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【195】穴の中

 ルカルトの町に着いた翌日、ルース達 月光の雫パーティはしっかりと下準備を整え、朝6時にはダンジョンに入る者達の列に並んでいた。


 それらの冒険者達を見れば年齢的には若い者が多く、F級とは言わぬまでも、しっかりとパーティ編成である事を考えれば、D級位までが多そうだとルースは感想を抱く。

 その中にいてもルース達の見た目は浮いておらず、時々混じる、明らかに20歳以上の者達が浮いている様にさえ見えた。

 その彼らはC級以上なのかソロらしき者もいるが、おごった者もおらず、入洞の列はみな粛々と自分達の順番を待っている様だった。


 しかし朝一番にダンジョンに来たにも関わらず、これから入る者はすでに30人程もいるらしいなと、辺りを確認していたルースは、列の先に見える受付のギルド職員が、冒険者に何かを手渡している様だと気付いた。

 少しずつ列が進み受付がしっかりと見えるようになれば、それはダンジョンの地図らしいと分かる。

 このダンジョンは初心者用とも言われ、ルース達の様に初めてダンジョンに入る者達もいる為、地図を持っていれば道に迷う事もなく、罠もそれに記入していく事ができるのだ。


「地図ですね」

 ルースは皆に、地図が売っている様だと伝える。

「ああ、確かにあると助かるよね」

 とデュオも、その価値に気付いた様だ。

「一部買って行きましょう」

 ルースの提案に異を唱える者はいない。

 こうしてルース達が受付に来て名前を書くと、地図の購入を申し出る。


「今日が初めてですか?」

 色々と記入方法を聞いていたからか、受付にいるギルド職員からそう声を掛けられた。

「はい」

「それではお帰りの際もこちらに声をお掛けください。この受付には必ず職員が待機しておりますので、いつでも大丈夫です」

「わかりました。ありがとうございます」


 ギルド職員たちはルース達が離れると、もう次の冒険者の対応に追われていた。

 フェルは自分達のせいでもあるが「朝から大忙しだな」と笑い、そしてルース達がダンジョンの入口に進んで行くと、離れて近くの木に留まっていたシュバルツが、フェルの肩に舞い降りてきた。


 ここはルカルトの町から木々の間を通った森の中で、ギルド職員が迷う事はないと話していたように、町からはこのダンジョンに向かう為だけの獣道が続いていた。

 そんな森の中にあるダンジョンの入口は洞穴のようなところで、切り立った山肌にぽっかりと口を開け、その周りを囲むように木造の柵が設置されている。

 入洞時間以外はこの柵の門を閉めてしまうのであろうと想像するも、ではその間に出てくる者はどうするのだろうかと、既に終わった時の事を考えているルースであった。

 そんなダンジョンの入口を確認しつつ、そのまま真っ暗な穴へとルース達は心を躍らせて入っていった。



 明るい場所から入った為に一瞬その暗さに目を瞬かせたものの、少し進んで行けば、ダンジョンの中は剥きだしの土壁に光る苔がびっしりと生えており、その洞窟内を薄っすらと照らしてくれていると分かる。

「一階層目は“土の間“だそうです」

 ルースは、先程購入した地図に書いてある文字を拾う。

「へえ~」

 その話に、フェルが興味津々と辺りを見回しつつ返事をするも、その返事は反射的な物であろうとルースは苦笑した。

 そんなフェルは、もうルースの事が目に入っていない様で、まだ何もない洞窟に釘付けだった。それを見ていたソフィーとデュオも、ルースに視線を向けて笑みを見せた。


 こうして1本道を歩いて行くも、ルース達より先に入った者達の姿はなく、もう少し先に行けばそこから道が枝分かれしているが、ここまでは脇に逸れる道もないのにと不思議に思う。


 ルースがそう思っていれば、ルース達の後ろから入ってきた若い冒険者パーティ4人が、小走りでルース達の横を通過していった。

 先頭を歩くフェルが3人を振り返り、目を見開いて肩を竦めてみせた。

「走ってるね…」

 デュオも彼らを見送った後、苦笑しつつ独り言ちた。

 地図を見てもこの先に注意書きなどもなく、ルースにも彼らが急ぐ原因は分からない。おそらくルース達の先に誰もいなかったのは、彼らのように急いで奥へと入っていったからだと思われた。何がそうさせるのかは分からないが、ルース達はのんびりとその道を進んで行った。


