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【151】相棒の存在

 デュオーニとローレンスはゆっくりと歩いて町へ戻ると、そのまま冒険者ギルドに向かい、町の近くに魔物が出た事を報告した。

 そしてガルムを提出するとギルド職員の顔も険しいものへと変わり、町の者に注意喚起をすると請け合った。

 デュオーニにはその情報料とガルムの買い取り代金が支払われる事になり、デュオーニはこの半分をローレンスに渡す事を心の中で考えていた。


 その報告の際にはまだ冒険者ギルドの中にチラホラと人が残っていた為、それらから向けられる好奇の目に気付いたローレンスに、「これは僕に向けられているものだから、ローレンスは気にしなくて良いよ」とデュオーニが伝えるも、ローレンスはそれを聞いて更に眉間にシワを寄せる事になった。


 ローレンスは冒険者を引退してからというもの、内心はまだ冒険者というものに未練があり、今まで冒険者ギルドには足を踏み入れる事が出来なかったのだ。

 もちろん用事自体もないのだが、もう自分が諦めた世界を見たくなかった為に、冒険者ギルドを極力避けていたといっても過言ではない。


 こうして再び一年振りに足を踏み入れた冒険者ギルドでは、そんなローレンスまでをも好奇の目で見つめていた。

 デュオーニは自分の事だと言っているが、確実にローレンスまでも含めた面白がる視線に、更に深く眉間にシワを作ったローレンスであった。


 ただこれが、自分がまだ不自由な足の状態であれば耐えられなかったかもしれないが、今はもう冒険者に復帰できると分かっていたし、体の状態もあと少しで完全回復する所まできていた為、ローレンスは眉間のシワを緩めそれを苦笑に変えた。

