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【197】銀色の小箱

「魔石ですね」


 階層主を倒したあと落ちていた物を拾い上げたルースは、それを見て呟いた。

「本当だ…魔石…」

 デュオは目を輝かせ、ルースの手の中の石を覗き込んだ。

 その石は緑色で風の魔力が入った魔石だと分かる。


「僕、魔導具で使ってるのしか見た事がないや」

「あれ?そうだったっけ?」

 デュオの話に、フェルが首を傾げた。


 その時、部屋の奥の気配が揺らぎ皆は視線を向けると、そこには扉が現れていたのだった。

「あれが下に行く扉のようですね。では行きながら話しましょう」

 ルースが皆を促して扉へと向かう途中、そこでソフィーが話を続けた。

「ネージュにもらった物を、デュオは知らなかったわね」

 そう言ってマジックバッグから大きな魔石をひとつ取りだし、デュオに手渡した。


「ええ?!何これ…」

 それは先程の魔石とは明らかに大きさが違い、倍以上もある。


「それはソフィーの魔石ですよ。ネージュがソフィーに渡したのです」

 当時の事をデュオに説明するルースに、デュオは言葉もない。

「そう…なんだね」

 それを、前に金貨50枚で売ったと話せば、デュオの口はパクパクと開くだけで声も出ない様だった。


「何かあった時の非常用ね。だからお金の心配はしなくても大丈夫よ?」

 ソフィーは満面の笑みを浮かべ、何でもない事のように言った。

 これがこのパーティの普通だと理解したのか、驚きから解放されたデュオはソフィーに魔石を返すと、フェルに続いて扉の中へと入り階段を下っていった。


 この階段も土壁一面に光苔がついており、その場所を明るく照らし足元に不安はない。その階段の横幅は10m程もあり、皆が並んで歩いても余裕で使える大きなものだった。

 それを下りきれば再び扉があってフェルが躊躇なくそれを開けば、目の前には鬱蒼とした森が広がっていた。


「は?」

「ダンジョンの中に森がある…」

「しかも外じゃないのに、まるで太陽があるみたいに明るいのね」

「ここは“森の間“ですね」

 皆はその不思議な光景に、それぞれが呟きを落とした。

 ルースも初めて見る不思議な空間に、驚きを持って目を見張っていた。


『ふむ。ここはどうやら迷路ではないようじゃのぅ』

 ネージュは何かの気配を探ったのか、開かれた階層であると言った。

「と言っても、森の中だし迷路みたいなもんだけどな」

 フェルは頭を掻きながら、ネージュを振り返った。


 第二階層へ入ってすぐには、皆が踏みしめる為か獣道が続いており、その周りは本当の森のように木々しか見えない。そして一つの空間になっているからなのか、この階層には多数の人の気配があった。

 まるで急いで入って行った冒険者が皆ここへ来ていたかのような気配の多さで、この階層には何があるのかとルースは地図を確認する。

 しかし地図には中央に丸が描かれている他は特に何も書いておらず、下階へ行く為の階層主の部屋の場所が記されている位だった。


 しかしここで考えているだけでは先に進めない為、ルース達は目の前の獣道を進んで行った。


「何だか外にいるみたいだな…」

 フェルが辺りを見回して言う。

「それにしては寒くも暑くもありませんし、風もありませんけれど」

 ルースは入って数分で、風がない事や気温が一定であるなどには気付いていた。


「ここは何が出てくるのかな。さっきはゴブリンとか小振りな魔物位だったけど」

「それよりも厄介な物が、出てくるという事でしょう」

 ルースも何が出るかを知らない為、明言を避ける。

 流石に地図にもそこまでは書いている訳でなく、ギルド職員にも聞いてはいないのだ。

 念のためにと警戒はしつつ、慎重に進んで行く。入口から直線的に進めば階層主へと辿り着くらしいが、それは皆が望んでいないと分かっている。


 人の踏みしめた道を辿りつつ進んで行けば、2m幅の川の前に出た。

「ここで一度休憩にしましょう」

 多少見晴らしの良い場所である為、ルースはここでの休憩を提案する。

 まだ昼には少し早いがお腹も空きはじめている為、皆も賛成しここで軽く食事を摂ることにした。


「フェル、ここからはどうしますか?」


 一階層目からフェルが進みたい道を進んできた為、この先もフェルの勘に従って進む予定だ。のんびり進むのでフェルに一任していると言う理由もあるが、フェルについて行けば、また何かが事が起こりそうな予感もあるからだった。

