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【258】光の花

 ルース達は今、ダスティに教えてもらった場所に立っている。


 ここは魔導具で上げる光の花が良く観えるという町の隔壁の上だ。

 いつもは町の守りを固める為の隔壁も、今日は祭りで訪れた者が少しでも楽しめるようにと、一部、隔壁の上を解放していたのだ。


 町の北門脇にある長い長い階段は、普段は封鎖され一般の人は通行できないが、今日はそれを人々へと開放し、隔壁の上から町を望む事ができるようになっていた。


 その長い階段は、数えてみれば150段近く。町を囲む隔壁は30m程の高さがあり、それを見上げて登る事を諦めている人もいる位、上まで行くには体力を使うと分かるものであった。


 ルース達は予めダスティからその情報を聞いていた為に覚悟はしてきていたが、やはりその階段の前に立って上を見上げた時には失笑が漏れた。

 しかしいざ登ってみれば、そこはルース達の知らない景色が広がっており、一気に疲れも取れるような気がした。


 解放されている隔壁の一部とは、階段を登り切った場所から約50m位だけで、他の部分は当たり前だが移動が出来ない様に綱で区切られている。そこには見張りの衛兵が槍を持って立っており、近付いてくる者に注意をしているようだ。

 その隔壁の上には今30人から40人程がいて、達成感と景色に満たされた表情を浮かべて町を見下ろしている。


 ルース達も胸壁の前に立つと、その狭間(はざま)から町を見下ろした。


 町は太陽の光を受け、レンガ色の屋根が輝いている。眼下から続く大通りには人々がひしめき、人の波を作っている。

 その中程には中央広場であろうかポッカリと屋根が途切れ、穴が開いているように見える。そしてその場所から広がっていく様に、整然とレンガ色の屋根が続いている。


 商店が立ち並ぶ中央エリアには比較的高い建物がなく、その西側に向かうにつれ建物が高くなっていると分かる。こうしてみると役場や図書館、ダスティの実家である館の位置も良くわかり、そこから少し外れて教会の尖った一部がポツンと突き出て見えた。

 町中を歩いている時には分からなかったが、ここから見れば建物の並びは整えられ、パッセルの町が美しい町だという事が良くわかった。


「凄い眺めだな」

 と声を落としたのはキースだ。

「ええ。キースがいたルカルトの町は海と町とが溶けあったような美しい景色でしたが、ここはそれとは違う美しさがありますね」

「登ったかいがあったわね」

 まだ疲労を滲ませているソフィーも、満足気に微笑む。


「確かにここから今の様子をみれば、町全体で祝っている事が分かるんだね」

「ここは人もあんまり多くないし、穴場だな」

 デュオもフェルも、目を輝かせてその景色を見つめていた。


「あぁそろそろ時間みたいだな」


 とキースが言った途端、中央広場で行われているらしい領主の挨拶があったのか、歓声が上がった。ワー!と地を震わす程の声が、パッセルの町を包み込んでいく。

 そして歓声が続くなか西から光の球が打ちあがり、ルース達がいるこの隔壁よりも高く上がったその光は、中央広場の上空でその花を咲かせた。

 そして少し遅れて大きな音をたてる。


 ―― ドーンッ! ――


 本当に光の花という言葉通り、それはまるでダリアの花の如く沢山の花びらを纏った七色の花を空に描き、そしてキラキラと瞬いてから広場へと降り注いでいく。

 それが消えた頃、隔壁の4か所から祝砲が上がった。


 ―― ボンッ! ――

 ―― ボンッ! ――

 ―― ボンッ! ――

 ―― ボンッ! ――


 光と音と人々の歓声で、町は一気に盛り上がりを見せる。


「すごい…」

「ああ…」

 デュオとキースは言葉少なに言う。

 フェルは瞠目し、ソフィーは目を潤ませ祈りを捧げるように指を組み、町の様子を見つめていた。


 ルースもここまで大掛かりなものとは正直考えておらず、これが国を挙げての式典なのかと心に刻む。

 ウィルス王国は穏やかな国で、近隣国と比べれば小さな国と言えるだろう。だがルースが今立っている国は、これほど大きなものなのかと、国そのものの大きさを実感する事になったルースであった。


