表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/348

【132】掲示板

ここからまたルース達に視点が戻ります。

 メイフィールドの町に到着したルース達は、その道中でデュオーニと出会った事で親しくなり、その日は昼食を共にして解散した。デュオーニとは同じ冒険者としてまた会う事もあるだろうと、嬉しそうに帰っていく彼を見送った3人だった。


 その翌日もルース達は休息を取ることなく、冒険者ギルドへ顔を出していた。

 朝の冒険者ギルドは昼間とは違い、受付も5か所用意され冒険者達も広い室内に所狭しと集まっている。


「やっぱり大きな町だけあって、人が多いな」

 フェルはその室内を見て、開口一番にそう呟く。

「ええ。時間帯によって、ギルド職員の数も違いますね」

 日中は2人程しか見かけなかったギルド職員も、今は5人が受付に立ち、その周りにも3人が忙しそうに歩いている。後は売店の方にも3人、他に上の階にも多分何人かいるのだろう。


「まぁ、取り敢えずは掲示板だな」

 こうしてフェルに促されるまま、まだ沢山の人が集まっている掲示板の前へと進んで行った。

 ここの掲示板にはたくさんのクエストが貼り出されており、取り合いになる事はなさそうだ。そんな掲示板を眺めつつ、3人はC級B級あたりのクエストを見ていく。


 良く見ればここの冒険者ギルドのクエストは、この町の者が出したクエストだけでなく近隣の村や町のクエストも含まれている様であった。

 村には冒険者ギルドはないため当然の事、他の町のクエストもランクの都合などその町の冒険者では処理し切れない物や人員集めの物、素材の数が欲しい場合等、なんらかの理由で貼り出されているらしい。


「今日はどうする?軽そうなのにしておくか?」

「そうよね。まだ着いたばかりだし、時間の掛からない物の方が良いんじゃないかしら?」

 ルースは2人の意見を聞きながら、他の冒険者の様子を見ていた。

 その視線の先の冒険者達がC級のクエストを取っている者が多いと気付き、ルースはそこで頷く。

「私も2人の意見に賛成です。今日は余り体を動かさなくて済む、軽い物にしましょう」

「いいねぇ、そうしよう」

「うふふ。そんなのがあれば良いけど」

 ソフィーはルースの言葉を冗談だと思っているらしく、フェルの隣で笑っている。

 しかしルースは至極真面目に言っており、2人から離れて掲示板の隅に行くと、1つのクエストを取って戻ってきた。


「これはどうですか?」

「え?いくら軽いって言ってもD級にするのか?」

 ルースがフェルとソフィーに見せているクエストには、D級討伐クエストと書かれている。それを見つめていたソフィーが、内容を確認し終わったのかクスリと笑う。

「なるほどね。これは動かないから良いんじゃない?体も休められそうだし、ね?」

 ソフィーの話にクエストを慌てて読んで行ったフェルも、その魔物の名前を見て納得した様だ。

「おう。これなら文句はない」

 ニカッと笑ったフェルも同意した事で、そのクエストを持ち、3人はまだ混んでいる受付に並んだ。


「場所の指定はないんだよな?」

 フェルは、ルースが手にしているクエストを見ながら話す。

「そうみたいですね。ですがはやり森の様な場所が良いと思うので、湖の先に見えていた山の方角に行ってみようかと思っています」

「そうね。いつもそんな感じの所にいる魔物だしね」


 大筋で今日の移動先を話していれば、掲示板の方で何かあったのか少々騒がしくなっていると気付く。

「何だ?」

「さぁ…」

「どうかしたのかしら…」

 ルース達は受付の列に並びそちらを見ているが、他の冒険者達は全く気にした様子もなく、掲示板を振り返っている者はいない。

「あ、あれデュオーニじゃないか?」

 フェルがじっとそちらを見つめてから呟くが、間に人が立っているし少々距離もある為、ルースとソフィーには分からない。

「そうなの?デュオーニさん、どうしたのかしら…」


 昨日昼食を食べた後に別れた時は普通にしていたのだが、何かトラブルでもあったのだろうかと、3人は顔を見合わせ並んでいた列を離れて、そちらに向かって行った。もし困っているのなら手助けできないかと、この町唯一の知り合いに近付いて行った。


「お前も懲りないなって言ってるんだよ。昨日はたまたま人に助けてもらったから、調子付いたんだろうけどな?」


 声が聞こえるところまで近付けば、デュオーニの傍に一人の冒険者が立って話をしている…というのか、一方的に話している様に見えた。

 その2人を見つめていた3人に、ふいに見知らぬ冒険者が近付いてきて声を掛けた。

「何もしなくていいぞ、あれはいつもの事だ。暫くすれば収まるから、放っておけ」

 その冒険者はそれだけ言うと、ルース達の傍を通り過ぎて行った。


 その言葉にルース達は顔を見合わせ、困惑した表情を浮かべる。いつもの事だとルース達へは教えてくれる割に、他の者は誰もそれを止めようともせず、そこに視線を向ける者さえいない。この町の冒険者達は一体どうなっているのかと、ルース達はため息をこぼす。

