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【25】解体

「君達、大丈夫だったのか?」


 ルースとフェルが、道の脇にしゃがみこんで話している所へ、背後から声がかかった。

 2人が振り返ると、そこには見覚えのある4人が立っていた。


「おや?君達は先日の…」

 そう言ったのは、ゴブリンと戦って道の真ん中で寝ころんでいた青年だった。

 ルースが見覚えのあるその者達へ会釈すれば、フェルが「あ!冒険者の人達!」と声を出す。


「ははは…そう言えば自己紹介もまだだったな。俺達はカルルスの冒険者で、“銀の狩人“というC級パーティだ。俺はニード。彼はクーリオで、その後ろがカーターとスカニエル」

 そう言った青髪の青年に紹介された者は、次々と頭を下げていく。

 4人は二十歳位で、ルース達からすれば格好良い大人に見える。


「私はルースです」

「俺はフェルって言います」

 4人の紹介に続き、2人も名乗る。


 ニードが頷いてルースの後方を見れば、途端に眉間にシワをよせた。

「俺達が、もう少し早く追い付けていれば良かったんだが…大丈夫か?」


 ルースの破れた袖を見て、ニードが尋ねる。

「はい。大した怪我にはなりませんでしたので、平気です」

「そうか…それにしても、こんな所にガルムが出るとはな…」

 とニードは考える仕草を見せた。


「普段は見ない魔物ですか?」

 ルースが4人の様子を見て、首をかしげる。

「ああ。ガルムは森の中に出る事はあっても、こんな道に出てくる事は余りないはずだ…たとえ人通りが少ないとは言え、ここは商人も通る道だ。そこへガルムが出れば、大騒ぎになるだろうな」

 そう答えたのは、クーリオという黒髪の大柄な人物だった。

「そうですか…」

 ルースがそう言えば、彼らは2人の脇を通り過ぎ、ガルムが倒れている場所へと移動した。


「……」

 ルースとフェルがそれを目で追えば、彼らはガルムの前に立って話し始める。

「これは胸を一突き、こっちは…火魔法か?」

 ルースは耳に入るその声に、どう説明するかを思案する。


 水槍(アクアランス)で倒した方は既にその槍は消えており、無数の傷と胸の傷跡が残るだけだが、炎柱(フレイム)で仕留めた方は、どう見ても燃やしたようにしか見えないだろう。

 これは仕方がないと、ルースは小声でフェルに声を掛けた。


「フェル、私は何か聞かれたら火魔法だけ使えると言います。残りのもう1匹は、2人で倒したことにしましょう」

 その言葉にフェルがギョッとする。

「大丈夫です。今すぐ、彼らに剣の腕を見せる事もないでしょうし、今はそういう事にしてもらえませんか?」

 ルースの願いにフェルは、やや間があって頷いた。


 そこへニードの声がする。

「君達が倒したのか…凄いじゃないか。2人も冒険者だったのか?」

 その問いかけに、フェルは気まずげな表情を、ルースは苦笑を返し、立ち上がった2人はそこへと近付いていった。


「いいえ。私達は冒険者ではありませんが、一応これからカルルスに行って、冒険者ギルドに登録しようとは思っていました」

「そうなのか。この腕で冒険者でもないとは…ではこれから冒険者になるんだな?」

「はい。そのつもりです」


 ルースの返事に4人が顔を見合わせて頷くと、今度はスカニエルという茶色の髪の人物が口を開いた。

「だったら…こっちの1匹は素材を持っていくと良い。あっちは燃えてしまって駄目だが、これはまだ素材価値がある所が残っている。取り方を教えるから、それをギルドの受付に出せば買い取ってくれるはずだ」


