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【19】珍道中

 ルースの予想した通り、その後ルースも手伝って、処分する為ゴブリンを焚火へと投げ込んでいく。


「燃えないな…」

 フェルと話し合った処分とは、焚火もある事だし、燃やしてしまおうという事になったのだが…ゴブリンをただ火に入れただけでは、すぐに燃えるはずもない。


「そうですね。すぐには燃えないでしょうね」

 空が少し白んできた頃となっている時間にゴブリンを焚火へ入れたので、このまま燃やし尽くすのであれば、昼過ぎまではかかるだろうと予想できた。


「俺は日が昇ったら、先に進むつもりだったんだけど…」


 フェルがうなだれて呟いた。

 その時、フェルの隣で“はぁ~“とため息が聞こえたかと思えば、ルースが片手を上げた。


「“(フェゴ)“」

 その声に反応して、焚火の火が一気に大きくなった。


「あつっ」

 フェルがその熱に2歩3歩後退すると、顔を覆っていた手を下げてルースを凝視する。


「はぁ?!ルースは魔法も使えるのか?」

 フェルはそう言って顎が外れそうなほど、口をあんぐり開けている。

「ええ、多少は…」

 言葉少なにルースが返せば、フェルの目が焚火の為だけではなさそうな、輝きを帯びた。

「すげーなルース!びっくりだ!」

 そう言ってフェルはルースの腕をがっつりつかんだ。


「いえ…それ程でも…」

 言われたルースはフェルの顔を見て、満更でもなさそうに照れる。


「じゃぁこれからの旅は、ずっと楽になるな!」

 と、声を発したフェルを見て、少し喜んだ自分を後悔するルースだった。


(これは余りやり過ぎると、良くありませんね…)


 別に頼られる事は嫌ではないが、一応は同行者という事であり、互いに助け合うという意味として捉えていたルースは、やり過ぎれば自分の負担が大きくなりそうだと、そこで悟ったのだった。


「私が使えるのはこれ位ですよ…フェルも自分でできる事は、してくださいね」

 と、一応声に出して確認を取る。


「わかってるって。何かあれば俺も頑張るよ」

 ニカッと笑うフェルに少々怪しむが、そこは黙っていようとルースは口を噤んだ。

 こうして、ゴブリンの処分を終えた2人は火の始末を終えると、朝日の昇り始めた頃、荷物を背負いカルルスを目指して北上していったのだった。




 そして歩き出す事しばし、さっそく2人の息はあがりはじめる。

 元々ルースは夜に寝ていなかったし、フェルも数時間しか眠れていないのだ。

「やばい…俺、眠いかも…」


 その声にルースが並んで歩くフェルを見れば、一応歩いてはいるものの、フェルの背中は丸くなっていた。

「私も寝ていませんが、今ここで寝る訳にもゆかないでしょう?もう少し行ってから、落ち着ける所を探しましょう」


 ルースも旅の経験はないが、普通に考えてもそれ位の事は解る。いくら人通りのない道と言えど、ここでへたり込んで寝る訳にもゆかない。


「そうだよな…」

 渋々という風にフェルも答えるが、分かっていても2人の足は重い。

 こうなったら何処かで1時間位でも、眠ってしまった方が良さそうだと、ルースは動かない頭で考えた。


 そして昼頃になって、ようやく休憩ができそうな、焚火の跡が残る一画が見えた。そこは道の脇を少しだけ入った所で、数本の木が立っており見晴らしは悪くなく、その木に囲まれるようにそれはあった。


「フェル、あそこで少し休みましょう」

「…ん…おう」


 もう半分うとうとしかかっているフェルを追い立て、2人はそこへ移動する。

 そして拾って歩いた枝をその焚火跡に置くと、種火を想像しつつルースは声を出した。


「“(フェゴ)“」 


 ―ポッ―

 小さな枝から火が上がって周りの枝に移り、パチッと弾ける音がして、フェルが覚醒した。


「ああ、火を付けてくれたのか、ありがとう」

 そう言って、木にもたれかかる様に座ったフェルは、水筒を出して水を飲んだ。


「はー。腹も減ってるけど、それよりも眠りたい…」

「そうですね…。ではフェルは30分位寝ていて下さって構いませんよ。その間私が、見張っておきますので」

 ルースはフェルに視線を向けて微笑む。


「あーわるいな……すぅ……」

 一応詫びを入れてから、そのまま眠ったらしい。


 本当はルースも限界に近いが、そこはそうも言っていられないのだ。

 フェルが眠っている間、ルースは練習を兼ねて魔法を発動させる事にした。


 と言っても頭があまり働くとは思えないので、まずはカップに水を出して飲むと、“集音(ラサンブレ)”を発動させ、それを維持しているだけに留めた。 

 こうしていれば、少し遠くの音まで聞こえるため、休憩中は尚更のその情報を必要とする。

 多少はこれで気を緩めても大丈夫となり、それでルースも少しうとうとする。



 ― キンッキーンッ ―


 ルースの耳に、集められた音が届く。

 ピクリとルースは覚醒すると、その音に注力する。


 ― カキンッキーンッキンッ ―

(金属音?)

