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【108】出来栄え

「「「………」」」

 3人はネージュの声が聴こえているが、ここは話し合わずとも聞こえなかった事にしようと、満場一致となったようだ。


 ルースもフェルもネージュが言った物を詳しくは知らないまでも、何となく聞いた事がある物でそれが宝石と呼ばれる物である事は知っていたし、ソフィーに至っては流石に女の子だけあって、大小の違いはあれど店頭で見た事があり、それが何であるかを理解して沈黙したのだった。

 ここで声を出して騒いでしまっては、同室にいるガーネにも気付かれてしまうと、3人は顔を見合わせて無言で同じ結論に達したのだった。


「じゃ…じゃあコレ、はい」

「ぇあ…ありがとう。使わせてもらうわね…」

 フェルが近付いて行って、手に持っていた石をソフィーに渡す。

 ソフィーは手の平の上に乗せられたその石を繁々と覗き込み、隣のガーネも覗き込んでみている。

「あら、綺麗な石ねぇ。透明感があって輝いているみたいだわね」

 ガーネもその石が美しいものであると、笑みを広げた。


 流石にガーネはサファイヤという物を知っているが、それは小さい物であるはずだという固定概念を持っていた事と、この若者たちが宝石などを持っていようはずもないと考え、ただの綺麗な石として認識したのだった。

「ええ、そうですね…」


 手渡したフェルが、もう自分の管理下から外れたとばかりにホッとした顔をしているのはいただけないが、まぁただの石と言って特に騒がれないのだから、このまま何も知らなかったことにして、ネージュの首輪に使ってしまおうという感じである。


「じゃぁこの石は、糸を網の様にして包んでしまえば良いわね。穴は開いていないみたいだし、脆い石だったら穴をあけようとすれば崩れてしまうもの」

 物作りが好きなのだろうガーネが、サファイアを確認してそうアドバイスを出す。

「はい、そうします」


 ソフィーとガーネはそれから編み物をする為の道具を用意して、楽しそうに作業を始めた。そしてガーネが見本を示すように同じ編み方をしながら、「そこはもう少し力を入れて」などと言って、手元を一生懸命見ているソフィーと肩を寄せ合うように床に座っていた。


 ネージュはあれからずっと目を瞑っており、自分の言った言葉など忘れてしまっているかのように、のんびりと寝そべっている。


「ガーネさん」

 2人が編み物を始めてからしばらく経った頃、ルースがガーネに声を掛けた。

「なぁに?ルース君」

 そう言ってガーネは、手元から視線をルースへ移す。

「私達は明日、ここを出発しようと思っています。連日お世話になり、ありがとうございました」

 のんびりとした時間もそろそろ終わりとなる頃、ルースはこの村から出立する事をガーネに話す。

「あらあら、もう行ってしまうのね?」

「はい。まだ足元に不安はありますが、天気も落ち着いているようですし、この機に出発する事にしました」

「私としてはもう少し貴方達と居たかったけど、貴方達にも都合があるものね…。わかったわ、あの人には私から伝えておくわね。…あら、そろそろ夕食の準備をしなくちゃね」


 その会話で顔を上げたガーネは、窓の外が黄色くなってきている事に気付いたようで、ソフィーの手元を見ると頷いて立ち上がった。

「ソフィアちゃんの方ももう完成するようだし、後は一人で大丈夫みたいね」

「あ、はい。後は糸の始末をする位なので、自分一人でも大丈夫です。色々と教えていただき、ありがとうございました。とっても楽しかったです」

「ふふ。ソフィアちゃんは物覚えが早いから、私も教えていて楽しかったわよ。じゃぁ私はこれで戻るけど、もう少ししたら夕食を一緒に食べましょうね」

 ガーネはそう言ってから皆に微笑みかけ、家へと戻っていった。


「ガーネさんて、可愛い人だな」

「そうですね。楽しそうでした」

「私も楽しかったわ。糸紡ぎもさせてもらえたし」

 ソフィーは、離れて座っていた所からルース達の傍へ戻ってきて、手にしている5cm幅の長い首輪を2人へ見せた。


「ほらっ出来たの。割と綺麗に出来たでしょ?」

「ソフィーは器用ですね。売り物のようです」

「すげー」

 ニコニコと笑むソフィーは、2人の言葉で嬉し気に頬を染め、そしてネージュにもしっかりと見える様にそれを広げてみせた。


「ネージュは、気に入ってくれた?」

『我は作る前から、それを気に入っておる』

「ええ?何よそれ…」

「出来は関係ないみたいな言い方だな…ネージュ」

 フェルの言葉もあって明らかに機嫌を損ねてしまったソフィーへ、ルースが言葉を添える。


「ネージュは、ソフィーが器用である事をわかっていたので、出来の心配はしていなかった…という意味のようですよ?」

『さよう』

 ルースの補足に、ソフィーとフェルがそういう事かと苦笑する。

 確かに先程のネージュの言葉では、誤解されてしまっても致し方無い。確実に言葉が足りない聖獣である。


『それは我にくれるのであろう?』

「ええ。着けても良い?」

『うむ』

 寝そべっていた体勢から体を起こしたネージュは、お座りをして首を伸ばした。

 クリーム色の糸を編んだだけの素朴な色合いをした首輪は、胸元にくる部分にフェルが渡した石を包み込むようにして編みこまれている物だった。その糸の間から時折キラキラと青い石が光を反射し、ペンダントの様な装飾品にさえ見えた。


