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【105】動き出したもの

 3人が十分話し合ったとはいえないが、この村に滞在させてもらっている間に行動を起こさなければならず、ソフィーが教会で魔導具を起動させるという事で話は纏まった。

 その起動するための詠唱は、もう何度も聞いてきたものであり当然ルースが覚えている。


 その話が終わった頃になると、村長が昼食を作ったからと呼びに来てくれたので、3人は有難く村長の家でご馳走になる。


「村長さん、この後教会に行ってみたいんですけど、良いですか?」

 ガーネが用意してくれた沢山の料理を堪能しつつ、ソフィーが切り出した。

「ん?さっきも言ったが、今は何もできないぞ?」

「はい。ちょっと覗かせて欲しいなって」

「それは勿論構わないが…では儂が案内しよう」

「ありがとうございます」

 ニッコリと笑ったソフィーを、ルースとフェルは複雑な顔で見つめる。

 その2人に気付き、「大丈夫」と再び笑みを広げたソフィーだった。


 食事が終わって、早速村長の案内で教会までの道を辿る。

 教会は村長宅の前にある大きな木まで出て、そこから民家の建っていない奥へと入った所にあった。


 木々に囲まれるようにして建っている教会は、こじんまりとしたもので、ルースとフェルには馴染みのある大きさ、いわゆる小さな教会だった。


「可愛い教会ですねって言ったら失礼かもしれないですけど、温かみのある建物で可愛らしいわ」

「ほっほっ。町の人から見たら小さな建物だろうし、飾りも何もない素朴な教会だ。だが儂らにはこれ位が丁度良いんだよ」


 村長は先頭に立って教会の扉を開ける。

 特に鍵もしていないらしく、そのまま閂を外して観音扉を両手で開け放った。


 中は、多色のガラスが天井近くにはめ込まれており、そこから入る光だけが内部の光源となっていて、その光と扉付近以外は全体的に薄暗い。

 その神秘的ともいえる空間に、ソフィーは足を踏み入れていった。


「懐かしい感じがする教会だわ…」

 一人中へと進んで行くソフィーは、中央に降り注ぐ色とりどりの光に吸い込まれるようにその光の中に入る。

 ルースとフェルが、そのソフィーを見つめて動きを止めた。ソフィーはまるでその光に溶けるかのように輝いており、2人はその情景に言葉を失っていたのだった。


『あそこにもいくつかの、精霊がおるのぅ』

 ルース達の足元に立っているネージュが、ソフィーを見守りつつ2人へ念話を送ってきた。

 ネージュの言葉に頷き返せば、ルース達の背後に立っていた村長までも感嘆するように言葉をこぼす。

「ほう。まるで女神さまの様だ」

 村長のたとえに、ルースとフェルも心の中で同意する。

 例えた女神なぞ誰も見た事はないが、おおよそ皆が想像するところは同じだろう。


『当然じゃ。聖女であるからのぅ』

 村長の言葉に応えるようにネージュが肯定を返せば、それにはルースが苦笑する。

「あら?皆は入ってこないの?」

 ふわりと銀の髪を広げて振り返ったソフィーがキョトンとした顔で、まだ入り口に立っているルースとフェルに言う。

 その声に促され、ルースとフェルもソフィーの後ろに並び立つ。


「まるでこの教会が、3人を歓迎しているようだ…」

 光の中に立つ3人に村長はひそやかな声で言葉を紡ぐも、それはネージュにしか届いていないものであった。



 この教会も、礼拝室の端にステータス掲示板が備え付けてあり、3人はゆっくりとその魔導具へと近付いて行く。

「これはどこも、同じものなのね」

「その様ですね」

 このステータス掲示板というものは、ルースの村の教会も町にあった教会も同じ形状であった為、どこでも同じものが置かれているのだとルースは同意した。


 そしてルースが心配そうにソフィーの顔を覗き込めば、ソフィーはニッコリと笑って頷いて返す。それを確認したルースは、ソフィーの耳元で起動させるための詠唱を伝えた。

 それに一つ頷いたソフィーが掲示板の前に一歩進み出て目を瞑り、小さな声で詠唱する。


「“世界の理、万物なる尊き光よ。今この者へ与えしギフトを表し、この者の未来を導き給え”」


「な…」

