 というのも、冒険者ギルドへ向かう予定だった2人と、当然彼らもクエストの報告があるからと同じ場所へ向かっていた為、4人に案内される形でルースとフェルは歩いていたのだった。


「今日の宿はどうするか、決めているのか?」

 そう聞いてきたのは大柄なクーリオで、大きい体の見た目に反して…と言えば失礼だが、彼はこうやって2人に対し、先々へ向けて細やかな気遣いをしてくれるのだ。


「いいえ、私たちはこの町の事を知りませんし、冒険者ギルドで安宿の事を尋ねるつもりでした。知り合いには、冒険者ギルドが管理する安い宿を、利用できる場合もあると聞いていましたので」


 ルースの話に4人は驚いた顔をする。

「良く知っているな。そうか、冒険者に知り合いがいたって事か。この町のギルドも、駆け出しの冒険者には最長で2か月位、ギルドの宿を貸してくれるんだ」

 と、クーリオが話してくれる。


「まぁ、満室って可能性もあるけど、2人位なら…何とかなるかも?」

 と今度は、カーターが不安な事を言ってくる。

 だが、確かに言われてみればその可能性もある訳で、その一言も十分ありがたいなと、ルースは思った。


「え?…」

 しかしフェルは、それを不安にとったらしく、泣きそうな顔になった。

「多分大丈夫ですよ、フェル。なくても安く泊まれる所を聞くなり、他に泊まる所はありますから」

 ルースは、肩を落として歩くフェルの背中を、軽く叩いてそう話す。


「ほら、カーターがそんな事言うから…」

 ニードが肘でカーターをつつく。

「だってさぁ。行ってみて、ないって言われるよりは、可能性を知っていた方がいいだろ?」


 カーターのいう事は尤もだ。

「はい。先に代替案も考えておければ、あとは何とかなりますからね」

「ほらー」

 ルースの言にカーターがどや顔をしていた。


 この4人はパーティとして、友人として、皆仲が良さそうだなとルースは感じる。

 マイルスから“パーティとは共に成長する友だ“、と言われた事を思い出したルースは、まぶしいものを見るように、笑いあうその4人を見つめていたのだった。



 こうして6人は、一つの建物の前に来る。

「ここがカルルスの冒険者ギルドだよ」


 2人が言われた方へ顔を向ければ、重たそうな使い古した扉に、頑丈そうな灰色の石壁で出来た建物が、2人の前に建っていた。

 ニードの言葉に、ルースとフェルは深く頷いて、4人に続いて扉の中へと入っていった。


 もう日も暮れた時間のギルドの中は、冒険者たちの熱気に包まれた様に、空気も重く感じた。というのがルースの第一印象だ。


 混み合うまで人は多くないが、それでもクエストが終わり今日の疲れを癒すかの如く、奥のテーブルで食事をする者や酒を飲む者もいる。そして受付近くにもちらほらと人がいて、立ち話をする者やクエストが貼り出された掲示板を見ている者もいた。


 2人があっけにとられていると、4人はルースとフェルを促して受付へと進んで行く。

 そしてニードが、受付の女性に気安く声を掛けた。


「ハーディーさん、クエスト終わりました」

 その声にパッとその女性の顔に笑みが浮かぶ。

「お疲れさまでした、銀の狩人の皆さん。今回は遠方で大変でしたね」

「あ~距離は大丈夫だったんですが、58匹だったんで数が多くて体力が削がれました。そういう意味では思ったよりも大変でしたよ」


 4人とハーディーと呼ばれた受付職員は、無事に戻った事を喜びつつも、完了報告の為に切り取ってきた部位を出し、事務処理をしている。


 それを2人が珍しそうに見ていれば、2人の存在に気付いたハーディーが、ニードへ問いかけた。


「こちらの方々は?」

「ああ…2人共、前に来てくれるか?」

 ニードはそう言って、ルースとフェルを受付の前へと連れ出す。


「彼らは、冒険者登録をしたいそうだよ。それで一緒に連れて来たんだ」

 そう言ってから、ルースとフェルを見て、後はどうぞと目で促した。


「はい。ニードさんのお話の通り、私たちは冒険者登録をしたいのですが、お願いできますでしょうか」


 ルースより3cm程高い目線のハーディーに、結果的には上目遣いとなってルースが話す。


「やだ…ちょっと…かわいいわね…」

 小さな声で言ったハーディーの言葉は、幸い誰にも聞こえていなかった。

 返事がないのでルースが小首をかしげれば、ハーディーの顔に笑みが広がる。


「勿論いいわよ!喜んで!」


 と、何だか良く分からない返事をもらったルースとフェルだったが、そのまま登録の手続きをしてもらっていると、横からクーリオが声を掛けた。


「彼らはギルドの宿に泊まりたいそうだが、空きはあるか?」

 と、緊張している2人に、またクーリオが助け舟を出す。

「ええ。今は空いているから入れるわね。ではこちらの所にも記入してくれるかしら」


 それまで大人に囲まれて緊張していたフェルだったが、冒険者ギルドの宿に泊まれるとわかり「やった」と声を出す。


 今2人の前には、登録の際に記入する魔導具らしき板が置かれており、2人はそれらを記入しつつ、冒険者ギルドについての説明も聞いていた。


 まずは、2人の登録された冒険者としてのランクは、一番下のF級だ。

 F級のクエストは、町の人達からの細々(こまごま)した手伝いのクエストもあれば、薬草採取いった物もある。ここカルルスの町のF級は、どちらかと言えば町の人達からのクエストが多いようで、その辺りを熟す事になるだろうという話だった。