 “僕が冒険者に復帰したら、お前たちを見返してやる“と思いながら。


 こうして冒険者ギルドでの報告を済ませると、デュオーニは再びクエストへ行くと言ってローレンスとはギルドの前で別れる事となった。


「じゃあ又な。さっきは本当に助かったよ。ありがとうデュオ」

 やっとちゃんとお礼が言えたとローレンスは笑うも、デュオーニはまだ助けられた恩は返せていないと言って苦笑した。

「あそこは危ないから、ローレンスも気を付けて」

「そうだな」

 そう言って手を上げて別れたローレンスは、訓練する場所を探さなくてはならなくなったと頭を掻きながら、家へと戻っていったのだった。



 -----



 そんな事があった翌日、ルース達と冒険者ギルドで会ったデュオーニは、再び一緒にクエストを受ける事にしてその移動中、早速昨日の事を相談していたのだった。


「へぇ、ガルムか。あれもすばしっこいよな」

「はい。脚が速いので、また人生終わったと思いました」

 デュオーニはフェルの言葉に頷く。


「ローレンスがいたので、今度は僕が護ろうって無化夢中でした。それでその時の事をよく覚えてなくて…」

 気付けば自分の放った矢が、魔物に刺さっていたと説明する。

「んん?デュオーニが的を外す事はないだろう?」

 魔物に矢が当たった事を不思議がっていると思っているフェルに、デュオーニは首を横に振る。

「その魔物はまだ、僕から離れた場所にいたんです…」

 そう補足すれば、やっと飛距離の事で驚いているのかとフェルは理解するも、今ひとつ状況が見えておらず小首をかしげる。

「放った矢が、僕の飛距離の限界を超えて飛んでいったんです…」

「ああ、そういう事か」

 やっとここでフェルが納得する。


「だってさ、ルース。ん?どうした?」

 今の話を聞いてルースに意見を聞こうとしたフェルは、今朝デュオーニと合流して以降、一度も口を開いていないルースを振り返った。

 こういう問題はルースから何か助言があると思ってルースを見たのだが、フェルはルースの顔色が悪い事に気付いたのだった。

「大丈夫か?」

「何でもありません…大丈夫です」

 そういう割に、口調も重い気がする。


「大丈夫?ルース。調子が悪いなら言ってね?」

 ソフィーも回復魔法で治すと言ってくれているが、それにもお礼を言うものの、ルースは大丈夫ですと言うばかりであった。


「今日のクエスト、ルースは休んでていいぞ?俺とデュオーニでやるし」

「はい。僕も微力ながらお手伝いします」

「ありがとうございます。…そうですね、お願いするかもしれません」

 いつも言わない言葉を言うルースに、余程調子が悪いのかとフェル達は顔を見合わせた。


 こうして今日のクエストを熟すべく、ルース達はメイフィールドの隣村近くの森へと移動してきていた。

 ここまでは町から南へ約2時間移動してきており、このクエストを出した村へはあと1時間もあれば辿り着けるらしい。

 今日討伐する魔物は、“ブラストバード“といって体長は1mもあり単体で行動し飛翔する鳥型の魔物だ。

 この魔物が村から繋がるこの森に住みついているという目撃情報があり、村への危険が懸念された為、早期に対応して欲しいという事であった。


 このクエストは一応C級から受ける事は出来るものの、飛翔する魔物という事もあり、魔法職や弓士などがいるパーティでなければ受ける事はまず難しいと考えられた。

 その為、二の足を踏んでいた者達を尻目に今日はこのクエストを受ける事にしたのだが、一番要とも言えるルースが先程から調子が悪そうで、フェル達にも不安が募っていた。

 しかしそうは言っても、このクエストは早期に処理しなければならない物であり、このまま遂行するしかない。


 ルース達はフェルとデュオーニを先頭にして、森の中を進んで行ったのだった。

 そしていつもの様に、シュバルツが上空から魔物の気配を感知し念話を送ってくれるため、魔物と相対する時にはそれなりの準備も出来、不意打ちされる事がないだけましと言える。


 こうして更に1時間ほどを森の中で彷徨えば、上空にいたシュバルツが急に高度をさげ、木々スレスレを飛ぶ。

「どうした、シュバルツ」

 フェルがそれを視界にいれ、声を掛けた。

『魔物ハ上ニ居ル,気取ラレタ様ダ』

 シュバルツが気付いたという事は、それは相手にも気付かれているという事になる。

 こうしてシュバルツが下りてきたところで、ルース達は戦闘態勢に入った。


「俺が前に出る。ソフィーとルースは下がっていてくれ。その手前にデュオーニだ、頼むぞ」

「はい」

 返事をしたのはデュオーニで、ソフィーは頷いてルースの隣に並ぶ。

 ルースは眉間にシワを寄せつつ「すみません」と、戦闘に参加できるか分からないと謝った。

 ルースがここまで言うのであれば、ルースをあてにはできないとフェルは表情を引き締める。


 デュオーニには動かずにいてもらい、フェルが攻撃を加えつつ誘導していく事になるだろう。

 いつもはルースと2人で何も心配する事なく動いていたが、今日はそれが出来ないのだと、改めてルースの存在を有難いとさえ感じていたフェルであった。


『来るぞ』

 ネージュから気を抜くなと念話が入る。

 フェルは抜刀した剣に力を込めて構えると、上空の気配を全身でとらえ始めた。


 ザワザワと風にあおられた木々の葉が立てる音が、一方向から近付いてきていた。

 そちらに視線を合わせれば、その上空に茶色い鳥が姿を現したのだった。


『ギャーッ!』


 それは威圧の混じる咆哮を上げながら、その翼を広げてフェルの下へと滑るように下降する。

 ここは林冠ギャップによって見晴らしが良い場所だ。その為魔物からも視界が良いが、フェルからもその魔物の動きが良く見えるのである。


 フェルを掴もうとしたのか、滑空する姿勢から太い脚を前にして出した鉤爪を、フェルの剣によって弾かれる。

 ― ガキンッ! ―


 すると、もう一度上空へと昇った鳥は、何かを待っているかのように木々の上で停空飛翔した。

「フェル、魔法が来ます」

 ルースは、魔物が纏う光が大きく膨らんだと気付いてフェルに伝える。

「おう」

 声を返したフェルであったが、何の魔法が飛んでくるのか皆目見当がつかず、左右どちらかにずれて躱そうと考えていれば、放たれた魔法は広範囲に及ぶ石礫であった。


「げっ!」

 すぐさまフェルは、体ごと横に飛び込んで転がる。

 そしてすぐさま、自分が立っていた所が土煙を上げるのを見て舌打ちした。

「ブラストってこういう事かよ…」


 この魔物の名前である“ブラストバード“とは、石を吹き付ける事に由来していたのだと気付いたフェルである。

 そして、一度上空に留まるとこの魔法を放ってくるという事になるが、その上空までの距離は20m程ある為、そのタイミングでデュオーニに矢を射てもらう事は出来ないと、フェルは顔をしかめた。あいつを引きずり降ろさねばならないらしい。


「これはわざと一度捕まって、剣をぶち込むか?」

 普段はルースと何気なく熟していた戦闘だが、こうして一人で考えるとどうしても思考が偏っていく。

 そんな事を考えていたからか、フェルは魔物の次の攻撃に後れを取る事になったのであった。


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