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【248】いつにも増して

 デュオーニ達3人の昇級は過剰な報酬ではないかとは思うものの、魔の者の討伐報酬とその情報料だと言われてしまえば引き下がり、有難く受け取る事にした。


 そうして、ついでに今日のクエストであるポイズンスネイクの処理もその場でしてもらう。

 因みにこの蛇は食用かと尋ねれば、毒性が強い為に食べない方が良いだろうとの事で、フェルはガックリ肩を落としていた。

 そんな事を話してから慌ただしくなってきた冒険者ギルドの裏口から出て、ルース達はそのまま宿へと戻ってきたのだった。


 歓談室のソファーに腰を下ろしたルース達5人は、誰ともなしにため息が漏れる。

「また出たな…」

 力なく言ったフェルは、ソフィーが出してくれたお茶に礼を言って口を付けた。

「あれが魔の者か。考えていた以上に厄介だった」

 キースも初めて目にした魔の者に、肩にかかるローブを外しながら感想を漏らした。


「それで結局、キースの魔法が効いたのは、何で?」

 デュオがそこを説明して欲しいと、問いかける。

「あぁそれな、俺も知りたい。魔法が効かないと思ってたから、最後のはビックリした」


 フェルもカップを置いてキースを見れば、キースは肩をすくめて口を開いた。


「ルースが、オレのスキル“乗算(ジナシー)”を意識して使ってみろと助言をくれたんだ。このロッドには元々、闇の魔力を感知できるようにソフィーが聖魔力を付与してくれていただろう?乗算(ジナシー)を意識しつつ魔力を溜めていけば、魔石に聖魔力が交じり合っていると気付いて、あの魔法を発動させてみたんだ。そうしたら思いのほか、上手くいったという事だ」


「へえ…キースのスキルはそんな事も出来たんだね、凄いや」

「ただし私が言った事は、あくまで賭けの様なものでしたので、実際に出来たという事はキースの力という事になります」

 デュオがキースの説明に感心した様に言えば、ルースはキースの力が凄いのだと付け加える。


「何にしても元になる聖の魔力が無ければ、太刀打ちできなかったって事だな」

 フェルの言葉に頷いた皆はその視線をソフィーへと向けるも、そのソフィーは困ったように笑う。

「私には戦う力がないんだから、少しでも皆の力になれたのなら嬉しいわ」

「ええ。ここにいる皆、一人でも欠けていれば、魔の者は倒せなかったという事ですね」

 ルースが微笑みを浮かべて皆を見回せば、笑みを広げた皆も頷いた。


「あっそうだわ。今日の食事は昇級のお祝いで少し豪華にしましょう。私も便乗してしまった形だけど、それでも嬉しいからね」

 パチンと手を叩いたソフィーは、いそいそと台所に向かっていく。

 そしてネージュも寝そべっていた体を起こし、ソフィーの後ろをついて行った。ネージュはソフィーから片時も離れない。


 それを見送ったフェルが、呆れたように息を吐いた。

「明日も一日料理する予定なのに、今日も気合い入ってるな。ソフィーも疲れてるだろうに…」

 そう言ったフェルが席を立って、珍しくソフィーの後を追って台所へ行ってしまった。


 心配しているのはわかるが手伝うつもりなのか?と、残ったルースとキースとデュオが顔を見合わせて笑う。

 そうして少しの間、お茶を手に取って飲んでいた3人の耳に、コンッコンッとノックの音が聞こえた。


 この階は滅多に人が来ることはないと思っていたのだが、とルースは首を捻りながら扉をカチャリと開けば、扉の外に立っていたのは、先程まで一緒だった疾風の剣(はやてのけん)の3人で「今いいか?」とダスティが声を掛けた。


