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【129】ご馳走します

「フェル、そう言えばアレは買い取っていただかないのですか?」

 ルースはまだ人が並んでいない受付を見て、そう声をかける。

「おお、忘れてたわ。持ってても邪魔になるし、空いてる今の内に出しとくか」


 それでもう一度、先程の職員がいる受付に戻る3人。

「あの…買い取りをお願いし忘れてたんですが、今大丈夫ですか?」

 ギルド職員は、フェルの話に勿論大丈夫ですよと笑みを浮かべた。

「買い取りカウンターはこちらになりますので、お隣にお願いいたします」

 受付の隣、広く一段低いカウンターへと3人を促したギルド職員は、横に移動してそのまま対応してくれるようだ。

「こっちでしたか。ではお願いします」


 再びギルドカードを提供し、フェルは腰の巾着からズルリと大きな黒い物を取り出して、そのカウンターへ置く。

「……」

 するとギルド職員は思いもよらぬ物であった様で、大きく目を開いた。

「これはリヴァージュパンサーですか?」

「そうみたいですね」

 あっさりと答えるフェルに、ギルド職員が悩まし気な表情を浮かべた。

 そこへ3人を宿棟へ案内しようと出てきた、もう一人の職員も加わる。

「あれ?それって…」

「今こちらの方が、買い取りで出された物です…」

「「……」」


 このギルド職員の反応を見て、ルース達3人は顔を見合わせた。そして何かあったのだろうかとルースが口を開こうとすれば、先に職員が話し出した。

「こちらは、近くの森で討伐された物ですか?」

「はい、そうです」

 職員の質問に、フェルはしっかりと肯定する。

「でしたらこの魔物は今、クエストが出ている物と思われますので、その分の対応もさせていただきます」

 ギルド職員の内一人が、カウンターから出て掲示板の方へと歩いて行き、一つのクエストを持って帰ってきた。


「あの…これは別の場所で狩った物かも知れませんが、よろしいのですか?」

 確かに近くの森とは言ったが、フェルが嘘をついていたり互いが場所を誤認している可能性もあるのだ。一概に鵜呑みにして良いのかと、ルースは尋ねていた。

 しかしギルド職員2人は、笑ってそれを否定した。

「この魔物、リヴァージュパンサーは湖の近くに生息する魔物なのです。この辺りで湖はヤドニクス湖しかありませんので、他からわざわざ持ち込んで来たと考える方が不自然なんです」

「ではこの周辺でこの魔物が出る場所は、ヤドニクス湖の近くのみ、という事なのですね?」

「はい、そうなります。この魔物は通常、湖から続く山の中に生息していますが、一度人間を襲って味をしめたのか…最近よく麓で目撃されるようになっていました」

 その説明にルース達3人は納得し、貼り出されていたクエストを取りに行ってくれた職員にお礼を伝えた。


「それでは、こちらのクエストを完了した事にさせていただきます。この春先、襲われる者が何人も出て、緊急性の高いクエストとなっておりましたので、繁忙期前に討伐してくださって町の皆にも喜ばれます。これで今年の夏も、安心して観光客の皆様にお越しいただける事になりますから」


 観光地として有名なメイフィールドも、安全面の管理に色々と配慮しているようだと、ルースは手続きを進めてくれている職員を見ながら、そんな感想を抱いた。

 それを待っている間、隣の受付の処理も終わったらしくデュオーニが近付いてきた。


「やっぱり大きな魔物ですね、これがさっきまで動き回っていたなんて…」

 尻尾まで入れれば3m近い大きさのリヴァージュパンサーを見つめ、デュオーニはブルリと身震いする。先ほど襲われた時の事を思い出しているのだろう。

「この魔物に狩人の人も何人か被害にあっている様なので、狩人ギルドにも喜ばれますね」

「へぇ…そうだったのか。まあ、森に入って獣を狩っている人たちからすると、こんなのが突然現れればどうしようもないよな」

「ええ。狩人の人達では、流石に魔物までは狩る事ができないですからね…」

 デュオーニの話に、ルース達は頷く。


「お待たせいたしました。クエスト完了手続きと素材買い取りの手続きが終わりました。これから、こちらの職員が宿へとご案内いたします」

 デュオーニと話をしていれば処理は終了したとの事で、これからルース達はギルドの宿へと向かう事になる。


「あのぉ、皆さんはこれから又町に出ていらっしゃいますか?よろしければお昼ご飯をご一緒しませんか?」

 デュオーニは、これからルース達が職員と移動すると理解して声を掛けてきた。

「お礼という程の事はできませんが、お昼をご馳走させて下さい」


 デュオーニの申し出に顔を見合わせた3人は、昼食を一緒に取るのは賛成だと頷きあった。

「ではすぐに戻りますので、ギルドの近くに居ていただけますか?」

 ルースから承諾の言葉を聞いたデュオーニは「はい」と嬉しそうに頷いて、職員と共に出て行く3人とネージュを見送ったのだった。




「こちらが2人部屋となります。お部屋番号は、1人部屋が213号室でこの少し先、こちらは2人部屋で221号室になります。ごゆっくりどうぞ」

 そう言ってギルド職員が鍵を渡して戻っていけば、取り敢えず目の前の2人部屋へと3人は入っていった。


「2人部屋でも圧迫感はないな。まぁ何も置いてないからだろうけど」

『いつもながら、何もない部屋じゃのぅ』

 ネージュの反応でクスリと笑ったフェルに、ルースとソフィーも笑みを見せる。

 ここの宿もベッドが2つあるだけで、そのベッドの間に多少広めの床があるだけの部屋だった。言ってしまえば“いつものギルドの宿“、という事である。


 ルース達はある程度収入を得られるようになった今も、なるべく冒険者ギルドの宿を利用している。もっと立派な宿にも泊まれるが、冒険者ギルドの宿に泊まる方が都合が良いのだ。

