殺意の温泉にて
1000文字きっちりで書き上げ!
「温泉好きなお前のために用意してやったぞ」
女がニヤニヤと笑みを浮かべ、蔑むような視線で湯船につかる男を見下ろす。
「感謝の一つでも言ってみたらどうなんだ?」
対して男は無言。女の言葉のみを拾うならば「ありがとう」の一言もありそうだが、男の状況がそうはさせない。手足を手錠と鎖で繋がれて男は身動きがとれなくなっていた。
「こんなことをして何が目的なんだ。さっさと殺せばいいだろ。どうせ俺には生きるための未練はないんだからな」
「どうしてあたしがお前みたいなやつの言うことを聞かなきゃいけないんだ。ゆっくり殺してやるから黙ってろ!」
「……」
女が湯船に手を浸ける。
「まだぬるいだろ?今の温度は39度だからな。だが安心しろ。少しずつ加水の量を減らして熱くしていってやるからな」
それからは黙る男に対して女はいくつもの言葉で罵倒を繰り返した。
どれぐらいの時間罵倒され続けただろうか。ふと女の言葉が柔らかくなった。
「顔が苦しそうだな。現在43度手前ってところか。そろそろ皮膚もひりひりしてきたんじゃないか?」
お湯の温度が上がったことで男の皮膚には全身赤みがさしていた。
「そういえば日本の源泉の最高温度って知っているか?」
男は首を横に振る。
「105度だってよ!そんなの死ぬに決まってるじゃんな。ウケるわぁ」
女が手を叩きながら腹を抱えて笑う。
「このまま加水の量が減っていったらお前ってどうなるんだろうな。少しずつ皮膚が内蔵がどろどろに溶けて豚骨ラーメンの出汁みたいになるのかもな。ゆ~っくり温度を上げていくから、痛みでもだえる時間がずっと続くんだろうなぁ」
男は力を振り絞って抜け出そうとするが、湯面が揺れるだけで湯船から抜け出すことはできない。
「死にたがりのお前にぴったりじゃないか。どうせ生きるための未練なんてないんだもんな。なぁ?」
男は苦痛な表情を浮かべ、助けを求める視線を女に向ける。
「なんだその目は!お前が自分で死にたいって言っていたんだろうが。そうじゃないっていうのなら自分の口で言ってみろ!」
男は渾身の思いを込めて大声で叫ぶ。
「いぎだいです!!!」
「60分コース、2万円になります。いつもありがとうございます」
「また生きる気力が湧いたよ」
と男は礼をして一人、夜の路を歩き去っていく。女は男の姿が見えなくなるまで見送ると静かに店のドアを閉めた。
ドアの上にはネオンで輝いた看板がひとつ。
店の名前は『SM倶楽部 自殺防止』
ホラー書こうとしていたのにこんなことになる不思議。
初コメディー。
ホラーとコメディーは紙一重。