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【241】何でそうなった

 ソバカスに少し吊り上がった目をした青年は、宿に空きが出たのなら、先に申し込んだものが優先だと言って、ルース達に詰め寄ってきた。


 ルースが困り果ててギルド職員へ視線を向ければ、先程までの笑みを引っ込めて真顔になっている職員が、横から来た冒険者にスッと視線を向けた。


「申し訳ございませんが、お三人が泊まれるお部屋に空きはございませんと、先程町の宿をご紹介したはずですが?」

 毅然とした態度というのはこういう感じだろう。声のトーンを落とした職員が、キッパリと言い切る。


「え?今こいつらに部屋はあるって言ったじゃないですか。だったら冒険者ギルドは、人を見て宿を貸してるんですか?」

 段々大きくなる声で、ギルドの中にいる者の視線が集まってくる。

「そのような事はございません。この方々は…「じゃあ、ちょっと顔が良いからって贔屓するんですか!」」


 何事だ?と周りの冒険者達もザワザワとし始め、ルース達は困った事になったと顔を見合わせた。

 そこでフェルが口を開こうとしたのをルースが腕に手を添えて止めれば、フェルからは何故止めるのだと不満気な視線が向けられた。


 ルース達が自ら「自分はA級冒険者だから」といえば済む話だろうが、それも自慢していると捉えられれば角が立つと言うものだ。ここでルース達が言葉を挟めば、更に騒ぎが大きくなる事は目に見えている。


「だから、そうではありません」

 あくまでギルド職員は冷静に言葉を発しているが、少しイラついている事が透けて見えている。

「俺達が宿を申し込んだときは断って、こいつらが宿を取れるのはおかしいだろう!」

 ソバカスの青年の隣にいたもう一人の茶髪の青年は、そう言って一歩前に出てソバカスの青年と並んだ。


「こちらの方々は特別室に泊まる方々で、その為にお部屋がご用意できるのです。一般のお部屋は先程申し上げた通りに満室で、もうお部屋はございません」


 ギルド職員は根気強く説明をしているが、それでも納得が出来なかったらしい。

「だったら俺らをその部屋に泊まらせてくれよ。金を払えばいいんだろう!」

 ソバカスの青年は肩から下げているバッグから膨らんだ袋を取り出し、ガチャリと金属音をさせてカウンターの上に置いた。


 確かに特別室の利用条件を知らなければ、先に宿を取ろうとしたものは憤るのだろうと、ルースは申し訳ないと眉尻を下げてその様子を見守っていた。


「おい、何を騒いでいるんだ?」

 その時、奥のテーブルから大きな体が近付いてきて声を掛けた。

 ダスティだ。

 ルース達が宿を取ってから少し話すつもりだったのだが、それが一向に姿を見せない事と、ギルド内が騒がしくなった為、多分様子を見に来てくれたのだろう。


「ダスティさん」

 ギルド職員は手に余っていたのか、安堵の表情を見せた。迷惑をかけて申し訳ないと、ルースは心の中で陳謝する。

「それで?」

 3人の冒険者を挟み込むようにして受付前に来たダスティは、腕を組んでルースの顔を見た。


「それが、まだ部屋を取れていなくて…」

 ルースは、もう少し待ってくださいとダスティに言う。

「おや?まだ一室空いているだろう?」

 “特別室が”という意味を含みダスティがギルド職員へ聞けば、「…はい…」と3人の冒険者をチラリと見てから肯定するギルド職員。


「だったら、ルース達の手続きをしてやってくれないか?」

 顔は怖いが、穏やかにギルド職員へと頼むダスティへ、その隣にいる茶髪の青年が声を発した。


「ちょっと待ってくれよ、俺達が先に宿を取ろうとしてたんだってば。先に言った俺達が優先のはずだろう?なのにこの職員が、俺達を無視するような事をするんだ。あんたからも何か言ってやってくれよ」

