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Welcome To School Festival  作者: shirasu
3/5

10月3日-③

 窓が上に開いてしまったなんて仕掛けも事前の仕込みであった。

 先代からの教えの『侵入先に準備無くして入るべからず』を守りこうして仕込みは万全だった。

 窓は開き、カーテンが夜の風で揺れる。月光が隙間から部屋の床を照らした。

「お、あいたあいた。他にボタン押す系あったっけ?」

「ない」

 これだけだった。

 海野は落胆する様子もなく笑う。

「ま、地主レベルだとそうそう許してくれるわけないか」

「じゃあ行くぞ」

「カーテンしてあるけど大丈夫だよね」

「事前のマッピングじゃ宿直室みたいな部屋になってる。それに誰もいない時間帯だ」

 言うが二人は一人ずつ他人の家へ上がり込む。お邪魔しますなんて挨拶は玄関から入る時に使えばいいというのがモットーだった。

 部屋の中は簡素なベッドとクローゼットが置いてあるだけでパッとしない作りになっていた。生活感がなく、おそらく普段使いされていない。

 入ってきた窓をリモコンで閉める。そして窓はまた端から見るとなんら違和感のない窓へと戻った。

 二人はベッドやクローゼットには見向きもせずに部屋の出入り口のドアに向かい、ストローが一本入るほど開けた。

 滝藤はズボンの尻ポケットから黒い棒と携帯端末を出した。棒は可撓性があり曲げるとその位置で固定されるものだった。先端にはレンズが付いておりそれがドアの外に向くように曲げる。後ろの先はケーブルになっておりそちらは同じく取り出した端末に接続した。

 一秒ほどして画面にドアの外の風景が映し出される。右に向けると三メートル先には壁が見えそれ以外はなにもない。真正面へ向けるとドアがあった。明かりが漏れていないとこを見ると人はいない、もしくは寝ている可能性がある。左に向けると空間が開けており、十字のように廊下が続いていた。

 今視認できるだけの情報を集めると、滝藤は次に端末を保護しているケースから十円玉ほどの大きさの丸いものを出して、ドアの隙間から左廊下の側へ向かって縦に転がした。スーっと転がる丸(以下コイン)は壁にあたって止まり床と平行になるように倒れた。コインの真ん中を中心に五つの隙間が浮かび上がり、花が咲くように開いた。それを合図に滝藤の端末の画面が切り替わり周辺の間取りが現れる。

 表示された間取りはどうやら事前情報通りのようで、二人がいる部屋の隣は廊下になっており十字路になっている。その十字路の廊下は同じ大きさの部屋を区切っている。情報によるとその部屋の群は警備、ボディーガードの宿舎と物置の役割を果たしているらしい。今二人がいる部屋が殺風景なのは寝る以外に機能を求めていないからだろう。

コインを中心に映し出された間取りから、コインが左前にある廊下を挟んだ向こう側の壁の傍にあることがわかった。合わせて監視カメラなどの機器にジャミングを入れ、コイン起動一秒前の映像がループするようになっているので見落としたカメラがあっても安心な設計となっている。

このコインは周波数を飛ばし半径五メートル以内のものを把握できるものである。それは人も例外ではないので家宅侵入の時は必須の主力品である。稼働時間が五分と短く、バッテリーが切れたらなにかのゲームに使うコインと成り果てるので回収し忘れても心配無用という安心な設計なのである。

人がいないことと監視カメラの確認を終えたところで「よし」という滝藤の合図のあと二人は廊下へ身を移した。

「なにしてんの?」

 部屋からまだ出てこない滝藤に海野は尋ねた。

「サプライズだよ」

「おい早くしろよ」

「おわった」

「なにそれ?」

「俺以外の人の肌が接触したら爆発する爆弾。シールみたいになってて張り付けられるんだ」

これ、とドアノブを指差し、「中のドアノブに張った」

「発動するかどうかもわからない場面でたまに過激なことするよね」

「博打が好きなんだよ」

 二人は十字路に出た。

 廊下は暗く、光源は二人が出てきた部屋を南とした、北の方の廊下から指す月光だけだった。続いて西には部屋が二部屋あり、そこで廊下は壁で止まっていた。扉が付いた物置きのようなものが設置してある。そして南を見ればトイレがあるだけだった。男女の区別はなく一つだけだった。

