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【166】遥か昔

「精霊の父よ、闇夜に染まる清き心を、解放せしめたまえ。“解呪(ディスペル)“」

 ソフィーがルースから聞いた言葉を復唱すれば、青い鳥は白い光に包まれた。


 そして青いと思っていたものは、その眩い光が収まる頃には、収まったはずの輝きを纏っているように光を帯びていた。

 ソフィーに与えられた輝きであったはずが、それを体内に吸い込んだ途端、青白く発光した…といった方が良いのかも知れない。

 ルースはその変化に目を瞬かせるも、この発光は魔力であり、見えているのは多分ルースだけであろうと思う。


 その時、些細な変化に気付く。

 目の前の青い鳥が目を開けたのだ。

 力なく横たわり目を閉じていた青い鳥は、ソフィーの解呪によって目を覚まし、周辺の確認をするようにその長い首をもたげる。


「あっ!うごいた!」

 ニーチェの声は喜色を含み、その柔らかそうな頬を朱に染めていった。


 その声に反応したかのように視線をニーチェに向けた青い鳥は、それからルース、デュオーニ、フェル、ソフィーを順に見て、最後にネージュへと視線を向けた。

 その鳥は、危害を加えられないとわかったのか、ゆっくりと体を起こして立ち上がる。草の中に倒れていた為に体に草が付いているが、それを気にすることなくその首をニーチェの方へと伸ばした。


