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【175】新調

 魔の者は言葉を操り、そして戦闘を楽しむものであった。


 そんな魔の者の力は未知数といって良く、そして現状ではルース達が力を合わせて戦っても、一歩間違えばこちらが殺られてしまうという、危ないバランスである事だけは確実だった。


 その上それはまだ未完成の者であるとも考えられ、出来れば今後、出会いたくはないとハッキリ言って思う。だがこうして魔の者が出現しているのであれば、その望みは叶わぬものであるとも思うのであった。


 こうしてルース達はノーヴェの町で始めて魔の者の存在を確認し、そして辛くも勝利する事になったのである。


 ルース達4人は、この町ではクエストを熟す事無く過ごす事にし、道具屋や気になった物の買い出しを優先させる。いくら冒険者ギルドの宿に泊まったからといって、無理にクエストを熟さなくても良いのは、有難いと言えるだろう。

 そうして諸々の話の後、ルースは道具屋と武器屋に行く事を提案したが、そこでソフィーは出発を明日に控え、多少の料理を仕込むために宿に残ると言った。


『では我もソフィアと共におる。邪心を持つ者を寄せ付けぬためにのぅ』

「はい、そうしていただけると安心です。私達は武器屋もこの機に覗いてきますので、その間、よろしくお願いします」

「ええ。また炊事場がある所に泊まるまで持つように、丸にぎりも沢山作っておくわね」

「おうっ沢山頼むな、ソフィー」

「僕も楽しみだよ」

「それでは行ってきます」


 こうしてソフィーと別れルース達3人は町中へ出ると、まずは道具屋を目指して歩いて行く。

 道具屋は、今や必需品となっているマジックバッグをデュオにも持ってもらう為だ。マジックバッグがあれば、消耗品である矢の予備が沢山持てる事になり、毎日町に寄る訳にも行かない旅路で、弓士の矢が足りなくなるのを防ぐ為である。

 それに物流の多いノーヴェの町では、マジックバッグの流通も期待できる。ルース達が求める品物があると踏んで、早々に道具屋に足を踏み入れた。


 そしてここでも再び同型の巾着を見付け、ルースの手により品質の確認をし、それを購入することにした。やはり荷物は肩にかけると、戦闘時にどうしても邪魔になるのだ。

 それにデュオも背に矢筒を背負っている事もあり、背には荷物を背負えない。それに巾着型ならば、いつでも全ての荷物を手ぶら感覚で持ち運べるため、不測の事態でも普段の装いのまま怪しまれずに出発できる利点もある。


 今回仕入れたマジックバッグは中古で外見が15cm程の大きさ、収容量は600倍のものだ。デュオの巾着は基本的に自分の物を入れてもらうつもりである為、これ位でも十分だと、デュオはその巾着を手に嬉しそうに目を輝かせていた。


 これでマジックバッグの方は何とかなったが、後はデュオの少ない着替えも買い足さねばならない。ついでにルース達の擦り切れてきた衣類を新調すると伝えると、デュオも気兼ねせず服を購入する事が出来た。


 そして残りは武器だ。

 デュオの弓の予備を購入する事は決定事項として、ルースとフェルの剣も実は限界に近付いており、この機に品物を確認して購入しようという話になった。


 ルースは冒険者になってから、ずっとマイルスから譲られた剣を大切に使い、刃こぼれすれば町の武器屋に修理を依頼してきたが、ルースの剣もフェルの剣も鉄剣。魔物の強さも上がり、2人の剣も限界に来ているところで魔の者という強敵が現れてしまった。

 戦闘の途中で剣が折れるような事は避けたいと、ルースもフェルもこの機に剣を新調する事に決めた。


 こうして武器屋に入り、ルースとフェルは剣を見つめている。

「試し切りも出来るぞ」

 と、冒険者といっても通じるような漢らしい風貌をした店主が、カウンター越しに声を掛けてくれた。


「俺、もう少し重くても大丈夫だな」

 フェルが腰にある剣に触れながら、視線を大剣に向けて呟いた。

「お前さんは騎士職か?そういう奴は、外見をガチガチに固めるのが好きだからな」

 店主は「どうだ?」という表情で、フェルに声を掛けた。

「当たりです…」

 そうフェルが言えば「そうだろう?」と、嬉しそうに店主が哄笑した。


「武器屋なんてやってると、そいつの職が見えてくるもんだ。同じ剣を使う職でも、こいつは剣士、こいつは騎士だとか、剣の好みでわかるんだ。まぁお前さんの場合、盾を持ってるってのもあるがな」

 店主の話に、そういうものかとルース達は顔を見合わせた。


「で、お前さんたちはどんな奴が欲しいんだ?自慢じゃないがうちの店は、東西南北から仕入れたものを扱ってるんで、大体の希望には沿えるはずだぞ?」

 何とも頼もしい事を言う店主に、フェルが早速相談を始め、素材は鉄より硬いものでもう少し重くても良いと話した。

「鉄より硬いってんなら、鋼が扱いやすいだろうな。手入れも簡単だしそれに安い。素材としては一般的だからこそ、その分剣の種類がある」


 そう言って店主が出してくれたのは、細身のレイピアという剣と今の剣と同型の標準的な剣、それよりも全長が10cm程長いブロードソードに、ロングソードと両手剣。

 このロングソードはブロードソードよりも更に10cm程長いもので、本来その2つの呼び名の物は殆ど同じものの事を言うらしいが、この店では全長100cm以上あるものをロングソードと呼んでいるらしい。

