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【221】申し出と理由

【お詫び】

昨日、この話(221話)を220話として投稿してしまい、1話を飛ばしてしまいました。

その為、9月4日にこの「申し出と理由」の前に1話(【220】キースの情報)を挿入いたしました。

大変お手数ではございますが、前話をご一読下さいますと幸いです。<(_ _)>

 キースのステータスを確認したあと再び帰路についたルース達は、西の空に黄色を湛えた雲を見上げながら、のんびりと歩いて行った。


 その道中は往路とは違い、キースの顔にも笑みが戻っている。

 まだ体は辛そうなものの、キースの表情には感情が乗るようになっていた。



「ソフィーの作る飯はうまいだろう?」

 フェルが自慢するようにキースに言った。道すがら皆で、他愛のない話を続けているのだ。

「もう~やめてよフェル。大した事ないのに恥ずかしいじゃないの…」

「いいや、フェル君の言う通りだよ。今日の丸にぎりはとても美味しかった」

「それなら良かったです…」

 キースが言って笑みを向ければ、ソフィーは表情を緩め照れたように笑った。


「俺の事は呼び捨てにしてくれよ、キース。俺はそもそも、キースを呼び捨てなんだし」

「私もソフィーって呼んでください」

 フェルとソフィーに続き、ルースとデュオもキースへ気安くして欲しいと頼む。

「皆もオレの事も呼び捨てで。その方が友人っぽいだろう?」

 どこかで聞いたようなキースの言葉に、ルース達は笑みを広げて頷くのだった。


 こうして道中に歓談をしつつ町へと戻ると、キースの道案内で先にチタニアの店へと寄った。


 チタニアの店はこじんまりとした店ではあるものの、その店内は明るく木の温もりに溢れ、綺麗に飾られている薬類が装飾品の様で、女性客でも気構える事なく入れそうな薬屋であった。


 コロロン


 扉に付いたベルを鳴らして店内へと入って行けば、奥の部屋から「いらっしゃい」とチタニアが顔を覗かせた。


「「「「こんにちは」」」」


 ルース達が揃って頭を下げれば、チタニアが驚いた顔をさせ慌てたように店内へと出てきた。

「たった一日で、キースは随分と顔色が良くなったなぁ…」


 挨拶をすっとばしたチタニアは、キースを余程心配していたのか真っ先にキースの肩を両手で掴み、その顔を観察するように覗き込んだ。

「ちょっと…チタニア…」

 いきなりの事でキースは顔をのけぞらせて距離を取ろうとするも、チタニアは離れようとするその顔に手を添え、グッと引き戻して覗きこむ。

 ルース達は、熱烈な歓迎を受けているキースに笑みを向け、チタニアが少しは安心してくれれば良いと思う。


「ああ…。やっぱり君達にキースを頼んで良かったよ」

 チタニアはキースの顔から手を離すと、その横に控えていたルース達に視線を向け、安心した様に笑みを向けた。


 そうして少し落ち着いたチタニアが、何かに気付いた様に“しまった”という顔をする。

「ああ…すまないね、挨拶もまだだった。いらっしゃい、わざわざ来てくれてありがとう」

「チタニアはもう少し落ち着きなよ…」

「あんたに言われたくないよ、キース」

 誰のせいなんだいと、チタニアとキースが親しそうに話す姿を見て、ルース達は顔を見合わせて微笑んだ。


「それで皆一緒って事は、宿の方は大丈夫だったんだね?」

「はい。宿の方は問題ありませんでした」

 そうルースが言い添えれば、チタニアは頷いた。

「それで、今月いっぱいは“潮騒”でお世話になる事にしましたので、それまではキースさんと一緒に行動させてもらう予定です」

「そうしてもらえると、私も安心できるよ」


 チタニアへと今後の予定を伝えたルース達は、お土産と称して今日摘んできた薬草を少しばかりチタニアへと渡した。勿論クエストの薬草もしっかりと採取してある為、これは始めからチタニアへ渡す目的で集めたものだ。


「ありがとう。こんな気遣いまでしてもらって、すまないね」

 うんうんと嬉しそうなチタニアに、こうしてキースの事を報告し終えると、折角なので数点の薬を購入させてもらったルース達である。

「チタニアの薬はまずいけど、効果はあるよ」

 とキースが冗談めかして言えば、チタニアがキースの頭を軽く小突く。

 この二人も本当の家族の様に気安い間柄なのだなと、その二人を中心にその場は和んだ雰囲気となっていった。


 明後日から2週間ほど船で沖合に出ると言ったチタニアに、その間はお任せ下さいと挨拶をし、ルース達はチタニアの店を後にした。



 そうして冒険者ギルドに行き、今回のクエストの報告と買取りを提出すれば、最後に職員がキースに視線を向けて言い添えた。


「キースさんは既にE級までのポイントが溜まっております。前回のワイバーン討伐のポイントが大きく付与されている為ですね。従ってキースさんはD級へ昇格となりますので、次回のクエストからお一人でもD級クエストまでを受ける事が出来ます」

