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【154】協力要請

「すみませんでした。デュオーニさんには全く分からない話をしてしまって」

 ルースは和やかな空気になった焚火を囲む人達から、デュオーニに視線を移した。


「いいえ。僕は皆さんの事を何も知りませんが、一人一人がパーティを大切に思っているのだと、パーティとはそういうものであると、勉強させていただきました」

 デュオーニの言葉に、ルース達は顔を見合わせ照れたように笑いあう。


「そう仰っていただけると嬉しいですね。それで先程の話ですが…。実は、私は子供の頃に育ての親によって拾われ、それ以前の記憶がないのです」

 ルースの思いもよらぬ話に、デュオーニは目を瞬かせた。

「それでさっきはちょっと、ルースが何か思い出したのかなって話になったの」

「俺達は、ルースの記憶を探しながら旅を続けてるからな」

 フェルの補足で、デュオーニは旅をする冒険者の目的を知る。

「そうだったんですか…」


「でも、それだけじゃないぞ?」

 ニヤリと笑ったフェルはその中で出会う人との触れ合いが、自分達を強くしてくれているのだと言う。

「その場その町には、いろんな人がいるんだ。日々を楽しみながら生活する人、辛い想いを抱えて生きている人、それぞれだな」

 デュオーニもその一人だと言われ、デュオーニは苦笑する。


「だからそんな人達に、少しでも何かしてあげれる事があればって、いつもそう思うの」

 ソフィーはそう言って、少し寂しそうに笑う。

「それに旅の途中で会う冒険者にも、凄く強い人がいたりするんだ」

 ルースはフェルが誰の事を言っているのかが分かり、ルースもその懐かしい人を思い出した。


「僕も、そんな旅がしてみたいです…」

 デュオーニは、羨ましいというように言葉を漏らす。

「じゃあ、デュオーニも一緒に来るか?」

 フェルの言葉にデュオーニが3人を見回せば、フェルもソフィーも、そしてルースも微笑んで見つめ返してくれていると知る。


 しかしデュオーニは、それは出来ないと首を振った。

「皆さんにそう言ってもらえて、とても嬉しいです。本当は一緒に行きたいんですが…でもそれは出来ません」

「…そうですか。残念ですがデュオーニさんが納得されないのであれば、無理にお誘いする事は出来ませんね」

「でもデュオーニは、この町の冒険者ギルドに居づらいんじゃないか?」

「そうね。あの視線は、私でもちょっと気づまりしてしまうもの」

「冒険者ギルドの事はもう諦めていますし、これからも一人でやっていくつもりでいます」

 デュオーニはこれからもこの厳しい環境で冒険者をしていくのだというが、そう言う彼の表情はとても寂しそうに見えるものであった。


「僕は父さんの分まで、これからも頑張っていくつもりです。また発現した魔力を上手く使う事が出来れば、これからもっと収入を得られるようになると思いますし、それを考えれば、この魔力がまた出た事は良かったと言えるのかもしれません」

「そうか。デュオーニは、父さんの分まで働くつもりなんだな」

「はい。僕が父さんの腕を傷つけてしまいました。だから僕が父さんの代わりに働いて、家族を養っていければと思っています」


 デュオーニの話に、ソフィーは悩ましげな表情を浮かべた。ソフィーはこの町を出るまでに、その腕を治したいと考えており、今はただその時期を見極めていると言ってもいい。

 その為デュオーニの話を聞いて、彼の心の(おもり)を取り除ける方法があるのにとソフィーは考えている様子だった。


「じゃあもし、デュオーニの父さんの腕が治ったら?」

 フェルは唐突にそう聞くも、デュオーニがそれに驚いたのは一瞬で、すぐに寂しそうに微笑んだ。

「もし…もしもそんな事があれば、僕もこの町を出て、旅をしながら冒険者をやっていきたい。そして皆さんの様に素晴らしい人と出会って、一緒にパーティを組んで、そしていつか上位の冒険者になって……」

 言葉を紡ぐうちどんどんと話が広がっていったデュオーニは、途中で我に返って口を噤んだ。


「でしたらそれが実現できるように、私達にご協力いただけませんか?」

「ルース…」

 ソフィーは、ルースの言わんとしている事を察する。

「もとよりソフィーは、そのつもりなのでしょう?」

 ルースに言われ、ソフィーはコクリと頷いた。

「協力って…デュオーニに話すのか?」

「ええ。ここでなら誰に聞かれることもありませんし、話しても問題はないでしょう。それに彼は喩え聞いたとしても言いふらす人ではないと信じていますし、それにご家族の都合が分かる人がいてくれた方が良いと思います」


