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【202】ドロップ品

「あっ弓…」

 始めに反応したのはデュオだ。


 ルース達では、弦の張っていない弓を見てもすぐに弓だとは分からないが、そこは弓士である。

「デュオ」

 ルースがソワソワするデュオへ“どうぞ“と促せば、デュオは皆の顔を見まわして笑みを広げた。フェルもソフィーもデュオを見る目は優しいが、フェルには少々羨ましそうな感情も見え隠れする。


 そんな皆に促されてデュオが宝箱から取り上げた弓は、磨かれた石に見える程ツルリとしており光沢がある。白い大理石の様な質感の弓をデュオが軽々と持っている所をみれば、見た目よりも重くないのかとも思う。


「凄い…」

 デュオの呟きに何が凄いのかを問いかけたいが、その眼差しを反らすのも可哀そうだと思う程、デュオはそれに見惚れている。

 その時、デュオから緑色の光が溢れ出す。どうやら弓に魔力を通したようだ、そう思った途端、その弓に弦が張られた。

「あぁ?」

 フェルの気の抜けた声と同時に、ソフィーもルースも目を見開いた。


「それは…魔弓ですか?」

 魔力を込め弓として完成したものを見て、ルースはデュオに尋ねた。

「わからないんだけど、何だか魔力が通りそうだったからやってみたら…これって魔弓なのかな?」

 武器屋でも魔弓というものを見た事がない為、ルース達は顔を見合わせて首を捻った。

『そのようじゃな』

 ネージュが目を細めて弓を見ている。

『おぬしが持ってみれば良かろう』


 ネージュはルースへと視線を向け、それを聴いたデュオがルースへ弓を差し出してくる。頷いて受け取ったルースは、弦のなくなった弓を持ち、目を瞑る。

「確かに魔弓ですね。“緑の風(バンベール)“という名前のようですよ」

「バンベール…」

 デュオは、目を輝かせて弓を見ている。


「それじゃぁこのバンベールは、デュオが使えるのね?」

 ソフィーはデュオへと目を細めて言うも、デュオはパッと弓から視線を離し、皆を見回した。

「え?…いいの?」

 デュオは、自分が使わせてもらえるとは考えなかった様だ。

「いいぞ?…俺達は使えないからな」

 フェルは羨ましそうに、デュオと弓を見比べている。

 デュオの視線がルースへ向くと、ルースは微笑みを浮かべて頷いた。


 するとデュオの顔に朱が乗り、満面の笑みを浮かべる。

「ありがとう!」

 余程嬉しいのかルースが差し出した弓を受け取ると、デュオはそれを胸の中にかき抱く。


「俺も何か欲しい…」

 フェルが少しいじけてしまったが、こればかりは出てくる物は選べないので仕方がない。

 こうして第二階層主の落とした宝箱は、デュオの新たな武器となったのである。


 そうしていれば、いつの間にか扉がもう一つ現れている事に気付いた。

「それでは、今日の野営地へと向かいましょう」

 場が落ち着いたところで只の土壁の空間に変わった部屋を進み、下の階へと下りる為にルース達は扉を潜ってその場を後にした。



-----



 このダンジョンは1階層目が土の間で2階層目が森の間、そして3階層目は砂漠の間で、4階層目は霧の間、そして5階層目は雪の間という構成で、ルース達はゆっくりと時間をかけて進み、4日目の昼には5階層目を終えて地上へと戻った。

 最後の階層主を倒して出現した扉を開けると、そこはダンジョンの入口から少し離れた柵の外へと繋がっており、4日振りの本物の太陽を浴びたルース達は、森の香りと吹き抜けて行く冷たい風に、外に出た事を実感するのだった。


「はー、面白かった」

 フェルは大きく伸びをしながら、そんな感想を口にした。

「あら?フェルは武器を入手できなかったのに、その感想なの?」


 ずっとダンジョンの中では武器を期待していたフェルだったのだが、残念ながらフェルが使える物はドロップしなかったのだ。その為ソフィーは、揶揄う様にフェルに尋ねた。

「ん?武器が出なかったのは残念だけど、魔物も初めて見る物がいたりして、ちょっとワクワクした」

 へへっと笑いながら言うフェルは、確かに楽しそうである。


 今回の戦利品としては、銀色の箱の転移装置が3個と魔石が5つ、そして未完成品のロッドと魔弓のバンベール、それから腕輪と鎖が付いたチャームだった。砂金は1粒しか拾わなかったので、皆は忘れている位だ。


 その戦利品の腕輪は防御力を上げるもので、チャームは呪い除けという物だとルースの調べで分かった。

 これらのドロップ数が多いか少ないのかは分からないが、4日を通してただ魔物と戦うだけでなく、こうして何かがおまけで付いてくると思えば、フェルが言うようにダンジョンに入る事は楽しいと言えるのかも知れない。


