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【111】三叉路

 ルースは適当な木々が並ぶ場所へ近付いて行き、その手前で立ち止まった。河原には石が転がっているため木々はなく、川から少し間隔をあけた場所から森が繋がっている。


「ここで良いでしょうか…シュバルツ?」

 声を掛けられたシュバルツは、フェルの思考を読んでその肩から飛び立つ。

「“炎柱(フレイム)“」 

 ルースは魔法を放つ為、シュバルツに離れていて欲しいと考えていたのだ。そしてめぼしい木々の間を中心に炎を出し、そこを焼き払った。


 それを見ていたフェル達も移動してきて、ルースの傍へとやってきた。

「何してるんだ?」

 フェルの視線は、炎が出ていた辺りにある。そして先程出した炎は、すでに鎮火していた。

「弱めの炎で雪を溶かし、地面を乾燥させたのです。木にも水分があったので、雪がなかった時位には乾いたでしょう」

「燃え広がらなかったのね。炎を出したから延焼の心配をしちゃったわ?」

「そこは、湿気もありましたし魔力の調整もしましたので、大丈夫です」


 言われてみればルースが言う通り、延焼もせずその一画だけが乾いた土に変わっているだけだ。少し下草はなくなってしまったが、元々が川の傍だったのでそんなには生えていなかっただろう。


「へぇ…」

 フェルはルースの話に一声呟いただけで、その通りだと納得したようだ。

「森で火を使えばソフィーが言ったように、延焼してしまう恐れがありますので本来ならば使いませんが、今回は雪がありましたし、場所を確保するために火を使いました」

『ではここで、今夜は過ごすのじゃな?』

「はい、そうするつもりです。木と木の間にタープを張れば、夜露もしのぐ事が出来ますので。フェル、大きめの布のタープを張りましょう」

「おう、やるか」


 こうして野営場所を決め、木々の間に布を張る。その下で火を熾して暖を取りながら…という事で、タープの下に浅い穴を作る。

「“孔穴(アースピット)”」

 ルースが魔法で開けた穴は、直径60cm位で深さは30cmほどの浅いものだ。


「この窪みは何で用意したんだ?」

「この中で火を熾します。ここで焚火を作れば風の影響も少なくなりますし、出発する時にも埋めてしまえば良いだけなので」

「なるほどな…」

「そういえばフェル、体調はどうですか?」


 ルースは、先程フェルが魔力を使ったために倦怠感があるだろうと心配していた。

「ん?ああ、大分楽にはなってきてる。魔法を使うのって体力使うんだな…」

 少し解釈は違うが、意味合いとしては間違いではない。

「フェルはまだ魔力が少ないので、一度に殆どの魔力を使用してしまいましたからね。魔力がなくなると動けなくなりますので、これから沢山魔法の練習をして魔力を増やしていきましょうね」

「…おう…」

「ふふっ私も練習頑張るわ。一緒に頑張りましょうね?フェル」

「おう」

 ソフィーの優しいフォローに、フェルはやる気を出して大きく頷いた。

 それに笑ってルース達は、テキパキと野営の準備を進めていった。


 今日の夜は久しぶりにソフィーがスープを作ってくれると言って、タープから少し離れた川の傍で火を熾し、鍋をかき回している。料理に使う火は火力がないと駄目なので、流石にタープの下ではやらない方が良いだろうと別に火を熾したのだ。

