【159】次へ向けて
デュオーニ家の出来事から後、ルース達は出発の準備に取り掛かっていた。
備品の補充や食料品の買い出し、そして次の移動先の確認を済ませると、空いた時間にクエストを受けるという感じである。
そうして、もういつでも出発できるとなれば、最後にシュバルツに手紙を運んでもらい、ローレンスとデュオーニには出発予定を伝えてもらった。
ローレンスとはあの日以来直接会ってはいないが、時々様子を見に行ってもらっているシュバルツが、ローレンスからの手紙を届けてくれていた。
ローレンスには魔力がない為念話では話せないものの、シュバルツを見つけると嬉しそうに話しかけ、進展があればメモ程度の手紙で進捗や変化を知らせてくれていたのだ。
そして今日はこちらから挨拶をしたいと連絡していた為、先日ガルムが出たと言われた場所で、待ち合わせにしてもらったのだった。
「あっすみません、遅くなりました」
先に待ち合わせ場所にいたルース達を見つけたローレンスは、杖は持っているものの今は小走りで掛けてくる。周辺に人がいない事は確認済みの為、その事に触れる必要はない。
「こんにちは、ローレンスさん。私達も今きたところですよ」
「元気そうだな」
「ふふっ元気ね」
約2か月振りのローレンスは、日に当たっている為か以前より血色が良く、快活な青年そのものだ。
「こんにちは。ご無沙汰しています」
「今日はおよび立てして、すみません」
「いいえ。僕も皆さんにお会いしたかったんで、手紙をもらえて嬉しかったです」
ニカッと笑って屈託のない笑みを見せるローレンスは、本当に嬉しそうにしてくれていた。
「本当にすっかり元気になったな」
「回復も早いわね」
「これは皆さんに励ましてもらっていたから頑張れたんです。一人だったけど独りじゃないって、皆さんが見守ってくれてるって、頑張れました」
「でも流石に、家では気付かれるんじゃないのか?」
「あっ…それなんですが、昨日とうとう家族には気付かれてしまったんで、治ってることは伝えました。旅人と出会って、治してもらったんだって」
「ええ、その様な感じでお願いします。それと、デュオーニさんのお父様についても同じような事がありましたので、出来ればお二方で話を合わせて下さると助かります」
ルースがサラリと付け加えた話は、ローレンスには初耳だ。それで大きく見開いた目は、次第に喜色を滲ませていく。
「デュオのお父さんも、腕が治ってるんですね?…うわぁやばい、僕まで嬉しい」
ローレンスは本当に嬉しそうに鼻の下を擦りながら、目を細めた。
「治ったのはローレンスさんより大分あとですので、まだ機能回復まではされていないと思いますが、動かせるようにはなっていますよ」
「デュオは喜んだだろうな…」
「そうね。その時は嬉しそうにはしていたけど、その後会ってないから、今はどうしてるかは分からないけどね」
とソフィーは付け加えた。
「ああ。その後俺達がギルドに顔を出した時には、見掛けなかったしな」
「そうなんですね。じゃあ、家で色々あるのかも知れないな…」
そう言うとローレンスは、考え込むように視線を落とした。
「それで、お伝えしたように私達は明日、この町をでる事にしました。今日はそのご挨拶でお会いしたかったのです」
「本当にもう、出発されるんですね…」
寂しそうに言ってくれるローレンスに、3人は笑みを向けた。
「じゃあ、ちょっと打ち合いでもするか?そろそろ復帰するんだろう?」
ローレンスは以前剣を握っていたのだと聞いていた為、フェルは軽く打ち合いをしようと誘ったのだ。
「え?いいんですか?うわぁー久しぶりだから嬉しいです。あっでも今日は剣を持ってきてないや…」
「私の物でよろしければ、お貸ししますよ?」
ルースは自分の帯剣をはずし、ローレンスに差し出した。
「ありがとうございます!」
そしてローレンスとフェルは、それから少しの間打ち合いをする事になった。
―― キーンッ ――
―― カンッ ――
―― キンッ ――
「踏み込みが浅いですよ」
「はい!」
―― キンッ ――
―― キンッ ――
―― カンッ ――
約一年振りだという打ち合いで、すぐに息が上がってしまったローレンスは、悔しそうに肩で息をしながらフェルに頭を下げた。
「ありがとうございました!」
時間にして約10分。止まる事なく続けた剣の打ち合いで、ローレンスだけは疲労感を滲ませている。
「やっぱり剣と杖では、感覚が違いますね…」
今までも杖で素振りを続けていたと言ったローレンスだが、重さの違いや腕の取り回しが全く違うと言って項垂れている。
「そろそろガイスさんには、お話しするのでしょう?」
「はい。今日にでもガイス達に話して、またパーティに入れてもらえないか相談してみるつもりです」