 ルースは立ち上がると、水を出して焚火を消す。


「フェル、起きてください」

 しっかりと声を掛ければ、フェルが身動きする。

「フェル、起きなさい」

 ルースの声にピクリと体を揺らして、フェルが今度は目を覚ます。

「ん…なんだ、ルースか…もう少し寝かせてくれよ…」


 再度目を閉じようとするフェルに、ルースの静かな声が降る。

「この近くで誰かが戦っています。こちらに近付いてくるかはわかりませんが、寝ている場合ではないでしょう」


 その言葉に、ガバリと体を起こして立ち上がるフェル。

「何だよ、先にそう言ってくれよ」

 今言ったではないかとも思ったが、今は話している時ではない。


 2人は荷物を背負いなおし、剣の確認を終えると、カルルスへ向かう道を再び歩き出す。

 結局30分程しっかりと休憩できたことで、フェルもルースも多少はスッキリとした再出発となった。

 そして10分ほど歩いた所で、道に倒れこむ人々と緑の魔物が転がる景色をとらえた。



 つい先程までここでは戦闘が繰り広げられていた様で、人の方は息絶え絶えという風に、倒れていたのだった。

 ルースとフェルの足音に気付いた道に転がっている青年が、重い体を持ち上げる様にゆっくりと体を起こして2人を見た。


「あぁ…俺達、通行の邪魔だな」

 と、至極まともな事を言って起き上がろうとするも、よろけてまた座り込む。

 それにルースは苦笑して声をだした。

「いえ、こちらがお邪魔なので、まだそのままでいてください。それにしても大変だったのですね…」


 倒れている魔物の数は、ざっと見ても50匹はいて、そこにいる人達は4人だ。いくらゴブリンと言えど、この数を4人で相手するのは大変だろうと、容易に想像できた。


 怪我はない様で、パラパラと青年以外の3人も起き上がるが、魔法使いらしいものは顔色も悪い。

 多分、魔力の残りが少ないのだろうと、自分の時の感覚を思い出し、ルースの体も重くなるような気がした。


「そうなんだよ…この数だろう?切っても切っても湧いて出てくるから、体力的にきつかったよ」

 と、最初に話した青年がそう言ってくる。

 そして苦笑するとゆっくりと立ち上がって、ゴブリン達を見渡した。


「あー事後処理も大変そうだな、これは…」

 と、道を外れた場所に倒れている魔物の所へ向かい、一か所へ集めだす。


「あっ。やっぱりやんなきゃダメなんだな」

 ルースの隣でそれを見ていたフェルから、そんな声が聞こえた。倒した魔物は処分するという事に、これでやっと納得したようだ。

 それを目尻にルースは苦笑して、青年に声を掛ける。

「手伝いますか?」


 ルースの声にフェルがぎょっとした顔をするので、ルースは小声でフェルに話す。

「こういう時は、助け合うと聞いています」


 ルースは時々、マイルスに冒険者の話をしてもらっていた。その為、何かあれば助け合うのだと聞かされていたのだった。ただし、ルースは冒険者ではないが、それを常識として当てはめていたルースである。


「いいや、大丈夫だよ。ありがとう」

 そう言って青年は、爽やかな笑顔をルースたちに向けた。

 それに続けて、起き上がってきた人達も、ルースへ話しかける。

「これは一応クエストだったから、最後まで自分たちでやるよ」

 そう言って疲れた顔に、苦笑を重ねたのだった。


「じゃあ、カルルスの冒険者って事ですか?」

 フェルが、身を乗り出して聞いている。

 4人はフェルに笑いかけると、そうだと言って頷いている。


 フェルの目がキラキラしている事は気付かなかった事にしようと、ルースは「それでは」と会釈して、その場を歩き出した。

 それに少し遅れてフェルも歩き出すも、何度も振り返りながら珍しそうに、いつまでもそれを目で追っていたのだった。


拙作にお付き合いいただき、ありがとうございます。

ブックマーク・★★★★★・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。


少しでもお楽しみいただけるよう、明日も更新いたします。

引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお。魔法も嗜まれるんですね。すごい。 しかし疲れていたのか寝付きが良いですね〜。 30分で睡眠が足りるかな?(心配
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