『どうじゃえ?』

「首のところはネージュの毛に埋もれちゃうけど、胸元はちゃんと見えてるわね…うん、可愛いと思う」

「ええ、良くお似合いです」

「いいんじゃないか?ちゃんと人に飼ってもらっているように見えて」

 フェルの一言は余計だったらしく、ネージュが目を細めてフェルを見た。


「これで、町中に居ても人と繋がりのある獣だとわかり、怖がられずにすみますね…という意味ですよ、ネージュ」

 またしても補足というフォローを入れたルースの話に、そういう事ならとネージュは細めていた目を戻した。

 彼らは互いに言葉が足りない仲間たちの様で、ルースもなかなか苦労しそうである。

「ふふ。ルースがいてくれて良かったわ」

 と、こっそりソフィーに言われているルースだった。



 こうしてソフィーに作ってもらった首輪はネージュにも気に入られ、しばらく自慢するように胸を張って座っているネージュは聖獣という威厳も何処へやら。その姿が可愛いと呼べるものであった事は、口にはしない方が良いだろう。そしてそれを、ソフィーも嬉しそうに見ているのだから、とやかく言う必要はない。


 それに、ただの獣として町中に入るよりも人が与えたものを身に着けていれば、フェルが言ったように人と繋がりある物だと認識され、建物の中にも違和感なく付いて来る事が出来るだろう。

 その様な意味で、シュバルツは何も身に着けていないが、鳥なので狭い室内にいるよりは外で待っていてもらっても、さほど気にしないだろうと思う。

 ルースは青い石を輝かせているネージュとその傍にいる2人を眺めながら、ガーネが来た時に外へ飛んでいったシュバルツが戻ってきた気配を感じていた。



 それから日も暮れた頃、3人は夕食に招かれて村長宅へ行く。

 そしてテーブルの上には色とりどりの食事が用意され、5人はそのテーブルを挟んで賑やかなひと時を迎えていた。従魔たちは、今はお留守番である。


「今日は本当に、ありがとう。子供達も喜んでいたよ」

「それなら良かったです」

「今回、職業(ジョブ)が出た方は2人だったのですか?」

「ああ。15歳になった2人、ミロという男の子とアンネという女の子だったんだ。2人共私達と同じく、調教師(テイマー)紡績師(ぼうせきし)だったみたいだよ」

「ミロは、違う職が良いって思っていたらしいわね」

 ガーネがそう言って苦笑している。確かに何だか残念そうにしていた男の子がいたが、それがミロという少年だったのだろうとルースは回想した。


「それで、ガーネに聞いたのだけど、明日出発するんだって?」

「はい。こちらでする目的は果たしましたので、又旅を続けようと思います」

 ルースがその様に話せば、ソフィーの相棒を探しに来たと思っている村長とガーネは、納得した様に頷いた。

「寂しくなってしまうが仕方がないな。今日は最後の夜だから、先日の肉も用意したんだよ。沢山食べてくれ」


 村長が言った料理は、目の前に出された塊肉の事だ。これは先日、ルース達が切り分けた肉であろうと直ぐに思い至った。

 その肉の塊は表面がこんがりと焼かれているもので、熱々である証拠にまだ湯気が立っている。

 その肉を村長の合図でガーネが切っていけば、外はこんがりとしていても、中は赤身の残った柔らかそうな肉であることがわかった。

「うわぁ~旨そう」

「ふふ。これは良い肉だったから、塩と香辛料で味を調えているだけなの。このソースをかけて食べてね」

 どんどんと切り分けていく肉に皆が視線を固定したまま、ガーネがそこから切り出した肉を一人ずつ皿へ渡してくれた。


 フェルが真っ先にそれを口に入れ、何も言わずに目を瞑って咀嚼している。

 人間、美味しいものを食べると言葉もなくなるというのは、本当の事の様だ。

「柔らかいわ。とっても美味しいです」

「肉自体の臭みもなく、更にこのソースが旨味を引き立てていて、とても美味しいです」

 3人は顔をほころばせており、同じ感想の様だ。

「ふふ、良かったわ。あなたはどう?」

 ガーネが隣を振り返り、村長に尋ねる。

「うん…うまいな…。今までさんざん良い物を食ってきた奴だから、不味い訳がない」

 積年の恨みを表に出している訳ではないが、少々嫌味にも聞こえるその言いように、ルース達3人はただ口に肉を運ぶ村長を見つめ、ガーネも眉尻を下げて村長を見た。


 それからガーネもその肉を口に入れ、表情を崩す。

「あら、自分で作っておいて何だけど、想像以上に美味しいわね。やっぱり美味しく食べてもらいたいと思って作ると、とっても美味しい物が出来るのね」


 と、その場を和ませるかのように言って、穏やかな笑みを湛えたガーネであった。


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

重ねて誤字報告もお礼申し上げます。

そして明日も引き続き、お付き合いの程よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 聖獣って宝石の真贋も見抜けたりする…ってことですかね? 仮に可能だった場合は今後山岳地帯や洞窟に行く依頼とか受けた際に、もしかしたら未回収の宝石の原石を拾えたり出来る…
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