 その間にもデュオーニは、一人の冒険者から余り良い気はしない言葉を掛けられている様だった。


「昨日はお前のせいで、俺達のクエストが失敗したんだ。お前と話して、運が逃げちまったんだよ」

 何とも幼稚な言葉をかけているなと、ルースは頭を抱える。これはただの言いがかりとも言えない、八つ当たりの様なものだと思った。

「だったら、話しかけてこない方が良いと思うんだけど…ガイス」

「っるさい!ヘッポコのくせに生意気言うなよっ」


 少々熱くなり始めているらしい冒険者にはそろそろお引き取り願いたいと、ルースはフェルとソフィーの顔を見た。

 その視線にひとつ頷いたフェルが、足音も立てずにデュオーニの傍に近付いて行った。


「おはようデュオーニ。昨日は楽しかった、ありがとうな」

 重苦しい空気の中、敢えて明るい口調で挨拶するフェルに、デュオーニは眉尻を下げて顔を向けた。

「…おはようございますフェルさん。こちらこそ、昨日はありがとうございました」

 ガイスと呼ばれた冒険者の背後に立ったフェルにデュオーニが返事をすれば、フェルの声にビクリと肩を揺らしていたガイスが、後ろのフェルに振り返って目を吊り上げた。

「急に人の後ろに立って、驚かせんなよっ」


 フェルにまで突っかかってきた者の顔を見れば、昨日デュオーニがクエストの完了報告をした時に見た顔であった。向こうもそれに気付いたのか、フェルを睨んでいる。

「おいおい。冒険者が後ろに立たれて、気付かない方が可笑しいだろう?」

 ニヤリと口角を上げたフェルは、わざと気配を消して近付いたために気付く者は少ないのかも知れないが、これはフェルなりの皮肉であろうと、見ていたルースとソフィーは苦笑する。


「そんで、どうしたんだ?デュオーニ」

 続けて真顔に戻したフェルが、声を低域にして話す。


 元々体格の良かったフェルが18にもなれば更に体が大きくなっており、今では身長も185cm程で筋肉もついているため、その姿は彼やデュオーニよりも一回り大きく見える。

 そんな者から威圧的に言われれば、ガイスとデュオーニも一瞬怯む。

 それを見ていたルースは、フェルも随分と大人になったのだなと子を見守る親の様な目線で、少々違う方向に思考を飛ばしていたのだった。


 それで黙ってしまった2人を気にすることなく、フェルは言葉を続ける。

「デュオーニは、今日のクエストをまだ受けてないんだろう?」

「…はい」

「だったら一緒に行かないか?俺達もこれから受付に並ぶからまだ間に合うし」

「え…あの…」

「こいつと一緒にクエストを受けても、碌な事にはならないから止めとけよ。失敗するぞ」

 ガイスはフンと鼻を鳴らしてフェルに言う。

「誰が、お前と話している?」

 再度放つフェルのピリリとした空気に、ガイスはガチリと口を閉じた。

 流石にB級ともなれば、纏う空気の圧を変化させられるようになっているフェルだった。

「行くぞデュオーニ、こっちに来てくれ」

 そう言って一人で話を進めたフェルは、ルース達の所へ先に戻った。


「悪い…成り行きでデュオーニも誘った…」

 見ていたルース達は既にわかっている事だが、そう言ったフェルは少々情けない顔を見せており、先程までとは別人かと思える程に、纏う雰囲気も柔らかくなっている。

「格好良かったですよ、フェル」

「ええ、男前だったわね。あ、勿論デュオーニさんも同行で問題ないわ。今日はあのクエストだしね」

 ルースもソフィーの言葉に頷いて、同意を伝える。

「なら、よかった…」

 そう言って苦笑したフェルの後ろには、ガイスから離れこちらへ向かってデュオーニが歩いてくる。


 そして3人と合流したデュオーニに、ルースが声をかける。

「それでは今日は、私達と臨時パーティを組むことにしましょう」

「…ご迷惑をかけるかも知れませんが、よろしくお願いします」

 デュオーニがそう言って頭を下げれば、3人は笑みを見せて頷いた。

「それでは受付の列に並びましょう。先程よりも人が少なくなってきていますしね」


 微笑む3人に促されてついて行くデュオーニを、掲示板の前にいたガイスが睨みつけていたが、そこへ彼のパーティメンバーが近付いてきて、慰めるようにその肩を叩いている姿が残されたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