【238】シュバルツの土産
「何でしょうね、これは」
「んん~魔石?」
「でもネージュにもらった魔石は、色が付いていたわよね?」
「僕もこんな透明なの、初めて見るよ」
「オレも初めて見たよ。宝石かな?」
5人は顔を突き合わせルースの手の平を覗き込んでいるが、思い当たるものがないと言って首を傾けている。
「シュバルツが持ってきたんだろ?これが何か、知ってるのか?」
フェルがシュバルツへ尋ねるも『知ラン』と、ただそこにあったから持ってきただけだと言った。
「ネージュは判る?」
ソフィーが最後の砦だとネージュに聞いたため、ルースはネージュが見えるように手の平の中を見せる。
『ほう、珍しいのぅ』
その返事から、ネージュは知っているらしいと皆は目を輝かせた。
「それで、これは何?」
ソフィーが急かすように言えば、『魔水晶じゃな』とルースの手の中に視線を固定したままネージュは言った。
「何だそれ、魔水晶?」
フェルが言って皆と視線を合わせるも、皆もキョトンとしたままだ。
『おぬしは一つ、持っておろう』
そう言ったネージュはルースへと視線を向けた為、皆もルースに視線を向けた。
「え?私…ですか?」
身に覚えはないがと、ペタペタとルースは自分の体を触っていく。
ズボンのポケットを触り巾着に手を伸ばそうとして、ネージュの言葉に動きを止める。
『身に着けておろう』
(身に着ける?)
ルースがキョトンとしていれば、ソフィーが何かに気付いて手を叩く。
「あっ、あれよ!」
『さよう』
「ええと、アレとは…」
「ほらルース、ペンダントよ」
そう言えばとルースは胸元から鎖を引き出し、シンディから預かっているペンダントをもう片方の手の平に乗せた。
ルースはこれをずっと身に着けている為、既に体の一部の様に存在すら忘れていたのだった。
『うむ。それと同じものじゃな』
「は?でも色が違うぞ?」
フェルはルースの両手に乗る物を見比べ、首を傾けた。
左手は無色透明な石で、右手のペンダントの石は天色をしており、大きさも形も色も違う為、到底同じ物には見えなかったが、ネージュがそう言うのであればそうなのだろうと、ルースは納得するように頷いた。
そのルースの考えを読んだようにネージュは言う。
『それは別名“精霊の器”といって、精霊を閉じ込める事が出来るとも云われておる。じゃが、そんな物はゴロゴロと落ちてはおらん。一生に一度見られれば、僥倖であったといわれる程にのぅ。そしてその器は精霊が宿ると、精霊にあわせ色が変わると言われておるのじゃ』
「それでは、このペンダントに入っている精霊の色が、この表面上に反映されている…という事ですか?」
『うむ、そうであろう。ただ我もそれを見たのはこれらが初めてじゃ。こうして長い年月を生きてきても、まだ知らぬ事も多いという事じゃな』
ネージュは目を細めて魔水晶を見つめていた。
「凄い物なのね…」
「ただの石にしか見えないのにな…」
ソフィーは感動した様に目を輝かせ、フェルはそう言って難しい顔を作っていた。
ルースのペンダントはシンディから預かったものであり、その中に精霊が入った経緯などは何も聞いていない。そしてシンディも何も言わなかった事を鑑みれば、シンディも師匠であるグローリアという人から、その辺りの事を何も聞いていなかったのだろうと思い至る。
ただ、以前会った泉の精霊はこのペンダントに眠る時間の精霊王は、自分の意思で何かを待っていると言っていた。だとすれば、この石の中に自ら閉じ込められたと考えられるのではないかと、思考を巡らせていたルースである。
こうしてネージュから情報を得たルースは、希少性を鑑み、この魔水晶の使い道はないが、公にも出来ない物であろうと皆に伝えた。
ただ少しだけ気になって、ルースは手の平にある透明な石に意識を集中させた。
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『ステータス』
名称:魔水晶・大(未使用)
備考:????の装飾品
(単体での使用不可)
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ルースは念の為にと魔水晶のステータスを視てみたのだが、物は、ネージュが言う通りに魔水晶である事は確認できたものの、その備考欄にある言葉の意味がわからなかった。
