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【160】再出発

「本当にお見送り位しか出来なくて、申し訳ないんだけど…」

 そう言って隣のキャロルも、眉尻を下げた。


「その後、いかがですか?」

 ここは門にも近い為、あえて何がとは言わずに会話を続ける。

「この人、順調すぎて張り切っちゃってるの。私がそれで心配する位よ?」

「ははっ。少しずつでも目に見えて変わってくるんだ。それに少々興奮してしまうのは許してほしいな」

 2人の嬉しそうな様子を見て、ルース達も安心する。


 それにしてもデュオーニからは何の声も聞こえないなと、ルースはデュオーニを振り返った。

「デュオーニさんも、これから頑張ってくださいね。お父様を時には諫めるのも、息子さんの役目ですよ?」

 あれからデュオーニとは話をしておらず、お誘いしている事については何の連絡もなかった。そのため無理に問いかける事はせず、敢えてそこには触れずに話していたのだった。


 ルースに話しかけられたデュオーニは、下げていた視線をルースへ向ける。

「はい」

 それだけの言葉を返したデュオーニは、何か言いたそうにしているが明らかに様子がおかしかった。

 ルース達がトーマスとキャロルに視線を戻し、“どうかしたのですか?“と首を傾ければ、その2人は苦笑の混じる笑みを返した。


「昨日、デュオーニと沢山話をしていたんだが、それでまたデュオーニは色々と考え込んでいる…といったところだね」

「この子は考え過ぎちゃうのよ」

「そうだったのですね。彼ならばきっとこの先誰よりも強くなれるでしょうから、時には立ち止まって悩むことも必要でしょう」

 そう言い添えたルースは、デュオーニを見た。


「デュオーニさん、今日まで色々とありがとうございました。この町に着いてデュオーニさんとお知り合いになれて、幸運でした」

「ああ。あの食べ放題の店を教えてくれて助かったよ。あの後も2回位挑戦したんだが、全制覇はやっぱり無理だった」

「ふふ。私はお母さまに教えていただいた“丸にぎり“が凄く気に入ってしまって、これから色々な具を入れて作ってみようと思ってるのよ?」

「嬉しいわ、気に入ってくれたのね?あれの具はね、味が濃い目の方が美味しいの。意外と合わないかも?って思うものも入れてみると、ビックリする位美味しい事もあるから試してみてね?」

