【21】その先を考える
拙作にお付き合いいただき、ありがとうございます。
本日2話、更新を予定しております。(1/2)
「フェルの食料は、あと何日分ありますか?」
次の日、日が昇り始めてから2人は再びカルルスへ向けて移動を始め、今はその道中である。
「んん…そうだなぁ、俺の干し肉は、あと1日ってことろかな。そういうルースは?」
「私は、あと2日位は何とか持つと思います。節約すれば…ですが」
こうして2人は食料の確認をして、カルルスまでの道のりを考えている。
ルースは、ログス村からは2日だと聞いているが、それは大人の足で歩いた時のものであろうと考えていた。
「カルルスには、あと1日位で着くんだろう?」
フェルの言葉に、何故自分に聞くのかと思うも、ルースは口に出さないことにした。
「あと1日とは、明日の今頃に着くか、という事ですよね?私はあと1日では難しいと思っています。せいぜい2晩位はかかるかと」
「え?じゃあ俺の食事は足りなくなるぞ?ルースが昨日食べておけと言ったんだ。どうするんだ?」
食べ物の管理は各自でしているのだし、あるだけ食べている自分が悪いのだ。それをどうすると聞かれても、ルースには答える事はできない。
そしてルースが昨日言ったのは、腹に入れておけという意味であって、大量に食べろとも言っていないし、それはそれ、これはこれなのだ。
「さあ…どうするのでしょうね…」
ルースはあいまいに答えるに留め、フェルが自分で考えてくれることを望む。
「そんな言い方するなよ…爺臭いぞ?」
それは今何の関係が?と思うも、ルースは口を開かなかった。
「おい…俺がひもじくなっても平気なのか?」
そう言われてルースがフェルを見れば、犬が悲し気に見上げてくる様な目を、ルースへ向けていた。
「…途中で民家があるかは知りませんが、あったら分けてもらいましょう。もしないのならば…まぁ、何とかしないといけませんね」
ルースはフェルに負けて、そう救済案を出した。
「ですが、そういった事は初めからよく考えて行動しなければ、魔物の肉を食べる事になりますよ?」
ルースがそう言えば、フェルの顔が歪んだ。
きっとゴブリンを思い出しているのだろうと、ルースもそれを考えてついつい渋い顔となる。
「わかった!そんな事にならないように、これからは気を付ける!」
フンッとこぶしを握り締め、フェルは宣言した。
だが2人は知らないのだ。
鹿に似た魔物や熊に似た魔物等、毒性がない限り、動物と姿が似ている魔物の肉が美味であることを。
それらは町で食材として重宝され、冒険者ギルドにわざわざクエストを出して、獲ってきてもらう程の物であるのだが、村を出たばかりの少年たちはそんな事も知らず、干し肉の心配をしながらとぼとぼと道を進んで行ったのだった。
そしてその日は魔物にもあわず、夕方には野営場所を決めて2人はまた剣の練習を始める。さすがに2日目という事もあり、今日のフェルは文句も言わず、ルースの指示に従って素振りの練習をしていた。
そもそも独学で練習していたフェルは、自分を客観視する者がいないため、体軸がずれてしまっている。
剣は腕だけで振るものでなく、体全体を使い体重移動を経る事で、その力を利用し重い一撃となるのだ。
それでなくとも、まだ子供であるフェルの体重は軽い。それをいかに活かして剣を振るうかによって、その先が変わってくるのである。
「では今日は、ここまでにしましょう」
そうルースが声を掛けたのは、素振りを始めてから2時間ほどがたった頃だった。
ルースは毎日それ位の時間剣を振っていたし、それが当たり前だと思ってやっている事だった。
「は~、ルースは厳しいな…」
「そうですか?私はこれ位の時間、毎日やっていましたけど」
そう言ったルースにフェルはギョッとする。
「まじか…」
「ええ、まじですね」
ふふふと笑って、ルースは水を出して飲む。
マイルスと毎日続けていた稽古は、厳しいものだが楽しい時間でもあった。昨日できなかった事が、今日できるようになり、自分の成長を感じる事もできたのだ。だから、マイルスにはとても感謝している。
「俺もちゃんと、仕事に就けるようにならないとな…」
遠い目をしてフェルが言えば、ルースが声を掛ける。
「フェルは騎士の職業ではありますが、騎士の募集を探すより、まずは冒険者になれば良いのではないですか?」
不思議そうに問いかけるルースへ、フェルが目を見開き見つめ返した。
「ん?どうかしましたか?そんな顔をして」
びっくりした顔のフェルにルースが問えば、フェルがハッとしたように、ルースの腕をつかんだ。
「俺も冒険者になれるのか?」
とそう問いただすフェルに、今度はルースが目を瞬かせてフェルを見る。
「冒険者登録をすれば、誰でも…と言っては語弊がありますが、フェルでもなれると思いますよ。フェルは騎士の職業ですし、剣を扱えますから。攻撃手段があれば己の身は護れるわけで、冒険者としてクエストを熟すこともできるはずですし…」
そう言ってみたものの、ルースは何か変なことを言っただろうかと不安になるほど、フェルがルースを凝視している。
その反応に、過去に思い当たる節があるルースは、フェルへ確認をする。
「あの…もしかして冒険者になる人は、職業に“冒険者“と出るとは、思っていませんよね?」
