【22】秘密とめまい
本日2話目の投稿です。(2/2)
投稿し損じました。すみません(汗)
次の日もまた道を歩き続ける。
この2日でルースとフェルは大分打ち解けており、フェルは自分の村の事なども積極的に話していた。
「でな、俺が村を出るって伝えれば、親は大反対だよ。騎士の職で村にいるなんて、限界があるってもんだろう?いいとこ、魔物の討伐要請員が関の山だ。でも俺は魔物と戦った事もなかったし、これはやっぱり村を出て、騎士の募集を見つけようって思ったんだ」
そう言いながら苦笑するフェルに、ルースはただ頷いていた。
「だろ?ルースん家もそうじゃなかったか?」
フェルはそう言ってルースに聞くも、ルースは苦笑を返しているだけで、その先を話そうとしない。
「あ…もしかして、ルースは家出してきたのか?」
ルースが何も言わないのでフェルがそう解釈すると、さすがにちょっと違う方向に取られてしまいそうで、ルースは声を出した。
「家出ではありません、ちゃんと許可を取りました。家を出る事は悲しまれましたが、ある意味では反対されていませんでした」
「ある意味?」
とフェルは、どういう事だとルースに聞いた。
「私は…私の家族は本当の家族ではなく、10歳位の時、ある人に拾われてここまで育ててもらいました。私にはその人と出逢うまでの記憶がなく、その人に今の名前を付けてもらったのです。だから、その記憶の手がかりを求めて旅に出る事にした…そういう意味で、反対はされませんでした」
微笑みつつもしっかりとそう話すルースに、フェルは自分が聞き過ぎてしまった事を悟る。
「ごめん…」
「いいえ、フェルは知らなかったことですし、私は気にしていませんよ」
しっかりとフェルに顔を向けて、ルースは言う。
その顔はその言葉通り、特に感情のこもった顔には見えなかった。それでも悪いと思ったフェルが立ち止まると、ルースに頭を下げた。
「いいえ」と声を出そうとして口を開いたルースへ、先にフェルが声を掛ける。
「俺の秘密も教える!俺の本当の名前は“フェルゼン“っていうんだ!」
“フェルゼン“
その言葉を聞いたルースの頭に、何かが生まれそうになって、ルースは頭を抱えた。
「………」
そのまま立ち止まり頭を抱えるルースに気付いたフェルが、慌てて手を伸ばす。
「おいルース、大丈夫か?俺がまた何か言っちまったのか?」
混乱して手を彷徨わせるフェルに、やっと落ち着きを取り戻したルースが顔を上げた。
「すみません…なんでもないんです。ちょっとめまいがしただけですから…」
と心配してくれるフェルに、ルースはそう伝える。
「大丈夫か?あぁ顔色が悪いな…本当に大丈夫か?」
俺の名前のせいかと、フェルは苦笑している。
「このフェルゼンっていう名前は、母ちゃんがピピッときて付けたらしいんだけど、俺は偉そうでいやなんだ…違う名前が良かったと思って、フェルって名乗ってるんだ。だからその名前は、秘密にしといてくれよ?」
そう頭を掻きながら、フェルはルースへ話す。
その声を半分聞きながら、ルースは先程の事を考えていた。
あれは何だったのだろうか…フェルゼンという名を耳にしたとき、魔巣山を見たときの様に何かが引っ掛かり、その後、頭の中に虹色の光が見え、その光に目がくらんだ様にめまいがしたのだ。
(何でしょうか今のは…)
フェルの言葉に相槌をうちながら、ルースはそちらの事に気を取られていた。
そんな話をしつつも道を歩けば、道の先に小さな集落が見えてきた。
2人はそれに気付いて頷きあうと、軽い足取りでその集落へと向かっていった。
たどり着いた所は、村と呼ぶには家の数が少なく、3軒の家が立ち並ぶ場所だった。
しかしここで食料を手に入れないと、フェルの食事は今日で終わる事になるだろうと、2人は一番近くの家に行って扉を叩いた。
コンコン
「すいませーん。誰かいますか?」
フェルが大きな声を出すも、返事がない。
コンコン
「すいませーん」
何度かフェルがそうやって声を掛ければ、家の裏から体の大きな男性がこちらへ歩いてきた。
「何だ?何か用か?」
そう言って、高い位置から見下ろされる鋭い眼光に、フェルが怯んで一歩下がる。
それを見て、ルースがフェルの前に進み出ると、会釈をしてから男性を見つめて話し出す。
「お忙しいところ申し訳ありません。私たちは旅の者ですが、食料とする干し肉を少し分けていただけないかと思い、声を掛けさせていただきました」
それを聞いた男性は、厳つい顔を解して話し始めた。
「何だ、坊主は随分としっかりした奴だな。ああ、干し肉か…おう、いいぞ。中に入ってくれ」
そう言って扉を開けると家の中へと入っていった。
この男性は木こりをしているらしく、この家の奥にある森から木を伐りだしているとの事だった。