 ルースが後ろを振り返ればキースとデュオが頷きを返したため、「どうぞ」と3人を部屋に通し、空いている席に座ってもらう。

「おや?フェルとソフィーは?」

「今、台所に居ます。ネージュも一緒です」

「あのネージュという犬は、ずっとソフィーと一緒に行動しているんだな」

 ルースの説明にダスティが頷き、ゾイは面白そうにネージュの事を話す。ちょっと羨ましそうだ。


「悪かったな、突然」

「いいえ。あの…フェル達も呼びますか?」

「ん?ああ、そうだな。俺達はもう出発するから、その挨拶だったんだ」

「ではフェルとソフィーも呼びましょう」

 と、ルースがダスティ話している間に、デュオが席を立って2人を呼びに行ってくれた。

 ルースは3人の前にお茶を出す。


 そしてすぐに出てきたフェルとソフィーに向け、ダスティ達3人が手を上げる。


「悪いな、来てもらって。俺達はすぐに出発することにしたから、一言挨拶と思ってな」

「何だ、こんなにすぐ行っちゃうんですね」

 ダスティの話に、フェルが残念そうに言う。

 この町でダスティと再会はしたものの、行動のタイミングが違っていたのか初日以来今日まで、殆ど会えていなかったのだ。


「何だ?フェルは俺がいなくなると寂しいか?」

 ダスティが面白がるように言えば、隣に座っているオールトが「怖いのがいなくなって嬉しいんだよな?」と揶揄う。

「ほら、ダスティ。わざわざ呼び出したんだから、遊んでないでちゃんと話せって」

 ゾイが横から注意すれば、「そうだったな」と表情を改めるダスティ。


「俺達はすぐにパッセルに向かうことにした。聞いていたから分かっていると思うが、さっきの件の報告というやつだ」

 ルース達は取り敢えず頷いた。

 なぜその報告でパッセルに行くのか、その辺りは事情もありそうなので聞く事は出来ないからだ。

「ついでに船の護衛をして、乗せて行ってもらおうという魂胆なんだけどね」

 ゾイが“ついで”というのは、その殆どの護衛クエストがC級扱いだからだろう。


「船で、どれ位かかるのですか?」

 ルースはまだパッセルという町に行った事がない為、どれ位離れているのかと質問をした。

「ここから船で、一週間といったところか」

「馬車で行けば、一か月位かかるね」

 ダスティの補足でゾイが言う。

 船は川の流れに沿って進むだけであるのに対し、馬車で行くならば、森などの障害物を迂回した道に沿って進まねばならないからだろう。


「ルース達はまだ、パッセルには行った事がないのか?」

「はい。ここより南へは行った事がありません」


 ルースは地図に載っていたパッセルの名前の位置を、ここより南で、王都の北西と記憶している。

「そうか。まあ一度寄ってみてくれ。パッセルも良いところだぞ?」

 ダスティはそう言って表情を緩めた。

「じゃあ、近いうちに行ってみます」

 フェルはそこで、ダスティに笑顔で答えた。


「ああ。パッセルで困った事があれば、オレの名を出しても良いからな」

 とルース達に笑みを向けるダスティに、ルース達は何の反応も出来ずキョトンとしている。


 オールトはルース達の反応を見て、ダスティを肘でつついた。

「…話が通じてないんじゃないのか?」

「どうせ、何も話してなかったんだろう…」

 オールトとゾイが、残念な者を見る目でダスティを見る。


「ん?そうだったか?てっきりもう話してあるもんだと思っていたが、知らなければ意味が分からないな」

 ダスティが「わるい」と言って苦笑した。

「では改めて。俺はパッセル領主の家の者で、“ダスティ・ストラドリン”という。殆どパッセルには戻らないが、何かあれば報告に行っているという事だな」


 ルースは“それで”と、ギルドマスターとの会話が繋がった事に頷いた。


「ダスティさんは、貴族の方だったんですね」

 ソフィーが遠慮がちに問いかける。

「たまたま家がそれだっただけで、俺はこの通りフラフラと冒険者をやっているから、そう身構えないでくれると助かるんだが」

 と、ダスティが肩をすくめる。


「そうそう。別にダスティが偉い訳でもないし、俺達がこんな感じでもお咎めなしだよ」

 そう言いながらダスティの肩を叩くオールトに、ダスティはされるがまま苦笑している。

「まあそういう事だから、パッセルに行った時に俺達が居たら、また声を掛けてくれな」

 今度はゾイが話を纏めるように引き継いでくれた。


「はい、わかりました。ありがとうございます」

 個人の事を話してくれた事と、ルース達を気に掛けてくれている事両方に、ルースは丁寧に頭を下げた。


「では俺達はそういう事でここを離れるが、ルース達はいつまでこの町にいるんだ?」

「明後日には出発する予定です」

 ダスティの問いにルースが答えれば、3人は神妙に頷いていた。


「まあ、アレがここにすぐ現れるという事もないだろうし、既にこの町のギルドは、アレに対応できるはずだから、俺達が居なくても何とかなるだろう」

 ダスティはまた一つ頷いて、腰を上げた。


「移動中、十分気を付けるんだぞ?」

「はい、ありがとうございます。ダスティさん達も、どうぞお気を付けて」

 皆もパラパラと腰を上げ、ダスティ達3人を扉の前まで見送る。

「お茶ごちそうさま、またな」

「じゃあな」

 ゾイとオールトも手を振り、3人は部屋を出て行った。


「さて、早く夕食の支度をしなくちゃ」

 彼らを見送った後ソフィーが気分を変えるように言って、再び台所へと戻っていった。

「んじゃ、俺も行ってくる」

 なんだかんだでフェルも台所に消えて行き、ルースとデュオとキースがソファーに戻った。


「何か今日はいつにも増して慌ただしかったね」

 デュオがふぅと息を落とせば、ルースとキースも怠い体を背もたれに預け、息を吐く。ルースとキースはギリギリまで動いていた後、実はまだ回復できていないのだ。


「明日を休息日にしておいて、良かったですね」

 ルースが2人に視線を合わせて言えば、3人は苦笑しつつ温くなったお茶に手を伸ばすのであった。


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