 海野は物置きのようなものに近づいた。しかし暗い中で観るのは意識を割く。ポケットから眼鏡を出しかけた。

 赤外線のフィルターがかかっており暗い中でも視界が鮮明になる代物だ。フレームは弄ることができ、海野がハーフリムのスクエア型で色が深緑、滝藤がボストン型で色が黒だ。

 物置きのようなものは鍵がなく、開けると掃除機やモップが入っている。

「見てよ滝藤。こんな家の端っこなのに掃除機がダイソンだよ。やっぱり金持ちは違うね」

「メインウェポンは多分ビル掃除するヤツだぜ。こんだけ広いから騒音問題なんて気にしなくてよさそうだけどな」

 言うも滝藤はトイレの方向に足を進めた。

「また?」

「博打が好きなんだよ」

 滝藤はトイレに入った。中は尿用の便器が一つと洋式便器が三つ並んでいた。

 洋式便器の一番奥の個室に入り、便器の右下の湾曲している底の部分に先ほどと同じシールを貼った。

 用が済みトイレを出ると海野は苦い顔をしていた。

「時間! 無限にあるわけじゃないんだよ」

「無駄が良いんだよ。なにごとも余裕を持てよ」

 呆れたとばかりに溜息をつき、海野の横を通り過ぎ月の光が差し込む北へ向かう。

先ほどのコインはなかった。海野が回収したのだろう。

海野は相手にせず後を追った。

 月光は一枚の窓から差し込まれていた。

 その先は左に折れ曲がっており右手に扉があった。

 海野が手をかけようとした。

「このドア、外からは専用のカードキーが必要らしい」滝藤が言った。

 手を引っ込め海野が目を開いた。

「なるほどーじゃあ出たら戻れないじゃん」

「やっぱ細かいとこまで読んでないんだな」

「お前が読んでるんだらいいじゃん」

「……」

 この辺りももはや分担の域だった。海野は調査報告書の細かい部分まで読ないうえに、たまに忘れる。そして滝藤が全て頭に入れる。もう滝藤は諦めていた。

「特に忘れ物もないからさっさと行くぞ」

 海野はノブを捻りドアを開けた。

 脚はまだ出さない。先ほどと同じ手順で目だけで確認する。目に見える範囲には危険は確認できない。

 次にコインを転がした。十秒ほど転がり倒れた。

 滝藤が取り出した端末に間取りが浮かび上がる。

 人・防犯装置の影はなかった。

 扉の先は開けていた。

 どうやら一室のようだ。窓から光が注がれている方を見ると灰色の大きい箱が見えた。ロッカーのようだ。

「この屋敷で働いてる連中のスタッフルームらしいな」だから監視カメラがないのだろう。

 滝藤が後ろから言った。その言葉で、前にいる海野から嬉しいとばかりの反応がかぎ取れた。

(ここの情報も読んでないのか)「一応言っておくが、男の着替え部屋だからな。ロッカー開けてもあるのは臭い服と、ボロボロのグラビアの切り抜きだけだろうぜ」

 釘を言葉で刺した。

 海野の舌打ちが聞こえた。

「早く行け」

 言うも海野の背中を押しやり入る。

「臭いね」

「消臭剤の匂いも混じってるな」

 広さは申し分なく、窮屈には感じられなかった。部屋が広いこともあるのだが、ロッカーの数が少なく部屋の面積をとっていない。雇われている人数も少ないようだ。目測一〇人ほど。

「さっさと行くぞ」

 滝藤は急かした。

「うん」

 何事も余裕が大事だというが、それは使用できる無駄があってのものである。その使用できる無駄も無限にあるわけではない。つまり海野も疑問を挟む余地などなかったのだ。男子更衣室でなどに使うもの等何もありはしない。女子更衣室ならいざしらず、男子更衣室は存在自体が無駄であるからして、もはや余裕なんて部屋の臭さで無くなってしまっていた。

