【215】見極める為に
ルース達は宿屋の店主ニクソンとの話で、キースが町中にも姿を見せていないようだと分かった。
だとすると、その体調が優れない家族と関係しているのかも知れず、ルース達は部屋に戻ってきたソフィーにニクソンとの会話の事を伝えた。
「お父さんが…そうだったのね…」
「その親父さんに何かあったんだろう、って話になったんだ」
「私もその線が濃厚だと思います。まだ全てわかる程の付き合いではありませんが、私達の知るキースさんは、何も言わずに姿を見せなくなるような方ではありませんでした。もしご用事で出かけるような事があれば、きっと私達にも声を掛けて下さったはずであると…」
「そうだよね。気遣いが出来る人だったもんね」
ルース達は泊まっている部屋で、膝をつき合わせる形でお茶を飲みながら話している。
『知らぬ者がいくら考えても仕方あるまい。そんなに気になるのであれば、様子を見てくれば良かろう』
ネージュがそこで前脚に乗せていた顔を上げ、ルース達に視線を向ける。
「見てくるって言っても、私達はキースさんの居場所を知らないから…」
ソフィーが困ったように眉を下げ、ネージュに話す。
『そこのものを出せば、造作もなかろう。そやつは魔力を感知できるゆえ、近くであればすぐにそれに気付くはずじゃ』
そう言ったネージュは、部屋の中にある止まり木にいるシュバルツへと視線を向けた。
この宿には鳥型の従魔も気楽に過ごせるよう、部屋の中には止まり木の枝が設えてあるのだ。そういう小さな配慮が、冒険者達にも人気の宿となっている理由であろうとルースは思っている。
そこに留まっていたシュバルツが目を瞬かせてからバサリと翼を広げ、フェルの肩に舞い降りてきた。
そして、フェルが目の前にある菓子を一つ摘まんでシュバルツの前に差し出せば、それを当たり前のようにパクリと口に入れながら、シュバルツが念話を送る。
『我ナラバ,スグニ見付ケ出セルダロウ』
ネージュの言葉を当たり前だと言って、胸を張るシュバルツ。
「ですが見付かったとしても、どうするのかという問題もあります…」
ルースはそう言って視線を下げる。
「そのお父さんは、具合が悪いって聞いているのよね?」
ソフィーが皆に確認をするように見回し、それには3人共頷いて返事をする。
ソフィーの顔には心配そうな表情が浮かんでおり、ルース達はソフィーが何を言わんとしているのかに気付き、言葉を出せずにいた。
「だったら、何とかしてあげたいわ…」
やはりと言おうか、ルース達が思っていた通りの言葉を紡ぐソフィー。
しかし皆も心の中ではソフィーと同じ思いを持っており、ルース達3人は顔を見合わせて苦笑するのだった。
「ソフィーなら、そう言うと思ったよ」
「ソフィーはいつも、他人の事も自分の事の様に考えるからなぁ」
「ソフィーは、聖女ですからね?」
ルースがネージュの言葉を先に言った事で、ネージュは当然だと頷くに留める。
「もう…そんなのじゃないのよ?やっぱり、困っているのならって考えるのは、当たり前の事でしょう?」
ソフィーは困ったように眉を下げ、笑みを浮かべた。
こうして取り敢えずはキースの安否だけでも確かめようという話になり、シュバルツが潮騒から飛び立って行った。
ルース達はシュバルツが戻るまでの間、部屋で武器の手入れや出発に向けて巾着の中の整理をする。
すると荷物を整理していたフェルとソフィーが、ダンジョンの中で見つけた物を見て手を止めた。
「これって何だっけ?」
「それはロッドね。ただ、完成品ではないみたいだから今はただの棒みたいだけど」
フェルとソフィーの声で、剣を磨いていたルースと魔弓の手入れしていたデュオが顔を上げる。
「そう言えば、そんな物も拾ってたね」
「ええ。それはまだロッドとしては未完成品でした。何かの素材を嵌めて完成させ、ロッドとして使用できるようです」
4人は、ダンジョンの初回で拾ったロッドを久しぶりに見て、これをどうするかと言う話になった。
「ロッドは、魔法使いが使う物だったっけ?」
フェルがルース達に聞いた話を思い出して問いかけた。
「それは間違ってはいませんが、魔法を使える者全てに使える物だと思います。ですが私やフェル、デュオでは武器を装備できなくなりますので使えないでしょう。それで一般には魔法使いが使う物と認識されているのだと思います。それを踏まえ、ソフィーであれば使えると思います」
ルースが考察して話せば、ソフィーがじっとそのロッドを見つめて考え込んだ。
このロッドは1m程の長さがあり、それなりに重さもあってソフィーが扱うのには少々大きい気もする。
するとソフィーはそのロッドを手に取り繁々と見つめ、「ん~」と唸った。
「だったら、もう少し小さい方が手に馴染む気がするわ?私には少し大きい気がするの」
「じゃあ、売ってしまった方が良いかな?」
「そうだな。要らないもんを持ってても、邪魔になるだけだし」
