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【122】進捗

「相棒が見付かって良かったわね、ビヤンコ」

 ソフィーがビヤンコに視線を合わせ、嬉しそうに話しかけた。

「ワンッ」

 それに答えたように鳴いたビヤンコの顔も、笑ったようにさえ見える。

「この人に沢山遊んでもらったんだな…ありがとう」

「ふふ。私も楽しかったわ」

 お互い様だと笑い手を振るソフィーは、ビヤンコを大事そうに抱えるグラハムが離れていくのを見送った。


「良かったですね、ソフィー」

「本当だな、これであいつも安泰だ」

『人と共に生きるか、自由に生きるか。それはあやつが自分で選択した事ゆえ、ソフィアが責任を感じる事はない』

 ネージュの言葉から推察するに、ソフィーは自分が町に連れて来てしまった為に、人に縛り付けてしまったのだと考えていた様だった。


 ルースは皆に背を向けているソフィーへ、言葉を掛けた。

「そうですね。これは巡り合わせですから、後はこれから彼らが幸せに暮らせるよう、祈れば良いだけですよ」

「…そうね」

 彼らを見つめていたソフィーはそう言って振り返ると、愁いのない笑みを皆に見せた。


「では、私達は私達の事をしてしまいましょう」

「おう」

「ええ」

 こうして騒動も落ち着いた事で、3人は漸くこれから熟すクエストの確認を再開していったのだった。



 -----



 それからルース達が連日クエストを熟して実績を積み重ねて行けば、月光の雫はこの町の冒険者に知らぬ者はいないC級冒険者パーティとなっていった。


 元々この町に到着した初日からギルド内で注目を集めてしまった事に加え、ずっと調教師(テイマー)として相棒を探していたグラハムにその相棒を見つけてくれた事、そして町で今唯一のC級冒険者であることが主な理由だ。

 先日森の中で発見した洞窟については未だ確認できていない為、この町の冒険者はまだ誰もその存在を知らないでいる。もしそれが公になっていれば、月光の雫は更に騒がれる存在になっていたであろうことは、ルース達は全く気付いていない事である。

 そのダンジョンについてはギルドマスターも確認した後、やはりダンジョンの可能性が高いためギルド本部へ報告をしたと言っていた。そして調査団が確認し終わってから正式に発表する事になるだろうと聞いているため、ルース達がいる間にどうこうなるという話ではないだろう。


「月光の雫が帰ってきた」

「今日もすんなり終わったんだな」

「あったりまえだろう?いつも暗くなる前までには必ずクエストを完了させてくるんだから、ムチャクチャ強いに決まってんだよ」


 冒険者ギルドへ戻る道を歩いてくるルース達3人を見つけた他の冒険者達は、その歩く姿すら見惚れているかのようにすっかり彼らに執心していた。

 しかしこの町の冒険者たちに、そのような反応をされている事まで当人たちは気付いていないが、好意的に接してもらっている事は感じておりホッと胸を撫でおろしていた。

 小さな町の冒険者ギルドにおいて、その町にいる冒険者達に煙たがられてしまうと、そこへ出入りする事も億劫になってしまうのだから、どうせなら好意的に対応してもらった方が動きやすいのは当然だ。それでなくともルース達は、この町で溜まっているC級のクエストを少しでも数を減らしていかなければならないのだから、この状況には胸を撫でおろすところである。


 こうして今日のクエストを終えて戻ってきたルース達がギルドの扉を開けて中に入れば、「お帰りなさい」とあちこちから声を掛けられる。

「あっお帰りなさい、お疲れ様です」

 そう言って真っ先に近寄ってくるのは先日のグラハムで、その足元にはビヤンコの姿もある。


「ただいまぁ」

「只今戻りました」

「今日も良い子にしていた?」

 ソフィーはいつも声を掛けられると、真っ先にビアンコに声を掛けていた。

「今日はこいつに、戦う時の心構えを伝えていたんです」

 少しはにかんで言うグラハムに、魔物にそれが伝わっているのかとも思うが、要はコンビで戦う時の連携の勉強をしていたという事だろう。

 喩え相棒になったからと言ってすぐにクエストを受けられる状態になる訳ではなく、そうなる迄には時間がかかる上にまだビヤンコは子供であるため、絆を深めて行く事が今の彼らの日課となっているようであった。