 ここは開放的な階層で道もなく、全体がどれ位の広さかは分からないが、かなりの広さがある事が見込まれている。ルース達は決して気を抜いている訳ではないが、多少期待を含んでいるという事だ。


「ここは、そうだなぁ…あっちにしよう」

 フェルはサンドパンを頬張りながら川の下流を指さし、この階層を左から巡る道を示した。

「わかりました。ではこの後は、川に沿って歩いて行きましょう」


 ルース達は休憩を終えると川に沿って進んで行く。その足元には小石が転がっており、まるで山の中にある河原を歩いている様だった。

 そうして暫く進んで行けばネージュの耳がピクリと動き、ルース達も何かの違和感に気付く。


「何の音でしょうか…」

 ルースは、何かが振動するようなブーという音が聞こえて足を止めた。

『羽音のようじゃのぅ』

 ネージュが音の種類を特定する。

「はおと…?」

 呟いたのはデュオで、既に肩から弓を下ろしている。


「行きましょう」

 ルースは慎重に足を進め、その音へと向かって行く。

 すると河原沿いの100m先に、黄色い物が複数飛び回っているのが見えた。

『キラービーじゃな』


 ネージュが言ったキラービーは、黄色と黒の2色を纏う蜂が巨大化した魔物で、1体は20~30cmの大きさだ。そして尻の針から毒を出し、相手を麻痺させ動けなくするという危険な魔物で、確か討伐はC級であったはずだとルースは思い出す。

 それが数十匹、羽音を響かせながら川付近を飛び回っていた。


「ここは僕が出るよ」

 デュオはそう言うと、ルース達の前に出て弓を構えた。

 そして体から魔力を溢れさせると、―ヒュンッ―と風音を出して矢を放った。


『キィーッ!』

 その矢が向かった先のキラービー2匹が、1本の矢に貫かれて落下した。

 その間もデュオは続けて矢を放っており、次々と黄色い物が下へ落ちていった。


 ルースはデュオの後ろからそれを見つめ、デュオの腕が更に上がっていると実感する。

 あっという間に10匹が地に沈み、それらは全て頭部に矢を受けて絶命していた。

「すげーなデュオ」

 フェルも百発百中のデュオを称賛する。

「最近、相手の次の動きが明確にわかるんだ」

 少し照れたように言うデュオだが、それ以前に魔力の乗せ方も安定しており、デュオの成長が目に見えてわかる程だ。


「さて、向こうもこちらに気付いた様ですので、私達も行きましょう」

「おう」

 ルースの言葉にフェルも即座に頷き、こちらに向かってくるキラービーの下へと駆け出していく。

 そうして近付けば、キラービーは間合いを取ろうと浮上するも、それはデュオが狙って落としていった。

 ルース達は、尻から針を出し近付いてくる物だけに狙いを定め、次々とそれらを切り捨てていった。


「弓士がいると、心強いわね」

 ソフィーは後方で、彼らの戦闘を見守っている。

『空ヲ飛ブ物ハ,飛ビ道具ニ弱イ』

 今はソフィーの肩に留まるシュバルツから、ソフィーの独り言に念話が返ってきた。


 戦闘をするルース達3人は、声を掛けあわずとも互いの動きの邪魔にならぬよう、それぞれが一つの目的に向かって動いていると分かる。

『随分とパーティらしくなっておるようじゃ』

 ネージュも彼らの動きには無駄がないと、珍しく褒めているようだった。


 こうしてあっという間に60匹程のキラービーを倒したルース達は、剣を鞘に収めると周辺を確認する。

「フェル、川の中に何かあるわ」

 ソフィーがフェルの後方を指さし、光に反射する何かがあると伝えた。

「ん?」

 と振り返ったフェルが川の中を見れば、先程まで何もなかった所に小さな箱が落ちているのが見えた。

「あれか。何だろう…」

 フェルはジャブジャブと浅い川に入り、その小箱を拾い上げた。

「それってもしかして、ドロップなんじゃない?」

 それを見ていたデュオが、小首を傾げて近寄っていく。


 ルース達は戦闘に集中していた為、切り捨てた後の事は気にしておらず、そのドロップに気付かなかったようである。


 こうして川から戻ってきたフェルの周りに皆が集まって、フェルの手の上にある物を覗き込めば、銀色の金属製とみられる10cm位の正方形の箱だった。そしてそれには幾何学模様が刻まれており、ダンジョンの光源を受け、眩しい程の輝きを放っていたのだった。


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

重ねて誤字報告もお礼申し上げます。<(_ _)>

そして、ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。

次回の更新は、8月5日です。

引き続きお付き合いの程よろしくお願いいたします。

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