 強面のダスティに怒気を引っ込めたその青年は、正当な主張だと言って言葉を発した。


 それを聞いたダスティが、ゆっくりと視線をその青年に合わせると目を細めた。

「おや?君達もA級だったのか?そりゃぁ悪かったな。特別室は金ではなく、A級以上の冒険者しか泊まれないからな」


 悪いと言いつつダスティが揶揄う様に言えば、3人の冒険者はビクリと肩を揺らした。

「え…A級以上…?」

 今まで黙っていた黒髪の青年がポツリと言って、ルース達を振り返った。

 ルースはその視線を受けて、一応頷いておく。


「ギルドの特別室は、A級とS級の方々が泊まるお部屋ですから、その資格がない方にはご提供はできません」

 やっと言えたとばかりにキッパリと言い切ったギルド職員は、もう絡まないでよと言うように視線を外し手元の魔導具で手続きを始めた。


「お前たちがA級?」

 今度はその事に納得できない様子の茶髪の青年は、どんなズルをしてA級になったんだとボソリと言った。

「おい」

 ダスティの野太い声が、その青年に向けられる。

「A級とは、ズルをして簡単になれるものではない」

 シンと静まり返ったギルド内に、ダスティの声が響いた。


 ここにいるダスティは、既にS級になったのだと聞いていた。そんなS級の冒険者が発する言葉は、誰が聞いても嘘を言っていない事がわかるだろう。


「でも…」

「でも、何だ」

 ソバカスの青年が何かを言いかけ、ダスティが促した。

「俺達は毎日頑張って来てまだC級なのに、こいつらがA級だって言われても…」

「――信用できないのか?」


 ルースはそのやり取りを聞いて、ある意味納得してしまった。

 ルース達は旅をしている為、主に魔物のポイントでギルドポイントが加算される事が多い。そしてルース達が遭遇する魔物はポイントの高い物が多い為、町に寄ればそれなりに一気にポイントがついてランクが上がっていく。

 言うなればルース達の移動中はクエストではないものの、ただ魔物を選べないだけの話で、その間は24時間クエストをしている様なものなのだ。

 そうしていつの間にかB級まで来ていたのであって、正直ルースはまだ、A級になったという実感もない。


「だったら手合わせでもすれば良い。彼らがA級かどうか、それで分かるだろう」


 え?とルースは慌ててダスティを仰ぎ見た。何を言っているのかと目を見開いて。


「でしたら訓練室をお使いください。今は空いておりますので」

「ええ?」

 今度はフェルから声が漏れたが、それはギルド職員がダスティの提案に乗った事と、冒険者ギルドに訓練室というものがあったのかという、二重の意味であろうとルースは思った。


「はい。それで負けたら納得できます」

 そう言い切ったソバカスの青年は、ルースへと真っ直ぐな視線を向けた。

 その青年は腰に剣を下げており、ルースも剣を下げているからだと直感する。

 隣のフェルも帯剣をしてはいるが、ルースよりも体格が良い為ルースの方が弱いと見たのか、その青年はルースを相手に選んだようだった。


「よりによってルースに…」

「無鉄砲にも程があるな」

 ルースの後ろでデュオとキースがこそこそ話している声は、近くにいるソフィーまでしか聞こえていない様である。


『相手をしてやれば良かろう。これからは人型と戦う機会も増える事であるしのぅ』

 呑気にネージュも、ルースへと念話を送ってきた。

 ルースはソフィー達を振り返って眉を下げるも、皆は良い笑顔を向けてくるばかりであった。

 他人事だと思っているらしい。


「それでは、練習場へご案内いたします」


 こうしてギルドの食堂と受付の間にある扉を開いて中に入って行けば、2人が並んで通れる位の狭い廊下を通った突き当りが扉の無い部屋になっており、そこには試験場程の空間が広がっていた。

 ここは利用申請をすれば誰でも使え、見学などの出入りも自由なところだと説明を受けた。


「こんな部屋がある事を知りませんでした」

 とルースがギルド職員へ言えば、ルース達の後ろから付いてくる3人が“そんな事も知らないのか”というように、フンッと鼻で笑った。


 こうして、成り行きで冒険者と手合わせをする事になったルースが練習場に入れば、付いてきてくれたダスティとパーティメンバーの後ろから、ギルド内にいた冒険者達も面白いものが観れると言いながら続々と入って来る。


 この練習場には試験場にはなかった観覧席が壁際に設えてあり、皆はその席になだれ込むように座っていった。


「随分見物人が多いな…」

 フェルが呆れたように彼らを見まわす。

「俺らも、君達の手合わせを見せてもらうからな」

 ダスティのパーティメンバーであるゾイも、ニコニコしながらメンバーと共に観覧席に入って行った。


 何だかダスティに乗せられたようになってしまったルースの肩に、フェルがポンッと手を乗せた。

「程々にな」

 他人事だと思ってそんな事を言い残し、皆と席の方に歩いて行くフェルを見送って、ルースとギルド職員、そしてサミーと名乗ったソバカスの青年だけが、多数の観客に囲まれた中央の練習場に残されたのであった。


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

次回の更新は10月6日(日)を予定しております。

引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 >自分らはCやのに、なんでこいつ等がAやねん はぁ~…(クソデカため息) 功績ポイント等の基本的な前提は一旦脇においといて…まず自分とルース、彼我の戦力差を見極められ…
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