デュオとフェルは、ではどこに売りに出すのかと話を続けた。
「でもこれって、未完成品なのよね?」
ソフィーはそもそも、これはロッドとして売れるのかと疑問を口にする。
「そうですね、私もそれは思います。もし売るのであれば、それをロッドとして売りに出さないと、値段も付かないと思いますよ?」
ルースはそれも考慮して、ダンジョンから出た後の買い取りでそれを出さなかったのだと付け加えた。
「じゃぁこの状態だと、二束三文って事だね」
「にそくさんもん…」
デュオが言った言葉を繰り返すフェルは、がっかりした様に肩を落とす。
「それじゃぁ、ロッドにしちゃえば?」
ソフィーがそう言って自分の巾着から、大きな魔石をゴロゴロと取り出した。
「ルースは、相性もあるって言ってたでしょう?この中から一つくらい相性の良い物があるかも知れないから、これで試してみない?」
ソフィーの提案に物は試しと、皆がソフィーの前に集まって腰を下ろす。
「それで相性ってのは、どうすればわかるんだ?」
フェルがルースに視線を向けるが、ルースもそこまでは知らない事だ。
ルースが困ったように首を振って苦笑すれば、ネージュから念話が送られてくる。
『その穴の上にに置いてみればよかろう。さすれば何かの反応があるやも知れぬ』
ネージュの助言に皆は頷き、ロッドを置いて穴の部分にひとつの魔石をソフィーが乗せるも、魔石の方が少し大きい事もあり持ち上げれば落ちてしまいそうだった。
「ルース、このまま触ってみて?」
魔石を落とさぬようルースがそのロッドにそっと手を添え、程なくして首を振った。
「変化はありませんね」
それは魔石が嵌っていないからなのか相性の問題かは分からぬものの、その次の魔石を取ったソフィーが、先程の魔石をどけてそこに置き換えた。
そうして12個の魔石を次々に試していけば、最後の金色の魔石を乗せたところで、それは今までとは違う変化が起きる。
― カチリ ―
音を聞いたルース達は、頭の中に疑問を浮かべてロッドを凝視した。
「んあ?」
「…嵌ってるね」
「入ってるわね」
どうした仕組かは分からないが、サイズが違うはずのロッドの穴にその金色の魔石が嵌ったのだった。
ルースがそっとロッドに手を伸ばして触れれば、先程までとは違うロッドのステータス表示を見て喉を動かした。
「このロッドは、“フルグル”という名前になりました。属性は“雷”ですが魔力の補助具として、他の属性魔法を使う者にも使用ができるようです。というよりも、雷属性が使えない者でもこのロッドを使えば、雷属性が使えるようになると…」
ルースはステータスに表示された事を皆に伝えている間、とんでもない物が出来てしまったのだと驚愕していた。
「へえ~。じゃあ、それなりに高く売れるって事か?」
フェルは利用価値が上がったのであれば、高額で売れるのかとルースに聞いた。
「え?ちょちょっと待ってよフェル。これを売るって…?」
「売るのは一度考え直した方が良いかも知れないわよ?」
デュオとソフィーが焦ったようにフェルの言葉を止めれば、フェルはキョトンとした顔で2人を見る。
「フェル、私もこれを売るのは少し考えた方が良いと思います。このロッドを売るとなれば、それなりに目立つ事も考慮しなければなりません」
ルースが言った事にも首を傾けるフェルは、「そうなのか?」とルースに問いかけた。
「目立つというのは、このロッドの性能が高い事が原因です。そもそもこの嵌ってしまった魔石自体、1つで金貨50枚程の価値がある物です。その上、魔力があれば雷属性も使えてしまうのですから、店頭に出してしまえば注目の的になる事でしょう」
ルースがしっかりと説明すれば、そういう事かとフェルもやっと納得したと頭を掻いた。
「これを売るにしても、時期と場所を考えないと駄目という事か…」
極力目立つ事を避けたいルース達は、今はこのロッドを売らずに仕舞っておこうという話になるのだった。
そんな事をしている内に、町に出ていたシュバルツが窓から戻ってきた。
そうしてフェルの肩にシュバルツが留まると、フェルがお菓子を口元に出せばそれを口に入れるシュバルツだ。
いつも言い合いばかりしているフェル達であったが、そういうところは意思の疎通ができているらしく、見ていて微笑ましい。
『見付ケタゾ』
そこへシュバルツの念話が入り皆も気を引き締めれば、シュバルツは知った情報を口にする。
『アイツハ,マダ町ニ居タガ,気配ガ薄クナッテイタ。或イハ,生気ガ弱マッテイルトモ,考エラレル』
シュバルツの気掛かりな報告に、皆が目を見張った。
「シュバルツ、すぐにそこへ案内してもらえますか?」
シュバルツの話から、何かあったのだと考えたルース達は、それからすぐに宿を出て、キースの下へと向かって行ったのであった。
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