 おめでとうございますと笑顔を向けられたキースは、戸惑うようにルース達の顔を見た。


「昇級おめでとうございます、キースさん」

「良かったですね」

 ルースとソフィーがそれに言葉を返し、フェルとデュオも当然だなと頷いて笑みを見せた。

「え?昇級ってこんなに簡単なのか?」

 小さな声でルースに聞くキースに、苦笑した職員が声を潜めて説明し始めた。


「キースさんは特別早いのですよ。新人冒険者の大多数は、同じ位のランクの人とパーティを組んでクエストを熟して行きます。ですがキースさんは上級…上位の冒険者と仮でパーティを組まれた事が幸いし、クエストポイントと素材ポイントが迅速に貯まったお陰で、目覚ましい速度で昇級しているのです。私もここまで早い方は初めて見ました」

 そう言い終えて、職員も嬉しそうに笑みを添えた。


「そういう事ですね。僕もここまでではなかったですが、ルース達とパーティで行動してから他の人よりうんと早く昇級しました」

 この人達のお陰なんですよと、デュオはルースとフェルとソフィーをチラリと見てキースに言った。

 言われたルースとフェルは顔を見合わせて肩をすくめるのだが、キースはその話で理解したのか、ルース達に視線を向けて大きく頷き、再び職員へと視線を戻した。


「理解しました。ありがとうございます」

「はい。これからも頑張ってくださいね」

 満足そうなギルド職員に見送られ、ルース達は冒険者ギルドを後にした。



「このままクエストを受けて行けば、キースさんはすぐにでもソロとして活躍できそうですね」

 ルース達は宿に戻りながらまだ体が万全ではないキースに配慮して、人通りの少ない道を選んで歩いて行く。

「いや、オレは…」

 まだ何も考えられないと言うキースに当然だと頷きを返せば、キースが自宅のある丘を見上げている事に気付く。

 町中には店先に灯る温かな光が溢れる中、その灯りがキースの顔に影を落としていた。


 人の心の中にある憂いは、そう簡単にはぬぐう事は出来ない。

 一見とても賑やかに見える町中の何気なく歩く人たちでさえ、色々な想いが心の中に溢れているのだろうと、ルースはキースの横顔から視線を外す。

 ルース達は、キースを包み込んでいる哀情に溺れる事なく、早く立ち直って欲しいと心の中で祈るのであった。




 こうしてルース達と生活を送るキースは、本人もこれ以上迷惑は掛けられないと意識している為か、日に日に顔色もよくなり体調も戻ってきたようだった。

 そしてそれにはキースが寝静まった夜中、ソフィーが静かに起き出し、皆にも黙ってこっそりキースへ回復魔法を掛けていた事も、功を奏したとも言えるだろう。

 ルースがそんなソフィーに気付かない振りをして見守っていた事は、皆にも内緒にしている事である。


 そんな日々はあっという間に過ぎ、宿の延長期間も終わりを迎える頃、今日もクエストを終え一日の終わりとなる夜、改まったキースが布団を敷いて寛いでいた皆に声を掛けた。


「皆ちょっと聞いてもらいたいんだけど、いいかな?」

 キースの緊張した雰囲気を感じたルース達は、布団の上に膝をつき合わせて姿勢を正した。

「はい、大丈夫です」


 皆を見回して真剣な眼差しを向けるキースは、意を決した様に口を開く。

「ここの処ずっと考えていた事があるんだ…」

 ルース達もキースが時々考え込むような様子を感じ取っていた為、キースが告げようとしている言葉を待った。


「君達は旅をしていると聞いているが、目的を聞いても良いだろうか?」

 キースはルース達に興味を持ってくれたのだろうかと、ルースは不思議そうに首を傾けた。

「あっいや、何と言うか…その目的に支障がないのであれば、オレも同行させてもらえないかと思ったんだ…」

 尻つぼみになりつつもキースが話してくれた言葉に、ルース達は意図を汲んで納得した様に笑みを向けた。


「そうでしたか。キースさんが同行して下さるのなら嬉しいですし、旅の目的には何の不都合もありません。ですが私達は少々、人に言えない事情もありまして、そんな私達と行動を共にするという事がキースさんのご負担にもなり兼ねないんです…」

 ルースは言ってフェル、ソフィー、デュオを順に見回せば、皆は首を縦に振って肯定してくれる。


「ではその秘密があるから、オレが一緒ではまずいという事だな?」

 キースは言葉の裏の意味を解釈したのか、ルース達がやんわりと拒んでいると受け取ったようだった。

「キース、そういう事じゃない。俺達はとある奴らに追われているから、キースに迷惑が掛かると言ってるんだ」


 これ以上誤解をされては叶わないと、理由をはっきりと言葉にしたフェルに、キースは驚いた様に目を瞬かせた。

「…え?」

「キースさん、そういう事です。もし同行して下さるというならば、私達の話を聞いてからにして下さい」


 ルースの言葉に続いて皆の真剣な視線がキースへと集まり、今度はキースが背筋を伸ばす番なのであった。


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