【157】陽だまりの家
「何で、そう言い切れるんですか?」
言われた言葉の衝撃が収まったのか、デュオーニがその根拠をルースに尋ねた。
「そう思うのも尤もですね。それは端的に言うと、私にはステータスを視る事が出来るスキルがあるからですよ」
「スキル…?」
「ええ。そのスキルを通して、デュオーニさんを視させていただいたところ、職業には“魔弓士“と表示されていました」
「僕が魔弓士…本当に…?」
「魔弓士って、そういう事か」
そこでフェルは納得だという声を出した。
皆がその声でフェルを見れば、その視線を集めた事で、フェルは「あれ?間違えたかな」という顔をする。
「フェル、何がそういう事なの?」
ソフィーがコテリと首をかしげた。
「え?だってデュオーニは、魔弓士って出てるんだろう?だからデュオーニは、初めから魔弓士だったって事だよな」
フェルは一人で納得してうんうんと頷いているが、ルースとソフィー、そして本人は理解できずに首を傾けた。
魔弓士は普通、弓士になった者で魔力のある者がレベルを上げて進む上位職だ。その為、初めから魔弓士だったというフェルの言葉が上手く呑み込めないでいる。
『こやつは頭で考えるより直感でそう言ったのであろうが、確かに上位職を最初から授かる者も、稀におると言われておるのぅ』
と、ネージュから補足が入った。
「始めから上位職を賜る人もいるのですか?それでもデュオーニさんからは、弓士だとうかがっていましたが…」
「はい。僕は確かに15歳の時に、“弓士“という職業が出ました」
「でも弓士としては、力不足だった」
「フェルっ」
ソフィーはフェルの言い方を諫める。
「いいんです、ソフィアさん。確かに僕は弓士として、大事なところが欠けていたのは事実ですから」
「その欠けていた所が魔力を伴うところだった。だから“魔弓士“が本来の職業…という事なのですね」
ルースもやっとその考えに辿り着いたらしく、納得したように頷いた。
「貴方は本来15歳の時に、魔弓士を賜る人だったという事ですね。でも自分でその魔力を封じてしまっていた為、魔弓士としては不完全なものとなり、矢を飛ばす事が出来なかったという事でしょう」
「魔弓士って、ただ魔法が使える弓士ではないの?」
ソフィーはそこの認識が違うと問う。
『魔弓士は独特なものじゃ。普通であればソフィアが言う事が道理じゃが、魔弓士に至っては、魔法を用いて矢を飛ばす。それゆえ魔弓士が放つ矢は、直線のみならず軌道を変えて飛ばす事も可能なはずじゃ』
「そりゃあ凄いな…」
フェルは想像しているのか、驚いた様に目を見張っている。
『弓士が出た者に魔力があっても、すぐに上位職になれるものは稀じゃのぅ。普通は弓士としての間、その技術を磨き命中率を上げ、経験を積んだ上で辿り着ける処じゃからのぅ』
「確かにそこはもうデュオーニさんは、到達しているところね…」
ソフィーはデュオーニが放つ矢の、命中率が高い事を知っている。
彼はその飛距離がないだけでそれ以外をみれば、喩え素早く動く魔物であろうともその行動を読み、必ず矢を中てる事が出来るのだ。
「飛距離がなかったのって、まるで現状に満足させたくなかったからみたいだな…」
フェルの言葉にルースとソフィーも、そうかもしれないと頷いた。
「じゃあ僕は、本当は魔弓士だった…?だから矢が飛ばなかった?」
皆の話を聞いていたデュオーニは、目から鱗でも出たように唖然としている。
「そのようですね。これでデュオーニさんは、どんどん強くなっていくでしょう」
「完全体だな?」
「じゃあこれから、魔法の練習は欠かせないわね?」
「……はい、頑張ります」
まだ夢心地の様なデュオーニに微笑み、3人はそれを見守っていたのだった。
こうしてその後も裏庭で、デュオーニと魔力操作の練習をして昼近くなった頃、母親のキャロルが声を掛けてきた。
「お昼ご飯にしない?簡単なものしかないけど、用意したから一緒に食べましょう」
「ありがとう母さん、すぐ行くよ。皆さんも行きましょう」
「俺、腹減ってたから嬉しい」
「よろしいのでしょうか?」
「母さんが多分いっぱい作ったと思うので、食べてもらわないと僕達が数日同じものを食べる事になっちゃうので、沢山食べて行って下さい」
『デハ我モ,ゴ相伴ニ預カロウ』
シュバルツも嬉しそうに言ってフェルの肩に留まれば、デュオーニは笑って皆を家の中へと連れて行った。
そうして招かれて着いたテーブルには、大皿に乗った料理が所狭しと並べられていた。
「母さん…取り皿を置くところがないじゃないか…」
「あら、ごめんね。ちょっと作り過ぎちゃったわね」
ふふっといたずらっぽく笑うキャロルは、見た目だけでなく気持ちも若いのだろう。そうやって茶目っ気たっぷりに会話する姿は、デュオーニと姉弟と言っても通じるかも知れない。
「どうぞ、召し上がれ」
「「「「「いただきます」」」」」
揃って声を出し料理を見渡せば、まずソフィーが声をあげた。
「あっライスだわ」
「ええそうよ。これは“丸にぎり“といって、手軽に食べられるライスなの。私は職場にいつも持って行ってるのよ」
「母さんの丸にぎりは中に具がたっぷり入ってるから、それだけでお腹いっぱいになるんですよ」
手の平サイズでまん丸に握られたライスは、お皿へ山のように盛られている。
「今日の中身は魚の卵を甘辛く煮付けたものと塩焼きしたお魚、卵を崩して焼いてチイズを絡めてある物と、酸っぱい木の実ね」
「わぁ、美味しそう」
