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【176】雨宿り

 ノーヴェの町で2日を過ごし、ルース達は再び旅路へと戻った。


 ルース達月光の雫パーティは、B級というランクには来ているものの、今までその地位に驕っていた事を認識せざるを得ない事が起こり、より一層の鍛錬に励み気を引き締め直せと、ノーヴェの町は教えてくれたと感じていた。


 この町では食材調達と食料の確保、そして武器も新調したルース達は再び進路を西へ向け、街道を離れた場所を選び進んで行った。

 ルース達は今のままでは経験値が足りぬのだと、比較的安全な街道ではなく、獣や魔物がいる場所へと自ら進む道を選んだのだった。


 そしてシュバルツにはその気配を捉えてもらい、こちらから向かって行くようにして戦いを繰り返していった。

『焦ってはならぬ』

 とはネージュの言であるが、それは言われずとも皆重々承知している事だった。



 こうして人のいない場所を進み、食料がなくなってくれば町を見付けて立ち寄るルース達は、ノーヴェの町から二か月程経った頃、その北西の場所に小さな集落を見付けた。


 雨が降り注ぐ森の中で傾斜を登り、驟雨(しゅうう)をやり過ごそうと向かった山の麓といっても良い場所に、家と思しき建物が5軒程立ち並ぶ集落を見付けたのだ。

 そこは村と呼ぶにも躊躇われるほど規模が小さく、少人数が寄り添って暮らしているだけのものだろうと見当をつけた。

 一応家の周辺には畑があり、赤い鶏冠(とさか)をつけた鶏達がその畑で地面をつついている。

 それは一見のんびりとした景色に見えるはずが、家からする人の気配以外に、なぜか奥の山からも明らかに多数の人の気配がして、ルースは不思議に思い首を傾けた。


「家の数より人の気配が多くないか?」

「はい。私もそう感じました」

 フェルとルースが不思議そうに村を見つめ、ソフィーとデュオも顔を見合わせた。

『また面倒な事にならねばよいが…』

 ネージュの念話は自身の中でとどめたため、他の誰の耳にも届いていないのである。


 そしてルース達は首をかしげながらも、家の外れにある小さな納屋を見付け、雨宿りの為その建物の軒下を借りようと歩みを進めた。

 人様の庭先を勝手に借りてしまう事になるが、家から人の気配はするもののその姿は見えない為、この雨が通り過ぎるまでのつもりで軒下を借りる事にしたのだった。


「こんな所に集落があったのね」

 ソフィーは地面に腰を下ろし、皆へ茶を配り始めた。

「周辺には道なんて、獣道位しかないよね…」

 デュオもどうやって生活しているのかと、首を傾けた。

「あんまり人が出入りしそうな所じゃないと思うんだけど、奥に人の気配がかたまってるんだよなぁ」

 フェルが視線をそちらへ向け、木々が生い茂る森を見る。

「何か見えますか?フェル」

「いや、特に変わったものは見えない」

「不思議な所ね」

 と、ソフィーが言った事が全てだと、皆は頷いた。


 こうして15分程休憩をしていれば、フェルが見ていた山の方向から人が下りてくる気配がした。

 3~4人分程のその気配を探っていれば、その気配はこの集落を無視するように通過していった。

 この集落の人ではなかったのだろうか…。

 疑問しか湧いてこないその様子を見て、ルースは先程より小降りになった雨空を見上げた。

 空は徐々に明るくなってきており、もうすぐ止みそうな気配にルースは「そろそろ雨も上がりそうですし、移動しましょうか」と、カップをソフィーに返し腰を上げれば、皆もそれに続いて移動の準備を始めた。


 そして雨も上がり光が差し始めると、ルース達はその納屋から離れ、先程人が通っていった方角へと足を向けた。するとそこには人が踏みしめて出来た獣道があり、踏みしめられた草が続いて1つの道を作っていた。


