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【156】ルースの指導

 ルース達はこれからデュオーニの家に向かうため、ゆっくりと朝を過ごして宿の部屋を出た。


 少々気が()いているのか、今朝からソフィーはソワソワとしているが、そこはネージュが上手くフォローしてくれているので問題はない。

 そして今日はいつも自由にしているシュバルツも、『面白ソウダ』と言ってフェルの肩に乗って付いてきていた。

 鳥の従魔は珍しいらしく、すれ違う人には時々視線を向けられているが、当のシュバルツは我関せずと堂々としたものである。


「この件が終われば、後は出発の為の準備を始めていこうと思います」

「そうね。何かあってもすぐに出られるようにしておく、という意味もあるのでしょう?」

「そこまで今は心配していませんが、出発する前に荷物の確認や行先など、色々とする事がありますからね」

「そうだな。出発する時って結構やる事あるもんな。パン買ったりライス買ったり肉買ったり…」

「ふふっフェルが言ってるもの、全部食べ物じゃないの。一応薬屋にも行って、ポーション類も買わないとね」

「ええ、そこは不測の事態もありますから、他の薬も必要ですね。そう言った諸々の準備がありますので、よろしくお願いしますね?」

「おう」

「わかったわ」



 こうしてのんびりとした足取りで着いたデュオーニの家は、風がそよぐたびに洗濯物の石鹸の匂いがフワリと香ってくる。そして陽に照らされる家は、家族の温もりが溢れ、ルース達には憧れの様な気持ちさえもたらす風景であった。

「いい匂い」

「爽やかな香りですね」

「ああ」

 家の前で立ち止まってそんな感想を話していれば、そこで目の前の扉がカチャリと開き、見つめていた家からデュオーニが顔を覗かせた。


「おはようございます。今日は来てくださってありがとうございます」

 デュオーニの明るい声に促され、ルース達はその扉へと近付いて行く。

「「おはようございます」」

「おはようデュオーニ」

「どうぞ、入ってください」

「ありがとうございます」


 ソワソワとまでは行かないが、デュオーニも良い事があったかのように既に嬉しそうだ。

「デュオーニ、顔が緩んでるぞ?」

 フェルの小声にハッとしたデュオーニは、既に親からも何か良い事があったのかと聞かれていた様だ。

「今日は皆さんが来てくれるからだと、そこはそう言ってあります」

 嘘は吐いていないでしょう?と、デュオーニは笑って頭を掻く。

「ふふっ」


 ソフィーも嬉しそうにそれに笑い返し3人が家の中へと入っていけば、父親のトーマスと母親と思しき細身の女性がそこで3人を迎えてくれた。


「おはようございます。今日はお招きいただきありがとうございます」

「何もない所だがゆっくりしていってくれ。先日は世話になったね、ありがとう」

「私は母親の“キャロル“よ。先日はデュオーニを連れて帰ってくれて、ありがとう」

 2人は頭を下げて、ルース達に挨拶を返した。


 その母親は緑の髪をお団子に纏め“お姉さん“とも呼べるほど若々しく、フェルの話の通り細身で綺麗な人だった。


「私達はデュオーニさんを友達だと思い、当然の事をしたまでですからお礼は無用です」

「そう言ってもらえて嬉しいわ。今日はゆっくりして行ってね」

 そこへソフィーが、小さなクッキーが入った袋をキャロルへ渡す。

「あの…少ないですが、皆さんで召し上がってください」

「あら、わざわざありがとう。じゃあ後で皆で食べましょうね」

 キャロルはそう言った後、それを持って奥の部屋に下がっていった。


「立ったままも何だから、取り敢えず座ってくれるかい?」

 そう言ってトーマスは3人へお茶を用意してくれた。



「それで早速なんだが。デュオーニから魔力が戻ったと聞いたんだ…」

「はい。クエストの最中で、私達を護るために全力を尽くしてくれた事で、再び魔力が現れたのだと思います」

「そうだったのか…。でもまだデュオーニは、あの時の事を覚えていないと言っているんだ」

「そうなんです。僕はその時の事は全く覚えていなくて、魔力が戻ったのなら思い出すかとも思ったのですが…」


「それはデュオーニさんが、小さかった事も影響しているのではないでしょうか。小さい頃の記憶は、他の人でもほとんど覚えていないと言いますし」

「俺も小さい頃の事は余り覚えてないな。その頃に何をしたとか、いちいち記憶には残ってないぞ?」

「そうね。今までもその事で自分の魔力を封じ込めていたようなものだし、無理に思い出す事もないと思うわ」


「しかし、又あの時の様にならなければ良いのだが…」

 トーマスは記憶を取り戻せば、その時どうしてそうなったのかという原因も思い出す事ができ、そして再び自分に魔力をぶつける事がない様に、注意できると考えていた様であった。

「小さな頃は感情に魔力が乗ってしまう事があると聞きますから、大人になったデュオーニさんはもう、その恐れはないと思います。ですが、やはり魔力制御の練習をした方が良いでしょう。その事も含め、今日は伺った次第です」


