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【138】同じ色

 翌日ルース達はいつもより剣の練習に時間をかけ、ソフィーの作ってくれた朝食を食べてのんびりとした朝を過ごした。


 今日は町中の散策を兼ね、目的の店を回る事にしている。

 そうして店が開く頃に宿を出たルース達は、宿の脇道を通り冒険者ギルドの前へ出ると、北門から続く賑わう通りへと向かって行った。


 昨日の事があり今日はシュバルツも、フェルの肩に大人しく留まって同行している。流石のシュバルツも昨日の件は少々堪えたらしく、それにこの町には狩人も多い為に大人しくしている事にしたようだった。

 その為、先にシュバルツの(シルシ)となる物を買う予定である。


「何が良いかしらね。シュバルツはどんなのが良いの?」

『似合ウ物』

 漠然とした返事をするシュバルツに苦笑し、3人は話しながら歩く。

「リボン…はどうかしら?」

「リボン?あの紐みたいな物か?」

 フェルは時々見かける、女性が身に着けているスカートなどに付いているヒラヒラした物を想像する。

「リボンでは、枝に引っ掛かる事があるかも知れませんね?」

 ルースは実用的ではなさそうだと、意見を出す。

「う~ん、確かにシュバルツに、リボンは似合わないしなぁ」

 フェルは外見的な意味で却下する。


「そうね…リボンを首に巻くのも良いかと思ったけど、確かに邪魔になるのかも…」

 ソフィーの話に、ルースとフェルはその姿を想像して笑った。

「首にか?…ププッ」

「え?どこに着けると思ってたの?」

「俺は、腰に巻き付けると思ってたが?」

「フェル、それもどうかと思います…」

『オ前ノ思考ハ,狭量ダナ』

 と、当のシュバルツからもフェルに突込みが入る。


「うるさいぞ?お前の事を考えてんのに、そんな風に言うなよ…」

 ジト目でシュバルツを見返すフェルは、少々拗ねてしまった様だ。

『ソウダナ,デハ宜シク頼ムゾ』

 多少申し訳ないと思ったのか、シュバルツが目を細めてフェルに言った。


「あ、あの雑貨屋さんで見てみない?何かあるかも知れないわ?」

 ソフィーが東側通りの入口に見えた所にある雑貨屋を指さして言えば、その意見に頷いてルース達はその店先へと近付いて行く。


 その店は客が気軽に入れる様にしているためか入口の扉が開かれ、そこから見える店内にはカラフルな色が所狭しと溢れるように陳列されているのが見える。その店先にもいくつか籠が出され、その中にも色とりどりの小物が入っていた。

 ソフィーはそれに目を輝かせているが、ルースとフェルには少々入り辛い雰囲気の店で、店中にいる客は女性ばかりが目に入る。


 ルースとフェルは顔を見合わせて苦笑する。

 この店は、女性が好みそうなリボンや髪留め、手鏡や小物入れなどが置いてある様子が開いた入口からでも見て取れた。

「ソフィー、中に入って見てきて下さい。私達はここにいますので」

 2人の顔を見て笑ったソフィーはひとつ頷くと、嬉しそうに店内へと入っていった。

 どうやらこの店をソフィーが見てみたかったらしく、目を輝かせながらそれらを見ているソフィーを、外から見ているルース達であった。


 その後ルース達は、店の外に出された籠の中を見てみる。

 そこには小さな布が無造作に入れられていたり、小さな丸い輪になった物が並べてあるものもあるが、ルースとフェルには、一体これらは何に使うものなのかがさっぱり分からなかった。

「何だコレ。何に使うんだ?」

「さぁ…私に聞かれても、フェルと知識的には大差ないと思います」


 そこでフェルがその小さな輪をひとつ手に取ってみる。

 良く見れば指輪とも思えるが、ルースとフェルの指ではどこにもはめる事ができない大きさの穴である。フェルはそれをルースに見せるも、ルースも首をひねって考え込んでいる始末だ。