「ん?人が良く通るみたいだな。こんな木しかない所に何かあるんだろうか?」

「もしかするとこの奥で、何かを栽培してるのかも知れないよ?こっちの畑だけでは、生計は立てられないと思うし」

 フェルのこぼれた疑問に可能性として、とデュオが答えた。

 確かにデュオの言う通り、いくら5軒程に住む人数の集落であっても畑ひとつでは生活は苦しいだろうと思い、ルースも首を傾けて獣道の先を見つめた。


 その時、再びその道を人が下りてくる気配がして、通行の邪魔にならぬようルース達は草むらの中に下がって道をあけた。

 それを見付けたのか降りてきた2人の人物は、笑みを見せて「ありがとう」と礼を言うと、少し過ぎた辺りで立ち止まった。


「君達もあれの噂を聞いてきたのかい?」

 50代位の身なりの整った男性が、胸に何かの包みを抱えてルース達に尋ねてきた。

 その男性は裕福な商人という印象の装いで、こんな獣道を歩くような服装ではないし、雨に濡れてしまったのか、その服は湿り気を帯びていた。


「あ…いえ…」

 何と答えようかとフェルが戸惑っていると、笑みを湛えたもう一人の人物が口を開いた。

「まだ若いから、噂を聞いたところでわざわざ訪ねてこないか。私達の様に健康に不安を持つ年齢には、興味深い話だけどね」

 カカッと笑った男性も隣の人物のように包みを抱え、濡れてはいるが上下揃いのスーツを着た人物だった。

「お二人はその恰好で、こんな森の中まで歩いてきたんですか?」

 フェルが思っている事を口に出して尋ねれば、その2人は「ああ」といって顔を見合わせた。


「私達はこの先の麓まで馬車で来たんだ。まさかここまで森の中だとは思ってなかったけど、これが手に入ると思えば造作もないさ」

「本当だな」

 その男性達はまだ馬車まで随分と獣道を歩かなければならないだろうに、それも苦にならないのかそう言って嬉しそうに話してくれた。

 そして最後に一言「どうせなら君達も行ってくるといいよ。ここは知る人ぞ知る噂の場所だからね」と、謎の言葉を残し、獣道を下っていった。


「何だろうね、今の人達」

 デュオは去っていった人たちを目で追って言う。

「どうするの?」

 ソフィーはルースとフェルに確認するように尋ねるも、ルースもフェルを見て問うように首を傾けた。

「俺は興味あるな」

「では、行ってみますか?」

 幸い道を聞かずとも、この獣道を登ればその場所に着くと思われる。

「僕はどっちでも良いよ」

「私も」

 デュオとソフィーは特に興味がある訳でもなさそうだが、フェルに合わせ4人はその獣道を辿ることにした。


 雨が上がったばかりの獣道は、差し始めた陽の光にキラキラと雨粒を反射させ輝きを帯びている。

「先程感じた人の気配は、あの人たちの物だったという事ですね」

 先程の人達が去ってから、人の気配が少なくなってきたと感じている。

 まだ数人の気配はあるが、動きのある気配でもない様だと、ルースはこの先にいる気配に気を配っていた。


 そして5分程道を辿れば、前方の木々がなくなり空が広がってくる。この坂を上った先に何かあるらしいとそこへ到着すれば、そこは山の中腹であるはずが、一面に開けた視界の中に草原と泉が飛び込んできた。


「え?」

 ソフィーがルース達の後ろから顔を覗かせ、奥にある泉を見て声をあげた。

「どうしました?ソフィー」

 ルースは後ろを振り返り、ソフィーに何かあったのかと声を掛けた。

「あの泉…精霊が飛んでるわ?」

 泉を指さし、ソフィーが唖然とした顔で皆に伝える。

「え?やっぱり何も見えないな…」

 フェルががっかりした声でそう呟くも、デュオにしてみれば精霊という初めて聞いた言葉に、いったい何の話をしているのかと首を傾けた。

 それに気付いたルースが、デュオに説明する。


「ソフィーは精霊を視る事が出来るのです。ネージュと会った時にも、その結界の中にたくさんの精霊がいたのですけど…。ここにも結界があるという事でしょうか?」

 デュオへ説明していたはずが、ルースも疑問を口にしていた。

『結界は巡らされておらぬ』

 ネージュがルースの疑問に答えを出した。

「じゃあ何で、あそこに精霊が集まっているのかしら…」

「取り敢えず、傍まで行ってみましょう」

 道を抜けたところで立ち止まっていたルース達は、泉のある方へと足を向けた。


 その泉の前には12~13歳の女の子と5人の大人が立っていて、何かを話している様だった。

 その内の一人の男性が膝をつき、大き目の水差しのような物でその泉の水を掬っている。

「何してんだ?」

「さあ…」

 フェルとルースが小声でやり取りする中、ルース達は歩みを進めて泉の傍まで近付くと、彼らとは少し距離を取って足を止めた。


 それに気付いた女の子が、ルース達へと大人びた笑みを見せた。

「こんにちは。お兄さん達も水を汲みに来たの?水差し1杯で銀貨1枚よ?これは皆一緒だから、お金がなかったら、あげられないわ?」


 ルース達はその言葉に顔を見合わせる。

 水差し1杯で銀貨とはどういう事か。ましてやこの泉は誰の持ち物という訳ではないだろうにと、少女の言葉に困惑した表情を向け合うルース達であった。


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