その説明された丸にぎりの他にも、柔らかそうな薄切り肉を花の形に盛り付けてあるお皿や、こんがりとキツネ色に揚げたお肉が乗った皿には揚げたイモも添えてある。そして彩ある生野菜の大皿、琥珀色のスープもそれぞれに用意され、その他にもグレイプなどの果物まである。どれから手を付けて良いのか分からない位、全てが美味しそうに見える豪華な昼食である。
フェルは早速丸にぎりをひとつ取ってガブリとそれを口に入れるも、見る見る内にフェルの口が尖っていった。
「ん~…」
「ははっ。それは木の実だな?酸っぱいがライスと馴染めば、食欲も湧いてくる味に変わるんだ。それにその木の実は、疲労回復にも良いらしいぞ?」
それをゴクリと飲み込んだフェルは、驚いたような顔になる。
「確かに少しすると酸っぱいのが馴染んで、甘みが広がりますね。これならいくらでも入りそうです」
「丸にぎりは、どれがどれか分からないから、食べてみてからのお楽しみよ?」
悪戯が成功したかのように笑うキャロルは、楽しそうに自分も料理を食べ進めていく。
こうして6人とご相伴に預かるシュバルツを含め、笑みの絶えないひと時を過ごしたルース達であった。
その後、食器を下げる手伝いをするソフィーとキャロルが台所に下がり、トーマスとデュオーニ、そしてルースとフェルがその場に残る。
「プハー食べ過ぎた」
「ははっ、フェル君は随分と食べてくれたな。デュオーニもそれ位食べられるようになると良いな」
「いいえ、フェルは食べ過ぎです…すみません」
「いいや、それはむしろ大歓迎だ。一杯食べてくれると作った者も喜ぶからね」
「へへっ」
フェルは笑っているが、今日はいつもよりも沢山食べていたなとルースはフェルに苦笑を向けた。
そして話していれば、台所から戻ってきた2人も席について6人が又顔を揃えた。
それを待っていたルースは、さっそく口を開いた。
「先程デュオーニさんと魔法の訓練をしたところ、デュオーニさんは弓に魔法を乗せて矢を放つ“魔弓士“であるとわかりました」
「は?そうだったのか?」
両親が驚きを見せる中で、デュオ―のはその2人へ視線を向けた。
「僕の矢が飛ばなかったのは、魔力を乗せていなかったからだって言われたよ。だから魔力が再発した事で、飛距離が伸びるようになって矢が飛ぶようになったって…」
ここ数日の話を聞いているのか、トーマスとキャロルは神妙に頷く。
そして息子の苦労を知っている2人は、それでホッとしたような表情を浮かべた。
「そうだったのね…」
「あの時ちゃんと魔法を訓練させていれば、デュオーニは辛い想いをする事もなかったんだな…」
ポツリと落としたトーマスの声は、少し掠れていた。
「過ぎた事を気にするなって言ったのは、父さんだよね?」
その父親の呟きに、デュオーニは真っ直ぐな視線を向けて言う。
つい先日デュオーニは、トーマスから“前に進むために、過ぎた事は気にするな“と言われていたのだった。
トーマスはその言葉に、ハッとして視線を上げた。
「そうだったな…。過ぎた事を考えてもどうにもならないと言ったのは、私だったな」
親子の優しいやり取りを見守るルース達は、ここで顔を見合わせて頷きあう。
そして居住まいを正した3人を見たデュオーニも笑みを引き、真剣な眼差しを両親に向けた。
「それで、折り入ってお話があります」
ルースが口火を切って話し出せば、ルース達4人が真剣な顔をしているのを見て、トーマスとキャロルは顔を見合わせた。
「何だい?」
雰囲気が変わった室内で、トーマスとキャロルだけが少々戸惑っている。
「私達は間もなくこの町を発ちます。その間、これから見る事は胸の内だけに留めていただき、今まで通りに暮らしていただきたいのです」
何を言い出したのか分からない2人だったが、それは改まって言われる事でもないと、再び顔を見合わせてからしっかりと頷いた。
「父さんの腕は、治るんだ」
デュオーニはこれから何をするつもりなのか、遠回しに告げる。
「どういう事だ?」
「治るって言ったって…」
トーマスとキャロルは、ありえない事だと訝しむ。
「その腕の回復には、“復元“という魔法を使います」
「それって…」
キャロル達もその魔法の存在を知っているらしく、大きく目を開く。
「いや…しかし、うちにはそんな大金は…」
「お金はかかりません。その代わりこれからの事は、皆さんに秘密にしてください」
ソフィーは笑みを浮かべてそう伝えた。
「すまないが、意味が分からないんだが…。なぜそんな話になってるんだ?デュオーニ」
トーマスは、事の次第を知っているらしいデュオーニを見つめる。
「それについては、私からご説明させていただきます。ここにいるソフィーは、復元魔法を使える魔法使いです。ただし少し事情がありまして、大々的に知られる訳にはいかない立場にあります。その為、この魔法が使える事は、私達と…ローレンスさんしか知りません」
「ローレンス君…」
キャロルはその意味を理解したのか、そう言って言葉を失っている。
「はい。彼は既に元通りに治っています」
それを聞いたトーマスは信じられないものを見る様な、驚きの表情を浮かべていたのであった。
いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。
重ねて誤字報告もお礼申し上げます。<(_ _)>
なろうさんも、障害が発生してますね。(別のサイトも大変みたいですが)
最近そういうのが多いみたいで、迷惑この上ない。。。ですね。
今日はこの更新の前にログインできなくて、どうしようかと思いました。(--;A
そんな事もありますが、引き続きお付き合いの程よろしくお願いいたします。