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【23】疾走

 パチッと枝の爆ぜる音がして、その焚火にフェルの顔が照らされている。

 顔に疲労は滲むものの、ルースの言葉によってフェルの表情は明るい。


「今日の戦い方を、忘れないようにしてください」

「おうっ」


 ニカッと笑ったフェルは、そう返事をして干し肉をかじった。

 今は野営中であり剣の練習も終えた夕食の時間で、ルースとフェルは今日のゴブリン戦の反省会をしていた。

 そこで、ルースからこの2日で腕を上げたと褒められたフェルが、笑顔を見せているところだ。


「しかし、まだ気を抜けば腰が上がってしまっています。そこはしっかりと意識してくださいね」

「おう…」

 しかしただ褒めるだけでなく、ルースも念押しで改善点を一言添える。


「なぁ、ルースはいつから剣の稽古を始めたんだ?」

 しっかりした剣捌きをするルースは、いったいどれ位の修業を積んだのかと、フェルが聞く。

「私ですか?私は13の年からですね。その内の半年は木刀でしたけど。剣は危ない物だと言って、初めは刃物を持たせてもらえませんでした」

 ルースは苦笑しつつ、そう答える。


「へぇ…2年で、そこまで剣が使えるようになったのか…もしかして凄いんじゃないか?」

「そうなのですか?私はその辺りの事は良くわかりませんけど…ああ…そうかも知れないですね」

 何か思い当たったのか、ルースがそう言って苦笑する。


「え?何だ?」

「ああ、いえ。私のスキルのせいかと思いましたので」

「スキル?」

「はい。私には“倍速“というスキルがあります。それは移動速度が速い訳でなく、経験値の習得速度が倍になるというものらしいので、そのせいでしょうと」

「はぁ…何だか凄そうだな。良くわかんないけど」

 フェルの返しにルースは笑う。


「私も良く分かっていませんし、まぁ私もフェルの感想と大差ないですね」

「そうか…そのスキルがあるから、剣の使い方とか話し方とかに、影響が出たんだな?」

「ん?話し方…ですか?」


「ああ、ルースの話し方は子供なのに年寄りみたいだから、そのスキルの影響なんだなって思ったんだ」


 フェルの言いたいことは、何となくわかった。倍速で感覚が進むから、子供のうちから大人の様になったんだと、言いたいのだろう。

 しかしそれは違う。


「フェルは面白いことを考えますが、それは違いますよ。私の言葉遣いは、大人の話し方を真似てしまったのと、本から学んだものを、そのまま言葉にしてしまったからですね。私には記憶がなかったと話しましたが、記憶と同時に、言葉も生活に必要な事も、何も覚えていませんでした。その為、そこから学び直したものが、今の私なのです」


 ルースはサラリと言うが、又聞いてはいけないことを聞いたのかと、フェルは自分の額に手を当てた。

「ごめん…ルースは複雑だったんだよな…」

 フェルは自分が間違えたと思えば、素直に謝ることができる人物のようだ。


「いえ、別に気にしないでください。記憶がない事を隠すつもりもありません。私はこれからの旅で、それを見つけようと思っています。ですから私の話し方が爺臭いのは、別にスキルのせいではないのですよ」

 そう言って、干し肉に取られた水分を補給するために水を飲む。


「そうか…じゃあその倍速ってスキルで、人より早く剣を習得ができたって事なんだな」

 と、フェルが話を戻す。

「ええ。多分」


「そっか…俺は自己流だけど、剣を振る様になったのは8歳の頃からだから…7年位ずっと剣の練習はしてきたんだ。だからもう自分は、剣を使えるんだとそう思ってた」


 そう言ってフェルは、ルースをしかと見据えた。


「でもルースに会って、それは間違いだって教えてもらったんだな…ありがとうな、ルース。ルースに会わなきゃ、俺はそのまま騎士の募集に応募して、入団試験で腐ってただろうな…」