 その説明に、ルースとフェルが顔を見合わせた。

 彼らに会わなければ処分するつもりだった物が、お金になると言う。しかもやり方も教えてもらえるのなら、良い勉強になる。


「はい!ありがとうございます!」

 元気よくフェルが答えれば、4人は笑顔を見せた。

「ははは。元気が残っていて何よりだ。ではこっちを解体するから、やり方を見ているんだぞ?」


 スカニエルが腰から小さなナイフを抜き、ガルムにそれを突き立てる。そして手際良く皮を剥ぎ内臓を抜くと、肉を切り出していった。


「その肉は、どうするのですか?」

 皮であれば防具で使ったり、小物を作る際に使用できる事は理解できるが、肉は家畜の餌にでもするのだろうかと、ルースはそう問いかけた。


 それに答えたのはもう一人のカーターという人物で、長い茶髪を一つにまとめ、ローブを羽織っている。

「ん?肉は勿論食べるんだよ?」

「え?…誰が…ですか?」

「人間だねぇ…」


「「ええ?!」」

 ルースとフェルの声が重なり、2人は驚きの声を上げる。


「え?2人共、この肉が旨いって知らないのかい?流石に食用としての、討伐のクエストは出ないけど、討伐すれば肉を持ち帰って食べたり、買い取ってもらえるんだよ?」


 それを聞いた、ルースとフェルの顔がしおれる。

「それ…旨いって、食べても大丈夫なんですか?」

 フェルが恐る恐る聞く。

 さっきまで襲ってきていた物だ。それに魔物を食べた覚えのない2人は、安全性についても聞いておかなければならない。


「え?家で魔物肉は出てこなかった?魔物って何処でも食べられているんだよ?」

 その言葉に、ルースもフェルもキョトンとしている。

 2人の表情を見て、まだ説明が必要だとカーターは言葉を続ける。


「…あぁでも、家で出る物は解体された物だし、それが魔物だと言われて出されない限りは分からないか…。家の傍に出た魔物は、討伐されたりしてなかった?村だとその肉って皆に配られるとかして、食べていたと思うんだけど…」


 カーターの言葉に、ルースも思い当たるものはあった。

 森に出た魔物はマイルスが討伐してくれていたし、その後確かに、スープに大きな肉が入っていた覚えもある。


 2人はこうして魔物の解体と、必要な部位を教えてもらい、残りはカーターが燃やしてくれた。

「俺は火属性なんだよ。ルースも、でしょ?」

 そう言ってカーターがにっこりと笑う。

「…はい」


「これと戦ったんだから、魔力の残りも少ないと思うし、俺が燃やしておくよ」

 といって、このガルムの処理をカーターが受け持ってくれたのだった。




「じゃあ処理も済んだし、行こうか」

 ニードが皆にそう声を掛けたので、ルースとフェルは、そこでお礼を言って4人を見送ろうとするが。


「いや、ルース君もフェル君も一緒に行こう。カルルスまではもう少し、俺達と一緒に行けば、夜になる頃には到着するはずだ」

 と、そう声を掛けてくれた。

 ニードの誘いに2人は、一も二もなく頷いて同行を頼んだのだった。


 同行してみると、やはり2人には少々歩みが速いと感じるも、これでも4人は加減してくれているのだろうと、2人は懸命に足を動かし、そして暗くなった頃にカルルスの町へと到着した。


 4人を先頭にしてカルルスの門へ向かう。

 門の周りには石を積み上げた重厚な防壁があり、それがグルリと町を囲んでいるのだと、ニードが説明してくれた。

 その門の両脇には、暗くなった為にかがり火が焚かれ、門を通る者の顔が見える様に明るさを保っている。

 ニード達4人が、その門の横に立つ人物へと近付いていった。


「サムさん、ただいま戻りました」

 ニードがそう声を掛ければ、その門番は笑顔を見せて4人を迎えた。

「お帰り。無事だった様だな、といっても今回はゴブリンだったか?」

「ええ。ただ数が多かったので、疲れましたけどね」

 クーリオが笑って返せば、「それで?」と4人の後ろに立つルースとフェルを見る。


 これにはニードが答える。

「ああ、彼らとはゴブリン討伐の道中で会ったんですが、カルルスで冒険者ギルドに登録すると聞いたんで、一緒にきました。彼らは怪しい者ではないですし、通っても大丈夫ですよね?」


 ニードの話しを聞いて、彼らと一緒に来なければここを通れなかった可能性もあったのかと、ルースは思い至る。そしてそれを見越してこの4人は、同行を申し出てくれたのだと感謝する。


「おう、勿論いいぞ。何かあったら、お前らに責任を取ってもらうしな?」

 聞こえた言葉に、ルースとフェルが一気に緊張すれば、カーターが笑って話を繋げる。

「もーやだなぁ。そんな言い方したら、冗談にとられないですよ?」

「そうか?わるいわるい。別に責任なんてとらせないから大丈夫だが、2人共、変な事はしてくれるなよ?」


 少々威圧のこもった視線を向けられたルースとフェルが、真面目な顔で「はい!」と返事をすれば、そこで笑いが起こる。

「もーまた子供を脅して…。それじゃー女性にもてないですよ?」

 とカーターがチャチャをいれる。


「いや…これが俺の仕事だし…」

 今度は眉を下げて、門番のサムが答える。確かに門番は、不審者を止めるために立っているのだ。


 その事に気付いたルースは、「責任ある行動を心がけます」と頭を下げるのだが、それに又笑いが起きて、ルースはキョトンと首をかしげたのだった。


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