「装飾品?単体での使用不可…?」
ルースはその情報を、声に出して皆にも伝える。
「ルース、情報を視たのか?」
キースがその言葉の意図を理解して、ルースに問うた。
「はい、念のためにと思いまして。ですが意味が分かりませんでした」
「それって何の装飾品なの?」
デュオは、首を傾けてルースに尋ねた。
「それが…“何の”という所は、文字がはっきりと表示されていないのです」
「んじゃ、結局分かんないって事だな」
フェルは何だかさっぱりわからないと、眉間にシワを寄せた。
「でも“装飾品”という事はわかったんだもの。そのうちに答えが見つかるかもしれないわよ?」
ソフィーがそう言ってこの場を纏めてくれたため、皆もこれ以上見ていても仕方がないと、放置してある魔物を片付ける為に散ってき、ルースはその魔水晶をソフィーに預けた。
「ルース!この魔物は解体する?」
離れたところからデュオがルースに指示をあおぐも、この魔物にも多少傷んではいるが羽が付いている為、そのままの状態で持っていこうという事にした。
「デカイから邪魔だな…」
フェルは巾着にロック鳥を入れながら、文句を言う。
確かにフェルの巾着は容量が大きいものの、まだ当分町に寄る予定ではない為、今後邪魔になる事も考えられた。
「仕方ないよ。でももし邪魔になったら、その時はお肉を食べちゃえばいいんだよ」
「そうね、案外美味しいのかも知れないしね?」
ソフィーも笑みを浮かべ、デュオに同意した。
「ではその時はそうしましょう」
ルースもそう言えば、どうやって食べようかと、もう先の話を始めるフェル達であった。
こうしてベスクスを発って一週間、ルース達は魔物と遭遇しつつも割と気楽に旅を続けているのだった。
それから数日が経つも、ルース達はまだ続いている森の中にいた。
この森は王国の中心から南西に位置するのだが、国の中心にも自然がまだまだ残っている事にルースは正直驚いていた。
ルースのいた所は国の東端の小さな村であった為、周りも自然豊かであったのだろうと思っていたのだが、こうして国内を旅して回っても、大きな町の近くやこんな国の中心にも、人の手が余り入っていない場所が多い事に驚かされている。
ルースは大きな町周辺では、もっと人の手が入り整備されているのだとばかり思っていたのだが、それは王都周辺位なのだろうと、最近は考えを改めたルースなのであった。
そうして森の中をシュバルツに案内されて進んで行けば、ルースの耳にサラサラと水が流れる音が聴こえてきて、ルースはその場で足を止めた。
「どうした?」
そんなルースに、フェルが足を止めて振り返る。
「いえ、瀬音が聴こえましたので、その近くで休憩も良いかなと」
フェル達は何も聴こえておらず、「そうなのか?」とルースの周りに集まってきた。
「私は今、魔法で音を拾っていますので、多分1km以内にそれがあるのではと思います」
「それじゃ、シュバルツに聞いてみようよ。――シュバルツ!」
呼ばれたシュバルツは程なくしてから、声を掛けたデュオの肩に舞い降りてきた。
『何ダ』
「近くに川があるらしいんだけど、方角はわかるかしら?」
ソフィーもシュバルツに声を掛ければ、『見テクル』と素直に上空へ舞い上がっていくシュバルツ。
「ルースは方向が分かるのか?」
キースが、言い出したルースに確認をすれば、ルースは暫く周辺に顔を巡らせ、聴こえてくる方角を確認した。
「多分ですが、あちらの奥ではないかと…」
ルースは一方を示すも、ルース達のいる場所から数メートル先、そちらは木々の間に陽の光が入らない為か中は薄暗くなっている。
「ちょっと暗いな…」
普通であれば暗い木々の中、わざわざ足を向ける者はいないであろうと思われる。
フェルが大丈夫なのか?とルースに聞けば、今のところ危険は感知しなていないと魔力と音、両方の情報を伝えた。
「じゃあシュバルツにも探してもらっているけど、少しずつ進んでみようよ」
デュオが行ってみようと皆に声を掛け、こうしてルース達は少し薄暗くなっている木々の中へと足を踏み入れて行ったのだった。
いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。
次回の更新は9月29日(日)を予定しております。
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