【243】悟る真意
ギルドの宿の事で打ち合いになるまで発展した話は、その後ギルドマスターからも“特別室”の説明を受けたうえで、サミー達は「申し訳なかった」とルース達に謝罪をした為、一件落着とあいなった。
「特別室というお部屋自体を皆さんご存じありませんから、普通ここまで騒ぎになる事もないのですが、この町は今冒険者が多い為にギルドの宿をご希望する方も多く、たまたま先に断られた方が近くに居た事も重なって今回の騒ぎになってしまいました。こちらの不手際でご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」
今ルース達はギルドの応接室に通されており、そこにはルース達の他、今謝罪をしてくれたギルド職員のブレンダとギルドマスターのウィクリー、そしてダスティ達“疾風の剣”のメンバーが揃っていた。
「いいえ。私達もその特別室の事は今回初めての利用なので、勝手がわからない事もありましたし…」
ルースがこちらも手際が悪かったのだと言えば、ギルドマスターが眉間にシワを寄せて首を振った。
「今回は完全にこちらのミスだ。満室だと断られた者が近くに居ると思わずに、目の前で対応してしまったのが拙かった。今後はこちらが気を付けるように改善する」
ギルドマスターも言い添えて頭を下げた。
「もうあいつらにも分かってもらえたんで大丈夫です。今後に活かしてもらえれば、問題ありません」
怪我をした訳でもないんだしと、フェルも付言した。
「まぁ冒険者同士の事だから、実力で分からせるしかなかったのだが…。それにしてもルースは安定していたな、揺らぎが一切なかった。腕を上げたんだな」
そこでダスティが言葉を挟めば、ギルマスが「おや?」という顔をした。
「ダスティは、彼らと知り合いなのか?」
「ああ。以前まだルースとフェルがこんなに小さかった時に、2日程一緒だった事がある。その時はまだ、D級冒険者だと言っていたんだ」
ダスティは自分の腰ほどの高さに手を出して言い、「そうか」と頷くギルドマスターに
「いくらなんでも、そんなに小さくなかったでしょう~」
とフェルがすかさず突っ込んでいる横で、ルースも苦笑した。
そこでにわかに笑いが起きて、やっとルース達は宿に案内してもらえる事になった。
ダスティ達から「またな」と言われて別れると、ブレンダに案内されて応接室を出る。
ブレンダはギルドの裏扉を開けて宿泊棟に続く中庭に出た。そしていつも見る様な飾り気のない建物に入って行くと、入口近くにある扉を開けた。
そこは一見すると、掃除用具が入っていそうな程の小さな部屋で、ブレンダが入った途端パッと室内が明るくなった。
「この部屋は魔導具によって管理されており、入れば明かりが灯ります。皆さんが入って扉を閉めてから、ここにあるスイッチを押してください」
とブレンダは皆へ説明する。
そして全員が入った所でブレンダがスイッチを押せば、気のせいか部屋が動いている気がして、ルース達は落ち着きなくソワソワとしてしまう。程なくしてそれが止まったと感じれば、ブレンダは扉を開けて外に出ると、皆にも出るように声を掛けた。
「今の部屋は“昇降機”といって、1階から別の階に運んでくれるものです。他の部屋と特別室は別の階にありまして、一般室にある階段からではここまで来られない様になっております。先程の昇降機の扉も、受付で登録した者にしか開けられない仕様となっています。他の冒険者がこちらに来ることはございませんので、安心してご利用下さい」
廊下を歩きながら、説明してくれたブレンダにお礼を言いつつ、一つの大きな扉の前で立ち止まる。
「ここの階は、特別室のみの2室となっております。今はもう一室に、“疾風の剣”がお泊りです」
ルース達は返事をするものの、黙ってブレンダの説明を聞く。
扉を開けてくれたブレンダに続いてルース達が部屋に入れば、そこには先程の応接室の様なテーブルとソファーが置いてあり、ベッドを4つ並べてもまだ余裕がある広さの室内にルース達は目を見張った。
「こちらは歓談室で、右手の扉の奥に4部屋。左の奥に2部屋と台所にシャワー室がございます。お食事は無料でギルドの食堂をご利用いただけますが、勿論こちらの台所をお使いいただいても構いません」
ニッコリと笑みを浮かべ、主にソフィーに伝えているブレンダ。
「わかりました。ありがとうございます」
それには、微笑んだソフィーが返事をした。
「それから、ギルドの食堂をご利用の場合は、カウンターへギルドカードをご提示ください。他の冒険者もギルドカードを提示して、引き落としという形をとる方もいらっしゃいますので、カードをご提示くださればお支払いいただかなくとも、皆は不審には思わないはずです」