「耳輪?」

「さぁ…」

 無い知恵を絞って話すも、答えは絶対に見付からない2人である。


 そんな2人の傍にソフィーが戻ってきて声をかける。

「可愛かったけど、シュバルツに身に着けてもらえそうな物はなかったわ」

 そう言ったソフィーは、フェルが手にしている物を見て目を細めた。

「それは指輪ね」

「ん?そうなのか?どの指にも入りそうにないと思うけど…」


 フェルは手にしていた物を、小指の先に乗せてソフィーに見せた。

「ふふっ。確かに男性では無理みたいだけど、それは指輪なの。ちょっと貸してみて」

 ソフィーはフェルの指先に乗せたものを手に取ると、穴を両脇から引っ張っている。

「あ?何やってんだ?」

「これは小指用の大きさだけど、こうやって少し力を入れて引っ張ると穴が開くの。ここに筋が入ってるでしょう?この部分で穴の大きさを調節できるようになっているのよ」


 そう言って見せてくれた穴は、少し大きくなっている事がわかる。

「これは私も子供の頃に買ったことがあるわ。子供の指の太さってすぐに変わっちゃうでしょう?そうしたらこうして少し広げて、自分の大きさに調節できるのよ」

 確かに言われてみれば、おしゃれ好きな子供は指輪をつけてみたくなるのだろう。これは玩具とまでは言わないが、女性が手軽に買える装飾具であるらしい。

「勉強になります…」

 ルースはソフィーの説明に、素直に返した。

「ふふ。ルースが覚えていても、何もならないかも知れないけどね」

 と、ソフィーは笑みを向ける。


『我ハ,ソレデモ良イゾ』

 その時、フェルの肩からシュバルツが話しかける。

「ん?気に入ったのか?」

『ソレデアレバ,邪魔ニハナラヌダロウ』

 シュバルツの答えに、そういう事かとルースは微笑む。


「邪魔にならない?シュバルツのどこに着けるんだ?」

 フェルはまだどこに着けようとしているのか気付いていない様で、先程、首や胴回りに着けるのだと定着させてしまった考えから、抜け出せない様である。

 確かにこの様に穴の大きさを変えられる物であれば、着脱も容易であるとルースは頷いた。

『ドコニ着ケルカハ,自分デ考エロ』

 シュバルツはそう言って、フェルに向かって目を細めて見せたのだった。


「ねぇシュバルツ、この形の物だったら店内にもあったわよ?こんなにカラフルな物じゃなくて、金属の色合いの物とか」

「それではそちらも見てみましょうか」

『ソウダナ』

 フェルはまだ考え込んでいるが、3人は広くはない店内へと足を踏み入れていく。


 しかしネージュは表で待っていると、入口で見ている事にしたようだ。

 体の大きな男性が2人も入って行けば、それなりに店内は圧迫感がでてくる。そこにネージュまで入れば、他のお客さんの邪魔になる事は間違いないのである。


「これよ?」

 カウンターに近い場所にある棚の上の方に、先程の物よりも高級感のある素材の物が置かれていた。外の物は色付けされた物であったが、こちらの物は金と銀でシンプルな印象を与えるものである。


「ああ、いいんじゃないか?」

「そうですね。こちらの方が上品です」

『我ハ上品ダカラ,コレノ方ガ相応シイ』

 フフっとソフィーが念話に笑い、シュバルツも気に入ったのだと理解する。

「どっちにするんだ?」

「どっちが良い?」

 フェルとソフィーがシュバルツに聞けば、金の方が良いと言う。

『るーすト,同ジ色ダ』

 と一言付け加えれば、ソフィーとフェルがルースを振り返った。


 ルースの髪は金茶色である。確かに似ていると言われればそうかも知れないが、ここまで金色ではない。だがまぁ、シュバルツがそれで良いと言うのであればと頷くルースである。

「じゃぁこっちな。ソフィーが買ってきてくれるか?」

「ええ、いいわよ」

 と金色の指輪を手に取ったフェルがそれをソフィーに渡すも、フェルは振り返った先の物を目にしてそれも手に取った。


「お、これも指輪か?ソフィーに似合いそうだな」

 フェルの手にある物を見れば、それは薄紫色の3cm程の高さのある小さな筒状の輪で、ソフィーの目の色と似ていて彼女に似合いそうな物だとルースも思った。

「ふふっありがとう。こっちは髪留めね」

「これが髪留めなのか?」

 先程の物よりも更に小さいが、フェルとルースには同じ指輪の様にしか見えない物だ。

「そうよ?こうやってこの輪が左右に開くの。それで少し髪を束ねて、この中に挟み込んで使うのよ」

 やってみせてくれたソフィーの頬の横で、その紫色の髪留めがとめられている。

「似合いますね」

「ああ、良いんじゃないか?可愛いぞ?」

 フェルがサラリとそんな言葉を言えば、ソフィーは頬を染めて2人を見た。

「それも買いましょう」

「おう。それは俺が金を出すぞ」

「ではシュバルツの分もお願いしますね、フェル」

「は?何でシュバルツの分まで…」

『ソノ言イ方モ,失礼ダゾ』

 シュバルツも抗議の念話を送れば、「わかったよ」とその2つを持ってフェルがカウンターへ出した。


 本当はシュバルツの分を皆のお金から出すつもりであったが、フェルがそのまま支払いを済ませてくれたので、ルースは笑みを浮かべて店を先に出て行った。

『決まったようじゃのぅ』

 ネージュの念話にルースは頷いて返す。

「お待たせしてすみません。ソフィーも買い物をしたので、見てあげて下さい」


 程なくして、会計を済ませたフェルとソフィーが店の外に出てくれば、早速店内でつけ直してきたのか、ソフィーの右側の髪のひと房には、先程の紫の髪留めがつけられていた。

『ほう、よう似合っておるぞ』

「ありがとう、ネージュ」

 微笑んだソフィーは、嬉しそうに髪留めを触っている。

「フェル、ありがとう。大切にするわね」

「おう…」

 改まってお礼を言われたフェルは少々照れているのか、頬を掻きながら目を泳がせている。

「それでフェルは、シュバルツのどこに着けるかわかりましたか?」

「いや、さっぱりだった…」

「じゃぁ今からつけてあげるわね、シュバルツ」

『頼ムゾ』


 こうしてシュバルツにも金の指輪を足首にはめると、フェルが納得したように声をあげて、3人は町の中を再び歩き出していったのだった。


雑記的補足:作中の指輪に関しては、フリーサイズでスリットが入っている物をイメージしています。C型ではない物。そして髪留め(髪飾り)は、リング型の開閉式で口径が1~1.5cm位の小さい物をイメージしていました。

5月29日:髪飾りの大きさを少し修正しました。

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