 ネージュが同伴する為に一般の宿では気を遣うという事もあるが、ギルドの宿では宿泊者も冒険者に限定されているため、うかれた酔っ払いに絡まれる心配も少ない事に加え、ルース達は一般の人との同宿をなるべく避けたい為でもあった。その様な意味での安全性を考慮した結果でもある。


「ソフィーも、取り敢えずこちらに荷物を置いてください。帰ってきてから、向こうの部屋にお運びします」

「そうね、今はこっちに置かせてもらうわね。向こうには、自分で持って行けるから大丈夫だけどね」

 ふふっと笑ったソフィーもこちらの部屋に荷物を降ろし、又すぐに出て待っているデュオーニと合流するのだ。


「んじゃ、そろそろ行くか」

「そうね、待たせてしまうわね」

「ええ。行きがけに、213号室の場所も確認しながら行きましょうか」

「そういや、部屋番号が随分と離れてるけど、そんなにこの階に部屋数があるのか?この建物」

『建物の大きさを見れば、ある訳がなかろう…』

「そうですね。1階毎に20室もあるようには見えませんでしたので、きっと2人部屋と1人部屋で区別するために付けたのではと」

「あーそういうのも有りか…」

『その理屈でなければ、3人部屋の番号ではきっと30室もある事になるじゃろう』

「確かに…」


 そんな話をしながら部屋を出て、廊下を歩きながらもう一部屋の場所の確認をすれば、5つ隣の部屋が213号室である事がわかった。

「近くて良かったな」

 と苦笑したフェルに頷いて、そのままデュオーニが待つ冒険者ギルドへと戻っていく。


「デュオーニさんはお礼って言ってたけど、私達にお昼をごちそうしたら、きっと今日のクエストの報酬がなくなっちゃうわね…」

「本当だよな。俺達もD級の時は、飯代を切り詰めてたしな」

「ええ。ですから、私達が出した方が良いかなとは思っています」

「そうね」

「そうだな」

 そんな打ち合わせの後、ギルドの前で待っていたデュオーニと合流した。



「すみません、お待たせしました」

「いいえ大丈夫です。…先程はまた助けていただいて、本当にありがとうございました。お礼を伝えるのが遅くなってすみません」

 わざわざデュオーニが昼食に誘ってくれたのも、お礼が言いたかったからだと理解する。

「いや、俺達は見たままの事を言っただけだし、礼を言われるような事はしてないぞ?」

 と、あっけらかんとしたフェルの言葉に、少し緊張していたデュオーニの表情が崩れた。

「そう言っていただけると助かります…。それでは僕のお勧めの所にご案内しますね」

「はい、よろしくお願いします」

 こうして3人とデュオーニは、商店の並ぶ通りに向かって歩き出して行った。


「あのぉ、そのお店って、ネージュ…この子も大丈夫ですか?」

 ソフィーはこれから案内してくれる店に、獣を連れて入れるのかと声を掛けた。それを聞いたのは、今まで訪れた町では時々入店を断られることもあった為だ。

 冒険者には従魔として獣や魔獣を連れて歩く者もいるが、小さな町ではそのような冒険者も来ることがないようで、お店によっては困惑されることもあった。


「この町には色々な人が集まってくるので、従魔を連れていても楽しんで観光してもらえるように、その辺りの所はうるさくないので大丈夫です。それでも、余りにも大きな魔物や騒がしい獣は、入店を断られる事もあるみだいですけど」

「確かに店の入口よりデカイ奴じゃ、入れないしな」

 フェルはデュオーニの説明に、そう言って笑った。


 そうして店が立ち並ぶ賑わう通りに出るも、デュオーニはそこを通過して東側の観光客が多く行くという場所に入っていった。

 今は時期外れの為、殆どその通りには人は歩いておらず、ちらほら町の住人らしき人達が歩いている位だった。


「あら?中央の通りにあるお店じゃなかったんですね?」

「はい、こちらにある観光客を対象にしている店に行くつもりです。今は閑散期でしょう?夏場には観光客相手にしている店もこの時期は暇になるので、一般客を呼ぶためにちょっと変わった店があるんです。そこは定額料金を支払うと、並べてある料理を好きなだけ…と言っても時間制限はありますが、その間ずっと食べていられるんです。今日は、そこにご案内しようかと思いまして」

「ほえぇ…食べ放題って事か」

「はい」

「フェルは沢山食べそうね」

「当たり前だ。好きなだけ食っていいなら、時間ギリギリまで食うぞ?」


 デュオーニの話にすっかり上機嫌になったフェルが先頭を歩くデュオーニに並び、昼を少し過ぎた頃になってやっと昼食が食べれるなと、ルース達とデュオーニは笑みを向け合い歩いて行ったのだった。


2024.5.26修正

観光客が行くエリアは「東側」でした。

作中で「西側」と誤表記していましたので修正いたしました。<(_ _)>

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