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【169】恥じらい

 野営の度に少しずつネージュに昔の話を聞いているルース達は、ネージュがまだ一度も闇の魔の者と対峙していないのだと知った。


 それの要因としては、聖女が必ずしも聖獣を伴うとも限らず、また、闇の魔の者も数百年ごとにしか現れていない為であろうと推測できた。

 ただ先日会った青きものは、一度聖女と共に闇の魔の者と対峙した事があるのだと言っていたし、その為魔の者の気配も敏感に感じ取れていたという事だった。


「なあ、ルースはその闇の魔の者と会った事があるのか?」

 ルース達は、未だ道をはずれた深い森の中を進んでいる為、フェルは剣で草を薙ぎ払い道をつくりながら、ルースを振り返った。


「いいえ。ないと思うのですが…」

「でも、青きものに何か言われたわよね?それって、ルースの忘れてしまった記憶の中で出会っている…とは考えられない?」

「じゃあ、ルースさんが小さい頃に何処かでそれと会ってしまった為に、その鎖が付けられて、その時の衝撃か何かで記憶を失った…という事かなぁ」

「その可能性もあるか…」

 ルースは黙ったまま3人の話を聞いて考え込んでいた。


「そもそも、闇の鎖って何だ?」

 そのフェルの問いに答えられる者はここにはおらず、ただ沈黙だけが返ってくる。

 偶然にも青きものと出会った事で多数の情報を得られたのは良いものの、その情報は飽和状態となっただけで、ルース達ではそれを対処する方法が見付けられないのだった。


『一度に多くのものを得ようとしても、それは何の進展にもならぬ。それゆえ、解るものから順に考えておれば良いのじゃ』

 ネージュはそう言って、背中に乗るソフィーを振り返った。

 その視線に苦笑を返したソフィーは、ネージュの首元を撫でている。


「魔の者が現れた。それは闇の魔の者が、再び世に出る事を意味しているのでしたね?」

 ルースが言った言葉で、3人はルースを注視する。

『さよう。既に魔の者の存在を青きものが確認しておる。ゆえに今後この世の何処にでも、魔の者が現れる事になるじゃろう。おぬしらも今まで以上に、心しておくと良い』


 ネージュのいう事も尤もだ。

 闇の魔の者の事もあるが、その前に魔の者という存在も忘れてはいけない。青きものが見た魔の者とは、闇の魔の者より力としては劣るのであろうが、その存在がこれから先の旅に大きな障害となる事は、安易に予想できる。


 ザザッと剣で草を薙いで、フェルが振り返る。

「魔の者って、どんな見た目なんだ?」

 その答えを持っているのはネージュのみで、皆がネージュに視線を向けた。

『我も数える程しかその存在を感知しておらぬが…見た目は人間のようであったと記憶しておる』

「って事は魔物みたいに四つ脚じゃなくて、二本足で歩いてるのか?」

『さよう。禍々(まがまが)しい気配がなければ、ただの人間に見える姿じゃな。その気配とは我が前に言った、“殺意“とも言えるもの』

「だったら、その気配を感知できなければ、気付けないという事なの?」

『そうなるであろう』

 ネージュの肯定に皆は同じことを考えたのか、一斉に口を噤んだ。


 もしその禍々しい気配がわからなければ、それは人と同じように見えてしまうという事で、喩え町中に魔の者がいようとも気配がわからぬ者には警戒心もなく、それゆえ魔の者に容易く危害を加えられてしまうという事だ。


「その気配をネージュはわかると仰いましたが、私達でも感知する事が出来るのでしょうか?」

『ふむ…魔力が視えるおぬしであれば、分かるであろう。そしてソフィアにも勿論それはわかるはずじゃが、そやつとその者には感知する事は難しいやも知れぬのぅ。闇の魔の者であれば、膨大な魔力があると云われるゆえ、ある意味一目見ればそれこそ無力な赤子であろうともわかろうはずじゃが、魔の者では、その気配はそれに聡いものでなくば気付かぬであろう』