 そしてブロードソードも長さはあるが多少軽量化されているらしく、剣刃に筋彫りを施してあり多少肉抜きされ、長さに見合わず片手でも軽々扱う事が出来るという事だった。

 フェルが見せてもらっている隣でルースもその説明を聞きながら、フェルがロングソードとブロードソードを片手ずつに持ち、確かにブロードソードは軽くて片手で楽に振れると言っている姿を、思案顔で見つめていた。


 フェルは盾を持って戦う事が多い為、両手剣は初めから選択肢には含まれていない。そしてレイピアは店主が比較対象で出してくれていたようで、はなからそれの説明はない。

 時々フェルが壁にかけてある大剣を見ているが、太い剣刃にロングソード程の長さでは、重さがどれ位なのか見当もつかない。


「フェル、あれを片手で持てるようになってからにしましょうね」

 ルースがフェルの耳元でそう言えば、眉間にシワを寄せたフェルが振り返る。

「そりゃ、いつまで経っても無理だろう…」

 確かにあの大剣は腰に下げる大きさのものでもない為、必ず背中に背負う事になる。となればこの大剣では盾をしまっておかねばならず、今のフェルの戦闘スタイルとは違うものになる。

「まぁ、このどっちかにしようと思ってるから大丈夫だ」


 フェルは両手に持つ剣を交互に見つつ、真剣に握った時の感触を確かめているらしい。

 ロングソードはブロードソードよりも重いはずだが、フェルであれば片手で扱えそうだと、フェルの様子を見てルースは頷いた。


「ただ、長いものは慣れるまでに多少時間がかかると思っていてくれ。間合いも変わるし取り回しも変わるからな」

「そっか…」

 店主からの助言を素直に聞き、フェルは思案中だ。


 ルースの方は、もうある程度は考えてきていたので、店内でその物を探してみるもルースでは見つけられず、店主に声を掛けた。

「すみませんが、これと同型で“エレクトラム“はありますか?」

 ルースが自分の剣を少し引き出し店主に尋ねれば、笑みを深めて頷いた店主が店の奥へと入っていった。


「なぁ、そのエレクト何とかって、何だ?」

 フェルが聞きなれない言葉に、質問を投げた。

「エレクトラムとは、金属の名前です。鋼よりも硬いと言われている素材で、金と銀の合金です」

「あ?だったら俺もそっちのにするかな…」


 そこへ店主が戻ってきて、ルースへ一振りの剣を手渡した。

「諸刃で良いんだろう?」

「はい」

 受け取ったルースは鉄剣よりも重いその剣から鞘を取ると、琥珀色に輝く刀身を掲げた。


「このエレクトラムは少し重いぞ?長いものにするんなら、鋼の扱いに慣れてからエレクトラムにしても良いだろう」

 フェルの声が聞こえていたらしい店主はそう助言し、高いものを売りつけるという考えではなく、客の身になって話してくれていると分かる。


 このエレクトラムは鋼よりも高価な金属で、平均的な80cm程の剣でも金貨15枚はする。その素材でロングソードとするならば、金貨30枚以上になると言われた。そしてフェルが今手に持っている鋼の剣は、金貨8~12枚程度のものだ。

 店の方としては高価なものを売りつけても良さそうなものの、ここの店主は人を見て勧めてくれているのだと分かる。


「確かに取り回しが違うだけで、暫くなれるまでに戸惑いそうだし、それに重量も増すならかなり手間取りそうだな…」

「ええ。鉄剣と鋼剣では重さは変わりありませんから、長さを増した分重くなると考えれば、フェルはまず鋼で慣らした方が良いでしょう」

「やっぱり、そうだよな」


 それから2人は店の裏で試し切りをさせてもらうと、ルースはエレクトラムを、フェルは鋼のロングソードを購入する事に決めた。そしてデュオの矢も大量にまとめ買いし、笑みを深めた店主が値引きを申し出てくれ、気持ちの良い買い物が出来たとルース達は店主に礼を言って武器屋を後にしたのだった。


「そう言えばフェルはこの前、フェルは剣に魔石を嵌めたいって言ってなかった?」

 店を出た後デュオがフェルに聞けば、「あっそうだった!」と、以前魔力を増幅させる剣が欲しいと言っていた事をフェルは思い出した。


「もう買っちゃったよぉ。何でさっき教えてくれなかったんだ…」

 今更思い出したとフェルは肩を落とし、ルースとデュオの笑いを誘っていたのであった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ゲーム等新しい武具を買ったり、宝箱からゲットしたりしてアップグレードした時ってめちゃワクワクしますよね! フェルはいわゆるバスタードソードやツヴァイハンダーみたいな両…
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