【220】キースの情報
【お詫び】
昨日、この話を飛ばして投稿してしまいました。
その為、9月4日にこの(【220】キースの情報)を挿入しております。
大変お手数ではございますが、ご一読下さいますと幸いと存じます。
申し訳ございませんでした。<(_ _)>
「キースさん、スライムを凍らせていただけますか?」
ルースは、フェルが駆け回るのを眺めているキースの隣へ行って声を掛けた。
「わかった」
短く返事をしたキースは、動き回るスライムに向けて躊躇なくそれを行った。
「“路面凍結”」
飛び回るスライムの着地点を予測しその地面を凍らせた魔法は、そこへ着地したスライムを取り込むように冷気を纏わせ一瞬で凍り付かせたのだった。
「わぁ…」
「え?」
デュオとソフィーがその様子に声を出し、フェルはその地面を見て焦ったように急停止した。
キースはルースの取る方法とは違い、その物を凍らせるのではなく着地点を凍らせ、そこへ縫い留めるようにスライムを凍らせたのだった。
「ほぅ…」
ルースもその手腕を見て、感嘆の息を吐いた。
魔法を習って覚えた者からすれば、この発想は中々思いつかないだろう方法である。
「何か…間違えたか?」
ルースを振り返ったキースは、そう言って慌ててキースに問いかけてくる。
「いいえ。この様な足止め方法もあるのかと、感心しておりました」
ルースに笑みを向けられたキースは瞬きを繰り返すと、薄っすらと照れたように笑った。
ルース達はやっと笑みを見せてくれたキースに、自然と顔も綻ぶ。
「私では、スライム本体に氷結魔法を掛ける方法しか思いつきませんでした。魔法とは発想力と想像力であると、今の魔法で改めて学ばせていただきました」
「あぁ…普通ならそう考えるのか…。魔法は独学だったから、オレが勝手に色々とやってるだけなんだけどな…」
ルース達とは違い、これは周りに魔法を使える者が居なかった、キースだからこその発想であったらしい。
まだ覇気がないものの興味のある魔法の話に、少し気が紛れたのかキースはこの時、少しずつ言葉を発してくれていた。
ルースとキースが話し込んでいたその間、凍ったスライムの前に立ち尽くしたままルース達を眺めていたフェルが、「どうすんだよ、このスライム」と呆れたように見つめていたのはご愛敬である。
その後やっとそのフェルに気付き、スライムの氷漬けを解除し種を潰したルース達は、本日のもう一つのクエストである“スライムの素材回収”を達成したのだった。
今回もまた、皆へスライムの難易度を披露したフェルだけが疲れ果て、それを始めて見たデュオとキースへとフェルは笑いまでをも提供してくれたのである。
そして未だ森が続く帰り道、ルースはキースと並んで歩きながら声を掛けた。
「今日はいかがでしたでしょうか?」
「久しぶりに体を動かして少し疲れたけど、大丈夫だ。元気が出てきたよ」
そう言ってやつれた顔に笑みを乗せるキースに、本心か気を遣っているのかはルースには分からぬまでも、そう言葉で表現してくれただけでも嬉しく、「そうですか」とルースも笑みを添えてキースへと返す。
「そう言えば、ルース君は四属性魔法が使えるんだよな?」
「ええ。キースさんも、ですよね?」
ルースがキースへと聞き返せば、キースは考え込むことなく返事をする。
「オレは3つ、じゃないかなぁ?水・風・火しか使った事がないし」
「…キースさんは、ステータスの確認をしたことが無かったのでしたね?」
「そう…だな…」
ルースが教会に関する事を問えば、キースの表情に影が差す。
ルースはそれを見て、何かまずいことを聞いてしまったのかと慌てて謝罪すれば、キースは自分が表情に出してしまったのだと気付き、キースも謝罪を口にした。
「ごめん…ちょっと父さんの事を考えてしまったんだ…。オレがステータスを視た事がないのは、オレを守る為に、父さんが教会との接触を避けていたからなんだろうなって」
「…そうでしたか」
ルースもその先には踏み込めずに頷くに留めるも、キースは何でもない事の様に話を続けた。
「父さんは、オレの本当の父親じゃないんだ。オレが本当の親に処分されそうになっていたところを、父さんが助けてくれた。それでそいつらからオレを守る為に、父さんはオレを隠し通してくれていたんだ。それに気付いた時にはもう、父さんに恩返しさえできない状態だったんだけどな…」
父親が亡くなる寸前に気付いた細やかな愛情に、キースは返せなかった想いで顔を歪めた。
「そうだったのですね…。素晴らしいお父様でしたね」
「…ああ」
ルースとキースの会話を前で歩いているフェル達も聞いていたが、フェル達は敢えて口を挟まず前を向いて歩みを進めていた。
そうして暫しの間をおいて、ルースは話題を元に戻す。
「キースさんは多分、四属性だと思いますよ?」
「…そうかなぁ」
キースは実感がない為、言葉を濁した。
「視てみますか?」
何気なく聞いているルースの声に、前を歩いていたフェルが木の根に躓いてよろけた。
「フェル、足元に気を付けてくださいね」
ルースがクスリと笑みをこぼしてフェルに声を掛けるも、フェルは“お前のせいだ”と言わんばかりに呆れた視線を返した。フェルが躓いたのはルースの話で足元の注意が逸れたためであり、ルースが発した内容が問題であったのだ。
「え?これから教会に行くって事か?…オレ、教会はちょっと…」