「はあ?って事は、不意打ちの危険もあるじゃないかよっ」

 ザクッと大きく振りぬいたフェルの剣が、切った草を遠くまで飛ばした。

「それではその魔の者を感知できる、別の方法はありませんか?」

 ルースはフェルが切り進んだ道を進みながら、ネージュに確認する。


『ふむ。聖の魔力であればそれは相反する魔力であるため、感知する事ができようが…』

「…そういう事ですか」

 ネージュの話でルースには一つの線が繋がったようにみえ、ルースは小さな声を落とした。

「どうしたんです?ルースさん」

 デュオーニが心配そうに、ルースの顔を覗き込んだ。

 そのデュオーニへ笑みを向け、ルースは「いいえ」と首を振る。

「少々試したい事を思い付きましたので、後程お話しいたしますね」

 ルースの笑みを見たデュオーニは、それで安心した様に頷き返したのだった。



 そしてその夜、ルースは食後に皆が落ち着いたところで、今日考えていた話をし始めた。

「先程話していた魔の者の気配の事で、試したい事があります。ご協力いただけますか?」

 ルースは焚火を囲んでいる仲間を、順に見渡していった。

「おう、いいぞ」

「ええ」

「はい」

 それぞれが頷き返すのを待って、ルースはソフィーへと視線を向けた。


「先日デュオには、ステータスの内容をお伝えしましたが、今回はそのステータスがらみの事でひとつ確認したい事があります」

 ルースはそう言いつつも「まだ確信はありませんが」と付け加える。



 先日ペイジ達商人と別れた日の夜、ルースはデュオーニのステータスも確認を済ませ、その内容をデュオーニ本人へと伝えていた。

 その時のデュオーニのステータスは。


~~~~~~~

『ステータス』

 名前:デュオーニ

 年齢:17歳  

 性別:男

 種族:人族

 職業(ジョブ):魔弓士

 レベル:3  

 体力値:170  

 知力値:101   

 魔力値:41   

 経験値:58  

 耐久値:49   

 筋力値:55   

 速度値:53   

 スキル:集中

 称号:―

~~~~~~~


 この時伝えた数値は自分で確認していた数値と余り大差ないようで、その事で本当にルースが視えていると確信を持ったとの事だった。

 そしてデュオーニは魔弓士という職業(ジョブ)に加え、最近なって出たであろう“集中“というスキルに感動し、目を潤ませていたのはたった数日前の事である。

 因みにデュオーニの数値は、年齢に基づく平均値よりも少し高い位の数値であり、ルース達が異常値という事を忘れてはならない。



 閑話休題



「それは、ソフィーのステータスの事なのです」

 そう言ったルースはソフィーを見つめた。

 すると一斉に皆の視線が集まったソフィーは、落ち着かなくなったのか焚火の前で居住まいを正す。

「何かあったかしら?」

 覚悟を決めたように言うソフィーに微笑みかけたルースは、そんなに緊張しないでくださいと肩の力を抜き、自らカップに入れたお茶を飲んでみせた。


「以前ソフィーのステータスを視た時に出ていた、“聖魂“というスキルの事です」

 ルースがそこで言葉を切れば、ソフィーが肩の力を抜いた事が分かった。

「新しく出ていたスキルね?そういえばあれから、試してもいなかったわね」

 すっかり忘れていたとソフィーが苦笑を漏らす。


「はい。でもそれは今回の為に出たスキルの様な気がしたので、別に急いで試す必要はなかったかも知れません」

「ん?それってどういう事だ?」

 問いかけたフェル以外も、皆同じように不思議そうにしている。


「魔の者を感知できる者は、聖の魔力を持つ者。私は例外的に魔力が視える為それには当たりませんが、フェルとデュオには魔の者を判別する事が出来ないと、先程ネージュから聴いたと思います」

『さよう』

 ネージュもその通りだと肯定する。

「でしたらフェルとデュオにも、聖の魔力を纏ってもらえば良いという話です」


 ルースがそこまで言えばソフィーとネージュは気付いた様で、ソフィーは微笑んで頷いてくれた。

 そして少しすれば思索していたデュオーニも、何となくわかってきたようだった。

「あぁそうか、確かそれって付与だったか?何かにソフィーの聖の魔力を付与してもらって、それを俺とデュオが持つって事だな?」

 フェルもその答えに辿り着き、ルースへと確認する。


「ええ。私はそう考えてみたのですが、魔力を何に付与するか、そしてどれ位の時間魔力が持続するかを、検討と検証する事になります」

「そうよね。そうするにしてもまずは“何に“という事ね」

「ええ。常に身に着けている物である事、それがどのように作用し感知できるのかも検証する必要があります」


「それじゃあ、常に身に着ける物っていうなら“肌着“?」

「「「………」」」

 フェルの案に、皆は無言を通す。

「ん?何か変な事言ったか?」

 フェルはキョトンとして3人を見渡している。


「僕はちょっと…」

 デュオーニは目元を隠し、恥じらうようにその案に難色を示す。

『おぬしは配慮というものがないようじゃのぅ。おぬしは良かろうが、付与するソフィアの身にもなってみるが良い』


 ネージュの言葉で口をぽかんと開けたフェルは、みるみる内にその頬を赤く染めていったのだった。


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