先程の事があったからか、ブレンダは申し訳なさそうに説明してくれた。
「お部屋の清掃についてですが、皆さまがクエストなどで外出されている間に職員が入る事もございますので、念のため貴重品などは、あちらにある貴重品入れにいれて保管してください」
ブレンダは部屋の使用方法などを一通り説明すると、「それではごゆっくりお寛ぎ下さい」と頭を下げて退出していった。
パタンと扉が閉まった途端、皆は目の前のソファーに腰を下ろしていく。
「ルース、ご苦労様」
「ほんと、お疲れだったね」
キースとデュオがルースを労う中、ソフィーがテーブルに置いてあったポットからお茶を用意してくれた。
「はい、どうぞ」
一番にルースにお茶を出したソフィーも、「お疲れさま」といって笑みを見せた。
「オレがやっても良かったのにな。でも俺って強そうに見えるから…」
とフェルが話すのを、皆は黙ってお茶を飲み聞いていない振りをする。
「何でそこで、皆は同意しないかなぁ」
無反応な皆に、フェルが一人寂しそうにお茶をすすった。
そんな皆はお茶を飲みつつ、視線だけをフェルに向けて笑っていたのは言うまでもない。
「それにしても広い部屋ですね、特別室とは」
ルースは話題を変えるように空間を見渡し、今まで泊まったギルドの宿とはまるで違う設えに、ほうっと息を漏らした。
「本当ね。ここだけでも一室分はありそうね」
「それに、特別室は2部屋だけだと言っていたから、他の特別室もこんな感じなんだろうね」
「そしてこの中には、更に一人ずつの部屋もあるって事だよなぁ。快適じゃないかよ」
各々が感想を漏らす中、キースはまだ、この部屋に泊まれる資格がないはずなのにと、眉を下げた。
「いいんだって、キース。俺達はパーティなんだし、これからすぐキースもA級になるんだろう?」
フェルの励ましに、キースも「それはそうするつもりだが」と言葉を濁した。
「ああそう言えば、魔物の素材を出し忘れていましたね。もうすぐ皆も昇級出来ると言われていたので、もしかすると今回の魔物でそうなるかも知れませんよ?」
ロック鳥は確か、B級の討伐対象だったはずだ。
今回初めて対峙したルース達だが、以前冒険者ギルドの掲示板で見た情報で、その様に記憶していたルースだった。
「それじゃ本格的に、オレだけ取り残されるな…」
「え?キースはついこの間冒険者になったばかりなのに、もうD級なんだよ?そっちの方がよっぽど凄いと思うんだけど…」
デュオがキースへ、大きく目を開いて言う。
ルース達がデュオと出会った時は、既にデュオはD級であり、それからルース達とパーティを組んだことで、上位の魔物を倒していってC級へ上がっていたのだ。
「そうだよ。キースは一番昇級が早いんだから、すぐに追いつくって。俺とルースもD級まで上がるのに、一年かかったんだからな」
フェルにまで言われたキースは、仕方がないと諦めたように頷いた。
キースも、自分が遅れて冒険者になった事は自覚をしているが、凄い仲間と共に居て、自分だけ出遅れている事が悔やまれてならないのだ。もっと頑張らないと、と一人気持ちを引き締めたキースであった。
その後、部屋の中を探索したルース達は、今までとは雲泥の差である部屋に歓喜の声をあげた。
「うわーっ、一人一部屋で水回りも完璧とか!」
「もう部屋の外まで、用を足しに行かなくてもいいんだ…」
「皆と居たい時はこの部屋で、着替える時は個室があるから便利ね」
「無駄な物が一切ない、上品な部屋ですね」
デュオとフェル、ソフィーに続き、ルースも備え付けの品々を見て質の良い物が置いてあると感心している。
「こうなると、A級さまさまだな」
キースも今まで見てきた中では最上である数々の設えに、ガラッと変わった待遇の意味を噛みしめていた。
「ええ。私達もこの待遇に沿うよう、気を引き締めねばなりませんね」
ルースのその一言でフェルは勿論、同じパーティメンバーであるデュオ・ソフィー・キースも同意であると、深く頷きを返すのであった。
いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。
次回の更新は10月11日(金)を予定しております。
引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。<(_ _)>
そういえば昨日より感想欄の表記が変わり、シンプルになったようですね。
これからもお気軽に、一言頂けると嬉しいです。
それでは寒暖差も激しくなった昨今、皆さまにはお風邪など召されませんように。