「では彼らと練習して、手軽なクエストから始められた方が良いですね」
「はい。一年のブランクをすぐに取り戻してみせます」
やる気に満ちるローレンスを、ルース達は温かく見守る。
「それではそろそろ…」
ルースがそう言ってフェルとソフィーを見れば、2人も頷いて返す。
「今日はお呼び立てして申し訳ありませんでした。これからのローレンスさんのご活躍を、私達も楽しみにしております」
「はい!皆さんがいる場所にも聞こえる冒険者になれるよう、頑張ります!本当にありがとうございました!」
深く頭を下げたローレンスを先に帰し、少し時間が経つまで3人はその場にとどまった。
「なんだかんだあったけど、この町も良い町だったな」
「そうね。冒険者には関してはちょっと思うところはあったけど、別に騒ぎを起こす事もなかったし、取り立てて醜悪な人もいなかったしね」
「え?あれも許容範囲だったのか?」
フェルは一人の冒険者の事を言いたいようだ。
「んー。あの人はただ子供なだけだったでしょう?私が見た感じ、デュオーニさんの事を嫌っている様には見えなかったもの…」
17歳のソフィーに子ども扱いされる彼はどれだけ子供なのかと、ルースは苦笑しつつもその通りだと相槌をうった。
「そういや、デュオーニには連絡はしてあったんだよな?」
「はい。シュバルツにお父様へ手紙を届けてもらいました。明日出発しますので、と」
「そうか…デュオーニともお別れだな」
「さっき届いたお返事では、お父さんの経過は良好みたいだったわ。もう弓を引く練習を始めたのですって」
今朝届いた返信を受け取った時、フェルは席を外していたので内容を見ていなかった。
「流石に切り替えが早いな…」
「その代わり、デュオーニさんがグダグダしていると書かれていました」
「ふふっ、家族が大好きみたいだものね。きっと色々悩んでるのよデュオーニさん」
「そうだな」
「では、そろそろローレンスさんも町に着いた頃でしょうし、私達も戻りましょうか」
こうして3人は、ここでのんびりと過ごした後、住み慣れたギルドの宿へと戻っていったのだった。
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そして翌日は、早朝から冒険者ギルドに向かった。
この時間人はまだチラホラという位の冒険者ギルドで、ルース達はいつもの出で立ちのまま受付へと近付いて行った。
「「「おはようございます」」」
「あら皆さん、今日はお早いのですね」
「はい。今日この町を出発する事にしましたので、そのご挨拶と宿の清算でうかがいました」
まだ数人しかいない冒険者ギルドでは、声を大きくしなくても室内の者には話が聞こえていたらしく、数人が振り返るような動きをする。勿論3人は気付いているが、もう慣れたものでそこは全く気にならないのである。
「はい、かしこまりました。宿の方は特に追加等はございませんでしたので、お支払いはございません。ご利用ありがとうございました。これからの旅のご無事を祈念しております」
「ありがとうございます。お世話になりました」
2か月間お世話になった冒険者ギルドに挨拶を済ませ、ルース達はあっさりとその場を後にする。
あと一か月もすればこの町も観光に適した季節に入り、沢山の観光客で溢れ賑やかになる事だろう。間もなくこの町自体も、それらを迎え入れる為の準備で忙しくなってくるはずだ。
そんな事を考えつつ3人はのんびりと町中を見回しながら、来た時に入ってきた北門へと向かって行った。
今は早朝、空は少しずつ明るくなってきたが人通りはまだ少ない。
そして門近くまでくれば、その門の手前に人影があると3人は気付いた。
「ん?あれはデュオーニ達じゃないか?」
フェルが一早く、その人影の正体を知る。
「そうなの?私ではまだわからないけど…」
そう言いながらルース達は、その人影がある場所へと近付いて行った。
「やあ、おはよう。今日出発すると聞いていたから、見送りに来たんだ。会えて良かったよ」
そう言ったのはトーマスで、その隣にはキャロルとデュオーニの姿も見えた。
「「「おはようございます」」」
「わざわざすみません。こんなに早くから来ていただき、ありがとうございます」
「いいや、君達には随分と世話になったし、見送り位はさせてくれるかい?」
そう言ったトーマスは、寂しそうな微笑みをルース達へ向けたのであった。
いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。
重ねて誤字報告もお礼申し上げます。<(_ _)>
モチベーションて大事だなと、心にしみる今日この頃です。
(唐突にどうした。笑)
それでは引き続きお付き合いの程、よろしくお願いいたします。