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【109】南に続く道

「お世話になりました」

 ルースが代表してお礼を言うと、フェルとソフィーも頭を下げた。

 3人は並んで村の入口に立っており、これからこのトリフィー村を出発するところだった。


「いやいや、こちらこそ世話になったね。君たちが来てくれたことを神に感謝するよ」

 村長とガーネが、朝から3人を見送りに出てくれている。

「楽しかったわ。又近くに来たら、この村にも寄って頂戴ね」

「「「はい」」」


 お世話になった2日間、そしてここに来てからは4日。色々な事があった濃密な日々となったルース達である。

「旅の道中、無事を祈ってるよ」

「ありがとうございます。それでは…」

 再び頭を下げた3人は、ネージュを連れ村に背を向けて歩き出して行く。

 そこへ朝から外に出ていたシュバルツが戻り、3人を先導するように上空を飛んでいった。



 -----



 ルース達は昨日のうちに、村長からこの国における村の大体の位置関係を聞いており、そしてここから南へ向かうためのルートで、来た道以外のものを確認していたのだ。

 話によれば、村長は遠くまではわからないという前提で、この村を少し南下すると西へ向かう道があるのだと言い、そこから1日程歩けば、王都に繋がる道に出るのだと言われた。

 ただしその話は先代から聞いた事であり、今はどうなっているのか不明だという不確実な話だという。


 その話の後、ルースは久しぶりにマイルスからもらった地図を出してみた。フェルは始めて見た地図に興味を示し、ソフィーもキョトンとした顔でそれを覗き込んでいた。

 やはり何度見てもこの地図では現在地すらわからず、自分の居場所を知るためというよりは、この国にある大きな町はどの辺りにあるのかを示すための物に見えた。


「何だ?それ」

「私も見た事がないものだわ」

「これはこの国の地図で、王都がここにあると示しています」

「へぇ…」

「王都…」


 ルースが示した王都はこの国の南に表記されており、ここトリフィー村はこの国の最北端だと聞いているので、随分と離れた場所に王都があるのだろうと想像できた。

「あ…スティーブリーって書いてある」

「ほんとだ」


 2人が地図の中央よりやや北東に、ソフィーの住んでいた町の名前を見つけた様だ。この地図に名前が載るという事は、やはりあの町はこの国の中でも大きな部類に入る町であり、その為他の町とは雰囲気が異なっていたのかと納得したルースであった。


「へぇ、スティーブリーってこんな所にあったのね」

 ソフィーの落とした言葉に、ルースもフェルも同感だった。

「現在地は、この北のどこか…この辺りのどこかにいるはずですので、今度はスティーブリーよりも西側を通って南下したいと考えています」

「南下って…王都に行くの?」

「すぐに、という訳ではありませんが、王都まで行く事を視野に入れています」

「おいルース、教会の本部って王都にあるもんじゃないのか?」

「そう考えられますね」

『…そう言えば以前の聖女は、王都と呼ばれる場所に住んでおったのぅ』

 ネージュがそこで“中央教会は王都にある“という、皆の知らない情報を教えてくれた。


 フェルの指摘は尤もで、王都には以前の聖女が暮らしていたという中央教会があるらしいのに、なのになぜ、逃げようとしている組織の本拠地へ向かうのかと、フェルは言いたいようだった。


「確かにネージュの話では、以前聖女のいた教会がある場所のようですね」

「だったら…」

「すぐに王都へ向かうという訳でもありませんし、それに探している者がわざわざ自分から近付いてくるとは考えないでしょうから、一応、裏をかく…という意味もあります」

「うら…」

「どちらにしても、今すぐにどうこうなる訳ではありませんし、後の状況によってはまた変更する事にもなるかと思います。今ここからの方向性として南下するのはどうか、と思いまして」

「私は良いと思うわ。どこへ向かおうと、なるようにしかならないんだし」

「ソフィー…」

 護ろうとしている本人にそう言われては、フェルも同意するほかない。


「……わかった。まぁこれ以上北に行ったら国外だし、状況次第って事だよな?」

「はい。その為これから行く町々では教会などで動きがないか、春を過ぎてからは特に情報を耳に入れておくようにしましょう」

「そうね」

「当然だな」



 その様な事を昨日のうちに皆で話し合っており、そこから村長の話をもとに西へ行く道を進んで行ったのだった。

 その教えてもらった道にも当然雪が積もっているが、そこを少しだけ歩き易いと感じるのは、ネージュと出会った森の雪を経験した後だからかも知れない。それに比べれば人が作った道とは随分と歩き易い物なのだなと、ルースは感心すらしていたのだった。