「それでは、受付に報告に行きましょう」

 扉を潜った先で止まっていたフェル達を促し、ギルド職員が待機する受付に行く。

 すると、ダンジョンから戻ってきたルース達に気付いたギルド職員が、帰還受付へと移動してきてくれた。いつも日中はダンジョンから戻る冒険者が殆どいない為、入洞受付に2人並んでいるようで、その内の一人が帰還側へと移動してくれたのだった。


「お帰りなさい。お名前のご記入をお願いします」

 職員に促され、戻った者達が記載する帳面にルース達は名前を記入していった。

 そうして記入を終えて職員をみれば、何か言いたそうな顔をしていると気付いたルースが尋ねる。

「まだ何か、ありましたでしょうか?」

 ただ記入すれば終わりだと思っていたのだが、まだ何かあるのかと不安げにルースが尋ねれば、職員は何かに気付いた様に声を出した。


「…初めてダンジョンに入ったパーティですか?」

「はい…」

「それは失礼いたしました。ここでは、ダンジョンの中で出た物の買い取りも行っておりまして、お売りになりたい物があればと、そう思ったのです」

「そうだったのですね。存じ上げず、こちらこそ失礼をいたしました。私達は大して入手出来ていないのですが…」


 ルースがそう続けたところで、ルースはソフィーに視線を向けた。先に何を売りに出すかを決めていた為、ソフィーが巾着から魔石を5つと四角い銀の箱を2つ取り出した。銀の箱は一つ残しておく。

 他の品物はすぐに売りに出さず、よくよく考えてからという事にしてある。


 その魔石と箱を見た職員は、申し訳なさそうに眉を下げた。

「魔石は買い取りできるのですが、この箱はギルドで買い取りが出来ない物となっております」

「え?この箱は、買い取り不可なのですか?便利な物なのに…」

 デュオが何気なく呟いた言葉は、目の前の職員と入洞受付側にいた職員の耳に届き、彼らの動きを止めた。


「え?これが何かお分かりなのですか?」

 目の前の職員がデュオの顔を見てから、視線を銀色の箱へと向けた。デュオはルースへ視線を向けて確認をすれば、ルースは頷いて返した。

「これは転送装置で、緊急時にいつでも入口まで戻れます。わざわざ罠に飛び込まなくても、外に出られるアイテムです」

 それを聞いたもう一人の職員も近付き、「それは本当ですか?」と尋ねてくれば、ルースがしっかりと頷いて返す。


「それが事実であれば、ダンジョンに入る為の必需品として、皆さんが欲しいと思うでしょう。ですが、これまで確認した時には何の変化も起こりませんでしたので、まさか…そんな…」

 言葉を失った職員は、青くなった顔で箱を見つめる。

「これはダンジョンの中だけでしか使えない物の様で、外で試しても何も起こらないのではないでしょうか?」

 あくまでルースの想像上での問いかけではあったが、それには職員にも思い当たったらしく、そういう事かと納得して肩を落としている。


「それではこちらを一つ使ってみましょう。私が中に入って使ってみます」

 ルースがそう提案すれば、職員たちは神妙に頷いた。

 そうして銀色の箱のひとつを持ったルースが柵の中へと進んで行き、入口の暗闇に飲まれて約1分。先程ルース達が出てきた所に再び扉が現れ、開いた扉からルースが戻ってきたのを見た職員が顔色を変えた。


「確認いたしました!ありがとうございます!」


 話を聞けば長年この箱の用途が分からず、ガラクタ扱いであったらしい。昔は買い取っていた頃もあったらしいが、どんどん在庫が溜まっていき、今は買い取りすらしていなかったようだ。

 こうして銀の箱の用途も判明し、買い取りをしてもらえる事にはなったが、金額などの詳細はここの職員では決められず、冒険者ギルドにこの話を持ち帰り会議を経てからという事になった。


 結果、少々大騒ぎになってしまったなと、ルース達は苦笑しつつも、初めてのダンジョン攻略を無事に終えたのである。


いつも拙作にお付き合い下さり、ありがとうございます。

重ねて誤字報告もお礼申し上げます。

前話で更新予定日の表記を間違えておりました、すみません。^_^;

次回の更新は、8月15日です。

そして、ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。ありがとうございます!

引き続きお付き合いの程よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ドロップ、弦を魔力で張るタイプの弓なんですね。矢と同様に弦も消耗品ですし、切れて発射不可になったりしない(無論魔力残量には注意ですが)からありがたい機能ですな! [一…
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