先日フレーリーの埋葬で教会には世話になったが、ステータスを視る為に係わる事は避けたいのだと、キースは困ったように言う。
「いいえ、教会には行きません。私達も出来れば、教会とは親しくなりたくはありませんので…」
苦笑しつつルースが言えば、そこでソフィーが振り返って言葉を挟んだ。
「じゃあ、この辺りで一度休む?」
ソフィーは、どうせなら落ち着いてやりなさいとでも言いたげにルースに言った。
「え?休憩?」
もう帰るだけというところで休憩の話になって訝しんだキースが、体調でも悪いのかとルースの顔を心配そうに見つめ返した。
「そうですね。この辺りで一度止まって休憩にしましょう。私の体調は大丈夫ですよ」
心配そうな表情のキースに、口には出さないものの、人の事より自分の事を心配してくださいと思うルースである。
そうして座れそうな場所で一度止まり、皆が腰を下ろす。
ルースとキースのやり取りを聞いていた皆は、大人しくこれからの流れを見守ってくれるらしく、何も言わずにルースを見つめている。
その視線を感じつつルースはキースの正面に座ると、キースと視線を合わせた。
「それで…ステータスの話で、急にどうしたんだ?そもそも教会に行かなくちゃ、ステータスは視れないんだろう?」
やった事がないため良く知らないがと言うキースに、ルースは先に説明を付け加える事にした。
「キースさん、私にはステータスを視る事の出来る“スキル”というものがありまして、教会へ行かずとも人や物の情報を視る事ができるのです」
ルースがそう打ち明けても、キースは理解が及ばないのか思案するように眉を寄せた。
「スキルでステータスを視る…?」
「はい、それは“叡知”というスキルです。スキルには常時発動型と任意で発動するものがあり、このスキルは任意で発動するスキルです。その為、意図しなければ他人のステータスを視る事は出来ませんので、許可なく他人のステータスを視る事もございません」
ルースは物に触れる時、その情報を知りたいと思えばこのスキルが発動するのだと気付いていた。きっかけであったマジックバッグの時も、粗悪品を買いたくないと思いながら品物を検分していた事で情報を視れたのだろうと、後から分かったのだ。
もし触れただけでステータスが視えるようになっていたら、ルースの情報処理が追い付かなくなっていたのかも知れない。
「そうか…」
キースはそのステータスについては良くわからないものの、ルースがそのスキルを使い自分を視ようとしている事に気付き、不安の混じる表情を浮かべた。
「少々お手をお借りしても?」
触れないと視えないと言うルースの補足に、キースがゆっくりと両手を差し出しせば、「失礼します」とルースはキースの両手を握る。
ルースは少しの間瞼を閉じていたが、程なくして手を離す。
「ありがとうございました」
ゆっくりと手を下ろしたキースは、軽く頷いた後ルースを見つめた。
「キースさん…。いいえ、ステータスには“キリウス”さんとありました。職業は魔法使いで間違いありません」
ルースがキースと視線を合わせて伝えれば、キースは大きく目を開いた。
「……っ」
キースも先日聞いたばかりの自分の本当の名を、知りえない立場のルースの口から聞いた事で、ルースが伝える言葉の真偽はこの時点ですでに確定したようなものだった。
この事実を知れば、ルースが持つスキルがとんでもなく有用な物であると気付き、キースはゴクリと喉を鳴らす。
そんなキースの動揺を気にすることなく、ルースは笑みを湛えたまま話を進める。
「それではステータスの内容を、これからお伝えしますね」
ルースはそう付け加えると、今視たステータスを本人に伝えていった。
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『ステータス』
名前:キリウス
年齢:21歳
性別:男
種族:人族
職業:魔法使い
レベル:53
体力値:429
知力値:457
魔力値:561
経験値:148
耐久値:197
筋力値:177
速度値:203
スキル:乗算
称号:―
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キースへと伝えたステータスは、それこそルースの倍速の恩恵を受けているルース達と比べても、全くと言って良いほど遜色がないものであった。
元々キースの魔力量が多い事からも分かるように、今までの人生の中で、多数の経験を積み努力を重ねて来ていた事が分かる結果であった。
ルース達はその数値の凄さに驚くが、キース本人はそもそもの基準が分からない為、そんなものかと、すんなり受け入れたようだった。
「そうか…そんなに細かく数値が出るもんなんだな、ステータスとは」
冷静に言うキースに、デュオが慌てたように声を掛けた。
「キースさん、ご自身が凄いのだと気が付いてください」
「ん?」
何がだ?と言うように、キースはデュオへ首を傾けた。
「そうですね。キースさんのステータスは、他の人よりも成長速度が速いようです。それはキースさんの努力の賜物として、ご自身は誇って良いものだと思います」
取り敢えず、ルースに褒められているらしいと気付いたキースは照れくさそうな笑みを浮かべ、そういうものかと皆へ感謝の意を伝えるのであった。