 薄暗い礼拝室に、突然その一画が柔らかな灯りをともす。

 村長はその光景を入口付近から眺めており、目の前の出来事に言葉を失った。


 ゆっくりと目を開けたソフィーが、起動されている魔導具を見て目を見張る。

 たとえネージュに出来ると言われていた事でも、ソフィーも半信半疑だったのだとその様子でわかる。

「できちゃったわ…」

「「………」」

 ルースもフェルもソフィーを挟み込むように立ったまま、言葉を失っていた。


 もう動き出してしまった物は、後戻りする事は出来ずなかった事には出来ない。


 いつの間にか歩いてきた村長が、目を見張ったままルース達の近くに立った。

「どうなってるんだい?儂は幻が見えているのか?」

「村長さん、勝手に動かしてしまって申し訳ありませんでした。この村の子供たちがお困りとの事でしたので、光魔法が使えるソフィーがもしかして動かせないかと思い、試させていただいたのです」

「司祭様でなくとも、これを動かせるのか…」


 村長は今の説明で納得してくれたのかそれだけ言うと、我に返ったようにルースを見た。

「これは、このままにしておいてくれないかい?今から子供たちを呼んでくるから、彼らに使わせてあげたいんだ」

「勿論です。その為に試したようなものですから」

 ルースからの返事を聞いた村長が、慌てたように踵を返して教会から出ていった。



「ソフィー、今の内ですよ」

「ええ」


 この場にはもうルースとフェル、そしてソフィーとネージュしかいないのだ。シュバルツは、今は外で待っていると言って飛んで行ってしまっている。

 村の者達が来る前に、もう一つの目的であるソフィーのステータスを確認しておかなければならない。そして時間があるようなら、ついでにルース達も確認するつもりだ。


 緊張した面持ちでソフィーが掲示板へと近付き、台にある虹色に輝く半球へそっと手を添えた。


 ―ブワンッ―


 虹色の珠が輝きを増し、上部の枠に文字が浮かび上がる。


~~~~~~~

『ステータス』

 名前:ソフィア

 年齢:16歳  

 性別:女

 種族:人族

 職業(ジョブ):聖女

 レベル:4

 体力値:103  

 知力値:80   

 魔力値:150   

 経験値:51  

 耐久値:31  

 筋力値:38  

 速度値:50  

 スキル:―

 称号:―

~~~~~~~



「あっ…」

 呟いたフェルの声を拾ったネージュが、フェルの隣に立つ。

『何か言う事があるじゃろう?』

「申し訳…ありませんでした…」

 聖女と言う文字をはっきりと確認したフェルが、素直にネージュへ謝罪する。


 それに満足したのか、ネージュが移動していってソフィーに頭を押し付けた。

「ネージュ…聖女だったわ?私」

 その言葉には何も言わず、ネージュは甘えたようにソフィーの体へ頭をスリスリと押し付けている。

 一通り確認し終わったソフィーが、半球から手を離せばその文字が消えていく。


「良かったですね、職業(ジョブ)が出て」

「あぁそうだよな。そこを気にしてたんだから、“良かったな“だよな」

 ルースとフェルから掛けられた言葉に、ソフィーは困ったように微笑んだ。

「ありがとう…って言いたいけど、ちょっと複雑だわ…」

 ソフィーの素直な感想に、ルースとフェルは苦笑する。

 そしてソフィーは、グリグリ頭を押し付けているネージュの頭に手を乗せ、そっと労わるように撫でた。


 ソフィーのステータス確認が終わったところでまだ誰も来る様子もない事を確認し、ルースとフェルもこの隙にステータスを確認させてもらう。



~~~~~~~

『ステータス』

 名前:ルース

 年齢:17歳  (前回:16歳)

 性別:男

 種族:人族

 職業(ジョブ):剣士

 レベル:46   (前回:13)

 体力値:224   (前回:200)

 知力値:112  (前回:95)

 魔力値:160  (前回:100)

 経験値:89   (前回:77)

 耐久値:50   (前回:45)

 筋力値:61   (前回:53)

 速度値:64   (前回:55)

 スキル:倍速・波及・雲外蒼天  (前回:倍速・波及)

 称号:―

