【227】相乗効果
アックスビークの心臓に剣を突き刺したフェルは、それを丸ごと腰の巾着へと収納する。
ルース達は滅多に遭遇する事はないが、羽毛のある魔物は、解体せずにそのまま素材として売り払う事にしていた。
「キースが体を傷つけないで倒してくれたお陰で、羽も綺麗なままです。これで少しは高く買い取ってくれるでしょう」
ルースはキースへと、魔物の取り扱いを説明する。
「羽は傷つけない方が良いって事か?他の魔物は解体してたよな?」
キースはワイバーンの時の事を言っているらしく、確認の意味で聞いたようだ。
「そうだよ、他の魔物は皮と肉で分けて買い取ってもらってるね。だけど羽がある魔物はどこが重要なのか魔物によって違うみたいだから、なるべくそのままの形で持って行ってるんだよ」
キースは順調に冒険者ランクを上げて行ってはいるが、まだ冒険者になって日は浅い為、こうして少しずつ冒険者としての行動を学んでいる最中なのである。キースはデュオの説明に、納得したと頷いた。
「そう言えば、スキルで“解体”というのは無いのか?」
キースはスキルの事もまだ知識がない為、素朴な疑問を口にした。
「キースは面白い事を言うな…」
「んん?そうか?」
「キースの方が正解かも知れませんよ?フェル。私達もスキルの事を全て知っている訳ではありませんし」
「まあ、そうだな…」
フェルはルースの指摘に素直に訂正する。
「ですが残念ながら、私達が持っているスキルには“解体”というものはありませんが、他の職に就いている方など、もしかすると持っているかも知れません」
「じゃぁここにいる皆は持ってないって事か。それは不便だな」
「でも、自分でするのも慣れるとそうでもないと思うよ?僕はまだ修行中だけどね」
デュオもルース達と旅をするようになってから、魔物の解体を習い始めたのだと笑みを見せる。
「では、オレもこれから勉強しよう」
キースはこうしてまた知識と経験を増やすために、自分へと課題を作るのであった。
そうしてルース達は戦闘後、一度休憩を取ることにした。
「ここでステータスを確認しておきませんか?」
先程スキルの話が出た事もあって、今の内のステータスを確認するかと皆へ聞く。更には町に行ってからでは又何があるか分からない為、ここで視てしまおうという事だ。
「そう言えば今年は俺達、まだ確認してなかったな」
「そうだったわね。でも私は気にもしてなかったけど…」
「僕は気になってるよ。ルースとフェルは僕よりうんと上だから、少しでも追いつきたいからね」
デュオは皆に追いつきたいので、指針となる数値を知りたいという。
「じゃあオレは皆のを聞いているよ」
自分は既に見てもらったからねと、カップの茶をすすりながら、キースは興味深そうにルース達を見る。
こうして休憩中に一人ずつステータス確認をしていく事になり、始めにフェルがルースの前に腰を下ろした。
「では手を出してください」
ルースの指示で片手を出したフェルの手を取り、ルースはしばし目を瞑った。
そうして目を開けば、ルースはフェルのステータスを口にする。
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『ステータス』
名前:フェルゼン
年齢:19歳 (前回:18歳)
性別:男
種族:人族
職業:騎士
レベル:96 (前回:68)
体力値:788 (前回:501)
知力値:311 (前回:180)
魔力値:319 (前回:122)
経験値:536 (前回:196)
耐久値:424 (前回:217)
筋力値:589 (前回:230)
速度値:307 (前回:144)
スキル:加護【月の雫・稲妻斬撃】・威圧・身体強化
(前回:加護【月の雫・稲妻斬撃】・威圧)
称号:―
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ルースの声を聞いていたフェルが「まぁまぁか」と、それなりに数値が上がった事に満足しルースの前からさがっていく。
だが、それを聞いていたキースは、目を見開いてフェルを見ている。
「どうしました?キース」
「だって、レベルが96?」
「はい。フェルの騎士レベルは96でした」
嘘ではありませんよ?とルースが言えば、キースは「まだ19だよな?」と聞き返した。
「そういや、もう19になったんだっけ?」
フェルはステータスの年齢を聞いていなかったらしく、“だよな?”とルースに確認する。
「ええ。19歳になりましたね」
「でも、それにしてはレベルの上りが早すぎるんじゃないのか?」
その辺りに疎いはずのキースもそれには気付いたらしく、先日視たキースでも、21歳でレベルが53だったと言いたいのだろう。
「これは以前お話しした、私のスキルの影響です」
「そうだ。ルースの“倍速”がルースの成長を速めて、“波及”で俺達にもその影響が出る。だから教会でステータスでも視てもらおうものなら、どうしてこんな数値だって話になる。それもあって教会を避けているっていうのもある」
「こんな、“人を成長させるスキル”なんてばれてしまったら、教会でなくても引く手数多だと思うけどね」
ソフィーもルースのスキルは、表に出せないものだと言葉を添えた。
「そういうものか…って事は、一緒に居るオレも?」
「はい。来年になればキースのステータスも、飛躍的に伸びている可能性はあります。とは言え元々の素質が無ければ、そこまで成長する事もなさそうですが」
ルースはステータスの数値の伸びは、個人の素質によるもので均一ではないと改めて伝えた。
例えばキースであれば、1年後には魔力量や知力などが著しく伸びているであろうと推測できる。
「はあ…ルースは凄いんだな」
「これは私が凄いのではなく、スキルが凄いのですよ。そこは勘違い無きように」