 それを思えば一つ疑問が出て、ルースはグラハムに尋ねる。

「グラハムさんは今、D級でしたよね?調教師(テイマー)とお聞きしていますが、ビヤンコと会うまではどうやって冒険者をしていたのですか?」 

「俺は調教師(テイマー)だけど剣も練習をしていたから、他の奴のパーティに混ぜてもらってクエストを熟していたんです」

「なるほど…」

調教師(テイマー)自身も戦えないと、相棒だけに戦わせる事になるから、俺はそれが嫌で…自分でも戦える調教師(テイマー)になる為に、剣の練習も続けてきていたんです」

「まぁ相棒だけに頼り切るっていうのも、違うもんな」

 フェルも、グラハムの考えに同意して頷いている。

「確かに連携も取れる方が、効率も良いわね」

調教師(テイマー)もただ見ているだけではない、という事ですね」

 そう言って、ソフィーもルースも頷いた。


「あ、引き留めちゃってすいません。他の奴らも戻ってくる時間だから、早く受付に並ばないと遅くなりますね。じゃあ又」

 そう言ってグラハムは片手でビヤンコを抱き上げ、手を振ってギルドを出て行った。

 彼は現在ビアンコとの時間を作るため、クエストは受けていない。しかし毎日こうしてルース達が戻る頃に、ビアンコを連れ顔を見せに来てくれていたのだった。


「彼は律義ですね」

「そうね。毎日私達にビヤンコを見せに来てくれるなんて」

「それを本人の前で言ったら、絶対に照れて否定するだろうけどな」

 フェルは自分に置き換えたのか、口角を上げて笑った。

「ふふふ。あらっ私達の番ね」

 受付の前まで来ていた3人は、アリアの笑顔に迎えられて今日のクエストの報告を済ませる。


 今日は隣にある村に出てくるようになった“ラビットボア“という魔物の討伐で、それが村の畑を荒らして困っている為に出されていたクエストを受けてきたのである。

 その村はこの町の西側にあり、1時間程度歩いた距離しか離れていなかった。その村とこの町の住人が割と行き来している様で、何か困りごとがあればこの町の冒険者ギルドを利用しているという事らしい。


 そのラビットボアは猪の姿にウサギの様な長い耳を持ち、成体でも80cm位までにしかならない小型の魔物だが、群れで活動する為そこを餌場と判断されてしまえば、毎日のように襲われて被害が出てしまうのだ。

 今回は8体の群れがその村の近くに住みついており、その巣を潰すこと迄がクエストに含まれていたのだった。


「巣も燃やしてきましたので、もう住みつかれる事もないでしょう。その旨、村長さんにもお伝えして参りました」

「ありがとうございます。あそこの村で採れるスピナキア(ほうれんそう)は、村の名産なんです。その畑が荒らされていると困っていたみたいだったので、本当に良かったです」

「8匹のうち5匹の肉は村に置いてきたんだけど、問題ないですよね?」

 フェルは困っていた村に、気持ちばかりの肉を置いてきたとアリアに報告する。

「はい。素材の事はその冒険者にお任せしているので、問題ありません」

「では、こちらが残りの素材ですので、買い取りをよろしくお願いします」

「では、確認させていただきますね」


 そんなやり取りを、3人の後ろに並ぶ冒険者達が興味津々で聞き耳を立てているが、そこは別段気にするところではなく、むしろ今後に役立てる情報になるのならどんどん聞いてもらいたい位である。

「すげー。あんなのを8匹だって」

「俺達もあれ位の魔物を狩れるようになったら、被害にあった所にも何かしてやんなきゃな」

 ヒソヒソと話している冒険者達には気付かぬふりをして、ルース達3人は顔を見合わせてこっそりと笑みを浮かべた。


「では、本日分の手続きは終了しました。あ、そう言えばギルマスが、お話があると言ってました」

「お話しですか?」

「はい。今は執務室にいるはずですので、お願いできますか?」

「わかりました。では執務室をお訪ねいたします」

「よろしくお願いします」


 受付を離れたルース達は、そのまま奥の扉を抜けて中へ入っていく。

 何度かギルドマスターと話をして以降、案内を頼める職員もいないため勝手に中まで入ってきてくれと、ギルドマスター直々にルース達には許可が出されていたのだった。


 ルース達は廊下の突き当りの扉を叩く。

 コンッコンッ

「月光の雫です。アリアさんから伝言をお聞きいたしました」

「ああ、入ってくれ」

「「「失礼します」」」

 ルースの声にすぐさま応答があり、扉を開けてルース達は入室する。


 この執務室にもソファーがある為、事務机の前に座るギルドマスターはそこへ座るよう皆を促す。

 しかしここのソファーは二人掛けが2つというものの為、ギルドマスターはそのままの位置から皆の顔を見下ろした。


「来てもらって悪いな。例の調査員の件で、返事があったんだ」

 ギルドマスターの話に3人は頷く。

「ギルド本部から早々に、調査団を派遣するという連絡が来た。3日後には出発するという事らしいから、5日後にはこちらへ到着するだろう」

「随分と早い到着ですね」

「本部って王都にあるのかと思ってましたけど、近くにあるんですね」

 ルースとフェルは、2日で到着するという短い期間に驚く。

「いいや、本部は王都だ。その調査団には特殊な乗り物があってな、それで速く移動できる」

「特殊ですか?」

 ソフィーがコテリと首を傾けた。


「ああ。俺もまだ見た事はないが、ダンジョンの調査団は機動力を重視している。もしその調べる物がダンジョンであれば、何が起こるか分からない物だからな。ダンジョンはいつどこに現れるかもわからない物だ。いつも近場という訳にもいかないだろう?」

 なるほどと3人は頷いて、特殊な乗り物に乗ってやってくるのかと納得した。


「彼らは竜に乗ってやってくるんだ。だから2日もあれば、国の端から端まで移動が可能だ」


 ルース達はギルドマスターの話に少々理解が追いつかず、そのまま暫く固まっていたのだった。


5月13日:最後の一文を追記しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ほう、王都から来るのはドラゴンライダーor竜騎士ですか。相乗りして来る人も居るでしょうが、少なくとも竜を乗りこなしてる人はかなりの実力でしょうね…最低でもC級以上かも…
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