「こんなところいられないよ」

 二人は足早に出口を探しロッカー群を抜けていく。

 出入り口と思われる扉も中から鍵のようなものがかけられないタイプのようだった。この家の防犯設計ではこのような侵入を想定していないのだろう。

 扉の横には打刻機とタイムカードを入れるものが壁にあった。見た限り一般的なものだ。そこに滝藤は振りなれたバットを振るように、接触式シール型小型爆弾を貼っていく。

「そんなにつけちゃってさ、恨みでもあるの?」

「ねーよ」

 眼鏡のおかげか暗い中でも滝藤のにやつきがハッキリと見える。

 にやつく顔は下に移動した。滝藤がしゃがんだのだ。

 扉の外を手順通りに調べる。

 問題はない。

 海野は扉を開け廊下に足を着ける。

 左を向けば壁、右を向けば通路。

 右の通路を抜ける。

 先には広間があった。中央には人が五人は通れるほどの幅のある階段がある。階段は途中で左右に分かれており二階へと通じていた。

 コインを投げ周囲を見るが、見張りは前方にいる男だけのようだ。

 階段付近に立っており、黒のスーツに身を包み、銃を握っている。ハンドガンのようだ。

 二人は闇に溶け込み広間を眺める。

「兄貴はあっちから来たみたいだね」

 海野は階段入り口の正面に位置している正面玄関を見た。扉は大きく来訪者に威厳と自身の存在を示しているかのようだ。その扉と相性の良いドでかい長方形のステンドガラスが扉の両隣にはってある。立派であり教会にあるのと同等の質である。お互いがお互いを魅せあっている。

「そうだな。それから今俺たちが来た方向に入っていったんだな。もう事前のガイド情報はないぞ。どうする?」

「兄貴といえども流石に名家だけあるね。見張りも厳重だったみたい。用意できたのが出入り口の窓だけだもん。もうしらみ潰しにいくしかないね」

「了解」言うと滝藤は後ろのポケットから小型の拳銃を取り出した。

 銃の上部にはレーザーサイトがついており、二人がつけている眼鏡を通すとポインターが見えるものとなっている。出るのは銃弾ではなく電気が流れる特殊弾。当たると弾は弾け人間の意識が途切れるほどの電流が走る仕組みとなっている。のだが、厚い服だと効果が薄いことや、頭部から離れるほどに意識を刈り取れる確率は減りその部分だけが痺れるものになっている。

 男を観察している海野は滝藤の動きを察知し制止を促す。接敵したときの動きはもう慣れていた。

「待て。アイツ相当ゴツイからスーツが中から押されて肌の面積が標準体型の奴より少ない。俺が行く。お前はタイミング測って階段の後ろにある通路を調べに行け」

 銃を元に仕舞いつつ、そのまま滝藤は海野にコインを渡した。このコイン設置しておけば端末で見られるので少し離れている場所でも使えるのだ。

 海野は受け取ったコインをポケットに仕舞い、そこからシール状のものを取り出した。片方は剥がすと粘着する素材でできておりそれを左手の先に着ける。そしてその後の「3,2,1」という合図で歩き出した。

 二人がいる通路は男を中心に左に位置しており、海野はすこし右にずれ左斜め後ろから近づいていく。

 男の身体は階段に阻まれ、このままの道のりではどうしても男の視界の端に身を写さなければならなくなる。

歩行スピードは落とさない。

 男の姿が近づく。

 目の前には階段。

 そのままの勢いで階段始めにあるドでかい装飾が施された主柱に右手をのせ、固定し、腕の力を加えて自身の身体を持ち上げた。

 人影は月光に照らされた階段に一瞬だけ出現し、途端捻じり横向きになり、男の真後ろを捉える。

 そのまま左手が空を切り、男の少ない露出部分であるうなじをかする。

 海野の着地と同時に男は前方に倒れた。

 元いた位置に眼球を動かす。滝藤はもういない。海野が飛んだ瞬間階段後方の通路へ移動したようだ。

 海野は他の通路に移動する前に男のインカムを奪い耳に着ける。

 声真似はできないが一言くらい喋ってもバレないだろう。

 


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