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【237】つがい

『クェエーーーッ!!』


 再度の叫び声と共に、その本体が上空の遥か彼方に姿を現わした。


『グエェェェーッ!!』


 それはルース達の姿を捉え、威嚇の声に変えた。

 勿論その姿は、ルース達からも目視できるものとなる。


『ロック鳥か』

 ネージュの念話が、上空からこちらへ向かってくるものの名を告げる。

「あれがロック鳥」

 デュオは名前を知っていた様で、小さく声を落とす。

 ルース達も当然名前だけは知っている。だがもっと山奥に住んでいるかと思いきや、まさかこんな所にいるとは思ってもいなかったが。


 そう考えながらも皆は警戒態勢に入っており、ソフィーは隠れるところがない為、始めから障壁(ソリッドシールド)を出してネージュと下がってもらった。

 デュオは近くにある木にスルスルと登って気配を消し、キースはソフィーの前に立ち後方支援に当たる。


 バサッバサッと上空からの羽ばたきで、風が吹き抜けて行った。

 ルースとフェルは、少しだけ視界が開けている木々の隙間でその風を受ける。


 その魔物は翼を広げると4m程もある。

 多分先程の巣はこの魔物の物で、近付いていれば随分と大きな巣であったのであろうと想像がつく。

 そして鳥型の魔物は移動範囲が広く、人間の感覚よりも縄張りがずっと広い。その為少し離れた位でも、結局はきっとこの魔物に気付かれていただろうと、ルースは思考を巡らせていた。



『グェーッ!』


 一声上げた魔物から、翼の鋭い羽ばたきに合わせて灰色の塊が飛んできた。ロック鳥からの先制攻撃だ。

 何かを発射された事を感じたルースとフェルは、左右に飛び退いて回避する。


 ― ドンッ! ― ドンッ! ―


 ルースとフェルが居た位置に、こぶし大より一回り大きい石が食い込んでいる。これが頭に当たろうものなら、失神する位で済めば御の字だろう。


「間合いを詰められない上に、石まで飛んでくるのかよ」

 チッとフェルが舌打ちをして、魔物を睨みつける。


 その時ルース達から少し離れた木から、一筋の光が尾を引きながら魔物へと向かって行った。しかし一秒にも満たないその光の到達時間でさえ、魔物は体を傾ける事で躱してしまった。


 今の攻撃は避けられてしまったが、先日の話で聞いた“魔力の矢”に、確実に成長を遂げていくデュオを心の中で賞賛するのだった。


 しかし魔物はそんな矢が放たれた木を特定したのか、睨みつけるように目を細め眼光を強めると、デュオのいる木へと石塊を放ったのだった。


「うわっ!」


 デュオが叫ぶまでの隙間、ルースは炎矢(ファイヤアロー)を放つ。それは、デュオへと魔物の視線が向けられた一瞬だった。

 魔物は石塊を放った直後だったこともあり、ルースの魔法に一瞬だけ遅れての対応となったのだ。


 ― ボウッ! ―

 それは魔物の左顔面に当たり、片目を焼いた。


『ギエェー!』


 今の攻撃で片目を潰された魔物は、再び上空へと舞い上がり距離を取るも、それを追うようにキースからも氷雹(アイススプラッシュ)が放たれており、移動した先で5cm程の無数の氷の塊がその羽根を打ち抜いてゆく。

 そこへ詠唱を終えたフェルが間髪入れずに雷魔法を放つ。

 デュオ・ルース・キース・フェルの、4者連続攻撃だ。


「“落雷(サンダーボルト)“」


 ―― ドォーンッ! ――


 ルース達の息を吐かせぬ魔法攻撃に、流石のロック鳥も上空に留まる事が出来なくなり、短い悲鳴を上げると高速で墜落していった。



 ――― ズドーンッ! ―――


「フェル」

「おうっ」


 地上に落ちれば後はどうとでもなるとルースとフェルは走り出し、ロック鳥の落下地点へと駆け抜けていった。

 それを後ろで見送っていたキースは、視界の隅にデュオが地に下り立つ姿を見て安堵の息を吐く。

 どうやら先程の攻撃は、デュオが隣の木へと飛び移り難を逃れたようだった。


「キース!」

 駆け寄ってくるデュオとキースは合流し、2人は並んでルースとフェルへと視線を向けた。


 2人の20m程先、土煙が立つ落下地点についたルースとフェルは、まだ魔物が生きている事を感じてその土煙の中へと突っ込んで行く。


「“送風(ブロアー)”」


 土煙に突入するその手前で、ルースはそれを一掃し、現れた巨体に剣を振り抜く。


 ― ザクッ! ―

『ギエエェー!!』


 魔物は落ちてから気を失っていただけらしく、ルースの一太刀を浴びて悲鳴を上げて体を起こすも、そこへ追撃に出ていたフェルの剣が、サイドから横凪に煌めいて通過していった。