『ソフィア、我の背に乗るかえ?』

 そうして人通りのない道を歩いていれば、ネージュがそう声を掛けた。

「え?自分で歩いた方が体力もつくし、大丈夫よ?」

「いいえ、ここはネージュに甘えてください。ここはまだ人通りがないのでネージュが大きくもなれますが、人のいる道に出てしまえば、たとえ疲れていたとしてもネージュには甘えられませんし、ここはまだ歩き辛い所なので、この先の体力を温存しておいてください」

「分かったわ、そうさせてもらうわね」

 フェルも頷いていた為、ソフィーは素直に甘える事にしたようだ。そしてソフィーの言葉を聞いたネージュが姿を戻し、ソフィーをその背に乗せて進んで行く事となった。


 ここは木々に挟まれた道で、降り積もっている雪には人の通った痕跡もなく、時折小動物が横切ったような足跡が付いている位だ。そこをザクリッザクリッと一歩ずつに音を立てる雪は、ソフィー程度の体重ではしっかりと足を踏み込むことが出来ず、村を出てから何度かよろけたりもしており、皆がソフィーを心配していたのだった。


「人が通った跡もないのね」

「近くに村もないらしいですし、この雪では荷車も使えませんからね」

「確かにこんなに雪が積もってたら、外に出る方がおかしいよなぁ…って俺達じゃん」

「ふふ、確かにね」

「おかしいですからね」


 3人は他愛のない話をしながら、延々と続く白い道を歩いている。

 ここは静かで木々に囲まれ自然豊かな道のため、視界は開けていないがのどかな道だった。




 それからどれくらい歩いただろうか。

 道の脇に続く木々の間から、ザシュザシュザシュッと小さく雪を蹴散らすような音が聞こえてきたかと思えば、ルース達の歩く道に白い何かが跳び出してきた。

 その跳び出してきた物は小型の獣であるらしく、ルース達の300m位先にいるが、その様子が少しおかしい事に気付く。

「あれ?あいつ…怪我してんじゃないのか?」

 確かに言われてみれば、それの通った跡には赤いしみが出来ているようだ。

 だがルースには、それが何の獣であるのかが見えない位の位置である。


「ん~キツネ?」

『おい』

「はいっ」

 ネージュの硬い声にルースは即座に反応する。それは北の方から、魔物の気配が近付いてきていたからだった。

 そしてその時、見ていた獣は道の中ほどまで来たところで、力尽きたようにうずくまって止まった。

「フェル、魔物が来ます」

「そのせいか…」

 フェルが見えているキツネは、その魔物に襲われてここまで逃げてきたようだと分かる。


「ネージュ、ソフィーを頼みます」

『心得ておる』

 ネージュの返事を待たずにルースとフェルは、即座に倒れているキツネに向かうようにして駆け出していく。


『モウ到達スル』

 上空からシュバルツが魔物の動きを捉え、間もなく姿を見せるという念話が届いた。それに頷き走りながら抜刀した2人は、右側に意識を集中しながら走っていく。

 そして倒れているキツネの傍まで来た時、追いかけてきた魔物が道に姿を現したのだった。


『スノーウルフじゃ』

「「スノーウルフ」」

 ネージュがその魔物の名を告げた。


 それはガルムよりも幾分小柄で、真っ白な毛に黒いまだら模様が入っている狼の姿をした魔物だった。しかし小さいからと言って侮ってはいけないのだと、ルースとフェルは既に学んでいる。魔物は、大きさでは判断出来る物ではないのである。


「フェル」

「おう。2匹…3匹か」

 最初の1匹が飛び出してきてすぐ、後ろに続くように2匹のスノーウルフが姿を見せた。


「フェルは使える様なら魔法もありですが、まだ魔力が少ないので、発動させるのなら1回にしておいた方が良いです」

「あ?そうだな…」

 魔法の事を忘れていたらしいフェルが、その手もあったかというように笑みを見せて頷いた。


 ルースとフェルはキツネを背に庇って並び立ち、それを囲むようにスノーウルフが足を止めた。

 ルースは即座に、自身に風を纏わせて速度を優先させる戦い方に出る。

 フェルはといえば、先制で魔法を放とうと詠唱を始めた様だ。


 一方、スノーウルフは獣だけを追いかけてきたはずが、追いついてみればその周りに他のものがいた事で、一瞬考えるかのような間が発生したのだ。そしてその隙にフェルが詠唱を唱える事ができ、3匹のうち一番端にいた物へと命中させた。


「あまねく在る賢智の源よ、それは輝きとなりて現れん。“落雷(サンダーボルト)“」


 ―― ドンッ! ――

「わっ…」


 それを放ったフェル自身が、初めて出した魔法にビックリしているようで小さく声をあげた。

 そしてそれを見たルースは僅かに口角を上げると、近くにいる魔物へと意識を固定させ足を踏み出していった。


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