その為、ここにある3軒の家は、その木こり仲間たちと仕事を受けた時だけ使っている家で、冬の間は誰もいなくなるのだそうだ。
「運が良かったな。食料も先日手に入れてきたばかりで、まだ沢山あるから分けてやれるぞ」
と、そう説明してくれた。
「そうでしたか。それは助かりました」
とルースも笑ってそれに答える。
そして代金を支払うと言えば、少量だから持っていきなと気前よく渡してくれる。
大きな体でとても怖そうに見えたが、人は見かけによらないものだと、大人しく黙ってそれを見ていたフェルが、心の中でそう呟いたのだった。
そして2人は木こりの男性にお礼を伝え、カルルスまでは大人の足であと1日だと教えてもらった。
そして「気を付けるんだぞ、坊主」と、笑顔で手を振ってルース達を見送ってくれた。
「助かりましたね、フェル」
2人はそこから先へと進みながら、ルースがフェルに声を掛ける。
「ああ、助かった…。それと、ルースにも礼を言わなきゃだな。俺がもし一人だったら、あの人を見て逃げ出していたかも知れねーわ…」
とフェルが苦笑した。
「人はちゃんと話せば、話は通じると私は思っています。ですが、それは私が想像できる人達の事で、これから行く大きな町では、きっとこうは行かないだろうとも思っています」
「そんなもんか?」
「ええ。大きな町へ行けば、ただ親切な人はいないと聞いています。それぞれが、まず自分の利益を考えて動いている、という事の様です」
「へえ…ルースは色々と物知りだな…」
と、フェルが感心しながらそう話す。
「いえ、私は冒険者だった人に随分とお世話になったので、その人からそういった事も、色々と教えていただいたんです」
ルースはマイルスの顔を思い出しながら、少し懐かしい気さえした。村を出てまだ数日であるはずが、もう随分と遠い過去に感じる。
「そっか…俺もこれから勉強していかないと、すぐ騙されそうだな」
とフェルは苦笑し、ルースはそれに肯定を返した。
「ええ。まだ、騙されてお金を取られる位なら良いですが、売り飛ばされたり殺されたりする事もあるかも知れません。そうなれば、後悔しても遅いという事になりますから、今の内から十分、警戒はしておいた方が良いと思いますよ」
この話は、マイルスから耳にたこができる程に注意を促されてきた。これを知ると知らぬのでは、明らかに未来が変わってくるだろうと、自分を心配してくれたマイルスと重ね、フェルへとその想いを伝えたのだった。
そしてこの日の夕方前、カルルスに近くなっているはずの場所で、魔物に遭遇してしまう。
この道の近くで出没する魔物はゴブリンが多いようで、どこから湧いてくるのかは分からないが、度々目撃されている魔物だ。今は幸い空も明るく視界も良好である為、2人は打って出る事にする。
「フェル、そちらの1体に集中してください。体全体で剣を使う事を忘れずに」
「わかった」
剣を手に、ゴブリン3匹に2人は突っ込んで行く。今回は、刃こぼれした剣を持つゴブリン2匹と、槍を持つゴブリン1匹だ。
右と左に別れ、右からはフェルが、左からは槍と剣を持つ2匹を引き付けたルースが剣を振る。
―― カキーンッカンッ ――
ルースは槍のゴブリンへは、火魔法で対応する。
「“火球”」
―― カキンッ! ――
火魔法を放ちつつ、剣のゴブリンには剣で打ちかかっていく。
その間ちらりとフェルを見れば、一応動けてはいるものの、又重心が上がってきている。
「フェル!腰を落とす!」
「おう!」
ルースが声を掛ければ、フェルから歯切れの良い返事がして、剣を構え直す姿が見えた。
大丈夫そうだなと再度自分の方へ集中すれば、ゴブリンの動きは単調であり、ルースは躊躇なく剣を突き立てていく。
―― ザクッ!! ――
『ブギィーイ!!』
ドサリとゴブリンが倒れると、ルースは剣を振ってから鞘に収めてフェルを見れば、フェルもしっかりと倒せたようで、荒い息を吐いてその場に立っていた。
「終わりましたね」
「ああ…まだ全然だな、俺は」
とフェルは自分の反省をしている様で、ゴブリンを睨みつけている。
「いいえ、この前はただ剣を当てているだけでしたが、今回はしっかりとその剣を、ゴブリンへ沈める事が出来ていました。2日でここまで上達すれば、早い方ですよ」
ルースが真面目にそう言えば、フェルが嬉しそうな顔をする。
「そうか…ルースにそう言ってもらえると、やる気が出るな」
フェルは少し照れ笑いを浮かべ、ルースを見る。
「では、これを処分しましょうか」
「ぐへっ…そうだった…」
あからさまに項垂れたフェルに笑い、2人は倒したゴブリンを処分する準備に取り掛かったのだった。
拙作にお付き合いいただき、ありがとうございます。
少しでもお楽しみいただけるよう、毎日更新中です。
引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。