ニッコリ笑んだルースを見たキースは、ルースはただものではないと心の中で独り言ちた。
そんなキースの心中まで視えるはずもなく、ルースは次にソフィーのステータスを確認する。
ソフィーがルースの前に来て手を出せば、それを取ったルースは再び沈黙し、そうしてソフィーのステータスを伝える。
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『ステータス』
名前:ソフィア
年齢:18歳 (前回:17歳)
性別:女
種族:人族
職業:聖女
レベル:66 (前回:38)
体力値:328 (前回:241)
知力値:411 (前回:260)
魔力値:525 (前回:353)
経験値:293 (前回:180)
耐久値:276 (前回:108)
筋力値:208 (前回:88)
速度値:394 (前回:132)
スキル:聖魂 (前回:聖魂)
称号:―
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「はぁ…やっぱりルースの側にいると、ステータスの伸びが早いわね」
ソフィーも感心した様に言って、ルースから離れて行った。
「ソフィーの職業が“聖女”なんだな…」
知らない事ばかりだよと、キースはポカンと口を開いた。
『聖女とは時代に一人しかおらぬゆえ、知らぬ方が普通じゃ』
ネージュのフォローに、キースは言葉もなく頷き返した。
それからデュオが神妙な顔でルースの前に座る。
「もう期待しないでおくよ。フェルがあんなにレベルが伸びてるんじゃ、僕なんて追いつけないや…」
少々萎れてしまったデュオに、笑みを湛えて首を振ったルースは、デュオのステータスを確認していく。
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『ステータス』
名前:デュオーニ
年齢:18歳 (前回:17歳)
性別:男
種族:人族
職業:魔弓士
レベル:22 (前回:3)
体力値:299 (前回:170)
知力値:206 (前回:101)
魔力値:182 (前回:41)
経験値:130 (前回:58)
耐久値:144 (前回:49)
筋力値:179 (前回:55)
速度値:237 (前回:53)
スキル:集中・斥候 (前回:集中)
称号:―
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「あれから一年経っていませんが、デュオも伸びましたね。斥候スキルも増えています」
ルースがそう声を掛ければ、先程から一転、デュオは嬉しそうに顔をほころばせた。
「もっと頑張るよ」
もっと鍛錬を積んで、皆の役に立てるようになるよと言って、デュオは下がっていく。
「デュオは“魔弓士”…?」
「はい。デュオは“弓士”の上位職である“魔弓士”です。元々の素質があり、飛び級した感じと言えばわかりやすいでしょうか?」
「だから、デュオが俺に追いつくんじゃなく、俺がデュオに追いつくように頑張るって事だ」
フェルの職業はまだ最初の職業で、フェルが目指しているものは上位職である“聖騎士”なのだ。フェルがそう言い添えれば、デュオは照れたように微笑んだ。
「はぁ、何だよ君達は…」
このパーティで、常人は自分しかいないのかとキースは顔を歪めた。
隣で自分を過小評価しているキースに、ルースは微笑みを浮かべた。キースの次回のステータス確認が楽しみである。
「そんで、次はルースだな?」
まだルースのステータスを視ていない為、フェルが教えてくれとルースに言う。
「少々お待ちください」
ルースはそう言うと、両手を足の上に置き目を瞑った。
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『ステータス』
名前:ルース
年齢:19歳 (前回:18歳)
性別:男
種族:人族
職業:魔剣士
レベル:2 (前回:75)
体力値:672 (前回:403)
知力値:595 (前回:310)
魔力値:520 (前回:337)
経験値:583 (前回:228)
耐久値:387 (前回:190)
筋力値:431 (前回:174)
速度値:456 (前回:187)
スキル:倍速・波及・叡知・雲外蒼天・神風龍
(前回:倍速・波及・叡知・雲外蒼天)
称号:―
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「はぁ~もう“魔剣士”じゃん。やっぱりルースが一番成長するな…」
フェルが驚いた様にルースのステータスの感想を言った。
「フェル、そうではないわ。いえ、それもあるけど、ルースは沢山頑張ってるんだもの。当然だと思うわ?」
ソフィーが、フェルの言葉に付け加える形で言い添える。
「いえ皆も等しく頑張っている事は、私が一番良くわかっています」
皆も日々の訓練に、クエストだけでなく旅をしながらも魔物と戦っているのだ。
ルースだけが行っている訳ではないと、ルースは皆に笑みを向けた。
「俺も聖騎士になる為に、もっと頑張れって事だな」
フェルが拳を握って力を込める。
「そうそう。フェルも頑張ってね」
「僕も負けないよ」
「デュオもね?」
ソフィーがフェルとデュオをなだめる様に声を掛けるのを、キースは特別なものを見るように眺めていた。
「このように私と一緒に居ると、レベルや数値が他の人よりも早く成長します。その事は他言無用にしていただけると…」
「―ああ、勿論言わないよ。言う奴もいないしね」
キースはルースの言葉で我に返ると、当然だよと答えた。
ルースとフェルは19歳、ソフィーとデュオは18歳になったばかりだというのに、彼らの計り知れない能力を感じたキースは、自分ももっと努力しなくてはと気を引き締めるのであった。