「はい。ありがとうございます」


 食べ物の話に笑顔が広がり、ルース達とトーマス達はしばし別れの時間を過ごした。


「それではそろそろ、私達は失礼します。お世話になりました」

 先にルース達が頭を下げれば、トーマスとキャロルも頭を下げ言葉を紡ぐ。


「デュオーニの事を、よろしくお願いします」

 そこでキャロルから唐突に伝えられた言葉に、ルース達は虚を突かれてデュオーニを見た。


「僕も…僕もつれて行って下さい…。一度お断りした身で、何て言っていいのか分からなくて…」

「何だよ、そんな事気にする事ないのに」

「そうよ?気軽に声を掛けてくれれば、一も二もなく頷いたのに」

 フェルとソフィーは困ったように微笑んでデュオーニを見た。


「デュオーニは考え過ぎなんだ。その辺り、フェル君を見習ってくれると良いんだが」

 そう言ってトーマスは苦笑しつつ、デュオーニの肩を叩いた。トーマスとはたった数回会った位だが、すでにフェルの性格に気付いているらしい。

「任せてください」

 何を任せるというのか、フェルは嬉しそうにトーマスに笑みを向けた。


「余りフェルに似るのもどうかと思いますが、素直さはフェルの良いところだと私も思います。その点では私も、フェルには救われていますから」

 いつもそんな事を言わないルースから出た言葉に、フェルは鼻の下を擦ってくすぐったそうにした。

「仲の良いパーティね」

「はい。私もそう思います」

 ソフィーはキャロルに同意して微笑む。


「じゃあな、デュオーニ。行ってこい」

「頑張ってね」

「はいっ行ってきます!」

 やっと意識を切り替えたデュオーニも両親に別れの挨拶を済ませると、ルース達は再び頭を下げてから踵を返して歩き出していった。


 しかしルース達が門を通過した先で、突然大きな声に呼び止められる。


「ちょっと待ってくれっ!」


 その声に振り向いたルース達が見た先には、走ってきたのか息を切らしたガイスと、その後ろからローレンス、そしてガイスのパーティメンバーの2人もやってきていた。


 デュオーニはローレンスとはあれから会っておらず、こうして出発する前に再会できたことにホッとした。ルース達から話は聞いていたが、本当に走れるまでに快復したローレンスを見れて、デュオーニは心の底から安堵の息を吐いていた。

 それにまさかガイス達までもがここに来ると思っていなかったルース達は、振り返ったまま動きを止めたのだった。


「ローレンスさん…」

 ソフィーがローレンスの姿を見て小さく声を落とす。

 そんなに息を切らすまで走って大丈夫なのかと不安になるも、彼はそこまで完全に回復しているのかと思えば自然に笑みがこぼれた。


「おや?もしかして私達の見送りにきて下さったのですか?」

 ルース達から5m程離れて止まったガイスに、ルースは視線を向けた。

 その後ろで頷いたローレンスは、息を整えると口を開く。


「今日出発すると聞いていたので、多分デュオーニも行くだろうってガイスに話したんです。そうしたら…」

 ローレンスは、もうデュオーニの憂いが全てなくなった事で、ルース達と一緒に旅立つだろうと気付いていた様だ。そしてガイスを見て困ったように微笑んだのだった。


「俺…昨日ローレンスに会って、又パーティに戻りたいって話をされた時、足が治ってるって初めて知って…」

 ガイスはそこでギュッと目を閉じた。


「ごめん!」


 ガイスは深く頭を下げる。

 誰に対してなのかは、言わなくてもルース達には分かっていた。

 このガイスという青年も幼馴染の想いを感じ取って、彼なりに行動していたのであろう。


「それでローレンスの足を治すのに、デュオーニも協力してくれたって聞いて…」

 デュオーニはそんな話になっているのかと、驚いてローレンスを見つめた。

「足を治してくれた人と出会えたのは、デュオのお陰だろう?」

 ローレンスはニヤリと笑ってデュオーニを見つめ返した。

 確かにそれは間違いではないが、少し歪曲してガイス達には伝えたのだと知る。


「ローレンス…」

 デュオーニは困ったように彼の名前を呼んでから、ルース達を振り返った。

「デュオーニさん、ガイスさんが頭を下げたままですよ?」

 その姿勢のままでいるガイスを示してやれば、デュオーニはガイスに振り返り急いで声を掛けた。

「もういいってガイス。僕が原因だったのは事実だ」

 デュオーニがそう言えば、ガイスはやっと頭を上げてデュオーニを見た。


「こいつ、あまのじゃくだろう?本当はお前の事心配してるのに、あんな言い方してたんだよ」

「おいっ余計なこと言うなよっ!」

 言ったメンバーを焦って振り返るガイスは、その辺にいる普通の青年に見えた。そして今発言した斧を持った者の隣にいた者が、代わって今度は口を開く。

「デュオーニに関わるなって、おれはいつもガイスに言ってたんだ。それでも自分が言わないと、誰も言わないからって」

「もう言うなって…」

 しょぼんとしてしまったガイスは、メンバー2人に告げ口されて肩を落とした。


「何を…ですか?」

 ルースは、その発言をした魔法使いに意味を尋ねた。


「デュオーニとパーティを組んでいた時、彼は弓士なのに、ずっと魔物に突っ込んで行く戦い方をしていました。だからこのままだと、いつかデュオーニも大怪我をする事になるからって。だったら危ない冒険者は辞めさせて、もっと安全な事をすればいいって」