 自分の目の前に大きな鳥の頭が来たことでニーチェは一瞬身を強張らせるも、嘴を開く事もそれで突く事もなく、ニーチェの目を覗き込むようにしてその顔を静止させた。


「なおったの?」

 拙い話し方でニーチェがその鳥に話しかければ、その鳥はまるで言葉を理解したかのように目を細めた。その顔はまるで微笑んでいる様にさえ見える。

「そっか、よかったぁ」

 パァっと笑みを広げたニーチェは目の前の鳥に手を伸ばそうとし、触れる直前で手を留めた。

 触ってもいいのか?というその動作に、鳥は自ら顔を近付け、その小さな手に頭を擦り付けたのだった。


 ルース達はその間、じっと静かに見守っていた。

「もう大丈夫なのね?良かった…」

 ソフィーはそう言って息を吐く。


『うむ、もう問題はなさそうじゃ。その子供にもそう伝えてやると良い。余り長い間ここにおれば、その者の親も心配するであろうしのぅ』

 暗に、もうその子供を村に帰せと言っているネージュにソフィーは苦笑を漏らすも、確かに遅くなれば家族が心配するとネージュに頷いた。


「もう大丈夫みたいよ。ニーチェ君のお陰で元気になったわね。後は私達で少し様子をみておくから、早く村に戻った方が良いわ。ご家族が心配しているかも知れないわよ?」

 ソフィーがそう言ってニーチェを覗き込めば、ニーチェは鳥に触れていた手をピクリとさせてソフィーを振り返った。


「あっ、だまって出てきたんだった…」

 そうして焦ったようにソフィーに聞く。

「本当?見ていてくれる?」

「ええ。この子が帰っていくまでみているから、心配しなくても大丈夫よ?」

 柔らかく微笑んでソフィーが伝えれば、ホッとした様に頷いて踵を返した。


「おいっ一人で大丈夫か?」

 フェルがそう問いかけるも「いつも来てる森だから大丈夫ー」と言って、ニーチェは手を振って帰っていった。



「いつもって、子供が一人で森に入ったら危ないだろう…」

 去っていく背中を見ながらフェルがそう呟けば、それにはしっかりと答えが返ってきた。


『この森は普段、結界があってあるから大丈夫なんだ。今はそれがないから、ちょっと心配だけどねぇ』

 その声は聞きなれた声ではなく、少し声高に聴こえる念話だった。


 一斉に4人は青い鳥を見る。


『久しいね、白きもの』

『青きものは、何をしておったのじゃ…』

 ネージュはそう言って訝し気に目を細め、青い鳥を見据えた。

 当然そんなやり取りを見ているルース達は、急に話し出した鳥に驚き固まっている。ニーチェがいなくなった途端にネージュと話し出し、その上“結界“と言った。


「もしかして、貴方も聖獣ですか?」

 ルースは半信半疑という風に、そう問いかける。

『そうだよ。私も聖獣になるかな?聖鳥かも知れないけどね?』

 そう言って青い鳥はカカッと笑い、そしてその声を収めると、ルース達を見つめた。

『本当に今回は危なかったけど、助かったよ。聖女よ、心よりお礼を言わせてもらおう』

 ソフィーの前で(こうべ)を垂れる青い鳥は再び視線を上げると、ネージュへと視線を戻す。


『奴らが動き出したよ』

『ほう…。おぬしはそれでかえ?』

『そうさ。今朝方まだ闇が消えぬ時刻、ワタシの結界に干渉するものがいたんだよ。ワタシはそれで様子を見に行って…』

『居たのじゃな?』

『そう。1体だけだったからワタシだけでも何とかなるかと、高を括ったんだね』

『そうか…』


 大きな青い鳥と小さい犬が軽快に言葉をつなげていく様は、不思議なものを見ている様な酷い違和感を覚えるものだった。


『今代の聖女は、白きものの処に辿り着いたんだねぇ』

『さよう』

「ねぇ、ネージュ。今話している事は私達は全く意味が分からないんだけど、聴いてはいけない事ではないの?」


 ソフィーの声でようやく人に視線を向けた青い鳥は、キョトンとした様に首を捻ってみせた。

『聖女に聞かれて困る事はないよ?これは聖女にも関わるものだからね。ねぇ白きもの?』

『うむ。ソフィアがこれから先、対峙する事になるものの話しゆえに』

 そう言ったネージュも、問われた事に不思議そうにしていた。


「あの…私がお尋ねしても良いか分かりませんが、もしご説明いただけるのであれば、最初からお願いできますでしょうか…」

 ルースがそこで口を挟めば、『この者は?』と問うように青い鳥がネージュを見た。

『聖女の今の仲間じゃ。この者達であれば、話しても問題はあるまい』


 ネージュの補足により、話の大筋を説明してもらう事になったルース達は、その場に腰を下ろして鳥の前に集まれば、話が始まった。



『この世には、魔の者が実在する』

 話しの冒頭とは思えぬ言葉が、青きものから落とされる。


『魔の者が先か人が先か…その辺りはワタシ達でも解らない領域だね。遥か昔、いつしか人の世に魔の者が姿を現し、この土地で散らばるように小さな集落を作り、安寧に過ごしていた人々を襲うようになった』

 青きものはそう言って、何かを思い出すように言葉を切った。


『人々は怯え、叫び、逃げ惑った。それを憂いて手を差し伸べるかのように一人の聖女が現れ、傷ついた人々を癒していった』

『その時はまだ、“聖女“とは呼ばれておらぬがのぅ』

『そうだったね。初めは“聖女“とは呼ばず“女神“と呼ばれていたかもしれない。そしてその聖女に心酔した人々の中から4人の若者が現れ、いつしか聖女と行動を共にし、そこに現れ人々を苦しめる魔の者達を駆逐していった』


 ルース達は言葉もなく、ただ語られる話の情景を思い浮かべていた。

 この話は聖女を中心として語られ、聖女は魔の者によって傷つけられた人々を癒して行き、4人の若者と共に人々の世を救う者として、皆の期待を受け国中を旅したのだという。


 そして魔の者が付き従うという“闇の魔の者“の話へと移っていった。


「闇の魔の者?」

 ソフィーは眉間に力を入れ、青きものの言葉を反復する。

『そう。闇の魔の者とは、魔の者達から一目置かれる者…とでも言おうか、魔の者の中でも突出した膨大な闇の魔力を保持するものの事だよ』

 青きもののその説明に感情は籠っておらず、事実をただ伝えているだけに過ぎないものだが、それでも目の中には嫌悪を覗かせていた。


『闇の魔の者はその膨大な魔力により、聖女に付き従う者達にも屠る事は出来なかったのじゃ。ゆえに、最後に残った聖女がそれを封印した』

「封印って、どこかに閉じ込めたという事?」

 ソフィーの問いに、ネージュは木々しか見えない北西に視線を向けた。

『そう。魔の山にね』

 そして、青きものもそちらへ視線を流した。


 ルースはそこで、かすかに口を開く。

「“封印されしもの“…?」

 その小さな声は、風に揺れる木々の葉擦れにも消される事なく、そこにいた者の耳に届いた。


「ん?何だそれ?」

 フェルは、ルースが落とした言葉の意味を尋ねる。

「…先日読んだ歴史書の中に、“封印されしもの“という言葉がありました。ですがそれが何を意味するのか、今までわからなかったのです。しかし今の話を聞いて、その言葉と繋がったように思ったので…」

『あぁ、確かにそれが幾度か繰り返されてきた中で、毎回その闇の魔の者を“封印する“という形で、人は僅かな平穏を取り戻してきているからね。だから人は“封印されしもの“と言うのか…なるほどなぁ』

 青い鳥はその崇高な姿とは裏腹に、砕けた物言いをする聖獣だった。


『それで青きものは、今日その魔の者の1体と会ったという事のようじゃ』

『そう、それでちょっと反撃を食らったという訳。そして魔の者が再び活動を始めたのであれば、闇の魔の者が再び世に現れる日も近い、という事だね。聖女ももう既に力を見せ始めているのなら、それも流れ的には間違ってないからね』

「それは…どういう意味ですか?」

 デュオーニもそこで疑問を口にする。


『いつの世も、闇の魔の者が現れる前には魔の者が湧き、聖女と勇者が現れると決まっているのさ』

『その言い方は正しくはなかろう。いつの世も聖女は途切れることなく現れておるゆえに』

『それはそうなんだけどね。でも聖女が必ずしも、ワタシ達聖獣と関わり合いになるとは限らないだろう?なのに今世の聖女は、既に自分の聖獣を見つけている。そして間もなく勇者も出現するはずだよ。時は再び満ちてきている…』


 この聖獣たちは何故、そのような未来の事を断言できるのか、ルースには分からなかった。それは何か根拠があっての事なのかと、ルースはただその話に耳を傾けるしかないのだった。


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

重ねて誤字報告もお礼申し上げます。<(_ _)>

明日も引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 多分『封印されしもの』を解き放つ為に動いている魔のもの……ポジション的にはいわゆる魔王とその配下達って感じなんでしょうね。 [一言] 第一話で戦ってたのは例の『封印さ…
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