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【230】それぞれに

 翌日の早朝、ルース達4人はギルドの宿に併設されている裏庭に出て、いつもの様に朝の鍛錬を開始した。


 フェルは早速身体強化を使いロングソードを振っていたが、「体が軽い」と効果を実感して喜んでいた。

 そしてフェルの身体強化は、掛けたままであっても他のスキルと併用する事が出来、大変使い勝手の良いスキルである事が判明したのだった。


 一方ルースの新しいスキルは、神風龍(ウインドドラゴン)という名前からして風が影響するだろうという事もあり、この小さな庭では試せないとみたルースは、ぶっつけ本番で使用することにしたのである。


 こうして朝の鍛錬を終えて部屋に戻れば、ソフィーが皆の朝食を用意してくれており、朝から身も心も満たされた一日が始まったのである。


 食事後はすぐさま、デュオとキースがシュバルツを連れてクエストに向かった。

 ソフィーが3人分の昼食を持たせていた様なので、シュバルツもそれが目当てで付いて行ったのではと、ルース達はデュオとキースを見送って笑った。


「じゃあ私も台所に籠るわね。二人とも試験頑張ってね」

「はい」

「おう。A級になって帰ってくる」

 応援してくれるソフィーを見送り、ルースとフェルは部屋で試験までの時間を過ごすことにした。


「なぁ、試験て何すんだろうな。まさか筆記とかはないだろうな…」

「さあ、私も知らない事なので何とも。ですが、もし筆記試験があってもフェルは読み書きができるので、問題ないと思いますよ?」

「あ?そういう事じゃなくてな…。はあ…まぁ、なるようになるか…」

「ええ、今更ですね」

「ったく、ルースはそういう所が年より臭いんだよなぁ」

「おや?久しぶりに聞きましたね、その言葉。ですがそれはフェルもですよ?フェルももう子供から見ればオジサンと呼ばれる年になっていますので」

「はぁ~ルース…」

 何を言っても飄々と答えるルースに、フェルは言い返すのを止めたようだ。


 こうして話しながらも、ルースはキースに教えようとしている魔法を書き出しており、別に遊んでいる訳ではないが、フェルは落ち着かないのかずっと一人でソワソワとしている。