 今日デュオーニの家に来た目的は、デュオーニの魔力制御の手伝いをするという名目にしてあった。

 その為、本来の目的の前に、デュオーニと魔法の練習もする予定である。

「ああ、そうだったね。じゃあデュオーニの事、よろしく頼みます」



 こうしてトーマスに入れてもらったお茶を飲み終えると、早速、裏庭に出てデュオーニと魔法の練習である。

『この者は魔法を発動させるというよりも、物に魔法を纏わせた方が良いじゃろうのぅ』

 ネージュの助言に、ルース達はその声の主を振り返る。

『こやつもそうであるが、魔法を放つよりもそちらの方が習得が早いじゃろう』

 ネージュはそう言ってフェルを見る。

「確かに俺は魔法を単体で使うより、剣に乗せた方がやり易いな。剣から出す?みたいな」

「そう言えば魔法使いの人達は、杖を持っているわね」

『あれもその杖を媒介として使っておる。それに魔石を嵌め魔力の補助をさせ、より大きな魔法を放つのじゃな』

「じゃぁ俺の剣にも、魔石を嵌めた方が良いのか?」


 デュオーニは目の前でどんどん進んで行く話を、目を白黒させて聴いていた。

「ネージュさんは、物知りなんですね」

 デュオーニは尊敬の籠った眼差しをネージュに向ける。

 それに当然だと胸を張る聖獣は、威厳というより可愛らしという言葉があてはまる。

 シュバルツも近くの枝に留まってそれを見守る中、早速デュオーニの練習方法を模索する。


「先日魔法を発動させた時の事は、覚えていますか?」

 ルースは見ていなかった為、デュオーニの確認を取る。

「ちゃんとは覚えていませんが…2回とも周りの景色が無くなったように感じました」

「入ったってやつか?」

 フェルは集中した時に入るゾーン状態と呼ばれるものの事を言っている様だが、それだけでは魔法を発動させるには至らないだろう。

「後、力が沸き上がるような、何か気持ちの後押しをしてくれている様な…」

 デュオーニは感覚的な事しか分からないらしく、そう言って考えながら話をしている。


「デュオーニさん、一度目を瞑っていただけますか?」

「?…はい」

 言われた通りデュオーニは素直に目を瞑る。

「自分の内側に何かある事はわかりますか?」

 ルースには視えているデュオーニの魔力だが、それを本人が感じとる必要がある。

「えーっと…」

「では言い方を変えますね?体内にある緑色の光は視えますか?」

 ルースがそう言いかえれば、デュオーニは「はい」と頷いた。


「緑に光るもの…がある様な気がします」

「それが貴方の中にある魔力です。まだ小さいものですが、それが訓練次第でもっと大きなものへと育っていきます」

 ルースがそうやって話している横で、フェルも目を瞑って試しているらしく頷いている。ルースはフェルに微かに笑みを向け、またデュオーニへと視線を戻す。


「それを使い魔法を発動させていきます。以前お聞きした話から、デュオーニさんは風属性であると判断しました。そのため緑色の光が視えているのです」

 そこで目を開いたデュオーニは、コテリと首をかしげた。

「他の魔法属性は、違う色という事ですね?」

「俺は雷属性だから黄色っぽいな」

「なるほど…」

 フェル以外は多属性の為、色が混じり合って視え答える事は出来ないが、デュオーニはフェルの答えだけで満足してくれたようだ。

「風属性は、風を操る魔法です。デュオーニさんとはとても相性が良いと思いますので、頑張ってくださいね」

「はい」


 こうしてルースは、簡単な初歩魔法をデュオーニに教える。それで魔力の感覚を掴んで行くという事だ。そしてそれに慣れれば、矢を射る時にも自在にその魔法を乗せて飛ばす事が出来るだろう。


 詠唱を教え、後は継続して練習するのみとなったところで、ルースはデュオーニに尋ねる。

「デュオーニさん、ステータス確認はなさいましたか?」

 ギクリとしたデュオーニは、気まずそうにルースを見た。

「実はまだ、行けてないんです…」


 ステータスの確認をするにもお金がかかるのだ。その為その人の色々な都合で行けていないという事もあるだろうと、ルースはただ頷いて返した。

「別にそれで命にかかわる訳ではありませんので、急ぎという事でもありませんでしたが…そうですね。ちょっとお手をお借りしてもよろしいですか?」


 ルースが何をしようとしているのかフェル達は既に分かった様で、困ったように笑って見守っている。

 ここまででデュオーニには、重要な事以外ある程度の秘密を伝えてしまっている為、今更という事もあり、ルースが助力しようとしている様だとフェル達は気付いていた。

 今更ひとつふたつ内緒話が増えたところで、もう変わらないのだから。


「あ、はい」

 ルースの指示で左手を伸ばしたデュオーニに、ルースはその手を包み込むようにして触れる。

 そして少しの間目を瞑っていたルースはゆっくりと目を開け、そのままデュオーニと視線を合わせた。


「やはり思った通り、既に貴方は“魔弓士“になっているようですね」


 ルースの言葉に目を見開いたデュオーニは、その言葉を理解するまでにしばしの時間を要する事になったのである。


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