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【107】スキルと糸紡ぎ

「俺のはスキルの発動内容が出てたみたいだけど、ルースはスキルが又増えてなかったか?」

 フェルは、いたずらっ子の様な顔でニヤリと笑いルースを見た。

「ええ。その様ですね」

 ルースはそれに対し、喜ぶでもなく通常通りの返事をする。

「なんだ、スキルが増えてんだぞ?嬉しくないのか?」

 ルースの感情が籠らない返しに、フェルは困惑気味に顔を覗き込んだ。


「そういう訳ではありませんが、こんなにスキルというものはポンポンと出てくるものなのでしょうかと…。これも倍速の影響と考えるのなら、少々怖い気もするのです」

「そう言われると確かにな…。他の冒険者たちと、スキルの話なんかをするもんでもないしなぁ…他の奴らと比べると、どうなってるかは分かんないよな」

 フェルもルースに言われた事で、ルースの懸念する事に気付いて眉尻を下げた。


 スキルが出たとただ喜ぶだけでないルース達を、ネージュは、今回接する人間は今まで見てきた者達とどこか違うようだと目を細めた。


「それで今回ルースに出たものは、どういうスキルだったの?」

 話を進めたソフィーは、ルースならそれが分かっていると確信している様に問いかけた。確かにルースはその答えを知ってる。以前立ち寄った図書館で、ルースはスキルの本も読み進めていたからだ。

 その考えがあながち間違いでないところは、ソフィーが仲間の事を理解してきているのだと言える。

 ソフィーの問いに、ルースは困ったような笑みを浮かべて返事を返す。


「新しく出たスキルは、“雲外蒼天(うんがいそうてん) “というものでした。確か、努力を積み重ねていけば開けるもの…」

『希望を掴んだようじゃのぅ。このままの道を進めと出ておるのじゃ』

「はぁ?何だ?そのスキルは」

「私もそれじゃあ、意味が解らないわ?」

 ルースとネージュの話に、困惑気味なフェルとソフィーだ。


「このスキルは…常時発動型のスキルで、特にこのスキルが単体で何かを発動させるものではなかったはずです。このまま努力を続けなさいという道しるべのようなスキルで、その人を底上げしてくれる…後押ししてくれる…という内容だったと思います」

「また…ルースのスキルは、ややこしいもんばっかりだなぁ…」

「そうよね。フェルのスキルは加護で、その内容が剣技だっていう分かり易いスキルだったけど、そういう意味でルースの持っているスキルは、広がっていくような…内面的に影響するスキルばかりにみえるわね」

『スキルとは、その者の要素に合わせて出現するものゆえ、この2人には対照的なスキルが現れた様じゃのぅ』

「そう言われると、納得してしまう気がするわ…」

「俺も一応、頭も使ってるけど?」

『ソウ言ウ処ガ,脳筋ダト言ウノダ』

「何で又お前はそんな事言うんだよ…」


 フェルが口を挟んできたシュバルツを睨みつける。

 シュバルツの突っ込みが的を外している訳ではないが、少々引っ掛かる物言いの為いつもこの様な感じになってしまうのだ。

「まぁ、私の新しいスキルを今は気にしなくて良いと思いますので、この話はこれ位にしましょう」

 ルースは、シュバルツと今にも言い合いを始めそうなフェルを収めるため、話を締めくくった。


 こうして今回、教会のステータス掲示板を起動させ、3人は今のステータスも確認する事が出来た。正式に職業(ジョブ)を確認したソフィー、加護の内容が出現し魔法が使えるようになったフェル、そしてルースはスキルが増えた事もしっかりと把握して、ここまでの成果をしっかりと実感する事が出来たのだった。

 ただし、その行為により新たな問題も抱える事にはなってしまったが、3人の考えも一致した事で、更なる結束を固めていったルース達であった。




 そしてその日はもう外に出る事もなく、3人は借りている建物でのんびりとさせてもらう事になった。

 そんな中、村長の妻であるガーネがこの建物にやってきて、ソフィーとこの部屋の一画で話をしていた。


「へえ…この道具って、そんなに昔から使ってるんですね」

「私ももうおばあちゃんだけど、私の祖母もこの道具をつかっていたし、その前からある物だと言っていたわね。すり減ったり壊れたりすればその都度そこを直しているから、ほらっこの辺りの木の色が違うでしょう?」

「本当ですね」


 ソフィーとガーネは楽しそうに糸紡ぎの道具を見ながら話していた。それを耳に入れつつルースとフェルは離れたところに座り、剣の手入れをしたり備品の確認をしたりしている。