 ソフィーは楽しそうに、村長からもらった野菜と肉を使った具だくさんのスープを、鍋一杯に作っている。

 村長が出発前にも更に食材を渡してくれていた為、これでまたしばらくは干し肉の味を思い出すこともないだろう。


 その間ルースとフェルは、川の傍でスノーウルフの解体をしていた。

 ネージュはソフィーを護るようにその傍に寝そべり、シュバルツは河原の上の石に留まってルース達を眺めている。


 スノーウルフは皮を剥ぎ、内臓を取り出して肉を切り出していく。内臓と骨は持って行かないので処分するつもりだった。

『ソレハ捨テルノダロウ?』

 取り出した内臓を見ているシュバルツが、話しかける。

「ええ。これの内臓までは、さすがに人間は食べられませんので」

『デハ,食ベテモ良イカ?』

 シュバルツの提案はいつもの事で、こうして解体をしていれば要らない所を聞いてくる。

「もちろんですよ。他のものの糧になる方が、これらも喜ぶでしょう」


 内臓だけを避けてもらったシュバルツは、美味しそうにそれを食べ始める。

「いつも思うけど、生で良く食えるよな…」

「私達とは体の造りが違いますからね。シュバルツには食中毒(しょくあたり)というものがないのでしょう」

『何デモ食エルト,言ッテイルダロウ』

 視線を向けることなく、シュバルツからそんな念話が送られてきた。

「ざんぱ…「フェル」」

 フェルの言わんとする言葉を止めたルースは、フェルに視線を向けて首を振る。

 確かにこうして残さずに処理をしてくれるシュバルツではあるが、それをわざわざ言葉にする必要はない。

「う…」

 フェルもルースが言いたい事を理解した様で、そのまま口を閉じる。

 そのまま続けていれば、またいつもの言い合いになることだろう。

「ではこの骨は後で焚火に入れてしまいましょう。少し火力を足さないとなりませんが、それで土に還りますからね」


 解体したものをマジックバッグに入れ、血も川の水で洗い流して元通りにする。

「よしっ終わったな」

「はい。これでマジックバッグも、また入れられるようになりますね」

「そうだな。でもそろそろ溜まってきた素材で、追加が入らなくなりそうだな」

 トリフィー村に着くまでの間も、当然魔物と遭遇していたのだ。それを倒して今のように素材を回収して入れてある。それを何度か繰り返してきたため、そろそろどこかで買い取ってもらわなくてはならないと考えている。


「次に寄る町で、買取りをしてもらいましょう」

「ああ」


「出来たわよ、2人共」

 そこへソフィーの声が入り、ルースとフェルはそちらを振り返る。

 ソフィーは指で円を作りバッチリよと合図を送っていて、その横でネージュも尻尾を振っている。

「では私達も食事にしましょう。シュバルツはどうしますか?」

『今夜ハ,コレダケデ問題ナイ』

「分かりました。では私達は向こうへ移動していますね」


 シュバルツもすぐに食べ終わりそうなので、後で合流するだろうと、ルースとフェルはシュバルツをそこへ残し、ソフィーの傍に移動する。

 歩きながら見上げた空は東の方角がすっかり暗くなっており、かすかに残るオレンジ色の空も間もなく紺色の空に飲み込まれるだろう頃合いとなっていた。


 それから3人はタープの下に座り、ソフィーの作ってくれた温かなスープをいただきながら、トリフィー村を出発した日の夜を過ごしていったのだった。



 翌日もいつもの朝と同じで、ルースとフェルは剣の練習から始まる。

 魔法の練習は夜に行っているので、朝起きた時にはフェルの使い過ぎた魔力も戻っているはずだ。


「おはよう2人共。昨日の残りのスープだけど、温め直したから食べましょう」

「おう」

「はい。ありがとうございます」

 そして朝もソフィーが用意してくれた食事をしっかりと摂ってから、再び出発していったルース達である。



 -----



 そんな日を2日間程過ごした頃、少し大きめの道へと合流した。多分この道が村長から聞いた南下する道であろうと、ルースは見当を付ける。

 村長は一日と言っていた距離であったが、それも聞いた話だというから多少の誤差があったのも致し方ない事だ。それに雪がないときに歩けば、聞いた通り1日で着けるのかも知れないのだから、そこは気にすることではないとルースは目の前を注目する。


「ここが合流地点のようですね」

 目の前の道は、左へ向かってゆるやかな曲線を描く道があり、そこから視界を右へ巡らせば、その道は直進というよりは少し北上するようにして繋がっている様にみえる。いわゆる三叉路というやつである。

「左側が南にあたりますので、私達はこちらを進みます」

「道が広くなったな」

「ネージュ、私はここで降りるわね。歩き易そうな道だし、そろそろ人ともすれ違うと思うし」

『うむ』


 ネージュが(かが)んでソフィーの降りやすいように体勢を変えれば、ソフィーはお礼を言ってスルリと地面に足を付いた。

「自分で立つと、ちょっとフワフワした感じがまだ残ってるわね」

「馬車も降りた後、フラフラした感じになるもんな」

「馬車よりはネージュの方が、安定感があるけどね」

『当り前じゃ。馬車と一緒にするでない』

 言葉は怒っているが、口調は柔らかいネージュだ。


 それに笑った3人は表情を改めると、人が通った窪みのある雪道を危なげなく歩き、ウィルス王国を南下していったのだった。


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