「あの…いったい…」

 何の話かと聞こうとするも、3人の視線がデュオーニに向けられ口を閉ざす。

「うん…そうだな。やるって決めてることだし、その後の事を任せる意味でも、先に聞いてもらった方が良いかもな」

「…そうね」

 戸惑うデュオーニをそのままに、3人は頷きあった。


 そしてソフィーは真っ直ぐにデュオーニを見つめた。

「デュオーニさん、聞いてもらいたい事があるのだけど、良いかしら?」

 目の前で自分の事を話しているのに今更聞くなと言われても、誰に聞いてもそれはないと思ってしまうだろう。

 ただそれに、デュオーニが身構えてしまうのは致し方ない。

「…はい」

「でもその前に一つだけ。もしもこの先何があっても、これから話す事は他言しないでいただけませんか?」

「そうだな。これが人に伝わってしまえば、もしかするとデュオーニにも迷惑をかけるかも知れないし」

 ソフィーもルースとフェルの言葉に頷いて、3人はデュオーニの答えを待った。


「わかりました。この話は他言しないと誓います」

 デュオーニの真剣な眼差しに、ソフィーは肩の力を抜いた。

「その話というのは、デュオーニさんのお父さんを治すという事なの」

「?」

 キョトンとするデュオーニは、ソフィーの話が飲み込めていないのか首をかしげてソフィーを見ていた。

「お父さんの腕を治そうと思っているのだけど、お家へいきなり押しかけるとご迷惑かなと思って、タイミングを教えてもらいたいの」

「……すいません、ちょっと待ってください。それは僕の父さんの話ですか?」

「ええ、そうよ?」

「その父さんの腕を、治すと言いましたか?」

「ええ、そう言ったわね」

「え?!」


 やっと理解が出来たらしいデュオーニは、緋色の目を大きく見開く。

「あの……。神官様に、お知り合いがいらっしゃるのですか?」

「えーっと…」

 ソフィーはそれに目を泳がせて、何と説明しようか迷っているらしい。


 そのデュオーニの問いは、普通の反応であるとルースは思った。まさか目の前にいるこの彼女が、聖女であるとは知らないのだ。


「ソフィーが治すんだ」

「は?」

 フェルがいきなりそう言えば、デュオーニは更に目を見開いてソフィーを凝視した。

「デュオーニさん、ソフィーは治癒魔法の他にも、復元魔法も使えるのです。その復元魔法で、お父様の腕を元に戻す事ができるのです」


 身を乗り出していたデュオーニは、ルースの説明に居住まいを正して息を吐いた。

「そうだったんですか…。でもうちにはそんな大金はないのですけど…」

 その治療には大金がかかるのだとローレンスの件で知っているデュオーニは、少しだけ期待した分、余計に残念に思って肩を落とした。

「お金はもらわないわ。その代わり、他言無用だけどね?」

 悪戯っぽくいうソフィーに、下げていた視線をまた戻したデュオーニは、驚きつつもその顔には喜色が含まれていた。


「だったら……だったらローレンスも…」

 図々しい事を言っていると気付いたのか、言葉を途中で止めたデュオーニは、ガチリと口を閉じて下を向いた。


「安心してください。ローレンスさんの足は、もう治っています」


 ルースの声にパッと顔を上げたデュオーニは、口を開けたままパクパクと何かを言おうとしているが、その先に続く言葉が出ない様であった。そしていつしかその口からは、すれた声が漏れてくる。

「ぁ…ぁ…ああぁ……」

 その目からは涙が溢れ、それを拭いもせず3人を見つめ返してくるその瞳は、言葉にできない喜びを伝えるものであった。

「う…ぅうう…」

 嬉しくて嬉しくて仕方がないというように口元を覆ったデュオーニは、そのまま顔をおさえて頭を下げた。

「ありがとう…ございます…」


 デュオーニの心に深く刺さった棘は、人を傷つけ、その人をもう自由に動く事が出来なくさせてしまったという、自責の念だった。

 今更その事実を消す事は出来ないが、せめてその人達がまた自由を取り戻せるのであれば、こんなに嬉しい事はないだろう。そしてデュオーニの心に刺さった棘の痛みも、それで和らぐはずである。


「お礼にはまだ早いわよ?」

「そうそう、父さんが残ってるだろう?」

「ええ。そういう事で、デュオーニさんには、お父様にそれを受けてもらう機会を作っていただきたいと思っています。お手伝いいただけますか?」


 その問いかけに急いで溢れる涙をぬぐって、

「はい。よろしくお願いいたします」

 と居住まいを正し、デュオーニは深く頭を下げたのであった。


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