~~~~~~~


 -----


~~~~~~~

『ステータス』

 名前:フェルゼン

 年齢:17歳  

 性別:男

 種族:人族

 職業(ジョブ):騎士

 レベル:39   (前回:10)

 体力値:224 (前回:160)

 知力値:80   (前回:70)

 魔力値:15 (前回:0)

 経験値:68   (前回:51)

 耐久値:51   (前回:42)

 筋力値:72   (前回:55)

 速度値:59   (前回:50)

 スキル:加護【月の雫(ムーンドロップ)】  (前回:加護)

 称号:―

~~~~~~~


 こうして2人もステータスの確認を済ませると、新たな数値と文字に言いたい事も沢山あったが、話し合いは後にしようと、困惑した笑いを上げただけにしておいたのだった。



 それから少しすれば、村長が村の子供たちを連れて教会に入ってきた。

「わー本当に動いてる!」

「すげー!!」

 6人の子供たちが、村長と一緒に掲示板の前まで近寄ってきた。ざわついている子供たちに村長は「こらこら」と注意とも呼べない声をかけ、ソフィーへと顔を向けた。


「騒がしくてすまないね。今からこの子達に使ってもらおうと思うけど、良いかい?」

「はい、勿論です」


 ソフィーに頷き返した村長は子供たちを年齢順に並ばせ、一人ずつステータスを表示させていった。

 その一人一人が声をあげて喜び、今年15歳になった子供を視てみれば、紡績師(ぼうせきし)飼育師(ブリーダー)職業(ジョブ)であった事がわかった。

 女の子は“やっぱりね“と頷き、男の子は残念そうな顔をしていて、子供たちは笑い合って明るい笑顔を浮かべていた。


「ありがとう。子供たちのステータスを視れて良かったよ。大人達はいつでも良いから、次の司祭様が到着されてからという事にするよ」

 村長は笑みを湛えて、ホッとした様な顔でソフィーにお礼を言った。

「お役に立てて良かったです。ではこちらは終了させますね」

 そう言ったソフィーは誰もいなくなった掲示板の前に立ち、ステータス掲示板を終了させた。


 すると、明るくなっていた教会の一画はその光を収め、徐々に静寂を取り戻していったのだった。


いつも拙作をお読み下さり、ありがとうございます。

重ねて誤字報告もお礼申し上げます。

そして、ブックマーク・★★★★★・いいね!を頂きます事、モチベーション維持に繋がりとても感謝しております。


明日から巷ではGWに入り、大型連休となる方も多いのでしょうか。

筆者は暦に関係なくいつもの毎日となりますが、普段お忙しくしている方々には、この期間にゆっくりと英気を養っていただき、楽しい休日になるよう願っております。どうぞ楽しい休日をお過ごしください。


これからもできうる限り毎日の更新を心がけて行きますので、引き続きお付き合いの程よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
ステータス考えるの大変ではないですか? 私は数字を出すと後で大変になると思って、最小限に抑えているんですが、それでも「余計なこと書くんじゃなかった!」と頭を抱えることも多いです。 実際書いてみると、大…
[良い点] 更新お疲れ様です。 やっぱり動いちゃいましたねぇ…教会にバレたらヤバいなこりゃ。 ルース達は結構レベル上がってるけどそこまで能力伸びてない(フェルの魔力はネージュが覚醒させてくれたおかげ…
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