【233】パーティの意味
デュオとキースは少しの間に息を整えると、フェルから借りた巾着に10匹のガルムを入れていった。
「流石にこの量は、僕一人で解体するのは無理だよ…」
と、デュオが眉尻を下げて言ったからだ。
「オレもまだ習ってないしな…。教えてもらいながらやるにしても、日が暮れてしまいそうだな」
ここで時間を食った分、既に昼近くなっている事もあり、キースも解体はしない方が良いと言い添えた。
そうして取り敢えず10体のガルムは、解体せぬまま巾着の中に収まったのである。
そこへ戻ってきたシュバルツが近くの木に留まり、不思議そうに2人を見降ろした。
『遅イ』
シュバルツからの念話に労いのひとつもないが、キースは自分で“すぐに済ませる”と言った手前、手こずって遅くなったと素直に謝罪する。
「悪かったな。でも流石に10匹はキツイ…」
「そうだよシュバルツ。僕たち、接近戦は不得手なんだよ?ガルムは前衛向きなんだから」
デュオも時間がかかるのだと、自分達の状況を説明した。
『コノ2人デハ仕方ナイカ。デハ飯ガ先ダナ』
どうやら、お腹が空いて戻ってきたらしいシュバルツの言葉に、デュオとキースは呆れた笑みを向けるも、それではここで食べて行こうという話になって、2人と1羽は木陰に入り、ソフィーにもらった昼食を出した。
目の前には卵を溶いた琥珀色の温かいスープと、肉や魚の入ったサンドパンが並ぶ。
ライスは本日、「また沢山焚いておくわね」とソフィーが言っていたので、既に在庫は切れていたらしいと想像出来た。
だがサンドパンでもデュオとキースは大喜びなので、問題はない。
今の戦闘でかなり動き回った為にすっかりお腹も空いていた事もあり、シュバルツも交えのんびりと味わって昼食を摂った2人であった。
こうして昼食が済めば、今度はビッグボアを仕留める為に出発する2人に、シュバルツは方角を確認しつつ道案内をした。
そうして30分程森の中を進めば、20m程前方に3体のビックボアが地面に顔を付け、食事をしている姿を確認する。
「3匹だね」
2人は先程のガルム戦で、間合いを取っておかねば体力が続かないのだと十分に学んでいる。
「単体なら良かったんだが、どうするか…」
「あれに気付かれると突進してくるらしいから、そうなると又接近戦になってしまうね…」
どうやって仕留めようかと、2人は策を巡らす。
「キースは3匹を、一気に仕留められる?」
「3匹か。肉は余り傷つけられないんだよな…」
キースは、広域魔法では切り刻んでしまうかもと顔を曇らせた。
何の魔法を使うつもりだったのかは、キースの頭の中だけに留めたようだ。
「せめて、高い所に登れればな」
キースは木の上へと視線を向け、ポツリと零す。
「そうだね。2人共木に登れれば、何とかなりそうだけど…」
キースは出来る?とデュオが聞けば、船の上では帆柱に上る事はあったが、それには縄梯子が掛かっていたから、と表情を曇らせた。
という事は、キースは木登りをした事がないのだろう。
デュオとキースはそこで暫し、ビッグボアが穴を掘っているのを眺めていた。
「じゃあさ、僕が向こう側へ行って木の上から引き付けるよ。そうしてあいつらが僕の方に向かってきたら、キースはこっちから援護をしてくれる?」
デュオは木登りも出来るし偵察のスキルがある為、気配を消して逆側へ回り込むと言った。
「頼めるか?」
「うん、任せてよ」
満面の笑みを向けるデュオに、キースは深く頷き返したのである。
こうしてデュオは走りながらも魔物に気付かれる事なく、反対側へと出る。そこで木々を見回し、安定感のありそうな木へ登って視界の確認をする。
足元の枝は太く安定感もあり、まずまずの足場を確保したデュオは、キースのいる場所に視線を向けた。
顔を覗かせているキースが辛うじて見え、デュオはキースへ向けて手を振った。
準備は出来たという合図だ。
そうして巾着へ仕舞っていた緑の風を取り出し魔力を充填すれば、輝く弦と矢が出現する。
―では、始めますか。―
デュオは狙いを3匹の中で一番体の大きな個体に絞り、下を向くその首筋へと一射を投じた。
― カンッ ―
実体がないはずの魔力で出現させた矢は、本物の矢の様に澄んだ音色を響かせ飛んでいく。
『ブギィーイ!!』
デュオの矢が中ったビッグボアは、首から血を流し慌てたように辺りを見回す。
そこへもう一射、別の個体へ向けて矢を放てば、それを見た巨体は発生元を確認したと顔を上げ、デュオを睨みつけた。
よし、こちらに注意を引き付けた。まずは作戦通りだとデュオは笑みを作りながら、次々と矢を放っていく。
ビッグボアは猪の姿をした魔物であり、その体は小さくても2mはある大型の魔物だ。そしてこの中で一番大きな物は推定3m。その巨体が地面を掻き、デュオのいる木の方へと走り出した。
その時、逆方向にいるキースが魔法を放つ。
「“氷杭“」
