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【167】情報と忠告

「その“自分の聖獣“ってなぁに?」

 ソフィーは青きものの言葉に引っ掛かりを覚えたようで、聖獣たちへと疑問を投げかけた。


『聖獣は、この国に4体いるのさ。青きものはワタシ、白きものはここにいるね。そして黄きものと黒きものがいる。そのどれかが聖女と出会う時、その聖獣はその聖女の聖獣となる』

『さよう、我々は聖女を護る役目を担うもの。我々聖獣が聖女と出会えば、以降離れる事はない。しかしそうは言っても、それまでには制約があるのじゃ』

 初めて伝えられる話に、4人の心には驚きと混迷が降って湧く。


『だね。それは“聖獣自らが動いてはならなぬ“って事。ワタシ達聖獣は、いくら聖女の存在を知りえたところで、自分から迎えに行ってはならないのさ』

 青きものはその制約というものを説明した。


「どうしてなの?聖獣が聖女と共にあると言ってくれたネージュの話を聴いた限り、聖女を護る存在だって言ってくれた気がしたけど…」

 ソフィーの問いかけにネージュと青きものは視線を交差させるも、それは一瞬の出来事ですぐにソフィーへと視線を戻した。


『なぜかは我らも知らぬ。我らはただ、そこにあるその制約を守らねばならぬ立場。それは“運命(さだめ)“により、聖女が聖獣と出会う事が出来れば、という前提からなるもの。聖獣は確かに聖女の為にあると言い切れはするが、聖女が求めなければ我らは接触すら叶わぬ…という事よ』

『そしてそれは、聖女がワタシ達聖獣の存在を知って求めるという意味ではなく、“天運(さだめ)“によって出会う事を意味するんだよ。新しく聖女となる者は、聖獣が何をするものかを知らないはずだしね』


「って事は、たまたま聖女が聖獣と出会うという機会がなければ、聖獣は見て見ぬ振りをするって事か?」

『さよう。ソフィアのように我の結界の内に入ってくれば、精霊が騒ぎ、それにより我も導かれソフィアの下へ向かい出会う事が出来るが、喩え聖女が何処にいるのかが分かっても、聖女が聖獣の結界内に踏み込まねばそれは叶わぬという事』

「では…お二方の聖獣に出会ったソフィーは、お二方と行動を共にする…と?」

 ルースもそこで、疑問を口にした。


『それは無いよ』

 そう青きものは断言する。

『聖女は必ず最初に出会った聖獣と契約を交わし、それ以降にもし別の聖獣に出会う事があったとしても、もう“自分の聖獣“は決まってしまっているからね』

『我は既にソフィアの聖獣となっておる。それにいくら聖女と言えど、本来この様に2体の聖獣と出会う事は、まずないと言って良い』

『そう。無い事だね』


 4人はその話に、誰一人として声を出す事が出来なかった。本来聖獣しか知りえぬ話をしてもらい、“さだめ“という言葉を用いて説明する聖獣も、今目の前で起きていることは、通常起こりえぬ事だという。

 ルースは、伝承の中に生きていた聖獣も何かに定められた理の中に生きているのだと、何も知らず上辺の世界だけで生きている人間というものに、戦慄すら覚えたのであった。



 それから少しの間聖獣たちも口を閉ざしていたが、ルースは今日聞いた別の伝承を確認する為に口を開いた。

「話は変わりますが、この近くの村には昔聖女がいたと聞きました。その恩恵でこの近くには魔物が出ないという話でしたが、それは貴方がいるからですか?」


 ルースの問いに何度か瞬きをして視線を向けた青い鳥は、今更だというように話す。

『そうだよ。500年位前に、この村には聖女が住んでいた。その時はワタシが彼女の聖獣だったんだ。だからその後もワタシはここに結界を張って住んでいる。その結界が届く所までは、魔物の出現率は大幅に下がるはずだよ』

『入って来る物もおるがのぅ』


「そうか…だからこの近くにある道は、安全って言われてたのか…」

 フェルもルースが気になった事柄に思い当たったようだ。


『じゃが、今までこやつが瀕死の状態であったゆえ、結界は無かったのじゃ』

『後でまた結界を張り直さないとならないなぁ…ちょっと面倒だよ』

 気安く結界の事を話す聖獣は、オレンジ色に色付いてきた空を見上げていた。

「あのぉ。ネージュの結界はその場を離れても維持すると言っていたけど、ここの結界は聖獣が居るのに解除されてしまうの?」

 ソフィーは、以前ネージュに聞いた“結界は固定している“という話を思い出したらしい。


『ワタシの結界は固定ではなく、ワタシを通して発動させているものだからね。ワタシは普段不可視の魔法も纏っていて、人間には見えないようになっているんだ。そして自分の結界内を移動して魔力を行き渡らせている。だからワタシが消滅しそうになれば、それは消えるという事だね』

 そう説明した青きものは、視線をソフィーに据えて目を細めた。


『今世は、今までとは何かが違うような気がするよ…』

 ため息のようにか細く伝わってきた念話には、そのか細さとは裏腹に言葉の重さが加わっていた。


『白きもの。ワタシはそう感じているし、今まで経験したものとは違う事が待ち受けているのかも知れない。今世の聖女は既に、白きものが守護する事に決まっている。だから直接手を貸す事は出来ないけど、ワタシからはそこを忠告させてもらうよ』