 そこから暫く余韻に浸っていたルース達であったが、そろそろ隔壁を降り、午後の巡回の準備に取り掛からなくてはならない。

 ルースが視線を中央から真下へと移動させれば、幌の付いた2頭立ての小さな馬車が一台、町の中から北門に入って行くところだった。

 ルースはそれがなぜか気になって、馬車を目で追う。


「どうした?ルース」

 フェルがそんなルースへ声を掛ける。

「あの馬車が…」

 ルースが指さす馬車を、皆が見た。

「あの馬車が、どうかしたのか?」

「いいえ、何か少し気になって…。まだお祭りはこれからだと言うのに、なぜ今町を出て行くのかと思いまして」

 ルースの言葉に、門から出て行く馬車を皆が凝視する。


「家が遠いから、早く帰るのかな…」

 皆が首を捻っていれば、町を出た馬車はいきなりスピードを上げた。

「動きが変だな…」

 キースもそれを見つめて、眉間にシワを寄せた。


「シュバルツ」

 ルースが隔壁の上でシュバルツを呼べば、近くにいたらしいシュバルツがすぐにフェルの肩に留まった。

「あの馬車を探ってください。私達もすぐに追いかけます」

『承知した』

 シュバルツはルースの言葉で、即座に滑空するように町の外へ降りて行き、そのまま馬車が走っている方へと飛んでいく。


「キースも変だと思う?」

 デュオが問えば、キースは口元を引き締めて頷いた。

「ルースとキースが違和感を持つなら、なにかありそうね」

「んじゃ、行くか」

「うん」

 こうしてルース達5人は、急ぎ隔壁を降りて行った。



 そして北門の門番へと近付いて行き、ルースが声を掛ける。

 予め腕には、ダスティから渡された白い布を巻いておいた。


「お疲れ様です」

「ん?ああ町の警備を手伝ってる者か。お疲れさん」

「少しお聞きしたいのですが。先程出て行った幌馬車ですが、何を積んでいたのですか?」

「積み荷か?確認まではしていないが、足がはやい生物(なまもの)だと言っていたな。それで急いで戻らないといけないんだそうだ」

 商人も大変だなと、門番は笑う。


「護衛もいたのですか?」

「ああ。3人も護衛を連れていたな。貴重品でもないのに、十分な備えをする商人だと感心したぞ」

 ハハッと笑っている門番から視線を外し、ルースはキースと視線を交わす。


 ルース達は上から見ていただけで定かではないが、余り大きな馬車ではなかったはず。

 しかしその馬車は2頭立てであり、護衛も3人な割りに積み荷は生物(なまもの)。もう違和感しかない。


 だが門番たちはそうは思わなかったらしく、町へ入る時には危険がないかを入念に確認をするものの、出て行く者についてはそこまで大がかりな確認をしなくても良いらしく、そのまま通してしまったという事らしい。


 ルースとキースは頷きあい、フェル達へと視線を巡らせた。

「行きましょう」

 ルースの言葉の意味を理解したフェル達は、一つ頷いて走り出す。ルースも門番にお礼を言って、フェル達の後を追って走り出した。


 しかし相手は馬車だ。

 走って馬車に追いつくかどうかはわからないが、先行してシュバルツを付けてある為、最悪、夜にでも馬車が止まった時には追い付くだろう。

 そう思いつつも、もし何でもないただの商人だったらという事も考えられるが、その時は素直に謝るだけだ。

 今は追いつく事を、第一に考えねばならない。


 ルース達が町を飛び出して少し経った頃、ネージュは体を大きくしてソフィーを乗せて走り出した。

 流石にソフィーの走る速度では、皆のスピードに追い付けないのだ。

 そのネージュに乗ったソフィーは、すかさずルース達の能力を向上させる魔法を掛けてくれた。これで暫くは走り続けられるだろう。


 そしてネージュはシュバルツと遠距離で念話を交わしてくれており、今どの辺りであるとルース達へ伝えてくれていた。


『荷は人の様じゃ』

 シュバルツが幌の中を確認したらしい。

 その言葉に、皆がネージュへ振り向き驚きの表情を浮かべた。

 ルースも何か可笑しいとは思ってはいたが、まさか中に人を乗せているとは思ってもみなかったのだ。

「確かに生物(・・)だな」

 苦々し気に言うフェルに、皆も同意する。


 やはり追いかけてきて正解のようだ。


 人の多い町や祭りで賑わう時など、大勢の人に紛れて悪事を働く者達がいる。ルース達が捕まえていたスリはまだ可愛い方で、人を襲ったり(さら)ったりする者もいると聞いていたが、まさかそれではなかろうかと、ネージュから伝えられた“人”という積み荷に嫌悪感を抱き、馬車を追いかけ走り続けるルース達であった。


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