その言葉に、フェルの目が泳いでいる。
「いや…そんな事は…」
しどろもどろにそう返すフェルに、今度はルースがその腕を掴む。
「フェルが知らない事は、別に恥ずかしい事ではありません。今まで冒険者と接しなければ、それも知らない事でしょうし、フェルは今知ったのです。だから、知らない事は知らないのだと認め、これから学んで行けば良いのですよ。その事で私がばかにしたりする事も、勿論ありませんから」
真摯な目でルースがフェルを見れば、ごまかそうとしていたフェルが一つ頷いた。
「そうだな…うん。俺は冒険者になる者は、職業にもその様にでるのだと思ってたんだ。だから騎士の職業が出た俺は、騎士にしかなれないのかと思って、騎士の募集を探すつもりだった…」
と、そう言ってフェルは苦笑した。
「はい。フェルでも冒険者にはなれますよ。当然、王国の騎士になる事もできますが、教会に仕えたり領主に仕えたりと、他にもできる事はあると思います。剣士だって冒険者になったり、傭兵になったり色々できるのですから」
そう言ってルースは笑顔を見せた。
「で、俺はルースの職業を聞いていないんだけど、魔法使いなのか?」
と、問題が解決したフェルがさらりと話題を変えた。
「私ですか?私は剣士ですよ?」
別に隠す事でもないと、ルースもさらりとそう返す。
「そうだよな…俺に剣を教えている時点で、魔法使いじゃなかったなぁ」
ポリポリと頭をかいてフェルが苦笑した。
「そうですよ」
と、2人はやっと焚火の前に腰を下ろす。
そして干し肉を出して食べながら、2人は話を続ける。一応フェルは、今日の分は少量にすると言って、干し肉をいつもの半分にした様だ。
「私は魔力もありますが、いただいた職業は剣士でした。本当は賢者の職業が出るかも…と少々思っていましたが、それは司祭様に笑われてしまいましたよ」
ルースの話にフェルがキョトンとする。
「賢者になりたいのは、変なのか?」
「はい。賢者は最初からなれない職との事です。魔法使いになった人の上位職、という事でした」
とルースは説明する。
「上位職…騎士でいうところの聖騎士ということか…」
フェルがそう呟いて口を噤んだ。
どうしたのかとルースが問えば、本当は「聖騎士になりたかった」とフェルが話す。
「目指さないのですか?」
「…俺は魔力がないんだ…」
と、寂しそうにフェルが言う。
聖騎士は騎士の上位職で、しかも魔力を持つ者にしかなれない。フェルがいくらなりたいと頑張っても、魔力を持たぬ者にはその職業は出現しないのである。
「でも、これから魔力が使えるようになれば、聖騎士になれるかも知れませんよ?」
そうルースが声を掛けるも、魔力がないと言っているフェルが、悲し気な目を向ける。
「私の考えでは、フェルが魔力を絶対に使えないという事は、ないと思っていますが…」
「はぁ?どういう事だ?」
「フェルは自分の内側に、何か温かなものがあると感じた事はありませんか?」
ルースの問いかけに、フェルは目を瞑った。
「そういや、時々何かを感じる事はあるけど、それが何かわからないから、今まで気にしていなかった…けど、まさか…」
「ええ。ステータス上には魔力値が出ていないかも知れませんが、私は貴方から魔力の様なものを感じています。多分…ですが、貴方は魔力を外に出すことができないだけ…という事だと思います」
「!?」
ルースはこの時、意図的にに魔力を周りに放出していた為に、フェルの体中にある魔力を、おぼろげに感じる事が出来ていたのだ。しかし、普通の魔力持ちはそれを感知する事ができない為、他人の魔力を感知する者が稀であるという事は、ルースも知らない事である。
ルースは、目を見開くフェルに微笑みかける。
「ステータスの魔力値は、体から溢れている魔力を通して数値にしていると、聞いた事があります。実際、魔力は外に出さないと魔法を使う事ができませんし…大なり小なり魔力を持っていても、外に出せない…使えないのなら、魔力を持っていると認識する必要もないですからね」
その話に、食い入るようにルースを見つめるフェルが、泣きそうな顔になった。
「じゃあ俺も、聖騎士になれるかも知れないのか?」
フェルの問いかけにルースは頷くが、「でも」と言葉を続ける。
「可能性がある、というだけの話です。貴方の中にある魔力が外に出てくれば、という前提の話です。しかし何故その魔力が外に出てこられないのかは、私には分かりませんし、その魔力が使えるようになる方法も、私にはわかりません」
そう言ってしっかりとフェルを見据える。
「今後、その理由を知る人に出逢えれば、助言をもらう事もできますし、どうにかできるかも知れません。だからまだ、聖騎士になれないと決まった訳ではないと、私はそう思います」
諦めていたものになれる可能性を、そう言ってルースは説明する。フェルは、幻を見ているかの如くルースを見て、かすれた声を出す。
「そうなのか…俺にも可能性があるのか…」
消え入りそうな声でフェルが呟けば、ルースは微笑んで深く頷いたのだった。
本日は後1話を投稿いたします。
引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。