 そうして枝分かれする分岐点を、地図すら見ないフェルを先頭にずんずんと進んで行く。こちらにも人の気配はないので、もう他の冒険者の事は何も考えないことにしたルースである。


「ダンジョンって言うから松明でも掲げて入るのかと思っていたけど、全体的にぼんやりと明るいのね」

 ソフィーが光る苔を見て不思議そうに言う。

「そのようですね、以前覗いた所は真っ暗でしたけど、ダンジョンごとに違いでもあるのでしょう」

 ルースの言葉に「そうね」と、ソフィーも頷き返す。


「おっ壁に穴があるな。人が入れる位だから、入ってみるか?」

 フェルはその道の先に穴を見付けたらしく、そこを指さして言った。

 ルースは地図を見ると、現在地を参照する。

「その穴は行き止まりのようですが、入ってみますか?」

 地図には何も書いていないとルースが伝えるも、ここは一つずつ入った方が面白いとフェルが言う。


「まあ、急いでいる訳でもないから、フェルの好きにしていいよ」

 デュオが別に良いよとフェルに言えば、フェルは皆にニカッと笑みを向け、シュバルツを肩に乗せたまま、一人で先にその穴に入っていってしまった。


 残された3人とネージュは顔を見合わせ、フェルの後に続いて一人ずつ穴へと入っていくと、フェルは入ってすぐの壁際に立って中を見回していたが、この中は天井の低い空間のようでしかも真っ暗だった。光源は穴から入る僅かな明かりだけだ。

「何もないのか…」

 残念そうなフェルの声に、ルースが炎の球を出して天井に投げる。それでパッと明るくなると、ここは30m四方の空間であると分かった。


 その灯りが消える頃、部屋の中心付近から何かが浮かび上がってきた。その灯りが消えるまでの一瞬の隙に、それがゴブリンであると認識する。

「ゴブリンじゃん…」

 フェルがうんざりした様な声を出すも、そもそもここに入ってきたのはフェルのせいなのだ。

「一種の罠のようなものでしょうか。侵入を感知して魔物が湧き出る…とか?」

 ルースは冷静に状況を確認しつつ、そう言って再び火魔法で明かりを灯した。


 この空間は真っ暗でいくらゴブリン相手とは言え、視界の確保ができなくば戦う事すらできない為、再び出した炎を今度は奥の壁に向かって投げ、そこで土魔法で地面へと固定した。

 これは二属性の同時使用ではないがそれなりに高度な魔法で、ここ数日ルースが考えていたオリジナル魔法だった。

 先程ソフィーも言っていたようにダンジョンが暗かった場合、せめて戦闘時は視界の確保を考慮し、炎を地面や壁に固定し灯りとなるように試行錯誤した事が、早速役に立ったようだ。


『ブギィーイ!!』

 その明かりのせいか、ゴブリンが雄叫びを上げた。

 フェルは再び灯った明かりでゴブリンに視線を固定させ、ソフィー達を下がらせて前に出る。ルースも剣を抜いてその隣に立った。

「こういう罠もあんのかよ…」

「安心しているところに出てきましたね」

「まぁこれも経験って事で」

 と、フェルは言い訳のようにそう言うと、ロングソードをスラリと引き抜き、ゴブリンの中へと突っ込んで行った。


 現れたゴブリンは5体だったので、ルースとフェルで何とかなるかと剣を振るって行けば、切り捨てられたゴブリンは煙のように消えるものの、そこから再びゴブリンが湧いて出る。

「チッ」

 それを見たフェルが、苦々し気に舌打ちする。


「まぁ良い肩慣らしという事ですね。体力は使い切らないよう注意してくださいね」

 剣を振りゴブリンの剣を躱しながらルースが言えば、フェルも「そう言うこったな」とニヤリと笑みを作る。


 こうしてルースとフェルはビギニーズのダンジョンで、早速ゴブリンに踊らされる事になったのだった。


いつも拙作にお付き合い下さり、ありがとうございます。

次回の更新は、8月1日となります。

引き続きお付き合いの程よろしくお願いいたします。

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