 ―― ズバッ! ―― 

『ギャアーー!!』


 連続で受けた刃にロック鳥はたまらず翼を羽ばたかせるも、その翼にはキースに開けられた無数の穴があり、上手く風を捌けず、ただ翼をはためかせるだけに終わる。


「ルース!フェル!」

 そこへ後方からキースの声が響き渡り、キース達を振り返ったルースとフェルは、デュオの指さす方向を仰ぎ見て眉をひそめた。

 その上空にはもう一体、こちらへ向かい近付いてくる黒い影が見えた。


「番でしょうね」

「そう言えば、あれは巣だったな」


 ここにいる魔物が最初に鳴いた声は、多分だが、遠方にいた番を呼んでいたのではないかと、ここにきて気が付いたルース達であった。

 ただ、もうここまで来れば2体とも相手にするしかないのだ。

「チッ」

 そして又、フェルは舌打ちをしたのだった。



「デュオとキースは、上空への対応をお願いします」

 ルースが後方の2人へと声を掛ければ、分かっていると承諾の意が返ってくる。


 ルースとフェルは、目の前で後退り間合いを取ろうとする魔物へと再び剣を振り上げる。だがいくら地上にいるとは言え、大きく鋭い嘴と魔法攻撃を持っているのだ。

 そうして近付こうとする2人へ、ロック鳥は来るなとばかりに石塊を飛ばす。


 それらを剣と盾で弾き返しながら、ルースとフェルが間合いを詰めて剣を振り抜いて行けば、魔物は頭を振り嘴で近付く2人を攻撃する。


 そうしている間に近付いてきていた別の個体が、ルースとフェルの頭上で停止飛行をしながら、ルースとフェルが少しでも間合いを取れば2人へ向け魔法の石塊を投げつけてくる。


 ルースとフェルは上空を気配で探りながら、上からの攻撃が来れば横に転がり出て退避する。


 ― ドンッ! ドンッ! ドンッ!―


 上空から攻撃が止んだ一瞬で再び目の前の鳥と距離を詰め、その周りをステップで移動しながら剣を繰り出していく。

 上空の個体はルース達の近くに番がいる為に、魔法を打てないでいる事が分かる。

 ルース達の上空をイライラするように飛び回り、ルース達が番と離れなければ攻撃を仕掛けて来ないのだ。


 その上空の個体へは、デュオとキースが対応に当たってくれている。

 デュオの射る輝く矢が魔物を狙えば、それを躱す方向を予測したキースが、散布するように氷雹(アイススプラッシュ)を打ち込んで行く。


 ― バチッ バチッ バチッ バチッ バチッ!! ―


 パラパラと上空の個体に当たって砕けた氷の欠片が地に降り注ぎ、それはキラキラと陽の光を受け、ダイヤモンドダストの様にルース達の周りで煌めいていた。

 その中で踊る様に剣を振り魔物を追い詰めている2人は、さながら観客を前にした役者の様であると、その揺るぎない2人を見守っているソフィーだけは、見惚れるように表情を緩めていたのだった。


 そうしてやはりデュオとキースの攻撃に、苛立ちをあらわにした個体は、デュオとキースを優先したのか今度はそちらへ近付き、魔法を放っていった。


「デュオはオレの近くに。石はオレが防ぐ」

「わかった!」


 キースへと駆け寄っていったデュオは、1m程の間隔をあけてキースに並び矢を射始める。


 ― ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ ―


 いちいち番えなくてよい魔法の矢は、連続して放つ事が出来る優れものだ。

 それに並行してキースもロッドを掲げ、砂射撃(サンドブラスト)を魔物へと吹き付ける。


 それが目に入った魔物は「ギャアー!」と声をあげ、離れるように高度を上げるも、デュオとキースの魔法がそれに食いついて行く。


 ― ドンッ! ドンッ! ―

 ― ヒュンッ ヒュンッ ―



 上空では爆発音が、地上ではザクリザクリと肉を切り裂く音が続き、とうとう上空のロック鳥も地に落ちてきた。


『ギエェー!』



 ――― ズドーンッ! ―――


 ルース達とは離れた場所に落ちた個体を追って、デュオとキースもそれが視界に入る所まで走っていく。

 その2人を視界に入れた地に落ちた魔物は、大きな嘴をあけて威嚇の声を発する。


『グエェェェーッ!!』


 その嘴の中を狙ったデュオの矢がトスンと命中し、それはくぐもった悲鳴を上げた。

『ゴエェー!』


 そこへ、先の個体を地に沈めて駆け付けてきたルースとフェルが合流し、いとも簡単にそれを切って捨てた。


 ―― ザクッ!! ―― 

 ―― グサッ!! ――


 首を切られ脇を刺しぬかれたそれは、頭をのけ反らせて声も立てず横倒しになった。


 ―― ドーンッ! ―― 



「片付いたな」

「うん」

 フェルとデュオが顔を見合わせ、ルースとキースは疲れた笑みを向け合った。


 そこへ、ネージュを伴ってソフィーが近付いてくると、ソフィーは何も告げず、皆を温かな光で包み込んでくれた。

 光に包まれたルースは、跳ねた石で掠った手の甲の傷が消えていくのを、静かに見つめていたのだった。


 そして光が収まり皆に笑みが浮かんだ時、上空から黒い鳥がバサリと舞い降りてきてルースの肩に留まった。

「シュバルツ?」

 ソフィーがシュバルツへと問いかけたのは、その口に何か光るものが(くわ)えられていたからである。


『向コウノ崖ニ,何カノ巣ガ有ッタ。ソコカラ持ッテキタ』


 ― ペッ ―

 とシュバルツがルースの手の中に放った物は、ここにいるロック鳥の巣から持ってきた物であろうと皆は思い至る。


 そして皆がルースの手の中を覗き込めば、そこには10cm程の透き通った細長い石が乗せられていたのだった。


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

そして、ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。

次回の更新は9月27日(金)を予定しております。

引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。<(_ _)>

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