「そうかもしれませんね。冒険者になって経験を積むという事も、なかったでしょうしね」

 と、ルースはいたずらっ子の様に、にっこりと笑ってフェルを見た。

「あーそれを言われると…ってやつだな」

 とフェルも苦笑して、反省を終えた。


 この2人の旅も、あと一晩過ぎれば終わりを迎えるだろう。2人はそれまでのひと時を大切に過ごして行くのだった。



 -----



 この日の夜も魔物が出ることなく過ごした2人は、しっかりと睡眠もとって、再び日が昇り始めると道を歩き出した。

 この道をあと1日歩けば、カルルスという町が見えてくるはずだ。


「なぁ…今日の夜も歩き続ければ、夜の内に町へ着くんじゃないか?」

 フェルは、あと1日で着くという町へ一刻も早く着くために、野営はしなくても良いだろうと話をする。


「私もそう思いますが、そもそも町の門は夜に開いているのでしょうか?私はそこまでの情報を持っていませんので、門の前で立ち往生という事まで考えてしまいます」

「あっそうか…大きな町では、門があるんだったよな…」

 フェルもそこまでは気付いていなかった様で、頭をかいている。


「でもフェルの案も良いと思いますよ。ところでフェルは、カルルスに着いてからはどうするのですか?」

「…。まだ何も考えていなかった…」

 ここでもフェルが苦笑する。


「ルースは?」

「私はカルルスに着いたら、冒険者ギルドへ行く予定にしています。そこで登録ができれば、冒険者ギルドで管理する安宿があるかもしれませんので、そこにまず滞在できればと思っています」


「おお…ルースは色々と考えてたんだな。俺は、行ってみてどうするかを考えるつもりだった」

 ハハッとフェルは笑っているが、顔には焦りが見えていた。

「では、フェルも一緒に行ってみますか?フェルも冒険者登録をしておけば、後々便利ですよ?」

「そうなのか?」

「ええ。その登録で、ギルドが発行する身分証がもらえると聞いています。それがあれば、今後も動きやすくなると思いますよ」


 ルースは、こうしてどんどんフェルに道を示していく。

 フェルは冒険者と面識がない事もあるが、ルースは、旅に必要な知識を十分にそろえてから、出発した事をうかがえる言動がある。

 これが同じ年の少年なのかと、尊敬の眼差しを向けるフェルであった。


「じゃあ俺もルースと一緒に、冒険者ギルドへ行ってみる。また色々と教えてくれな?」

 とフェルは屈託のない笑顔を、ルースへ向ける。

「ええ。私がわかる事であれば」


 ルースは結局、フェルのフォローをする事になっていたが、最初にフェルと会った時よりも、それが面倒だとは思わなくなっている自分に気付く。

 フェルは余り物知りだとは言えないが、この素直な性格は好感がもてるし、ルースとの相性も悪くないと感じていたのだった。





「フェル、止まってください」

 ルースが突然、フェルにそう伝える。

 言われたフェルは、ルースに今や全幅の信頼を置いている為、まずはそれに従う。


 止まった道の途中、2人は開けた場所にいた。

 だが、そこから見回しても何も見る事は出来ず、フェルはキョロキョロと周りを見ている。


「まずいですね…走りましょう」

 ルースはそう言って走り出し、遅れてフェルも走り出す。


「どうしたんだ?」

 フェルは何がまずいのか分からずに、そう問いかけた。


「とても速い速度で、何かが近付いています。それがもし魔物だとすれば、それはゴブリン程度の低級ではないはずです…」

 舌を嚙まぬよう、ルースは慎重に状況を説明する。


 ルースは日中も歩きながら、集音の探知魔法を発動させていた。

 移動しながら使う集音はとても難易度が高い為、魔法の練習の一環として続けていたのだ。

 それに何かの音が掛かり、その音は少しずつ大きくなって、こちらへ向かってきている。

 重たい音ではなかったが、それは機動性が高い物の出す音に聞こえ、たとえるなら鹿や犬などの軽やかに動く動物の疾走音に近い物であった。


 ルースは走りながらも、思考は続いている。


 ここは見晴らしが良く、逃げ込める所も高い木もない為、それが近付いてくれば、やり過ごす事は出来ないだろうと、背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。

 切り札となる四属性魔法の解禁も考慮し、フェルを護るにはどうすれば良いのか、それに全力を注ぐとルースは決心したのだった。


拙作にお付き合いいただき、ありがとうございます。

ブックマーク・★★★★★・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。


少しでもお楽しみいただけるよう、毎日更新中です。

引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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