 そして冒険者ギルドの宿は、1人につき1泊100ルピル。パン1つが10ルピルなので、これは格安と言える値段だとルースは思った。

 一般の宿の雑魚寝部屋でさえ、500ルピル位だとマイルスから聞いていたので、駆け出しの冒険者には、とても有難い値段設定だと言えるだろう。


「それで、2人はパーティを組むのでしょう?」

 とハーディーが、2人にギルドカードを手渡しつつ聞く。


 しかしまだ、そこまで話し合っていなかった事もあり、それは一旦保留とする。

 結局宿は2人で1部屋を使う事になったので、後で話し合う時間もありそうだなと、クーリオ達も安心してくれた様だった。


 ある程度の話を聞いてから「そう言えば」とスカニエルが声を出す。

「彼らは素材を売りたいらしいんだが、みてやってくれないか?」

「ええ。勿論です」


 ルースとフェルは各々の鞄から、切り出してもらった素材をカウンターに乗せた。

 するとハーディーの目が見開く。

「え?…これって…」


 言葉を詰まらせたハーディーに、ニードが説明する。

「素材としては1匹分ですが、ここから半日も行かない所にガルムが2匹出ました。彼らはそれを2人で倒したんです。ですが、商人が通ればまずい事になるでしょう…」


 ニードの言葉に、ハーディーは更に驚く。

「ではその旨、商業ギルドにも注意喚起を出しておきます」

「はい。それが良いと思います」


 2人の頭上でそんな会話が進んでいれば、それを見ていたルースとフェルに視線が戻った。

「それで、この買い取りという訳です」

「では、全てこちらで預からせていただき、後日金額はご案内して、こちらのカードに入金させていただきます。処理もきれいですね…」


 とハーディーが出したものを確認しながら言えば、「これは俺がやった」とスカニエルが言う。

「あーなるほど」

 その言葉に、ハーディーが笑って納得する。


 確かに、出した素材の処理はきれいな物で、肉に至っては、あのまま2人で歩いて持ってきていれば、黒ずんだものとなっていたであろうと思う。

 4人は、肉の鮮度を保つ意味でも、急いで2人をここに連れてきてくれたのだ。

 その上、この肉を包んでいた物はスカニエルが用意してくれた物で、“ハラン“という植物の葉だと教えてもらった。

 森の中に入ればどこにでも生えているらしく、抗菌作用がある為、見掛けた時に採取しておいて、肉の保存に使うのだという。

 ただ、やはり鮮度という意味では、早く持って帰ってこなければ腐ってしまうので、自分たちで食べる事も多いのだとか。


 まだ分からない事だらけだと改めて知る事となるが、まだ冒険者登録をしただけの者に、そんな知識がない事は当たり前と言っても良い。

 そんな、豆知識まで色々と教えてもらった銀の狩人とは、ここでお別れである。


「大変お世話になり、ありがとうございました」

「勉強になりました。又色々と教えてください!」


 ルースとフェルがそれぞれ言葉を掛ければ、4人は「またな、頑張れよ」と笑って手を振って去っていった。

 彼らの報告は既に終わっていたのに、今までずっと、2人に付き合ってくれていたのだ。


 2人は頭を下げて4人を見送れば、「では宿へご案内します」とハーディーが、2人を冒険者ギルドの宿へ案内してくれる。


 入ってきた扉を抜けて、ギルドの横にある小路に入っていく。

 ギルドの建物を過ぎる頃、灯りの灯った入口らしき扉があり、それをくぐればギルドの裏庭へと出た。

 そこは点々と明かりが灯っており、庭全体を見渡すことがでた。それは十分な広さで、素振りなどで数人が使っても余裕だなと、ルースはそんな事を考えていた。


 そこを進めば、ギルドの建物より一回り小さな、石造りの三階建ての建物があった。

「ここです」

 ハーディーが扉を開けて入っていくのを2人は無言でついていく。そして1階の奥、“107“と書いている部屋へと案内された。


「お二人はこの部屋を使ってください。107号室です」


 ルースとフェルが中に入れば、ベッドが2つあるだけの簡素な部屋だった。窓にもカーテンはなく、外の明かりが入ってきていた。

 後ろからハーディーが入室して、壁に付いているランプを触れば、部屋が明るくなった。

「これは魔導具の灯りで、ここを触れば点灯します。もし付かなければ中の魔石を取り替えますので、ギルドの受付に言って下さいね」


 そう言うと、ハーディーは2人へ鍵を渡し、笑顔でギルドへ戻っていったのだった。


拙作にお付き合いいただき、ありがとうございます。

ブックマーク・★★★★★・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。

引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。


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『Bluesky』はじめてみました。

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