 ガイスがそんな事を考えていたのかとデュオーニがガイスを見れば、ガイスは顔を覆って下を向いていた。


「ガイス…」

 デュオーニは力なく、彼の名前を呼んだ。


 しかしルース達は、それにしても対応が子供であったなと苦笑する。そう思っていたのなら、もっと別の方法もあっただろうにと、まだ色々な意味で青い冒険者に息を吐いた。

 そのため息にピクリと肩を揺らすガイスは、いつもの勢いはなくすっかり項垂れているところをみれば、本人も収拾がつかなくなっていたのだろうはと想像できた。


「もういいって、ガイス。僕は過ぎた事は気にしない。本当にそう思っててくれたのなら、僕からは“ありがとう“って伝えるよ」

 デュオーニの言葉に勢いよく顔を上げたガイスは、目に涙を溜めてデュオーニを見つめた。


「それに、心配してくれなくてももう大丈夫なんだ。僕は、魔弓士になれたからね」


 その“魔弓士“という言葉の意味を理解したのか、ガイス達は驚いた様に目を見開いた。

「僕は魔力持ちだったらしいんだ。だけどその魔力が使えなくなっていて、中途半端な弓士になっていた状態だった。だから皆に迷惑をかけていた事は、本当に申し訳ないと思ってる」

 そう言ったデュオーニが、今度はガイス達に頭を下げた。


「魔弓士…」

 弓士ではなくとも、魔弓士は弓士の上位職だという位は冒険者ならばわかるだろう。特に弓士と接点のある冒険者は、弓士からその名前を聞いた事があるはずだ。


「そうだったんだな。じゃあ僕もデュオも、冒険者としてこれから再出発だな」

 一早く驚きから立ち直ったのはローレンスで、そう言ってデュオーニへ笑顔を向けた。

「うん」

 2人はしばし見つめ合った。

「ローレンス、頑張ってね」

「ああ。デュオもな」


 小さな鞄と矢筒を背負ったデュオーニは、一見するとこれからクエストに向かう姿にも見えるが、ここでルース達と一緒に居るという事は、ローレンスが予期した通り、デュオーニも彼らと共にこの町を出て行く事を意味していた。


お別れだ。


「ガイス達も頑張ってね」

 デュオーニの別れの挨拶に、ガイス達も神妙に頷いた。

「それでは行きましょう。皆さんもお元気で」

 そう言ったルース達は軽く頭を下げて、ローレンス達に別れを告げた。


「お世話になりました。デュオをよろしくお願いします」

 ローレンスの言葉に合わせ、ガイス達3人も頭を下げる。

 それに一つ頷いて見せ、ルース達は踵を返して再び歩き出して行った。



 それらを離れて見守っていたデュオーニの両親も、旅立って行く者達を一心に見つめていたのだった。

「あなた…」

「ああ。これで本当に、デュオーニに心残りはなくなっただろう」

 ガイス達との会話も黙って聞いていた2人はそう言って微笑みあうが、次第に遠ざかるデュオーニの後姿に、キャロルがその笑みを崩していく。


「デュオーニ…」


 口では何と言おうとも、デュオーニは大切な大切な息子だ。そのデュオーニが旅立つ姿を見送るキャロルに、いつもの笑みはもうなかった。

 そうしていつまでも見つめているキャロルの目から、ポロリと雫が落ちる。


 トーマスは妻を胸の中に包み込むと、その両腕で優しく抱きしめ、息子の旅立ちに想いを馳せていたのだった。


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

重ねて誤字報告もお礼申し上げます。<(_ _)>

そして、ブックマーク・☆☆☆☆☆・いいね!ご感想を頂きます事、

モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。


今話で第五章~飛~は終了となります。次話から第六章へと入っていきます。

まだどれ位続くのか筆者も確定できておりませんが、最後までお付き合い下さいますと幸いと存じます。

それでは引き続き、お付き合いの程よろしくお願いいたします。


2024.6.25追記:

「デュオーニがローレンスを見た時」の文章に、一文を追加しました(お話に変化はありません)。

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