 そしてネージュもルース達の傍で寝そべって目を瞑っているが、多分寝てはいないのだろうとルースは感じていた。


「じゃぁちょっとやってみる?」

 ガーネが楽しそうにソフィーに提案する。

「え?いいんですか?」

「勿論よ。ふふふっ」

 そう言ってガーネは、テキパキと道具を使える状態にして2脚の椅子を並べると、家からフワフワの獣毛を持ってきた。


「この毛は何度も洗ってあるから色も落ち着いているでしょう?ちょっと触ってみて?」

「わぁ~フワフワですねっ」

「ふふ。これをこうして摘まむと、少しずつ出てくるでしょう?」

「これが繊維ですね?」

「そう。この繊維に沿って糸を()っていくから、この紡錘車(ぼうすいしゃ)についているこの導き糸にこれを掛けて」

「わぁ…吸い込まれていくみたい…」


 2人は紡錘車と呼ばれる糸紡ぎ機に椅子を寄せ、ガーネが足を使って車輪を回転させている。

 足元にあるスイッチの様な板を踏むことで、その上についている車輪がくるくると回る仕組みになっているようだ。ソフィーは目を輝かせて、ガーネが紡ぐ糸を食い入るように見つめていた。


「では、ここからやってみて?」

「はい…」

 ガーネと席を交代し、おっかなびっくりというようにソフィーが紡錘車の前に座って、ガーネが手にしていた獣毛を受け取った。

「ふふ。そんなに身構えなくても大丈夫よ?初めはゆっくり車輪を回すように動かしていけば良いわ」

 楽しそうに肩を寄せ合う2人に、ルースとフェルは和やかな表情を浮かべてそれを見ていた。

 この国の端にある小さなトリフィー村には、大きな町にはない温かな触れ合いがあるのだと、ルースは目を細めたのだった。


 それから暫く2人は楽しそうに糸を紡いでいた。

「わぁ…出来た」

「初めてにしては上出来ね。これは記念にソフィアちゃんにあげるわ」

「え?もらっても良いんですか?」

「勿論よ」


 ソフィーは初めて自分で紡いだ糸を、ガーネからもらった様だ。大した量ではないが、それは両手で支える位の束になっていた。


「良かったな、ソフィー」

 フェルが嬉しそうにしているソフィーへ声を掛けた。

「ええ」

 明るい声で返事をするソフィーは、頬が赤く染まっている。

「ふふ、楽しかったみたいで良かったわ。でもこれを毎日やっていると、途端に飽きてきちゃうのよね。大人になれば慣れてそんなに苦にはならないけど、やはり始めたばかりの子供は、1年もすれば飽きてきちゃうみたいでね、その頃になると皆、仮病を使ってでも休みたくなるみたい」

「そうなんですか?」

「その子達の病気を、私達は“毛病期“って呼んでるわ。仮病と毛を見たくない時期っていう言葉を掛けてるの。ふふっ」

「けびょうき…」


 話に加わる事はなくともルースも2人の話を聞いており、自分も子供の頃ピーターと過ごした時を思い出し、子供には多感な時期があるものだったなと笑みを浮かべていた。


「それで、その糸はどうするんだ?」

 と、フェルがもらった糸を抱きしめているソフィーに尋ねた。

「ん…どうしようかしら…」

「じゃぁ、それを使って何か作ってみれば良いわ?ソフィアちゃん、編み物はできる?」

「少しなら…子供の頃に遊びで触った位で、真っ直ぐ編む位しかできません」

「それでも良いんじゃない?そのワンちゃんの首輪とかなら、その位の糸の量で出来るわよ?」

「首輪…」


 ガーネの話に3人はネージュを振り返って、その言葉の反応を見た。

 しかし、当のネージュは身動きもせず、目を瞑ったまま言葉を返してきた。

『我にソフィアが贈り物をしてくれるのなら、それを喜んでもらい受けよう』

 全く“首輪“という言葉も気にすることなくネージュが揺らす尻尾を見て、3人は気が抜けたように笑みを浮かべた。


「そうだな。首輪を作るんだったら、石を付けてみても良いんじゃないか?」

「石?」

 フェルが出した提案に、ソフィーが首を傾けた。

 するとフェルは巾着の中から、以前見た事のある石を取り出して手の平に乗せた。


 それは、スティーブリーの図書館近くの森で拾った3cm位の青い石だ。

「フェル…ギルドに提出しなかったのですか?」

「え?だってゴミじゃないし、ただの石だろう?そう思ってポケットに入れたまま、忘れて持ってきちゃったんだよ」

 フェルの悪びれない言い方に、ルースは苦笑する。

 まぁ持ってきてしまった物はもう仕方がないので、ネージュがそれでも良ければという事だろう。


『ほう、サファイアか…もちろん取り付けてもらっても、支障はないぞ?』

 ネージュの落とした言葉は、こうしてまた波紋を呼ぶことになってしまったのだった。


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