 青きものはネージュに真摯な眼差しを向け、ネージュはその視線を受けてひとつ頷いた。


『じゃあワタシはそろそろ行くよ。陽が落ちる前に、また結界を張り直さないとならないからね』

 そういって、見晴らしの良い崖の上で立ち上がった青い鳥は、皆から距離を取り上空を見上げてるも、再びルース達に視線を落とした。

『この近くの村は、私が結界の中に入れて護っている村なんだよ。今はワタシの聖女に想いを還しているところだから、ワタシはまだここを離れない。だから何かあれば、またここに来ると良いよ。ワタシが出来る事は、出来る範囲で力を貸すと約束しよう』

 そう言われてルース達は、立ち上がって頷き返す。


『ああそうだ。助けてもらったお礼と言っては何だけど、一つ情報を渡しておく』

 青い鳥はそこで言葉を切ると、ルース達を見回した。


『そこの者には、闇の鎖が付いているよ。闇の魔の者と対峙した事がある私だから気付けたのかも知れないけど、その者には見えない鎖が巻き付いていると感じる。本人に自覚があるのかは分からないけど、一応情報として伝えておくよ』

 しかしその情報を示す為の視線は固定されておらず、誰に向けられた言葉なのかわからなかった。

「それって誰の事だ?」

 フェルが困惑した様に問いかければ、『彼だよ』と一番端にいるルースに首を傾け、その視線を追って皆がルースを見る。


「闇の鎖…ですか…」

 ルースは自分に向けられた言葉を、動揺も見せずに考察した。


『ワタシからは今のところそれ位しか伝えられないけど、また何かわかったら知らせるからね』

 いったいどうやって知らせてくれるのかは分からないが、皆はまだ動揺していて頷く事しかできなかった。

『それじゃあね。白きもの、しっかり頼んだよ』

『あいわかった』


 こうして青い聖獣は大きな翼を広げて空に舞い上がると、白い輝きが尾を引くような足跡だけを煌めかせ、茜色に染まった空に吸い込まれて行った。

「ちょっと濃かったな…」

 フェルが青い鳥が消えた空を見上げながら、肩から力を抜いてポツリと零していた。それは“青きもの“を指すのか“話の内容“を指すのかは、フェルしか分からない言葉であった。


 一方ソフィーは青い鳥が去ると、途端にネージュへと振り返った。

「ネージュ、今まで何でさっきの事とか教えてくれなかったの?」

 ソフィーはネージュと長い時間を過ごしていたのに、今初めて聴いた話だったと詰め寄った。流石にこれには、いつも飄々としているネージュだがソフィーの不満を感じ取ったのか、少し戸惑っているようだ。

『ソフィアが聴きたがっているとは考えてもおらなんだ。我らには当たり前の事であったゆえ…』

 少々バツが悪そうに言うソフィアの聖獣は、言葉が足りない聖獣なのだ。


 始めに出会った聖獣がその聖女の守護にあたるのだとか、聖女の歴史のようなものも含め初めて知った話に、ここにいる皆は驚きをもって聴いていたのだ。要するに、当の聖女にも初耳だったという事である。


 しかしルースには目の前の話は耳に入っておらず、最後の言葉の意味を考え続けていた。

 “闇の鎖“

 その言葉は、決して良いものではないのだろう。そしてそれは、ルースにはとても大事な言葉のようにも感じていた。

 先程の説明の中で、“闇“という言葉は2回出てきている。それは“闇の鎖“と“闇の魔の者“である。その意味を知らねば自分は一歩も前に進めない気がして、ルースは我知らずに焦り、自らの思考の中に落ちていっていた。

 その為、ルースを見つめる2つの黒い目が真っ直ぐにルースへと向けられ、その思考を読みとっていた事にも気付いていなかった。


 こうしてルース達は暗くなる前にその場を後にすると、村へと戻り先程ペイジたちが馬車を止めていた所に戻った。

「流石にもう誰もいないな…」

 そう言ったフェル達の目の前に既に馬車はなく、村人たちも家に戻っていった後で、すっかり閑散とした風景だけが残されていた。

「そうね。夕飯時だし、皆も家に引き上げたのでしょうね」

「ルース、何か聞いてないのか?」


 フェルの声で思考から浮上したルースは我に返り、先程聞いていた村長宅の話を出した。

「ルースがそれを先に伝えないって珍しいな。いつも必要な事は、耳にタコができる位伝えてくれるのに」

「そうですね…すみませんでした」

「フェル、ルースは色々とさっきの事で考えを纏めているのよ。私達もまだ混乱してるんだもの、仕方がないわよ」


 そう言って、ソフィーはルースをフォローしてくれた。やはりこの中で一番しっかりしているのはソフィーの様であった。

「ソフィー大丈夫です。フェルの言う通り少しぼうっとしていたのは事実ですから、そこは先に伝え忘れた私の責任です」

「それでは行先も聞いた事ですし、村長さんの家に向かいましょう」


 デュオーニが空気を読んでそう促せば、そこからは切り替わったように皆は雑談をしつつ、村長宅へと向かって行ったのだった。


修正:聖獣の色について、後の話と違っていたため1色変更しましたが、このお話には特に影響はございません。

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