氷の杭は巨体の背中を狙ったもので、狙い通りの場所に当たるも、何をしたのかその氷の杭は“パリンッ”と音を立てて壊れてしまったのだった。
キースは驚きに目を見開いた。
「そう言えば風魔法で防御してるって、ルースから聞いてた!」
木の上からそれを見ていたデュオは、思い出したようにルースからの情報を伝えた。
「ったく、風で防御とか…」
キースはそれを聞き、攻撃魔法が通用しない可能性を導き出す。
デュオの一射目が中ったのは、まだ警戒していなかった為に防御をしていなかったから、という事らしく、これは面倒な事になったと、キースは他に使えそうな魔法がないかと瞬時に思考を巡らせた。
そうしている間にもデュオの昇った木へとビッグボア達が突進している。
―― ドンッ! ――
―― ドーンッ! ――
―― ドンッ! ――
デュオが登った木は太い木である為、早々に折れる事はないであろうが、グラグラと揺れる木に、デュオは必死にしがみ付いて耐えている。
これではデュオが矢を射る事も出来なくなってしまうと、キースはそれを回避する為の魔法を発動させる。
攻撃が通らないのであれば…。
「“樹人の手“」
キースの放った魔法は先日ルースから教えてもらったばかりの土魔法で、その中でも使い勝手が良いからと、初めに教えてもらった“蔦で相手を拘束する”魔法だった。
ビッグボアは地面から生えてきた蔦に拘束されるも、身をよじって抜け出そうともがいている。それで少しずつ蔦が切れてしまい、拘束を解かれるのも時間の問題だった。
「デュオ!」
今の内にとキースはデュオに声を掛けた。
「ありがとう!」
揺れの収まったデュオは木から飛び降りると、至近距離から魔物の額へと狙いを定めて矢を打ち込む。
『ブギィーイィー!!』
一番大きな個体は一声上げそれで動きを止めたものの、後の2体はまだ蔦に絡めとられつつも暴れている。
『ブギャー!』
『ブヒィー!』
叫び声を上げつつ身をよじる2体の傍へ、走り寄ってきたキースが魔法を発動させた。
「“氷結“」
動きを止める為、更に2体を凍り付かせたキースの視線を受け、デュオは凍ったまま顔を上げているその額へと、出力を上げて矢を放った。
―― パリーンッ! ――
氷の砕ける音と共に矢がその額へと命中すれば、その矢は額に大きな穴を残して消えていった。
残るもう1体も無事に仕留め終われば、氷と蔦を解除されたビッグボア3体は、同時に地面へ横倒しとなった。
――― ドドーンッ! ―――
「やっぱり前衛が居ないとしんどいね…」
「パーティってすごいんだな…」
役割分担が出来ているパーティは、前衛が注意を引き付けてくれている間に、後衛が隙を突いて攻撃する。その前衛のありがたみを、今日は嫌という程味わったデュオとキースなのであった。
-----
『少し休憩を入れぬか?』
ネージュは、昼を過ぎても動きを止めないソフィーを慮り声を掛ける。朝から台所に籠っているソフィーは、昼食も摂らずに料理を続けていたのだ。
「ありがとうネージュ。でも味見してるからお腹は空いてないのよ?」
そう言いつつもネージュの気遣いに、ソフィーはライスの鍋の火を確認してテーブル席に腰を下ろした。
『立ったままでは辛かろう』
「でも楽しいから、気にならないのよ?」
無理はしてないのよと、ソフィーはネージュへと笑みを向けた。
「それに皆も頑張ってるんだろうし、私にできる事はこれ位だからね」
そう言ったソフィーは、既に作り置き用の容器に詰めた肉巻きや魚のフリッターをみて目を細めた。
『あやつらは好きでやっておるから、気にせんでも良かろう』
「そうは言っても、皆の健康は私の食事にも掛かってるのよ?」
ソフィーは火にかけたままの鍋を見ながら、冷めてしまっているお茶を口に運んだ。
「ルースとフェルの試験は、どうなったのかしら…」
『帰って来てからの、お楽しみじゃのぅ』
ニヤリと口元だけで笑ったネージュは、ソフィーの満たされた顔を見て目を細めると、心からの笑みを添えたのだった。
いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。
重ねて誤字報告もお礼申し上げます。<(_ _)>
さて、今回は更新についてのお知らせとなります。
スケジュールの都合で、再び更新が遅延いたします。
この先、仕事と所用が重なっており、どうしても毎日の投稿が出来なくなりました。頑張ったのですが、ちょっと無理そうです。(^^;
毎日お付き合い下さる皆様には、何卒ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。
更新の有無に関しましては、都度こちらでご連絡させていただきます。
尚、突然となりますが次回の更新は9月18日(水)を予定しております。
大変ご迷惑をおかけいたしますが、引き続きお付き合いの程よろしくお願いいたします。<(_ _)>