 それこそ今更慌てても仕方がない事であるし、ここに来る前から心構えをしておくようにと、ルカルトのギルドマスターにも言われていたのだ。

 しかし、そうは言ってもフェルの気持ちも分かるルースは、フェルをそっとしておいているのである。



 それから暫くして、そろそろギルドに行く時間になった頃、ルースはフェルに声を掛けた。

「フェル、そろそろ行きますよ。起きてください」

「ん…あ?っもうそんな時間か…」


 フェルは結局ベッドの上で横になった為、そのまま眠ってしまっていたのだ。

 試験の事で気が張っているのかと思いきや、フェルも中々肝が据わっているなと、ルースは微笑みを向けたのであった。


 こうして2人が冒険者ギルドに入って行けば、昨日とは打って変わってギルドの中に人は殆どいなかった。

 これが普通の光景だなと、フェルがルースに小声で言う。

 それに頷いて受付へと向かった2人は、ギルド職員へと声を掛けた。


「「おはようございます」」

「あっルースさんとフェルさん、おはようございます」

 この職員は、昨日受付を担当してくれた職員で、既に名前を憶えてくれた様だった。


「今日は試験と伺っております」

「はい。その事で参りました」

 ルースがギルド職員にそう返せば、ギルド内にチラホラいる冒険者がルース達を振り返り、

「おい昨日の…」

「ああ、試験って事はA級の?」

 と少しザワザワとした声が聞こえてきた。


 ルース達はすっかり居心地が悪くなり、早く済ませて帰りたいと思った。

 今日は昇級するにしろ出来ないにしろ、どちらにしても彼らの話題にのぼる事は避けられないらしいと、ルースは諦めの息を吐いた。


「それでは、試験会場へご案内いたします」

 ギルド職員はそれらが聞こえぬかのように、ルース達に笑みを向けて先を促した。


 その職員に案内され、ルース達は受付奥の扉を抜け応接室とは逆方向の廊下を歩いて行くと、突き当りにある地下への階段を下りて行った。

 その階段の壁には所々魔導具の明かりが灯り、足元を照らしている。

 階段を下りながらルースとフェルは、冒険者ギルドに地下があったのかと、驚いた様に顔を見合わせたのだった。


「この先にある地下の部屋は、試験の為に使われる部屋なのですよ。後は何かあった時の避難用として使用する目的で、どこの冒険者ギルドにも完備してあります」

「避難用…ですか?」

「はい。この地下の部屋は魔法で強化されており、中でどんなに暴れても外には影響のない仕様となっております。逆に言えば、外からの干渉も受けないという事ですね」


 なるほどとその説明を聞き、完全に隔離された空間でこれから試験をするのかと気付いたルースは、かすれた声で笑ったのである。


「こちらが控室です。まもなく試験官が参りますので、こちらで少々お待ちください」

「「ありがとうございます」」

 ルースとフェルは案内してくれた職員に礼を言うと、「頑張ってくださいね」と言い添えてくれた職員の退出を見送ったのだった。


 案内された部屋は宿でいう6人部屋程の広さで、壁際に5つの椅子が並べてあるだけの場所だった。

 何かの有事の時など、ここで打ち合わせでもするのだろうかと、ルースは窓の無い部屋に灯る明かりを見て、そんな事を考えていた。


「ルースは落ち着いてんな…」

「そんな事はありませんよ?」

 フェルの問いかけに、実際ルースもどのような試験になるのかと、内心ではワクワクしていたのだ。


「まぁフェルは今のままで十分にその実力がありますので、特に身構えずとも大丈夫だと思っています」

 俺の事じゃねーよと言いつつも、フェルはルースに掛けられた言葉に笑みを向けた。


 ルースの予想ではフェルも自分も、ある程度のレベルはクリアするはずだと考えている。

 ただ、あのギルドマスターは明らかに能力を隠していそうであった為、その事だけは引っ掛かっているルースだった。


 そんな話をしていれば、ギルドマスターが部屋の扉を開けて入ってきた。

「待たせて悪いな」


 そう言って入ってきたギルドマスターの後ろには、もう一人黒い丈長のゆったりした服を纏った40代後半位に見える人物がいた。

 フェルはそれを見てピクリと肩を揺らすも、声は我慢した様だ。

 ルース達がその人物に気付いたと分かったギルドマスターは、その人物を自分の横に並ばせた。


「紹介する。この町の教会に勤める司祭で、“アメリヤ・エルクロス”だ。もしもの時に回復魔法を掛けてもらう為に来てもらった」

 ギルドマスターの紹介で、この町の司祭は回復魔法が使えるのだとルースは理解する。


「アメリヤ・エルクロスと申します。ギルドマスターの友人でもあり、教会の司祭も勤めさせていただいております。本日は何かあれば、私が対応させていただきます」

 そう言ってお辞儀をしたアメリア司祭は、姿勢を正すとニッコリと笑みを浮かべた。


「ご挨拶ありがとうございます。私はルース、彼はフェルゼンと申します。本日はよろしくお願いいたします」

 2人も頭を下げて挨拶を返せば、ギルドマスターは「堅苦しくしなくても大丈夫だ」という。


「こいつは俺の幼馴染でな。いつも試験がある時には頼んでるんだ」

「こういう時ばかり私の所に来るのだもの…何もなくともたまには顔を出して欲しいものだわ?」

 2人は幼馴染だと言っていたし、随分と気安い雰囲気で親しい間柄だと分かる。


「まぁ…そういう事で、怪我の心配はしなくても良いからな。ではこれから、今日の試験の説明をする」

 ギルドマスターは言った途端にガラリと雰囲気を変え、眼光を強くする。

 ルースとフェルも、そんなギルドマスターに背筋を伸ばして向き合った。


「今日の試験は一人ずつ行う。オレの動きを知られない為に、試験中は一人がこちらで待機。俺は2人を相手にするが、一人目の後アメリヤに回復魔法を掛けてもらうから、2番目の方が楽だとは考えない方が良いだろう。試験は隣の部屋だ。その部屋は強化魔法と防御魔法が施してあり、損傷が出ないような仕組みになっているから、思う存分暴れてくれて構わないぞ?俺も遠慮なしにやらせてもらう。ここまでで何か不明点はあるか?」


「はい。何をしても良いという事は魔法もスキルもあり、という事でよろしいのでしょうか」

「ああ、魔法もスキルもバンバン使って良い。ただし魔力切れを起こせば、その時は俺の一撃が飛ぶと思ってくれ」


 ニヤリと笑ったギルドマスターは、強者の気配を漂わせている。

 そして気付けば魔力も溢れさせていると分かり、もう既にギルドマスターは、試験者を委縮させようとしているのだとルースは感じた。


「それで、君達の獲物は剣だな?試験で流石に真剣は使わない。隣の部屋に刃を潰した武器が置いてあるから、そこから好きな物を選んで使ってくれ」

 ルースとフェルは、その説明に真摯に頷く。


 試験では武器こそ刃を潰した物を使うものの、他は何でもありだという。

 要は実戦でどこまで出来るのかを知る為の試験であり、この人物を相手に、本気を出さねばA級へは昇級出来ないだろうとルースは思った。


 こうしてルースとフェルは昇級を目指し、ベスクスのギルドマスターであり昇級試験管のジミー・ゴルバと真剣な戦いをする事になったのである。


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